その二 ゲームスタート
え?シント?黒の魔法使い、え?黒の魔法使いの創設者、こいつは一体何者だ。
するとシントと名乗る男が一歩こちらに歩み寄って来る。
「っ!来るな!!」
俺は瞬時に魔法を撃てる体勢に入る。
「随分と警戒しているね。ワタシは別に君たちを殺そうとは思ってないのだが」
「くっ‥‥‥」
「ワタシが望むのは対話だけだ。ねえ、ミノル」
「ひっ!」
「やめろ!ミノルに手を出すな!」
俺はミノルの前に立ち、シントが見えないそうにする。
こいつが何者なのかは分からないけど、ミノルの子の怯えようからして良い人ってわけじゃなさそうだ。
最悪、戦うことになるのかもしれない。
「お前、何しに来たんだ。黒の魔法使いと関係があるのか。まさか、またミノルを連れて来たのか」
「半分正解で半分間違っている。ワタシは君たちに会いに来たんだ」
「それって、俺と会うのも目的だってことか。まさか、黒の魔法使いを倒した復讐か!」
「復讐と言うよりも責任を取ってもらいに来た」
「責任てやっぱり俺達を殺しに来たのか!」
俺はすぐに魔法を撃つために魔力を右手に込める。
やっぱりこいつの溢れ出る殺気は間違いじゃなかった。
殺らなきゃ殺られる!
「話を少しは聞いたらどうだ」
「インパ――――――」
その瞬間、俺の全身に寒気が走った。
俺と同じように右手を出しただけ、それだけのはずなのに。
その右手には俺の首など容易に吹き飛ばす程の魔力が込められていた。
いや、これは後ろに居るミノルすら巻き込むほどだ。
そう感じた瞬間、体がピクリとも動かなかった。
「話を聞いてくれるか?」
「っ!」
そう言って再び微笑む。
そうか、こいつは恐怖で人を支配するような奴なんだ。
「さてとまずは、中に入ってもいいかな」
そう言って答えを聞く前に家の中に入って来る。
「君達にはワタシのゲームに参加する資格がある。なぜなら、私が立ち上げた黒の魔法使いを壊したからだ」
そう言いながら家の中を散策し始める。
「それは、あいつらが島王選で襲ってきたから」
「別に君たちを責めているわけではない。ただ、来るべき日の為に準備していた事を邪魔されたのは少し、イラっと来たがな」
やっぱり怒ってんじゃん!
ていうか、さっきから何してるんだ。
ミノルもビビっちゃって何も喋らないし、結局こいつは俺達に何をさせたいんだ?
「この上には何があるんだ」
「俺達の部屋だ」
「なるほど」
妙に納得するとシントは二階に上がって行った。
「ミノル大丈夫か」
「ごめん、かつ私」
相当参ってるな。
ミノルを連れて逃げ出すのも無理そうだし、今の状況じゃテレポートするのも難しいか。
「だから君達にはワタシの計画に協力してもらう」
そう言って何かを手にして1階に戻って来た。
「そ、それって!!」
ミノルがシントの手にしている物を見て、声を荒げる。
そして俺も数秒後持っている物を理解した。
「それってミノルが持ってた、魔法の杖。でもどうしてそんな物」
「精神が安定してきたけど、まだ記憶の完全回復は出来ないみたいだね」
「やめて!それに触らないで!」
先程の怯え切った表情と比べて、魔法の杖を見てから高圧的な表情に変わる。
あの杖、最近使ってなかったけど結構大切な物なのか。
「さてと、それじゃあ始めようか」
「ちょ、ちょっと待て!一体何を始めるんだよ」
「言っただろ。君達にはワタシの計画に協力してもらうと。だが、ある程度の実力がなければならない。だから今からゲームをして実力を示してもらう」
「だから、何で俺達が計画に協力しなきゃいけないんだよ!黒の魔法使いの計画に俺達は関係ないはずだ!」
そうだ、こいつは俺達を黒の魔法使いに引き入れようとしている。
だから、ゲームで黒の魔法使いに入れるかテストしようとしてるんだ。
それは絶対に嫌だ!せっかくミノルから黒の魔法使いとの関係を断ち切れたんだ。
ここでまた戻ったら今までの努力が無駄になる。
「ふぅん、君は勘違いをしているな。ワタシは別に君たちを黒の魔法使いに引き入れるつもりはない。むしろ、このゲームを成功させれば今後一切黒の魔法使いは君たちに関わらないと誓おう」
「え?じゃあ、何の目的のために」
「ワタシはこの島を救いたいのだ」
その言葉、どこかで聞いたことが。
そうだ、黒の魔法使いの奴らもそんなことを言っていた気がする。
「君もそれを目指しているのだろう」
「っ!どうしてそれを」
こいつもまさか日本人!?
