その二十四 それが現実
数日が経ち蛇の状態も良くなってきたある日。
「だいぶ元気になって来たわね」
「そうだね。それじゃあ、そろそろ森に返すか」
「えー!飼おうよ!せっかく仲良くなったのに!」
「何言ってんだ。蛇なんて飼えるわけないだろ」
「どうして?何で飼えないの?」
純粋な妹の疑問にタクトは言葉を詰まらせる。
家にお金が足りないからと、まだ幼い妹に言うわけには行かないからだ。
「メラはお母さんとお兄ちゃんが好き?」
「うん、大好き!」
「それじゃあ、私達と離れ離れになったらどうする?」
「嫌だ!」
「ふふ、そうでしょ。蛇丸にも大事な家族が居るの。だから森に返してあげた方が蛇丸も喜ぶでしょ」
「そうだね、蛇丸、お母さんとお兄ちゃんの元に返してあげるね」
そう言って蛇丸に顔を近づける。
その時、蛇丸が突然メラに向かって牙をたててきた。
「メラ!危ない!」
メラを蛇丸から引き離そうとした瞬間、母さんが蛇丸を手で止める。
それにより母親の手に蛇丸の牙が突き刺さる。
「痛っ!」
「母さん!?」
俺はすぐに母さんの手から蛇丸を引き離して箱にしまう。
「母さん、大丈夫!」
「ええ、ちょっと噛まれただけよ」
「傷見せて。血が出てるじゃないか!まさか、毒があるんじゃないのか!?」
「メラ、回復のポーション持ってきて!」
「うん、分かった!」
そう言ってメラはすぐに回復のポーションを取りに行く。
「もう、大げさよ。それに貴重なポーションをこんなことに使っちゃ駄目よ」
「知らない種類の蛇なんだよ。毒があるかも分からないから、噛まれるのはいっそう注意してたんだ。今回は言うこと聞いてもらうよ」
「本当、お父さんにそっくりね」
「え?」
突然の父親の事を言われ、タクトは動揺する。
「お父さんもよく私がかすり傷を負っただけでも、大袈裟に傷の心配をするの」
「そうだったんだ。初めて知ったよ」
「そう言えば、お父さんのことについてあまり話したことなかったわね」
「そうだね、俺自身もあんまり聞かなかったからね」
「お父さんのこと知りたくないの?」
「うーん、会ったことも無いし、お父さんとして話を聞いても実感わかないと思う」
「そっか」
「だから、キラツの話を聞きたいな」
その言葉を聞いては母少し驚いた顔するが、すぐにいつもの柔らかい笑みを見せた。
「ええ、良いわよ」
「お兄ちゃん!ポーション取って来たよ!」
メラは緑色の液体が入った瓶を母さんに渡す。
「はい、どうぞ。これでケガ治るの?」
「ありがとねメラ。でも母さんはメラが傷を無くしてくれればもっとよくなるんだけどな」
「分かった。悪い傷さん、居なくなっちゃえー!」
「わー痛くなくなったわ!ありがとね、メラ」
そう言って母さんはメラを抱きしめる。
「母さん!」
「大丈夫よ。毒だったらすぐに腫れるでしょ。それに回復のポーションは中々手に入らないんだから、本当に命に関わることに使うべきだわ」
「はあ、もう分かったよ。でも、もし何かしらの症状が出たらすぐに飲んでもらうから」
「えーどうしよっかな~」
「母さん!」
「もう冗談よ」
「お兄ちゃんが怒った!逃げろー!」
「あっ逃げるな!!」
この時どうして俺は無理矢理でも回復のポーションを飲ませなかったのだろう。
もしかしたら最悪な未来は防げたのかもしれないのに。
「それからおじいちゃんは‥‥‥寝たみたいね」
母は妹を寝かしつけるためにいつもの本を読んでいた。
「ねえ、母さん一つだけ聞いてもいい?」
布団から起き上がりタクトは母親の方を見る。
「キラツさんと本当に死んだの?」
「っどうしてそう思ったの?」
「母さんいつもキラツさんと話すとき遠くを見ている気がしたから」
すると母は少し考えた後覚悟を決めたように話し始める。
「キラツさんは遠くの世界に行ってしまったの」
「どうして一緒に行かなかったの?」
「あなたが居たからよ」
そう言って母は優しくタクトを撫でる。
「それが私達の決めたことだから。後悔はしてないし、今あなた達が居るから寂しくないわ」
「そっか、それならよかった」
「さっもう寝ましょう。明日は休みなんでしょ」
「うん、おやすみ母さん」
「うん、おやすみタクト」
タクトはそのまま眠気に身を任せる。
意識が段々と薄れていく中、タクトはこの日いい夢を見れると確信していた。
だがその日の運命はタクトを夢の中に入らせなかった。
「きゃああああ!!」
「っ!何だ?」
突然の叫び声に寝ぼけてた意識が覚醒する。
「今の声はメラ?」
布団を見るとそこには2人の姿が見えなかった。
その瞬間、タクトの表情が一気に強張る。
タクトは近くに会ったほうきを手に取り、声が聞こえた場所に向かう。
その間タクトはあらゆる最悪な状況を考えた。
誰かが家に侵入してきた場合、モンスターが家に入ってきた場合様々な考えが頭の中を駆け巡る。
「誰でもかかって来い。家族には指一本触れさせないぞ」
そう覚悟を決めてタクトは物音が聞こえる場所に向かって飛び出した。
飛び出した‥‥‥
「ン?」
「うそ‥‥‥だろ‥‥‥」
その瞬間、目の前に居るのが何か瞬時に理解できた。
真っ赤に血に染まったそれは先程まで優しく微笑んでくれた。
母さんだった。




