その一 逃がさないよ
「ほら、しっかり働けこの野郎!男だろ!」
「はい、すみません!」
拝啓、お父さんお母さん、俺は今異世界で重労働しています!
俺は現在ボランティア活動に明け暮れていた。
ここ一週間はあの騒動で被害にあった場所の修繕やけが人の治療の手伝い、お店の手伝いなど様々な仕事をした。
どれもこれも重労働で特に俺は男だからと力仕事ばかりしている。
実際鍛えてはいるから力仕事はあまり疲れないのだが。
「おい、ちんたら仕事してんじゃねえぞ!無償だからって舐めた仕事しやがったら許さねえぞ!」
「「うっす!!」」
木材を担ぎながら男たちは汗水流して声を荒げる。
このボランティアは損傷した住宅の修理と取り壊しが主な仕事内容だ。
やっている人たちはほとんどが何かしらの罪を働いた罪人ばかりなので。
「おいテメエ、ちんたらしてんじゃねえよ!後ろつっかえてんだろうが!」
後ろから鋭い目つきで睨みつけてくる。
「えっと俺じゃなくて前の人に言ってくれませんか」
「あ!?舐めてんのか!」
その瞬間、どこからか頭を思いっきりぶん殴られる。
「テメエらくっちゃべってねえで仕事しやがれ!給仕飯抜きにするぞ!」
「うっせえな。どっちみち飯抜きにすんだろ」
「何だとテメエら、口答えすんじゃねえよ!」
「いや、俺何も言ってないんですけど!」
「うっせえ!テメエら飯抜きだ!」
そう、俺が辛いのはこの劣悪な環境のせいだ。
そもそもここが犯罪者更生のためのボランティアの為厳しくもあるのだ。
精神的な疲れがすごすぎて辛いのだ。
「よし、テメエら昼休憩だ!十分後に始めるぞ!飯は順番に並べよ!」
その掛け声とともに皆急いで列に並び始める。
だが、俺はとばっちりで飯が抜きにされているので、日陰で体を休めることしか出来ない。
その時、お腹の音が鳴った。
「はあ、腹減ったな」
「ほら、食えよ」
すると現場監督がおにぎりを渡してきた。
「え?でも俺飯抜きじゃ‥‥‥」
「給仕はな。これは俺の奥さんが握った物だ。うめえぞ」
「あ、あざっす!」
俺はそれをすぐに手に取り頬張る。
「うっま!これめちゃくちゃうまいっす!」
「ははっそうかうめえか!」
そう言って現場監督もおにぎりを頬張る。
「あの‥‥‥監督は何でこんなことやってんすか?こんな犯罪者の相手して大変じゃないですか」
「まあな。言う事は聞かないし、口答えばっかして色々と大変だが、それでも悪い奴らじゃねえんだよ」
俺は監督のもう一口おにぎりを頬張る。
「あいつらは確かに悪い事をしたかもしれねえ。だがすべてそいつ自身が悪いわけじゃねえ。環境や対人関係、その場の雰囲気など色々な条件が重なって、そうするしか自分を救えなかったんだ。まあだからと言ってやったことを許すのかと言うわけじゃねえが。やり直すチャンスくらいは平等にありべきだと思う」
「そっすね。もしかして監督も昔ヤンチャしたとか?」
「さあな!ほら、早く食いやがれ!仕事はまだ残ってんぞ!」
そう言って背中を思いっきり叩いてくる。
その衝撃で食べてたおにぎりを詰まらせる。
「うっぐ!?ごほごほ!!ちょっといきなり叩かないでくださいよ!ぐふっごほ!」
「甘ったれたこと言ってんじゃねえ!ほら行くぞ」
まっこういうところもあるから、頑張ろうって思うんだけどな。
―――――――――
「ただいまー」
心身ともに疲れ切った俺は家に帰るなりソファーに横になる。
「お帰りって、かつ汗臭い。すぐに風呂に入ってよ」
鼻をつまみながら俺に風呂に入るよう催促してくる。
「分かってるよ。でも一回ソファーに横になると、体が動かなくて」
その瞬間、魔法陣が展開される。
「それなら私がきれいにしてあげようか?」
「すぐに入ります!」
俺はミノルから怒りを感じ取りすぐにその場から離れる。
「全く、はあ‥‥‥」
俺はさっさと風呂を済ませて、服に着替える。
「なあ、ミノルー今日のボランティアでさ‥‥‥寝てるのか」
風呂から出るとすでにミノルがソファー寝息を立てていた。
この様子から見るにミノルも相当疲れたんだろうな。
俺は近くの毛布を取ってミノルにかぶせる。
そして机の上に置いてある、借金返済の紙を見る。
「うーん、まだ一億にも満たないか‥‥‥やっぱりボランティアだけじゃ払いきれないよな」
ボランティアである程度仕事した分お金を減らすと言うことになっているが、このまま行っても期日には間に合わない。
かといってこれ以上増やせば、時間が足らなくなる。
半獣は体が丈夫だと言うがさすがにずっと不眠不休は辛いだろう。
「だからってクエストには行けないよな。そもそもあいつら居ないし」
ミノルと俺だけで億越えのモンスター退治は危険すぎる。
そもそもそんな時間も今の俺にはない・
「ああもう!時間が足らなすぎる!」
俺は借金返済の紙を机に置いて突っ伏す。
借金があると悪い事ばかり考えてしまう。
まあ、良い事なんて思いつくわけにのだが。
「静かだな‥‥‥」
ここ一週間、忙しすぎてまともに会話できてない。
ご飯もそれぞれ食べて帰ることが多かったし、疲れてすぐに寝ちゃってたから自然と話す回数も少ないんだよな。
それに、あいつらが居ないし。
はあ、早く帰ってこないかな‥‥‥
「‥‥‥すう、すう」
いつの間にか深い眠りについていた。
そのままゆっくりと夢の中に落ちて行った。
――――――――
ドン、ドン。
何だ?何の音だ。
ドン、ドン。
扉を叩く音か?
ドンドン。
「んっ朝‥‥‥」
ドンドン、ドンドン。
「誰か来てたのか!はあーい!」
俺はすぐに椅子から立ち上がり玄関に向かう。
「んんっ誰~?」
するとミノルが扉の叩く音で目を覚ます。
「おはようミノル。分からないな。誰も呼んでないし」
待てよ、もしかして帰って来たのか!
こんな所にわざわざ来る人なんて早々居ないし、多分そうだよな。
ドンドンドンドン。
「待ってろ!今開ける!」
俺は逸る気持ちを抑えて扉を開ける。
「お帰り!りど――――――」
「初めまして、絶対かつ君」
目の前の男は謎の微笑みを見せる。
え?誰だこの男?何で俺の名前を知って。
「んん、結局誰だった‥‥‥」
ミノルは眠たそうに目を擦りながらこちらに近づいてくる
するとそれを見て男がニヤリと笑った。
「っ!ミノル、逃げっ!」
俺はその男と今日初めてあった。
初対面に関わらずその男はこちらに微笑みかけてきた、そしてその目には殺意が宿っていた。
俺は身の危険を感じてすぐにミノルの方を振り返った。
だが、ミノルは顔が真っ青になり震えながら膝から崩れ落ちていた。
「どうして‥‥‥何であなたが‥‥‥」
「初めまして、絶対かつ君。お久しぶり、ミノル。ワタシはシント。黒の魔法使いの創設者だ」




