その十二 自分の居場所
かつと別れ1人で街中を歩いていた。
どこに行くのかも分からず、するべきことも分からず、ただひたすらに足を動かす。
どうすればいいのだろうか、私は何をすればいいんだ。
もう、帰る場所も自分が居るべき場所すらないのに、私は何のためにこの世界に居るの?
自問自答のように心の中で何度も思い、その度にその答えを探す。
だが、その答えが出ることはなかった。
そうやって足を動かしているといつの間にか見知った場所に来ていた。
「ここって……」
青空の元広大な草原が広がる場所は忘れもしない、かつと初めて会った場所だ。
ここですべてが始まった、かつと私にとっても思い出深い場所。
でも今はそんなことも無かったことにされている。
その出会いもこの世界では存在しない、この世界ではここはただの草原だ。
その瞬間、抑えていた物が一気に溢れ出て行く。
孤独を改めて感じ、そのまま私は涙を抑えられずにその場でうずくまり。
「大丈夫か?」
その声が聞こえた時、私はすぐに顔を上げる。
そこには普段見せたことのない顔でクラガが私の事を見ていた。
私はすぐに涙を拭いて立ち上がる。
「何の用、ほっといてよ」
「ミノルが心配だったから様子を見に来た」
私の知っているクラガならその言葉が出るなんてことはあり得ない。
だが、この世界のクラガは妙に優しい。
そのせいで私の心は揺れ動かされてしまう。
「そんなこと思ってないでしょ。いい加減目的を話しなさいよ。私がこんな風になって好都合なんでしょ」
「大切な人に忘れられるのは辛いよな」
「っ!?」
何を言ってるの?
こんなのクラガじゃない、クラガの訳がない。
私は思わず、クラガから距離を取る。
だがクラガは表情を変えずに微笑むようにして、こちらを見る。
「自分が守って来たもの、信じて来たものを砕かれたような気持になるよな。すべてがどうでもよくなり、何度も涙を流す」
まるで過去にそんな事が合ったかのように、話し始める。
そしてどこか遠くを見始める。
「まさか、クラガも大切な人が居たの?」
「大切な物も人それぞれだからな」
少し、はぐらかされたような気がするが何となく分かった気がする。
「ミノルが一番に恐れていることは、大切な人に忘れられることじゃない。大切な人がこの世から居なくなることだろ」
「……」
「この先、絶対かつは殺される。それはお前が命を懸けたところでどうにかなる物ではない。確実に殺されるだろう」
その言葉を聞いて、私はクラガが何を言いたいのか想像がついた。
でも、私はあえてクラガの口から聞くために黙る。
「だが俺達なら止められる。黒の魔法使いはそのための組織だ。それにはお前のような大切な物の為なら自分の身を犠牲にしてでも、戦う覚悟を持った奴が必要だ。ミノル、改めて言う俺達の仲間になってくれ」
「私は……かつの仲間よ」
「これは裏切りじゃない。協力だ。お互いの目的のために一緒に戦おう」
そう言って優しい言葉で私に手を差し伸べてくる。
どうしよう、私はどうすればいいの?
黒の魔法使いは私の敵、でもこの先本当に途方もなく強い敵が現れたら私一人で守れるのだろうか。
確かにこいつらはひどい連中だけど、強さは認めている。
それに私自身、居場所を求めてしまっている。
この手を取れば、私はこの世界に存在することを許してもらえるのかな。
やっぱり私はここでしか生きることを許されないんだ。
「分かった。これからよろし――――――」
『ミノル』
「っ!何、今の?」
「どうした、ミノル」
今一瞬、かつの声が聞こえた。
『いつでも帰って来い、ずっと待ってる』
頭の中にかつの声が響いてくる。
ああ、そうだ、私は、どうして。
大切なことを忘れてたのだろう。
『ミノル、俺はお前を信じるぞ』
「そう、私もかつを信じてる」
「何を言ってるんだミノル?早くこちらに来い」
「残念だけど、私はもうそこには戻らない。約束したの、仲間が帰ってくるまで私達は絶対に離れ離れにならないって!」
私はその瞬間、こちらに差し出してきた手を振り払う。
「本気か?今の状況を分かってないのか。ミノル、居場所なんて存在しない。この世界ではお前に居場所なんて無いんだよ。黒がお前の居場所だ」
「私の居場所はここじゃない。私の居場所は私が決める。あなたの言う事を聞かない」
「そうかなら、思い出してもらうぞ。貴様の全てを」
「っ!なに!?」
その瞬間、周りの景色が一気に消えていき真っ黒に塗りつぶされていく。
そして息が詰まるほどの暗闇に一つの扉が現れた。




