その七 リドルの本性
「それじゃあ、行ってきますね」
「おう、行ってらー」
「リドルなら合格してるわよ」
「ありがとうございます。それでは」
そう言ってリドルは合否を確認するために魔法協会に向かった。
「にしても魔力レベル9か。リドルが合格したらもっと強くなるんだよな。いいなあ、俺も魔法をもっとたくさん使いたいな」
「かつは特別な魔法があるからいいでしょ。ていうか暇なら皿洗い手伝ってよ」
ミノルは皿を洗いながらこちらを手伝うように言ってくる。
「暇じゃねよ。これからマキノと会ってさらにカルシナシティに行って風間に会いに行かなきゃいけないんだから」
「え?マキノってカルシナシティで魔道具屋やってた子よね。何でかつがその人に会うの?」
「ちょっとあいつの店を手伝うことになったんだよ。それで今日マキノが作ったポーションの実験台にされたわけ」
「ああ、何だそういう事ね」
そう言って何故か安心たような表情をする。
「ん?どういう意味だと思ってたんだ」
「へ?な、何でそんなこと聞くの?」
「いやだって俺が実験台にって言ったら、妙にほっとしてたから」
「そんなことない!私は別にマキノと付き合ったとかそういう事かと‥‥‥」
「は?ごにょごにょ言ってて何言ってるか分からないぞ」
「とにかく、何でもないから!変なこと言わないで!マキノの事待ってるなら来るまでにお風呂沸かしておいて!」
何故かミノルは怒鳴りつけるように風呂を沸かすのを頼んできた。
何がミノルの琴線に触れたんだ?
こんだけ長く一緒に居るが、いまだにミノルが何考えてるのか分からないことがあるな。
俺は椅子から立ち上がり風呂場に向かう。
そこで水を魔法で張って風呂を沸かす機械に魔力を溜める。
にしてもこれからこいつらと一緒に冒険できるのはあと何回だろうな。
今はまだめどは立ってないけど、風間と浜口と色々作戦を練ってこの島の秘密に辿り着いたら、日本に帰れるんだよな。
この世界にも色々思い出はあるし、最初よりもこの世界に残りたいって気持ちは強いけど、日本に家族を残してるわけだし、迷惑をかけたまま別れるのも何か違うしな。
それに妹の事も心配だし、やっぱり早く日本に帰らないといけないよな。
それならこの世界でやり残したことが無いようにしないと。
「とっ考え事してたら魔力パンパンになっちまってた。少し出さないと爆発しちまう」
俺はお風呂を沸かす作業を終えて居間に行く。
「あれ?ミノルが居ない」
いつの間に出かけたのか?
でも皿洗いはまだ途中みたいだし、外に居るのか?
そう思った瞬間、外から何かが爆発した衝撃音が響き渡る。
「っ!?何だ今の!」
もしかしてミノルの身に何かあったのか。
俺は急いで外に飛び出す。
そこには信じられない光景が合った。
「なっどういうことだよ。何で‥‥‥何やってんだよリドル!!」
そこにはボロボロになったミノルの首を掴んでいたリドルの姿が合った。
「か…つ…」
「かつさん‥‥‥」
「やめろよリドル。早くミノルを離せよ」
「あがっうぐ‥‥‥」
だがリドルは俺の言った事とは逆にミノルの首を絞めつける。
「かつさん、僕はミノルさんを殺します」
「は?何言ってんだよ。冗談にしてもやりすぎだぞ。やめろって」
「本気です、僕はミノルさんを殺します」
そう言って目を合わせずに苦しそうにしているミノルをじっと見続ける。
「そんなわけないだろ。お前がそんな事言うわけがない。お前らしくないねえよ!」
「かつさん、あなたは僕の何を知ってるんですか」
「っ!?」
その時のリドルの目は俺が今まで見たことがない、暗く沈んだ目をしていた。
それはリドルの見たことがないもう一つの顔だった。
その目を見た瞬間、俺はリドルの事を仲間ではなく恐怖の対象として見てしまった。
「ふんっ」
その時リドルはミノルを地面に投げ飛ばす。
「かほっげほ、げほ」
苦しみから解放されたミノルは目に涙を浮かべて嗚咽する。
「8年間、僕はあなたを殺すことだけを考えてきました。そしてようやく、あなたを殺す算段がついた。サキン村で待っています。そこで決着を付けましょう」
ミノルを睨みつけると俺に目も合わせずに背中を向けて行く。
「待てよリドル!」
「かつさん、僕は一度もあなた方を仲間だと思ったことはありません」
そう言い残し、リドルは俺達の前から消えてしまった。
「絶対さーん!お待たせしました、例のポーションが出来たので早速試して‥‥‥ガーデニングでもしました?私はあまり凸凹し過ぎるのもよくないと思いますけど」
「お前、タイミング悪すぎるんだろ」
「え?もしかして空気読めてない人になってます?」
そう言っていまだに状況を読めてないマキノがきょとんとした顔で辺りを見渡す。
「とりあえず、中に入って。ここじゃあ、寒いでしょ」
「いや、ミノル」
「いいの、これは私たちの問題だから。お客さんなんだからちゃんとおもてなししないと」
そう言ってボロボロの体でぎこちない笑顔を見せる。
「何が合って知りませんけど、笑えないことが起きたのは何となく察しがつきます。私でよければ話を聞きますよ」
「いや、お前は別に関係ないから。ていうか今日の所は帰って――――――」
「やです」
当然のように俺のさりげない気遣いを断って来る。
「お前空気読めよ。俺がさりげなく帰るのを進めてるんだからよ」
「いやです。そもそも私空気読めませんので」
「そこまで行くと清々しいな」
「とりあえずかつ。中に入りましょう、マキノさんも」
「分かったよ。ミノル肩貸すぞ」
「ありがとうかつ」
俺達は一旦中に入って状況を整理することにした。
「やっぱり!私の思った通りろくでもない人ですね、そのリドルって奴は」
「お前よく他人の仲間をそこまで言えるな」
「だって事実ですし」
「リドルは悪くないの。私のせいでこうなったの」
回復のポーションの手に持ち神妙な顔をする。
「そう言えばリドル、ミノルにすごい殺意を向けて来たけどもしかして昔に何かあったのか?」
「リドルがああなったのは多分私が原因なの。今までずっと気付かなかったけど、あの時の目とさっきの私を見る目を見て気付いたの」
「何にだ?」
「私は昔リドルの母親を殺したの」
その言葉を聞いて俺は言葉を失った。
ミノルがリドルの母親を殺した?
