その三十九 また会えると信じて
「ん、ここは‥‥‥」
「よぉ、起きたか」
気が付くと目の前には赤い体色をした悪魔が居た。
「まさか本当に成し遂げちまうとわな。気に入ったぜ!」
そう言って俺の背中をバシバシと叩く。
「あの痛いんですけど‥‥‥あれ?みんなは何処に!」
起きてみるとそこはどこかの宿だった。
確かここは最初に来た客宿?
「他の奴らは別の場所にいるぜ。あの女は体が凍り付いてたせいで死を彷徨ってたが、まあ何とかなるだろう。あの男はケルトの野郎にぼこぼこにされて、骨折や内臓を損傷したり色々と酷かったがまあ死にはしねぇだろ」
「そうか、それじゃあデビは?」
「妾はここに居るのじゃ」
扉の方を見るとそこにはデビの姿があった。
「デビ‥‥‥」
「アイガ、2人っきりにして欲しいのじゃ」
「ああ、じゃあな絶対かつ。面白いもん見せてもらったぜ」
そう言ってアイガという悪魔は出て行った。
「大丈夫か?あの後お主は気絶してしまったのじゃぞ」
「そうだったのか。そうか、俺達は成し遂げたんだな」
改めてデビを救えたことを実感して目頭が熱くなる。
「何泣いているのじゃ。そんなに妾に会えたことが嬉しいのか」
「うるせぇ、泣いてないから」
すると、突然デビが抱き着いてくる。
顔を俺の体にうずくめて強く抱きしめてくる。
「妾は嬉しかったのじゃ。お主らが助けに来てくれて、ありがとなかつ」
そう言って無邪気な笑顔を見せてくる。
そうだ、この笑顔を見るのも久しぶりだな。
「当たり前だろ。仲間なんだから」
俺もデビを抱きしめ返す。
「お帰りデビ」
「ただいまなのじゃ、かつ」
するとデビがゆっくりと離れる。
「それじゃあ、妾はやらなきゃいけないことがあるから行くのじゃ」
「もう行くのか?じゃあ、ちょっと待ってくれ」
「何じゃ?妾は忙しい―――――――」
俺はポケットから黒いバラの髪飾りを取り出してデビに付ける。
「よし、これで元通りだな」
「これって………妾の髪飾り」
「もう落とすんじゃないぞ。せっかく買ってやったんだからよ」
「ふっ分かっておるわ!」
そう言ってデビは客宿を後にした。
「デビビ、良いの?」
客宿の外にはドラが待っていた。
「何がじゃ?」
「好きなんでしょ。伝えなくてもいいの」
「もう伝えたのじゃ。そしてその答えも」
「そっか‥‥‥ねえ、僕じゃダメかな?」
その言葉を聞いてデビが動揺する。
「そうじゃな、無理じゃ」
「っはは、返事早いな」
「お主は妾の友達じゃ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうだよね。僕なんかと付き合えないよな」
「これが妾の最初で最後の恋じゃ。だからお主の想いは受け取れぬ」
するとドラは満足した様に笑いだす。
「ははっデビらしいね。んんー言いたい事言えてお互いスッキリ出来たね」
「そうじゃな。それにしても、お主妾のこと好きだったのか。すまないのう、妾が魅力過ぎて」
「そうだね。デビビのせいだよ」
そう言ってデビビに微笑みかける。
「早く行こう。エンマさまがお待ちだ」
「そ、そうじゃな」
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俺は止まった時計をじっと見る。
俺達がこの世界から帰っても、ひと段落にはならない。
俺にはこの島の秘密を突き止める大切な役目がある。
それを果たさなければならない。
でもどうすればいいんだ?やっぱり一度あいつらと話し合った方が良いのか?
ここ最近浜崎にも会ってないし、情報共有も兼ねて話し合った方が良いよな。
「まだ何も終わってないんだ。むしろこれからだよな」
すると扉を叩く音が聞こえる。
もしかして迎えが来たのか?
