その十 温もりが欲しくて
目の前に突然現れたのはもう2度と出会うはずがないと思っていた、クラガだった。
「何を言っているのか分からないし、あなたに心配される必要も無い」
この男は何を考えてるのか分からない。
まさかこんな所まで来るなんて。
「ミノルこれは警告だ。ミノルの為に言ってるんだ」
「気安く私の名前を呼ばないで!私とあなたはもう他人同士でしょ」
「過去からは逃げられない。貴様は一生、あの日を忘れられない」
「っ!?」
「記憶を封印してもまた思い出す。そうだろ?」
クラガは私の全てを見透かされているような気がする。
それでも、私は‥‥‥
「もう決めたのよ。これ以上黒の魔法使いに私の人生を壊されたくない!」
「どれだけ否定しようとどれだけ逃げようと、運命からは逃れられない」
「私の運命は自分で変える。あなたなんかに決めれたくない!!」
私はこれ以上はここに居れば危害を加えてしまうと思い、すぐさまその場から去る。
「本当にムカつく!」
もう2度と見たくなかったのにそれほど嫌いなのに、名前を呼ばれた時嬉しいと思ってしまった。
名前を呼んでくれれば誰でもいいと心のどこかで思っていた自分にムカつく!
「もう、何なのよ」
これからどうすればいいんだろう。
帰る場所も私の居場所も無い。
この世界で私は一人ぼっちだ。
「どうすれば戻れるのよ。どうすれば帰れるの。一人ぼっちは寂しいな」
こんな気持ち最近では感じなかった。
あの時はずっと感じてたのに。
「あれ?そう言えば私、どうして寂しいと思ったんだろう」
昔はよくそんなことを感じていた、でもその理由が思い出せない。
黒の魔法使いと出会うよりも前の出来事のはずなのに。
「とりあえず、気を取り直さないとね」
このまま暗い気持ちのまま行くわけには行かない。
「あれ?でもどこに行けばいいんだろう」
今から行く場所なんてあるのだろうか。
そもそも私は何をすればいいんだ。
「ううん、違う。私にもやるべきことがあるはず。目覚めないのはそれを達成してないから。そう、それだけの事」
私は何度も何度も自分に言い聞かせ、次にとるべき行動を考える。
クラガは私の事を覚えていた。
もしかすると、覚えてる人と覚えてない人が居るのかもしれない。
「こうなったら、全員を調べるしかないわね」
私はすぐに今まで会った人達に会いに行くためにテレポートを使って、ますはサキン村に向かった。
そしてカルシナシティーに向かい、それからお店にも通い、それから‥‥‥
数日が過ぎて長旅を終えた後、私はシアラルスに戻って来た。
そして、その結果私を知る者は居なかった。
「どうすればいいの?どうすればいいのよ!!」
私は宿屋にあった枕を壁に投げつける。
「はあ、はあ何やってんだろう私」
感情のコントロールが出来なくなった自分を恥ずかしく思う。
でも、どうすればいいのかが分からない。
自分を知ってくれてる人はもうあの人しか。
「て、何考えてんの私!」
自分の考えに恐怖して忘れようと頭を何度も降る。
すると、突然誰かがドアを叩く音が聞こえた。
誰だろう、もしかして受付の人が来たのかな?