「昔と雰囲気がだいぶ違うから分からなかったけど、間違いなく私がリドルの母親を殺した。多分そのことをリドルはずっと恨んでて、私を殺そうとしたんだと思う」
「本当に忘れてたんですか。人を殺すってかなりの事だと思いますけどね。そう簡単に忘れますか」
「昔の事はあまり思い出したくなかったの。ごめんなさい、こんなのただの良いわけだって分かってる」
「ちょっと待てよ!」
俺は思わず怒鳴り声をあげてしまった。
このあまりに意味の分からない状況に耐えられなかったからだ。
「忘れてたとか、分からなかったとかそういう問題じゃないだろ!ミノルはそんなことしない!人殺しなんか絶対にしない!」
「それは絶対さんの願いですよね。実際本人がそう言ってるんですか抗いようのない事実じゃないですか」
「違う。俺には分かるミノルは意味もなく人を殺したりはしない。絶対にしないんだ!」
「あの人の言葉を借りるのは癪ですけど、絶対さんはミノルさんの何を知ってるんですか」
「俺はあいつの仲間だ!仲間だから俺はミノルを信じる!ミノルは絶対そんなことしない!」
すると、マキノが呆れた顔で俺を見てくる。
「そんなもの何の根拠も」
「ありがとうかつ。でも、私がリドルの母親を殺したのは事実。殺すしか助けらなかったから」
そう言って俺の言葉を肯定するが自分が殺したことは否定しない。
だがその言葉にマキノが一番に反応を示す。
「え?まさか本当に事情が!」
「マシュルヘビというモンスターは知ってる?」
「何だ、そのモンスター」
「知らないんですか!?数年前に危険指定モンスターとして一世駆除された超危険なモンスターです。今はもう絶滅したけど、何でそのモンスターの名前が出るんですか」
「そのモンスターにリドルのお母さんは襲われたの」
「え?なるほど、そういうことですか」
「ちょっと待て!全く話が見えてこないんだけど、まずそいつに噛まれたらどうなるんだ?」
いまだにマシュルヘビの生態についてよくわかってない俺は置いてけぼりになってしまっている。
「モンスター化してしまうわ」
「え?噓だろ」
「本当よ。正確にはウイルスに感染して自我を失い身体能力の向上と体が変化していくの。マシュルヘビに侵された人は殺すのが決まりよ」
「てことはリドルのお母さんは殺さなきゃいけなかったってことだよな。ミノルは何も悪くないってことだろ!なっそうだろ!」
俺は興奮気味にマキノに詰め寄る。
「そうですねって言うか、近いしきもいです」
「この際何言われたっていいよ!とにかくリドルに無実だってこと伝えに行こう」
「それは無理、今のリドルにそんな事言っても嘘だと思われるだけ。私の言葉じゃリドルには届かない」
「じゃあ、どうするんだよ!このままじゃ、リドルはミノルの事を殺しちゃうかもしれないんだぞ。そもそも、仲間通しで殺し合いだなんて俺は嫌だ!」
「それは私も同じ気持ちよ。だから、かつには集めてほしいの」
するとミノルは紙に何かを書き始めた。
「今から二人には私が書いた人達に声を掛けてほしいの」
「それって‥‥‥」
そう言ってメモを書き終えると俺にそのメモを渡してくる。
「あの事件に深くかかわっている人たちよ。この人達ならリドルに真実を伝えられると思う」
そう言ってミノルは立ち上がり、扉に向かう。
「こいつらって、ミノル!どこ行くんだよ」
「リドルの元よ。早く行かないと何をしでかすか分からないから」
「ちょっと待て!一人は危険だ、せめて仲間を集めてから」
「大丈夫、私は死なないわ。だからかつを信じてそのメモを託すわ。任せたわよ」
「分かったよ。俺もミノルを信じて集めに行くよ」
「ありがとうかつ。それじゃあ行ってくるわね」
ミノルは決意した表情で家を出て行った。
「私かなり蚊帳の外でしたけど、そのメモの人を集めればいいってことですか」
「ああ、手伝ってくれるのか?」
「ここまで聞いてやめる程私は薄情じゃないですよ。それで最初は誰から行くんですか」
「そうだな、まずはリツに会いに行くぞ」
まってろよ、リドル。
お前の心の闇は俺達が晴らしてやるからよ。




