その二十八 これは照れ隠し
2日後、俺の体は自力で歩けるほど回復し、リドルの目が覚めるまでダリ修練所の手助けをしていた。
「ねえ、あんた達いつまでここに居るつもりよ」
そう言ってサクラは肉を焼きながら俺に質問する。
「リドルの目が覚めたらすぐに出て行くよ」
そう言って俺は風の魔法で野菜を切る。
「それってまだしばらく居るって意味でしょ。これ以上居座るならお金取るわよ」
「迷惑かけてるのは分かってるよ。だからなるべく家の家事の手伝いをしてるだろ」
「家事の手伝いだけで済むと思ってるの。かつとミノルの食事代もこっちが出してるのよ」
「何言ってんだよ。俺が前倒したモンスターの素材を売って、それなりのお金手に入れたくせに」
俺は切った野菜を鍋に入れて火を着ける。
サクラは肉を焼くのをやめて棚から食器を出してテーブルに置いて行く。
「それは当たり前でしょ。そんなことでこの問題が解決できると思ってるの」
「それじゃあ、どうすればいいんだよ。もしかしてデートでもしたら許してくれるのか?」
その瞬間、食器が割れる音がした。
「ばばばば、馬鹿じゃないの!誰があんたみたいなハゲクズ男とデートしたいと思うわけ!!」
「おいちょっと待て、俺はハゲでもクズでも馬鹿でもないぞ。ていうか冗談に決まってるだろ。お前が俺の事嫌ってることくらい分かってるよ」
「どうした、何か割れる音が聞こえたが」
そう言ってダリ師匠が俺達の様子を見に来る。
「ごめんなさい、おじいちゃん。私が手を滑らしちゃって」
サクラは割れた皿を丁寧に拾い上げる。
「何かあったのか?」
「聞いてくださいよ。こいつ、俺が冗談言っただけで動揺して皿落としたんですよ」
「はあ!?動揺してないし、あまりのバカバカしさで呆れて皿を落としただけよ!」
そう言ってサクラは俺の首を絞めようとする。
「分かったからって!そんながっつくなよ!」
「はっはっは!」
するとダリ師匠が俺達の姿を見て突然微笑む。
「ちょっおじいちゃん、急にどうしたの」
「いやあ、相変わらず二人はお似合いだと思うてのう。かつ、サクラは言い方はあれじゃが本心では一緒に過ごせて嬉しいと思っている」
「何言ってるのおじいちゃん!?」
「何だよ、サクラ。お前ツンデレなのか!」
「うっさい、ばか!死ね!!」
「ぐべふっ!!」
そう言って俺の体を蹴り飛ばす。
「もう知らない!!」
サクラは怒りながら家を出て行った。
「ダリ師匠、あれがあいつの愛情表現なら、俺は受けきれる自信がないんですけど」
「まっお主も次第になれるじゃろう。さてと、リドルはまだ目覚めないのか?」
「はい、まだ寝た切りです」
仕事やこれ以上家にいるわけには行かないなどの理由で、俺とミノル以外は家を出て行ってしまった。
たまにハムスが道場に顔を出しだけで、ここ最近は誰も来ていない。
まあ、あいつらにも世話にはなってるしリドルが元気になったら報告に行こう。
「かつ!!リドルが起きたわ!!!」
「っ!?」
俺達はミノルの言葉を聞いて一目散にリドルが休んでいる部屋に向かう。
「リドル!!」
「かつさん、そんなに慌ててどうしたんですか?て、僕の事を心配してくれたんですね。ご迷惑をおかけしました」
「バカ野郎!!死んだと思ったじゃねえかよ!!」
溢れる涙を抑えられず、俺は涙と鼻水でぐちょぐちょになりながらリドルに抱き着く。
「ああ、すごいですね。本当にすみませんでした」
リドルは涙と鼻水が服につくのを少し嫌がるが、すぐに抱き返してきた。
「リドル大丈夫なの?体すごいボロボロだったけど、気分はどう?気持ち悪くない」
「少し頭が痛いですが、なんてことありません。お二人が看病してくれたおかげです」
「違うわ。サクラも一緒に看病してくれたの。あれ?そう言えばサクラは?」