いや、さすがにそれはないだろう。
でも確か、日本人は後4人居ると言っていた。
あと1人を俺は知らない。
「君はある使命を帯びてこの島で戦っている。君の今までの行動を見るに君はこちら側の人間だ」
「かつ‥‥‥これって」
「ん?ミノルは事情を知っているようだね。君がどうしてこの島の違和感に気付いたかは分からないが、君がどこから来たかは分かる。そしてその違和感を持っているのなら、ワタシのゲームに参加する資格がある」
こいつまさか、俺が知らないことを知っている。
そして、俺の存在も!
「さてとやる気になったかな」
やるしかない、どっちにしろゲームを拒否する選択は元から無いんだろう。
「やるよ、でも俺1人だけが参加する」
「駄目だ、これは君達だからこそ意味がある。言っただろう、ワタシは君たちにこの島の未来を掛けていると」
「でもっ!」
するとミノルが俺の肩に手を置く。
「やるわよ。私だって、今まで通りでいいとは思ってないし。あなたも克服して見せる」
「ミノル‥‥‥」
「ははっ!それじゃあ、ゲームスタートだ!!」
その瞬間、手にしていた杖を地面に叩きつける。
その衝撃で杖の先端に付いていた水晶が粉々になる。
「うそっ!!」
「お前、何やって!」
すると、ミノルが慌てた様子で割れた水晶を集め始める。
「駄目!それだけは!それだけは駄目なの!!」
「どうしたんだよ!この杖は何なんだよ!」
「私の記憶が!消したはずの記憶が蘇って!絶対に思い出したくないのに!」
何だ、このミノルの動揺は一体何が起きてんだ。
「っ!あっあが!ああああ‥‥‥ああああああああ!!!」
すると今度は奇声を発して頭を抱えて何度も地面に頭を打ち付け始める。
「おい、やめろ!ミノルやめるんだ!!!」
「退くんだ」
そう言って俺をミノルから引き剝がす。
そしてミノルの頭をわし掴む。
「消えて!消えて消えて消えて消えて消えて!!!」
「おやすみミノル。次目覚める時は全てが終わって居るよ」
シントの手が光り輝くと突然ミノルが動きを止めた。
「ミノル!!‥‥‥寝てるのか?」
「ミノルはゲームを始めた。試練を突破しなければ目覚めることはない」
「なっ!聞いてないぞ、そんなこと!」
「言ってないからね。それじゃあ、次は君の番だ」
「俺も眠らすのか」
「君は違う。ミノルは精神の試練、君は力の試練を受けてもらう。このゲームをクリアすれば約束通り、君たちにこの島を任せ、関わらないようにする」
嘘じゃないよな、さすがに。
やるしかないんだよな。
「分かった」
俺は抵抗せずに流れに身を任せた。
「君達を今からある山に飛ばす。その山を下山することがクリア条件だ」
山を下りる?それだけ?
思っていたよりも簡単だな。
「それじゃあ、もう会うことはないだろう」
ちょっと待てよ、今君達って言わなかったか。
だが次の瞬間景色が変わり、家の天井から青空に変わっていた。
「ここは、何処の山だ。って、ミノル!!」
俺の足元には眠っているミノルの姿が合った。
やっぱりあいつミノルもテレポートしやがった!
「くそう、やっぱり信用ならないな」
っ!この気配、モンスターか!!
「ウキャアアアアアアアアっ!!」
その瞬間、森奥から一気に数十体の猿型魔物が現れた。
「え、ええええええ!?」




