その二十九 ずっと君の側に居る
「ん?おお、やっと帰って来たか!」
ミノルはサクラを連れて戻って来る。
だがその様子が少し変だった。
「うん、ごめんね。遅くなっちゃって」
「それは良いんだけどさ。お前らなんか合ったのか?」
「へ?いや、何でもないわよ!」
「いや、何でもないなら。何でサクラ、さっきからミノルの後ろに隠れてるんだよ」
そう、なぜから家に入るなりサクラは自分の姿を隠す様に、ミノルの後ろにぴったりくっついて離れない。
「べ、別に何でもないわよ!それとこっちを見たら許さないから!」
「訳分かんないなーまあ、別にいいなら良いんだけど」
「サクラさん、お帰りなさい。サクラさんの分のご飯も用意してますよ」
そう言ってリドルはサクラの為に用意した料理を並べる。
「あれ!リドルいつの間に目が覚めてたの」
「はい、迷惑をかけてすみませんでした。おかげさまで今は元気いっぱいです」
「元気ならそれでいいけど、ちょうどお腹空いてたし、食べようかな」
そう言ってサクラはミノルから離れて座ってご飯を食べようとする。
「それにしてもリドルと言ったか。お主は昔店でも開いてたのか。どれもこれも舌が唸るほどの美味さじゃ」
「ありがとうございます。全部自己流なので店は開いてません。サバイバル生活が長かったので自然と身についたんですよ」
「それでこれだけの美味さの料理が作れるなんて、普通は無理だと思うけどな」
「そうよね、私もリドルと同じように作っても何か上手くいかないし」
それはノーコメントで。
「う、上手い」
「そう言えばサクラもリドルのご飯は久しぶりだっけ。ほらこの肉もウマ――――――」
「っ!!」
俺がサクラに料理を渡そうとした瞬間、サクラが食べていたカレーを俺の顔にぶつけてきた。
「あっづーーーーー!!!」
顔が焼けるような暑さでその場でのたうち回る。
「ちょっかつ大丈夫!?」
「きゅ、急に近づくからよ!」
「顔が焼ける―!!!」
その後俺はすぐに顔を洗って水で顔を冷やした。
「わ、悪かったと思ってるわよ」
「うん、もういいから。気にしてないから」
一周周って俺は怒る気になれなくなり、やけどした顔を必死に冷やす。
「かつ、大丈夫。はい氷持って来たわよ」
「ああ、ありがとうミノル」
俺はミノルから氷を受け取り、冷やしていく。
その姿をサクラはじっと見ていた。
「ね、ねえ喉乾いてない?私持ってきてあげてもいいわよ」
「何でそんな偉そうかは分からないけど、確かに喉乾いたな」
「それじゃあ、持ってきてあげる」
そう言って張り切ってサクラは飲み物を取りに行く。
しばらくすると、サクラが飲み物が入ったコップを持ってくる。
「はいっ持ってきてあげたわよ」
「ありがとう、ごくっごん!?かっっっれーーーーー!!!」
口が強烈な辛さと痛みに襲われて俺はすぐに飲み物を吐き、ウオーターで口の中に大量の水を流し込む。
「うそっ!?そんなはずは‥‥‥うっ!確かに辛い」
「何やっておるのじゃ。夜中なんだから静かにせい」
「おじいちゃん!何この飲み物!こんなのいつ買ったの!?」
サクラが付きつけた飲み物にダリは何かを思い出したかのように話す。
「ああ、それは確か筋トレ集団が置いていった物じゃのう。特性ドリンクと言っていたな」
「あの筋肉だるま達の物だったの。勝手に家の物を使うなんて」
「わしが許可したんじゃよ。そう言えば言っとらんかったな」
「何で許可したの?」
「許可しないと、至る所にドリンクを置かれるからのう。それは嫌じゃろ?」
「確かにそうだけど‥‥‥」
「はあ、はあ、はあ‥‥‥マジで死ぬかと思った」
あの辛さは尋常じゃない。
俺が今まで食べてきた物で断トツだ。
ていうか、今でも辛さがひかないんだけど。
「かつ、大丈夫?」
「ミノル、駄目かもしれない。ていうか普通につらい」
「わ、悪かったわよ。でも、私も知らなかったの!わざとやった訳じゃないからね」
「ははっ随分と盛り上がってますね」
俺達の様子を見て楽しそうにリドルが笑う。
そういえばこいつ、人が辛い時よく笑うよな。
「そいえばサクラさん、聞きましたよ。レインと知り合いだったみたいですね」
サクラはその言葉を聞いて一瞬動揺する。
「ごめん、私レインを‥‥‥」
「ああ、謝る必要はないです。僕に謝ったところで意味ないですし。それにレインはその程度の事気にもしてないですよ」
すると、リドルはゆっくりと腰を下ろす。
「せっかくですから、レインの話をしましょうか。レインとはあの村の中で一番仲が良かったと思います。よく、僕が町までバイトに行く時に心配だからと一緒に行ってくれました。レインは僕が知る中で二番目にお人よしだと思います。よく、困ってる人を助けては優しく笑うのが彼の癖でした。いつも自分よりも他人を優先にして、辛い時もたくさん合ったと思うのにかれはいつでも笑顔を崩さなかった」