扉が開くとそこにはミノルとリドルの姿があった。
「っ!お前ら、大丈夫なのか!?」
「ええ、何とかね」
「僕も綺麗に直してもらいました。あの時はもう駄目だと思いましたけど」
良かった二人とも傷が見られない。
さすがあの悪魔たちだ、完璧に直してくれたんだな。
「かつさんはもうデビさんに会いましたか?」
「ああ、さっき来て話したぞ。てことは二人ももう話したのか?」
「ええ、デビちゃんと話して思わず泣いちゃって。だってあんな地獄みたいな場所からデビちゃんを救えたって夢みたいだったから」
「確かにな。でも、夢じゃない。俺達は救ったんだよ、デビを」
「そうですね。それじゃあ、早く行きましょう」
そう言って客宿を出ようとする。
「え?どこに行くんだよ」
「エンマさまの元よ」
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宿屋から少し歩いた先に巨大な城が見えた。
その中に入ると様々な悪魔が忙しそうにしていた。
そしてさらに奥の場所にエンマさまの部屋が合った。
「よく来たな、絶対かつよ」
相変わらずの威圧感だな。
立ってるだけで足が震えそうだ。
「お主の体にはすでに心臓を戻している。気付いたか?」
「あっそういえば俺の体には心臓が抜き取らてれたっけ」
「救済の儀式を見事に成し遂げたお主には下界に帰還する権利が得られる。帰りたいか?」
「もちろんです!」
「そうか、ならすぐにでも帰らせてやろう。既に準備は整わせておる」
すると、目の前に不思議な穴が出来る。
「この中に入れば帰られるの?」
「そうだ」
「それなら早く帰りましょう。ここは危険ですし、いつ体が吹き飛んでもおかしくないですからね」
「それは賛成だけど、デビはどこに居るんだ?あいつが居ないと帰るに帰れないぞ」
「妾はここじゃぞ」
するとデビがこちらに近寄って来る。
「デビ何だよ居たのかよ。ほら早く帰るぞ」
俺達は早速穴に入る準備をする。
だが、なぜかデビはその場から動かない。
「デビ?どうしたんだよ、早く来いよ」
それでもデビは動こうとしない。
「デビちゃん?」
「妾はお主らと一緒にはいけないのじゃ」
「っ!どういうことだよ。何でだよ、デビ!」
だがそれでもデビは冷静に話す。
「妾はエンマの娘じゃ。だから、次のエンマの座は妾が引き継がなきゃいけないのじゃ」
「そうだとしても、納得いかねえよ!」
「元々、妾は立派な悪魔になるために下界に降り立ったのじゃ。最初は上手くいかなくて大変なこと沢山あったけど、でもお主らと会えて妾は初めて下界に来てよかったと思ったのじゃ」
「デビちゃん、分かったわ」
「っ!ミノル!?納得しちゃうのかよ!」
「デビちゃんにはデビちゃんのやらなきゃいけないことがあるんでしょ。だったら私達じゃ止められないわ」
「ミノル‥‥‥ありがとうなのじゃ。大丈夫、妾はまた戻って来るのじゃ」
「分かったよ。お前がそう言うなら待ってるよ。必ず戻って来いよ」
「当然じゃ。妾はお主らの仲間じゃからな」
そう言って俺とデビは握手を交わす。
「じゃあね、デビちゃん体に気を付けてね」
「デビさん、お腹が空いても駄々こねないでくださいよ」
「デビ、いつでも帰って来いよ」
俺達はデビに別れの挨拶をしてゲートを潜って行った。
「う、うわああああああ!!!」
そのまま真っ逆さまに落ちていく。
真っ暗闇が続く中突然光が現れたと思ったら、辺りが真っ白に光り輝く。
「っ!ここは、にゃんこ島か?」
「どうやら元の世界に戻って来たみたいですね」
「はあ、私もうクタクタ早く家に帰って休みましょう」
「そうだな、それじゃあ帰るか。俺達の家に」
これはほんのきっかけに過ぎなかった。
これから起きる事件の火種でしかなかったんだ。




