その十三 ハムスを出せ
「‥‥‥来ましたか」
サキン村の跡地でリドルはミノルを待っていた。
そしてミノルが来たのを察して殺気を放つ。
「随分と遅かったですね。かつさんとのお別れの挨拶をしていたんですか」
「そんなものしてないわ」
「なるほど、僕を殺せる自信があるんですか」
「私はリドルとやりあうつもりはないわ」
その言葉を聞いてリドルの表情が険しくなる。
「まだそんな甘い事言ってるんですか。僕はあなたを殺すんですわ!」
「殺せないわ、リドルは私を殺せない。私はまだこんな所で死ぬわけには行かないから」
「そうですか。ですが甘く見られたものですね。僕の実力がまだ今までと同じだと思ってるんですか」
「別に舐めてるわけじゃない。ただ私は殺される気もないしリドルを傷つける気もない」
「っ!」
「私はリドルに誤解を解きに来たの。争いに来たわけじゃない」
ミノルはなるべくリドルを刺激しないように話す。
だがリドルは明らかに敵意を示していた。
「そうですか。あくまで交渉というわけですか」
「リドルは誤解してるの。リドルの村を襲ったのは私じゃない、リドルにとっては辛い事実かもしれないけど、私が来た時にはもう村は襲われてたの。リドルのお母さんの手によって」
「うるさい!今すぐに殺してもいいんですよ!!」
ミノルはリドルの威圧に少し言葉を詰まらせる。
これ以上は争いに発展してしまうと思ったからだ。
だが今のリドルを止めることはもう出来ないことをミノルは知らない。
「僕はミノルさんとお喋るするために待っていたわけではありません。すべてはミノルさん、いやミノルに復讐する為だ!!」
そう宣言すると魔法陣を展開する。
「戦う気がないならせめてすぐに死なないでくださいよ。再び仲間と冒険したいなら死ぬ気で抵抗してみろ」
「それがあなたの本性なのね。昔の私だったらここで命を差し出していたでしょうね。でも今は違う。支えてくれる仲間がいる、帰るべき場所がある。私は全力で抗うわよ。取れる物なら取ってみなさい。私の命はそう簡単に奪えないわよ」
その瞬間、お互いの魔法がぶつかり合う。
―――――――――
「お前の仲間のリドルが元サキン村の出身!?」
俺はハイトにここまでの経緯を説明する。
「知らなかったのか?リドルとはまさか村では会ってないのか?」
「いや、そんな大きい村ではないし同年代なら友達のはずだ。だが、リドルなんて人俺は聞いたことないな」
「姿は~?見たなら分かるんじゃないの~」
「会った事はあるがあんなやつ見たことないな。それにリドルの雰囲気は何かどくどくで掴めない奴だったし、ああいうタイプは記憶に残ってるはずだ。しかもサキン村ならなおさらだ」
「とにかく、リドルがサキン村の出身言ってる以上そうとしか考えられない。嘘であんなにミノルを恨む何てありえないし」
そう、あれは明らかに私怨が入っていた。
大切な人を殺された復讐を誓った目。
まるで、初めて会った時のハイトみたいだった。
「そういえばハイトはサキン村の生き残りなんだろ。あの時何が起きたんだよ」
するとハイトは少し考え込んで話し始める。
「知らない」
「え?知らない!?」
予想外の答えに俺達は声を荒げる。
「俺は気付いたら何者かに襲われてそいつから逃げるのに必死だった。気付いたら森の中で倒れてて、サキン村に戻ったら跡形も無くなっていた。それでこれをやったのが黒の魔法使いってのを知って、復讐を考えたんだ。村には住んでたがあの日の事件の詳細は一般の人と同じレベルだ」
「そうか、これじゃあリドルを説得できないな。その日の現場をもしくは犯人を直接確認した人だったら説得出来るんだけど」
「ここで考えても~意味ないから~もう一人の生き残りの元に行こうよ~」
「そうだな、あいつ上手くやってるかな」
時は遡ること数分前‥‥‥
「えっとここが例の道場?」
見るからに古びたボロボロの道場だ。
年季を感じる看板と今にも崩れそうな屋根、修理屋を呼ぶお金もないのか素人の応急処置が垣間見える壁。
長年やっているところにしては道場の方から声も聞こえない。
多分だけど門下生も誰もいない貧乏道場何だろうな。
「ていうか人が住んでるかも怪しい。本当にここで合ってるんですか?」
少しの疑いを抱きつつも私がこれ以上の情報を知っているわけも無いので、素直に呼ぶことにした。
「すみませーん!誰かいませんかー!」
すると中から声が聞こえてきた。
うわっ本当にこんな所に住んでるんだ。
「はーいってどなたですか?」
「あなたがハムスですか!絶対さんがあなたの力が必要と言ってるので急いできてください」
そう言って私はハムスの腕を取る。
だが次の瞬間ハムスはそれを全力で振り払う。
「誰がハムスよ!!あの筋肉だるまと一緒にしないで!!」
「え?ハムスじゃないんですか?」
「私はサクラよ」
「何だ人違いか。私はハムスさんに用があるので、ハムスを出してください」
「あなた、名前も名乗らず急に用件だけ言うの失礼だと思うんだけど」
そう言って少し苛立ちながら注意をする。
「ああ、すいません。私はカルシナシティで魔道具を営んでいるマキノです。絶対さんの言いつけでハムスという人を探してるんですけど」
「絶対さん?もしかしてかつの事言ってんの?あいつは来てないの」
「来てないですよ。今別行動してるので」
「そうなの‥‥‥」
「あれ?もしかして会いたかったんですか?」
その言葉を聞いて突然早口で喋り始める。
「そ、そんなわけないでしょ!勝手なこと言わないでよ、私はかつに会いたいなんて1ミリも思ってないから!」
「いや、そんなふうにべらべら喋ると余計怪しいですから。もしかして絶対さんのこと好きなんですか?」
「はあ!?そんなわけないでしょ!あいつのこと好き何てありえない!ありえないんだから!!」
そう言って全力で否定してくるあたり怪しいんですよね。
でも面白いですね、ちょっとカマかけてみよっと。
「それじゃあ絶対さんに会いたいか好きだとどっちですか?」
「何その2択!意味分らないし、そんなの選べるわけないでしょ」
「選べないほど思いが強いってことですか。なるほどなるほど、ひゅーひゅー熱いですね!」
「茶化さないでよ!何でそう言う解釈するのよ。うーん、私は‥‥‥どっちかなら‥‥‥」
「どっちかなら?」
「あ、あ……」
「あ?あ、なんですか!もう答えは出てるんですから、一思いに言っちゃって!」
「てっ!何でそんな事言わなきゃいけないんだー!!!!」
そう言ってサクラは走り出してしまった。
「冗談のつもりだったんですけど、結構本気みたいですね」
「何じゃ、騒々しい。お客さんが来たんじゃなかったのか?ん、誰じゃ」
すると別の人が中から出てきた。
「今度こそハムスですね!絶対さんが呼んでいます、すぐに来てください!」
「いや、わしはダリじゃ」