「レインらしいね」
「そうですね。僕は一度彼に聞いたことがあるんです。他人ばかりを優先して辛くはないのかと。そしたら彼は笑って答えました。誰かが笑ってくれるだけで俺は嬉しいんだ。その時のレインはとても輝いていました。恐らく僕は彼の生き方に憧れてたのかもしれません。それが正しいかどうかは分かりませんが、レインはそれが自分の人生だと覚悟している様でした。そして僕もそんな人生を送ることは僕には出来ないと、そう思いました。
サクラはその話を静かに聞く。
「サクラさん、レインは最後に何と言ってましたか?」
「お前なら大丈夫だ、心配するなって。最後に笑って頑張れよって言ってた」
「やっぱり最後まで他人を心配するなんて。最後の最後まで自分の生き方を貫いたのか」
「ねえ、もっとレインの話聞かせてくれる?」
「いいですよ。そうですねなら、レインと初めて森で死にかけた話をしましょうか。あれは僕がまだレインとはそこまで仲良くない時でした――――――」
俺達はそっとその場から離れる。
今はサクラにとって大切な思い出を聞いてる時だし、関係のない俺達は邪魔しちゃいけないと思い部屋に戻って行った。
しばらくすると、俺が休んでる部屋からドアを叩く音が聞こえてくる。
「ん、どうぞ」
俺が返事をするとドアが開きサクラが部屋の中に入る。
「ん?サクラか、どうかしたのか。こんな遅くに」
「ねえ、あんたいつ帰るの?」
「リドルの体調がもう大丈夫そうなら、明日にでも行くよ。もうこれ以上迷惑はかけられないからな」
「そう、顔大丈夫」
突然のサクラからの心配する言葉に一瞬、言葉を詰まらせる。
「あ、ああ大丈夫だし、俺もそんなに気にしてないから」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
何だこの空気、何で何も喋らないんだ。
何かよくわからないけど、妙な空気で緊張してきたな。
「あんたさ、私のことどう思ってる?」
「へ?えっとー友達だと思ってるけど」
「そう、それじゃあこんなこと言われても迷惑だと思うけど。言うわよ」
そう言ってうるんだ瞳でこちらを見てくる。
それが何を意味するのか何となく察しがついた。
「一度しか言わないからちゃんと聞きなさい!」
そう言ってサクラはゆっくりと深呼吸する。
「私は、あんたの事好きかもしれない」
「え?今何て?」
「っ!一度しか言わないって言ったでしょ!好きだって言ったのこの馬鹿!」
そう言って頬を赤らめてサクラは俺に告白をして来た。
突然の事で俺は思わずこれが現実かどうかすら疑問に思ってしまった。
だってあのサクラが俺の事を好きだと言う未来なんて想像が出来なかったからだ。
「お前、俺の事嫌いじゃなかったのか」
「嫌いよ!顔を見るとムカついてきて殴りたいほど嫌い!」
「ええ‥‥‥」
「嫌いだと思って、でもある人に言われて気付かされたの。気付きたくなかったし、そんなことないと思ったけど、でもあんたの顔を見る度に胸が苦しくなって、体が熱くなって。あんたを感じる度に体が震えるの」
「そうだったのか‥‥‥」
「それが恋だって言われた時、妙にうれしかった。誰かを好きになるなんてこの先ないと思ってたから」
そういうことか、なるほどな。
「はあーあっつ!私何言ってんだろ。ていうか早く聞かせなさいよ!これ以上待たないわよ!」
「ごめん、俺はお前と付き合えない」
「‥‥‥え?」
「そもそもお前、俺の事が好きじゃないだろ」
「な、何言ってんの?」
「お前が好きなのはレインだろ?お前はその気持ちを俺に対してだと勘違いしているだけだ。そもそも俺には別に好きな人が居る。お前とは付き合えないよ、ごめんな」
その言葉を聞いてサクラはゆっくりと頷く。
「そっか、ごめんね。邪魔しちゃって、それじゃあ」
そう言ってサクラは目も合わせずに部屋を出て行った。
「‥‥‥ごめん、サクラ。俺じゃあお前とは付き合えないよ」
――――――――
フラフラとサクラは自分の部屋に戻っていく。
「あいつ馬鹿の癖にどうしていつもいつも」
分かってる、私の気持ちもかつが言った言葉も全部全部が。
「本当に何なのよ」
レインに重なっていることを、レインが忘れられないことを。
「どうして、最後まで優しくするのよ!」
部屋の中に入り溢れ出てくる涙を拭きとる。
そして、ある写真が目に入る。
それは、サクラが初めて恋をした男の子と撮った写真。
「うあああああん!!」
大好きな人はもう戻らない、だからこそこの想いを忘れてはいけない。
レインは彼女の中で生き続けるのだから。




