その三十七 会いたい気持ち
助かったのか?
誰だこの人、いや人じゃない。
翼に尻尾に角、悪魔なのか?悪魔が助けてくれたのか?
「何ですか、突然しゃしゃり出てきて。邪魔をしないでください」
「これ以上は好き勝手にさせないぞ、ケルト!」
守ってくれてるのか?
悪い奴じゃなさそうだな。
「あ、あの助けてくれてありがとうございます」
「許してないから」
「え?」
「デビビをあんな目に合わせたお前を許してないから」
そう言ってその悪魔はこちらを睨みつけてくる。
な、なんだ味方じゃないのか?
「僕はドラ、デビビの‥‥‥友達だ」
少し言いにくそうに自己紹介をする。
デビの友達?てことはデビを知ってるのか?
「無視をしましたね。底辺の悪魔の分際で調子に乗らないでください!」
「あんたこそ調子に乗るのもいい加減にしろよ。これはこいつらが自らの力を示す試練だ。ケルト、お前は完全にこの試練の部外者だったはずだ。案内人として見過ごすわけにはいかない」
「地獄の案内人ですか。たかだか数百年生きただけの悪魔が私に上から物を言うんじゃありませんよ!!」
その瞬間、両手を氷結鳥の翼に変えて氷の羽をドラに向かって飛ばす。
「あぶない!その羽は————————」
だが、俺が言い終える前にドラに羽根が直撃する。
そんな、ドラも氷漬けにされてしまう。
そう思った時、ドラの手からボロボロになった羽根が落ちてくる。
「残念だけどあなたの攻撃は僕には届かないよ」
「破壊の悪魔ですか。ですが、その程度では私を止めることは不可能です!罪人に加担したことを後悔し、死になさい」
何て圧だ、これが悪魔なのか。
禍々しいあの笑みは底なしの絶望を現している様で体が固まってしまった。
「ここは僕に任せて、ケルトは僕が止めるからお前はデビビを迎えに行って」
「その前にミノルを助けてくれないか!あいつ氷漬けになってんだよ!」
俺は氷漬けにされたミノルを見せる。
「分かった、今助け————————」
「させるわけないでしょうが!!」
その瞬間拳を握りしめて地面を蹴った勢いでこちらに飛んでくる。
俺は何も反応できずに呆然と事の成り行きを見守るしかなかった。
衝突音が響き渡ると同時に風圧が襲い掛かる。
思わず目を閉じるがゆっくりと開くとそこにはケルトの拳をドラが片手で受け止めていた。
そして、ドラの手のひらに触れているケルトの拳が砕いたビスケットの様にボロボロになっていく。
「だから言ったでしょ。僕に攻撃は届かないって」
「あは、あはははははは!」
高笑いをしながらケルトは間合いを取る。
その隙にドラは氷に触れる。
すると氷は砕けていき隠れていたミノルが姿を現す。
「ミノル!」
俺はすぐにミノルの体を抱き上げる。
その体は冷たく、意識があるようには見えなかった。
「そんな‥‥‥嘘だろ」
まさか本当にミノルは死んだのか?