そう言ってミノルはサクラが周りに居ないことに気付く。
「サクラさん?ああ、ここは例の道場だったんですね。ダリさんにも迷惑かけてしまったみたいで」
「いやいや、好きに使うと言い。こんな古い道場に門下生など誰も居やしないからのう」
「本当にありがとうございます」
リドルは改めてしっかりと感謝を伝えた。
その時、何か焦げたにおいがして来た。
「ん?この匂いって」
「やばっ!鍋に火を付けっぱなしだったの忘れてた!」
俺は急いで下に降りていき、鍋の火を消す。
「ふーあべねえ」
「料理なら僕の出番ですね」
ミノルに止められながらもリドルは自力で階段を下りてきた。
「リドル、お前大丈夫なのか?」
「料理ぐらいは作れますよ。それに約束しましたからね」
リドルはゆっくりとキッチンに行き、早速料理の準備をする。
「ああ、そうだったな。それじゃあ、とびっきり美味しいの任せたぞ」
「はい、任せてください」
リドルはもう作りたい料理が浮かんだのか早速ご飯を作り始める。
「そういえば、あいつどこまで行ったんだ。仕方ない、探しに行くか」
「あっ!ちょっと待って!私が探しに行くわ」
「え?ミノルが?あー確かに今はそっちの方が良いか。それじゃあ、サクラの事任せたぞ」
「うん、それじゃあ行ってくるから」
「あ、ちょっと待て!」
俺は家を出て行こうとするミノルを呼び止める。
「何?」
「もし、サクラが見つけられなかったら近くの湖に行ってみろ」
「わ、分かったわ。それじゃあ、行ってくる!」
ミノルはサクラを連れてくるために家を出た。
「一つ聞いてもいいでしょうか」
「ん?何だ?」
「あの後何が起きたのか。聞いてもいいですか?」
「そうだな、そりゃ知りたいよな。分かった、俺が知っている範囲で教えるよ」
俺はリドルにその後の話をし始めた。
――――――――
「サクラ何処に行ったのかしら」
私は居なくなってしまったサクラを探して街を歩く。
だが一向にサクラを見つけることが出来なかった。
「もう、夜で暗いしもしかして家に戻ったのかしら」
そう思った時、かつの言葉を思い出す。
「湖か、確かここの近くの湖って」
ミノルはかつの言葉を信じて自分が知っている湖に向かった。
「はあ、何でだろ。あいつの顔を見ると妙に落ち着かないのよね」
「サクラ?」
「うひゃあ!!だ、誰ってミノル?もう、びっくりさせないでよ」
「ごめん、まさか本当に居るとは思ってなくて」
かつの言った通りね。
でも何でここに居るって分かったのかしら。
もしかして。
「まさかミノルにもこの場所がバレちゃうなんて、ここって意外とバレやすいのかな」
「昔来たことはあるけど、こんなにきれいな場所だと思わなかった」
「この景色は夜じゃないと見えないからね。私も初めて見つけた時は心を奪われたの」
そう言ってサクラは何度も見てるであろう景色に目を奪われている。
「ねえ、ここさかつにも教えたの?」
「え?別に教えてないわよ。あいつが勝手に来ただけ。本当は知られたくなかったのに」
「本当にかつが嫌いなのね」
「当たり前よ。ミノルには悪いけど、私はあいつが仕切るパーティーに入るなんて信じられないわ。変態でバカで図々しくて、土足で人の悩みに入って来るし、人も気も知らないで勝手に話し進めるし、デリカシーは無いしで、好きになる要素何て」
「でも、そこが良いんでしょ?」
その言葉を聞いてサクラは固まる。
「な、何言ってるのミノル。私はかつの嫌な所を言ってるのよ」
「分かるよ、私もサクラと同じ気持ちだから。サクラ、かつの話をする時嬉しそうに尻尾降ってるよね」
「っ!?」
それを聞いてサクラは慌てて自分の尻尾を抑える。
「ねえ、もしかしてだけどさ」
私は意を決してサクラに聞く。
「かつの事好きなの?」




