その十一 記憶の喪失
「私を殺さないの?」
体中を鎖で縛られ、動けなくされた為もう死を受け入れるしかなかった。
「ただでは殺さん。貴様にはそれなりの罰を加えなければいけないからな」
真横の独房ではミノルが手首を鎖で固定され閉じ込められている。
焦る様子もなくただじっと空を見つめていた。
「まずはミノルからだ」
そう言って腕を掴むと注射器のような物を取り出す。
「何をする気!」
「貴様がこいつを助けたいと言う願いを叶えてやろうとしているだけだ」
そう言ってクラガは注射針をミノルの腕に刺して何かの液体を体に流し込む。
「っ!!あ、あがっ!」
その瞬間ミノルは痙攣を起こして苦しそうに転げまわる。
「ミノル!!クラガ、何したの!」
「これを投与すればこいつの体に入っている薬の効果を消す。だが薬を消す間は強烈な激痛が体を襲う。薬の効果が完全に消えるか、その前に発狂して精神を壊して死ぬか、貴様にはその結末を見届けてもらう」
「あああああああ!!」
「あんた最低よ!こんな事して何になるの!ミノルを普通に元に戻すだけでいいじゃない!罰なら私だけにすればいいのに、何でこの子を巻き込んだの!」
「それがあの方の指示だからだ」
クラガはそのまま出て行った。
「ぐああああああ!!!があああああああああ!!」
「ミノル!頑張って!諦めちゃダメ!こんな所で死なないで!」
私はただ苦しそうにのたうち回るミノルに声を掛け続けるしかなかった。
――――――――――
「リーダー何かあったの?さっき妙に騒がしかったけど」
「何でもない。ただ無能な仲間を粛清していただけだ」
「やっぱりあいつらじゃこの仕事は無理だったか!まあ、俺はそんな心配する必要ねぇからな、だから仕事をくれよ!」
「いい加減諦めなよ。騒いだところで仕事がもらえるわけじゃないんだからさ」
「何だとアルバ!それじゃあテメェが俺の暇つぶしに付き合えよ!」
「何でそう言う事になるんだよ!こっち来るなよ!」
「とにかく明日になればすべてが分かる」
そう言ってクラガは不敵な笑みを浮かべた。
暗く生臭く空気の悪い独房の中でリツは一日中ミノルの為に声を出し続けた。
「み…のる負けちゃ…だ、め‥‥‥」
声が聞こえない、喉がつぶれて声もこれ以上出せない。
ミノルはどうなったの?
もしかしてもう!
「大丈夫ですか?」
顔を上げた時、そこには口に血を垂らしながらこちらを心配しているミノルの姿が合った。
「み、ミノル?」
「はい、私ミノルですけど。何で私の名前を‥‥‥それとここは何処ですか」
本当にミノルなの?でもこの感じあの時感じたものと同じ。
「よ、よがっだよー!!!ミノルがいぎでで!!」
「え?な、何で泣いてるんですか!?」
「だっで!すごく苦しそうだったがら!」
「ああ、そう言えば妙に体がだるいような。それに頭も痛い、え!血!?」
ミノルは頭から血が出ていることに気付いて顔が青ざめる。
「落ち着いてミノル!あなたはこれからここを出ないといけない!帰らなきゃいけない場所があるでしょ?」
「帰る場所‥‥‥」
するとミノルの目から涙が零れて行く。
「ミノル?どうしたの?」
「何も思い出せない。何で思い出せないの、私は何処から来たの!何をしていたの!私は何者なの‥‥‥分からない、分からないよ!」
「記憶がないの!?」
まさかクラガが記憶を奪ったの!?
生き残ってもミノルに苦しみを残すためにやったって言うの!?
「どこまで腐ってるの!黒の魔法使い!」
このままあいつらの言う通りにはさせない。
この子をわざわざ黒の魔法使いに加入したってことは、何特別な意味があるはず。
それは彼女の記憶に関係している、だから完全に過去の記憶を消した。
なら、私は絶対にミノルをこの組織から逃がさなきゃいけない。
「ミノル大丈夫、あなたは何も心配しなくてもいいわ。絶対にここから出すから。とりあえず、魔法でその檻を破壊して」
「魔法?魔法って何?」
魔法の記憶もないの!?どこまでの記憶を消されてるの、まさか本当にすべての記憶を消されたの。
「思い出して、ミノル。あなたは魔法を使えるはずだから」
「思い出すって言っても魔法なんて使えるわけっう!?」
その時ミノルは苦しそうに頭を抱えてうずくまる。
「どうしたのミノル!」
「声が‥‥‥聞こえる‥‥‥」
「声?」
「沢山の苦しそうな声と顔が浮かんでくる。何なのこれ!こんなの知らない!」
まさか黒の魔法使いとして活動してきた記憶が蘇ろうとしている?
いや、そもそもその時の記憶がなかったの?
だとしたらまずいこれ以上ミノルの精神に負荷をかけるわけには行かない。
「分かった魔法はもういい。私に任せて!」
これくらいの檻ならすぐに壊せる。
「アイスロック!メテオボール!」
凍った個所に炎の一撃を加えて檻を破壊した。
「早く逃げて!」
「ありがとう、お姉さん!お姉さんは逃げなくていいの!」
「私の名前はリツ、大丈夫後で脱出するから心配しないで。ミノルはこのまま階段を上がって廊下をまっすぐ進んで、そうすれば出口が見えるから。建物を出たら森があるから森を抜けるまでひたすらまっすぐ進んで。分かった」
「分かった!ありがとう、リツ!」
そう言ってミノルは階段を駆け上って行った。
「でもまだあともう一仕事しないとね」
ポケットにしまっておいたリモコンを起動する。
その瞬間どこかで大爆発が起きる。
「これで時間は稼げたよね」
今頃上ではモンスターが逃げ出したことで大騒ぎになってるはず、後は運を祈るだけ。
ごめんねミノル、約束は守れそうにないや。
数分後地下にクラガが現れた。
「やはり、ミノルを逃がしていたか」
「随分と早い対応だね。でも、もう遅いよ」
「貴様、そんなに死にたいのか?」
「今のこの島を見たら死んだ方がマシかもね」
「そうかなら残念だ。貴様はまだ殺さない」
するとクラガは突然私の体に巻き付いている鎖を取り除いた。
「どうして‥‥‥」
「貴様に極秘の依頼が来た。ミノルを監視せよだそうだ」
「ミノルを監視ってなんで、しかも私に依頼しなくてもいいでしょ」
「貴様はミノルに心を許されているだろ。監視するなら貴様が適任だ」
「でも――――――」
「ここ死ぬか、依頼を受けるか選べ」
意味が分からないわざわざ何で私を生かすの。
でもこのチャンスを生かさないわけには行かない。
「分かったわ。その依頼引き受けたわ」
その後私は拠点を飛び出してミノルを探しに向かった。
そしてその途中である村を通りかかった。
いや、もうその村は私が来た時にはもう村とは言えなかった。
人の死体がゴミの様に周りに散らばり、至る所に火の手が回っていた。
そして、そこには黒いローブが置かれていた。




