その十八 出会いと別れは突然
「私とレインは街中で出会ったの。その時は毎日魔法の勉強をしていて、図書館に行く途中だった」
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「おいおい、何してんだよサクラ!また1人で魔法の勉強か?」
「1人で勉強!可哀そう!」
「うるさい!あっち行ってよ!うざいんだけど!!」
サクラは道を阻むいじめっ子2人組を睨みつける。
「がり勉女が調子に乗るなよ!こんな本見て何になるんだよ!おらよ、パス!」
サクラから魔法陣の本を奪って仲間に投げつける。
「ナイスパス!投げる!」
「ちょっかえしてよ!!」
だがサクラの言葉に耳を傾けることも無く、執拗に本をサクラの上に投げ続けていた。
「そんなに返して欲しいのかよ。なら、ほらよ!!」
すると本を魔法で燃やし始める。
「やめてよ!!」
サクラはすぐに本を奪い返して素手で炎を消そうとする。
「必死!面白い!」
「おいおい、こいつやばすぎだろ。素手でやるか、頭のおかしい女と一緒に居たら俺達も可笑しくなるからな。2度と関わってくんなよ!」
「くんな!消えろ!」
そう言って2人はサクラに唾を吐いてその場から去って行った。
サクラはそんな2人に嫌悪感や怒りを覚えたが、反抗しようとは思わなかった。
それはすでに立ち向かっても魔法を使える2人には敵わないと分かってたからだ。
あのクソガキ、私が魔法を使えるようになったら一瞬でぶっ飛ばしてやる。
そんなことを思いながら燃えた本を手にしようとした時、誰かが先にその本を手に取る。
「‥‥‥これ、君の?」
「へ?いや、それは図書館から借りた物で‥‥‥」
その人は青年で燃えて焦げた本をじっと見る。
「なあ、このままじゃお前怒られるよな」
「そ、そうだけど」
すると男はその本を持って先程2人が向かった路地裏に入ってくる。
「何だお前、やんのか!!」
「ぶっ飛ばす!かかって来い!」
すると物凄い爆発音と共に2人の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
音がやむと黒焦げになった2人と男が路地裏から出てきて、サクラの元に向かう。
「この2人が弁償してくれるらしいよ」
「弁償。許して」
「くそが、何で俺がこんな奴に負けなきゃいけないんだよ」
「何だ文句あるのか?」
「な、何にもねえよ!」
「へへ、よかったな。怒られずに済んで」
それがこの男との初めての出会いだった。
「俺の名前?」
「うん、私はサクラ。あなたは?」
「俺はレインだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「何それ?ねえ、レインは何処から来たの?」
「俺か?サキン村ってところから来たんだよ。ほらあの森の中にあるんだ。知らないか」
サクラは首を横に振る。
「ねえ、すごく強いね。魔力レベルってどれくらいなの?」
「さあ?魔力レベルは測ってないから知らないな。でも、俺よりも強い奴が居るんだよ。もしかして、サクラも強くなりたいのか?」
「うん、強くなりたい!誰にも馬鹿にされないくらい強く!」
「へへ、いいぜ。俺が鍛えてやるよ!」
「本当!ありがとうレイン!」
それからサクラとレインは一緒に修行をすることが多くなった。
森の先にはモンスターが住んでいるのでレインは週に一度しか町に来られなかったが、それでもサクラにとってレインと修行するのは何よりも大切な瞬間だった。
「ねえ、レイン。私強くなれるかな?」
「知らね」
「ひどい!強いって言ってくれないの」
「へへ、そんなもん考える暇が合ったら修行した方が良いだろ。悩むよりすぐ行動だぞ、サクラ」
何よりサクラはレインの笑顔と言葉に救われていた。
サクラにとってレインは友達以上の特別な存在になりかけていた。
「ねえ、私もレインの村に行ってみたい」
「俺の村にか?危ないぞ、道中モンスターの巣があるし、それに別に面白い場所でもないぞ」
「いいの、だってレインの村にも私と同じくらいの子が居るんでしょ。私会ってみたいの」
「俺の友達にか。へへ、確かにいいなそれ!俺もちょうどサクラを紹介したかったしな」
「しょ、紹介って!恋人じゃないんだから!」
「何か言ったか?」
「な、何でもない!」
サクラは少し恥ずかしながらそっぽを向く。
「それじゃあ明日、迎えに行くからいつもの原っぱに集合な!」
「うん!」