「はーい」
私はすぐに扉を開ける。
だがそこには今最も会いたくない人物が居た。
「久しぶりだな、ミノル」
「クラガ!?」
私はすぐに扉を閉めようとするが扉を掴み、無理やり中に入って来る。
「邪魔するぞ」
「ちょっと!勝手に入ってこないでよ」
クラガは私の泊ってる部屋をじろじろ見てくる。
「ずいぶん質素な部屋に泊まってるんだな」
「あんたには関係ないでしょ。早く出てってよ!」
「まあ落ち着け。ミノルも座れよ」
クラガはまるで自分の家のように過ごしている。
私よりも先にベットに座り、私はその指示を聞かずに立ったままクラガを睨みつけている。
「何しに来たのよ」
「どうしてるかなと思ってな。思ったほど元気そうでよかったよ」
「別に元気じゃないわよ。用が無いなら帰って」
「誰も覚えてなかったんだろ」
その言葉を聞いた瞬間、私の心臓は跳ね上がった。
「何の事?」
「やっぱりそうなのか。今まで俺みたいに自分を覚えている奴を探してたんだろう。そして結果は誰も覚えていなかった。その事実を受け入れられず怒りと悲しみで暴れていたと言う事か」
「知ったような口を利かないでよ。私は別に悲しくないし、それにあなたのせいでしょ!私の存在を消したのは。じゃないと私の事を覚えてるのはおかしいわ」
「それは考えすぎじゃないか?」
クラガは焦る様子もなく、余裕を見せている。
「目的は何?私の苦しむ姿が見たいの?本当にクズね」
「勝手な憶測で俺を罵倒するな。もしそうだとしてもこんな簡単に消せるなら、あいつらに立ってミノルの存在は大したことがないと、言ってるような物だぞ」
「くっ!そんなわけ‥‥‥」
「ミノル、他の人が忘れて俺が覚えてる理由を教えてやろうか?」
その言葉を聞いて、聞きたくないと言う言葉が出なかった。
その事実を知りたくないと思いつつも私がそれを求めていたからだ。
「ミノルが居なくても変わらないからだ。居ても居なくても変わらない、いやむしろいない方が都合が良いから忘れたんだ」
「そ、そんなわけないでしょ!デタラメ言わないで!」
「なら、今まで会ってきたやつはお前に会わなくて苦しくなっていたか?日常が変わったか」
「それは‥‥‥」
考えても考えても幸せな光景しか思い浮かばない。
考えれば考える程、その事実が現実味を帯びてくる。
「お前の仲間だった絶対かつにも、ミノルの代わりはすでにいる。ミノルが居なくても、あいつらは何一つ変わらない」
「私が居なくても‥‥‥」
「だが俺は違う。ミノル、俺はミノルを忘れない。ミノルが無くてはならない存在だからだ。俺にはミノルが必要だ。黒の魔法使いに戻って来てくれないか?」
「黒の魔法使い‥‥‥」
分からない考えられない、私が居なくなった方が幸せだったの。
そんなことはない、そんなことはないはず、だって私は‥‥‥
「ミノル」
「やめて!もうやめて!」
私はクラガの声をかき消すように声を上げ、その場から逃げる。
宿を出て目の前の現実から逃げるように走り続ける。
その時、前を見なかったせいで目の前の人にぶつかる。
「っ!」
「おわっ!?」
勢いよく走っていたせいで、転んでしまう。
恥ずかしい、逃げてきた挙句他の人にぶつかるなんて。
早く立って謝らないと。
「あの、ごめ‥‥‥」
「ミノル?あれ、ミノルか!大丈夫かお前、急にぶつかって来たけど。ほら立てるか」
そう言って優しく私の方に手を伸ばす。
「ありがとう」
私はその手を受け取り、ゆっくりと立ち上がる。
「びっくりしたよ。いきなりミノルがぶつかって来たからさ」
「ごめん」
「別に責めてるわけじゃないよ。ただ驚いただけで」
いやだなあ、一番見られたくない時に会うなんて。
私はどうすれば。
「そういえば、この前はごめんな。急に仲間に誘ったりしちゃって」
「‥‥‥かつは覚えてないの?」
「え?」
「私の事忘れてもいい存在だったの?居ても居なくてもよかったの?ずっとそう思ってたの」
「どうしたんだよ。何か合ったのか、顔色も悪いし」
「ずっと待ってたんだよ!いつか迎えに来てくれるんじゃないかと思って、かつなら思い出してくれると思って待ってたのに」
するとかつは少し困った顔をする。
そしてかつは首を横に振る。
「ごめん、思い出せないんだ。思い出そうとしてるんだけど」
「そっか、分かったありがとう」
「へ?何が?」
「それじゃあ、さよなら」
私はそれだけ言い残してかつの元を離れた。