「ちょっと退いて、中の氷砕いて心臓を刺激する。これで心臓が動かなかったら諦めて」
そう言ってミノルの心臓の位置を確認して、人差し指で少し触れる。
その瞬間ミノルの体が一瞬ビクンと跳ねる。
俺はすぐにミノルの心臓が動き出したのか確認する。
「‥‥‥動いた、動いてるよ!ミノルの心臓動いてるよ!!」
余りの嬉しさに俺はドラに抱き着く。
「やめろ!僕に抱き着くな!」
ドラはそれを鬱陶しいと思ったのか無理やり引きはがす。
「動いても命の危険は変わりはない。毛布でも何でもいいから早く体温めてあげなよ」
「分かった!本当にありがとな!」
「僕はデビビの為にやってるだけだ。早く迎えに行ってやりなよ」
「ありがとう!リドル、歩けるか」
「はい‥‥‥何とか」
少しよろけてはいるが何とか歩くことは出来そうだな。
俺はミノルにローブを着せてファイヤーで体を温める。
「それじゃあ、俺達は行くから」
「かつ、絶望何てぶっ壊していくんだ」
「っ分かった!本当にありがとな!」
俺はドラにお礼を言って、そのデビの元に急ぐ。
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かつ達の姿が見えなくなったことでドラは視線をケルトに戻す。
「さて、ずいぶんお行儀よく待ってたね」
「それはそうでしょ。これから起きる戦いに罪人どもは邪魔ですから、誤って殺してしまったら罪を償わせられないですからね」
そう言ってケルトは破壊された拳の方の腕を引き抜く。
大量の血液が床に飛び散るがケルトの表情は一切変わらない。
「悪魔でありながら罪人に手を貸し、なおかつ逃がしたあなたを私は許しませんよ」
ケルトは自分の腕を食べ始める。
ゴリゴリと骨が砕ける音と口から血が落ちる。
「あなたも同罪です。死をもって罪を償いなさい!」
その瞬間、体中から腕が生える。
「さあ、粛清の時間ですよ!」
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「デビ―!何処だデビー!」
大聖堂のような巨大な建物の中に入り、必死にデビを探す。
「かつさん、こっちにも居ませんでした!」
「くそ、広すぎるだろ。これじゃあ、間に合わないぞ」
この建物思ったよりも構造が複雑でまるで迷路みたいだ。
いや、もしかしてわざとそうしてるのか。
これも試練だって言うのかよ。
「まだ諦めちゃだめだ!次はあっちを探すぞ!」
「はい!」
当たり前だと思ってた、仲間が居て家が合ってみんなでクエストに行ったりご飯を食べに行ったり、ずっとそうだと思ってた。
なのに、当たり前の事がどれほど大切な時間だったことに無くなってから気付くなんて。
この世界は弱肉強食強くなきゃ生きていけない。
いつかは別れは来る、それは覚悟してるけどその時は今じゃないだろ!
「はあ、はあ、あと何分だよ。どこに居るんだよ。教えてくれよデビー!!」
その言葉建物に響いていき、そして消えていく。
その言葉に応えてくれる人はいない。
壁に貼り付けられている悪魔が描かれたステンドグラスが、こちらをあざ笑うかのように見下ろしてくる。
「ここまで来たのに‥‥‥無理なのかよ」
「か‥‥‥つ‥‥‥」
「っ!ミノル!?起きたのか!」
「まだ‥‥‥諦めちゃ‥‥‥だ、め‥‥‥」
「分かってる。分かってるけど、見つからないんだよ」
「もしかしたら普通じゃないところに居るのかもしれません」
リドルがそんなことをぼそりとつぶやく。
「普通じゃない場所‥‥‥」
ここで普通じゃない場所は何処だ?
歩いてても見つからないってことは何か仕掛けがあるのか。
どこかにスイッチとかもしくはこの部屋で変わった個所。
「ステンドグラス‥‥‥」
そういえば一際デカイステンドグラスがあるな。
その絵は悪魔が人間の首を握り地面には大量の死体があり、それを悪魔が踏みつけている絵。
それはまさしく、地獄のような絶望的な絵だった。
ん?絶望?
『絶望何てぶっ壊していくんだ』
ドラが言っていたあの言葉。
激励の意味だと思ってたけどまさか。
「リドル場所が分かった。風の魔法で飛ばしてくれ」
「え?どこですか」
「あの向こうだよ!」
俺は巨大なステンドクラスを指差す。
「分かりました。ラノストーム!」
リドルはすぐに風の魔法で俺達を飛ばす。
そのまま空中を飛んでいきステンドグラスをぶち破った。
「デビー!!」
その奥に空洞が出来ていて、そこにはデビが居た。
「あっ‥‥‥」
突然の再会に俺達は一瞬固まる。
そしてデビが声を震わせて叫んだ。
「お、遅いのじゃ馬鹿者ーーー!!」
「「「デビーーー!!!」」」
俺達は感情が溢れてしまい、泣きながら思わず抱き着く。
大切な仲間を二度と離さないために。