そう言って2人は小指を絡ませて約束をする。
その時の2人の表情は幸せに満ちていた。
だが、その幸せが1日で終わることをまだ知らなかった。
その夜サクラは中々寝付けず、道場を出て修行をしていた。
「ふうーやっと落ち着いてきた。これなら寝られるかな」
明日はいよいよサキン村に行くんだし、寝坊したら申し訳ないよね。
「よし、早く寝ようっと」
サクラは修行をやめて寝ようとした時、微かに叫び声が聞こえてきた。
「え?今の声って‥‥‥」
サクラはかすかに聞こえた声の方を向く。
それは森の方から聞こえてきていた。
その時、森から微かに煙が見えてきた。
「っまさか!」
サクラはその瞬間、迷いなく森の中に入って行った。
違う、そんなわけがない、きっとただの山火事だ、すぐに収まる。
サクラは走りながらそんなことを考えていた。
その時足元が何かにつまずいて転んでしまう。
「くっ‥‥‥っ!?」
その時サクラは見てしまった。
自分がつまずいた者の正体に。
「うそ、まさか‥‥‥」
サクラは急いで駆け寄り、その人を抱きかかえる。
脇腹が何かによってえぐられていて、そこから血が止まることなく流れている。
這いずって来たのか、地面には血の跡が染みついている。
「レインなの?ねえ、レインなんでしょ!返事をしてよ!!」
目の前の光景が信じられず、サクラは何度もレインと叫び続ける。
するとレインがゆっくりと瞼を開ける。
だが、その目はもう見えておらず、手探りでサクラの手を握る。
「その‥‥‥声、サクラか?」
か細い声が確かにサクラの耳に届く。
サクラは握りしめた手を強め、レインに問いかける。
「サクラだよ!レイン、死んじゃだめだよ!!」
レインが生きていたという事実に思わず涙が零れる。
だがその命の終わりが近い事をサクラは気付いていた。
「にげ‥‥‥サクラ」
「待ってて、すぐに医者に見せるから!!」
サクラはすぐにレインをおんぶして走り出す。
だが騒ぎを聞きつけたモンスターが行く手を阻む。
「ガルルルル‥‥‥」
「う、うそ!何でこんな時に」
「ガウっ!」
「ひっ!」
サクラはすぐにその場から離れようとするがモンスターの恐怖で足がおぼつかず、地面につまずいてしまう。
「い、いやだ‥‥‥」
サクラはモンスターから後ずさる。
だが目の前の四足のモンスターはこちらにドンドン近づいてくる。
「サクラだけでも、行ってくれ」
脇腹を抑えながらレインが立ち上がる。
「レイン駄目だよ!傷が広がっちゃう!」
「もう、俺は駄目だ」
「駄目じゃない!約束したでしょ!レインは約束を破るの!」
「約束か‥‥‥ごめん、無理そうだ」
「無理じゃない!!」
サクラはモンスターの方に向かうレインを何とか引き留める。
「分かった、だから離れてくれ」
「いやだ!」
「あいつを、倒さないと生き残れないだろ」
「でも‥‥‥」
「あいつは俺が倒すから、俺が魔法を撃ったら逃げるんだぞ」
「うん、分かった。レインも逃げるんだよ」
「逃げるから、危ないから離れてくれ」
サクラはレインの言う事を聞いて少し距離を取る。
するとレインは少しほっとした表情をした時、サクラの足元に魔法陣を展開させる。
「え?」
「ファイヤーウォール!!」
その瞬間、サクラの周りが炎の壁で覆われる。
「何してるの、ねえ冗談やめてよレイン!」
「ごめんな、サクラ。俺の今の力じゃ、これが限界なんだよ」
「ふざけないでよ!一緒に逃げようって言ったじゃん!」
炎の壁が邪魔をしてサクラはレインの元には行けない。
そしてどんどん炎の勢いが強くなっていき、視界が悪くなっていく。
「お前なら大丈夫だ。心配するな」
「何言ってるの!早く逃げてよ!死んじゃうよ」
「サクラ俺はお前を信じてる」
するとレインがこちらに振り向く。
「へへ、頑張れよ!」
その笑顔が炎に包まれて見えなくなった。
「レインーーーーー!!!」
それから、サクラは目覚めると自分の部屋で寝ていた。
あの夜中々帰ってこないサクラを心配してダリが探しに行ったところ、偶然森で倒れてるところを見つけた。
サクラはすぐに森に行きレインが居た場所に向かう。
だがそこにはレインの姿がなかった。
その代わりレインの服と血痕が残されていて、昨日の出来事が現実だと再認識させた。
サクラはゆっくりとレインの衣服を手に取る。
そこから一枚の写真が落ちる。
そこには秘密の場所で撮った満面の笑みのサクラとレインが写っていた。
その写真と衣服を抱きしめながらサクラは涙を流した。




