その三十六 優しい悪魔
「ミノル!ミノル!」
俺は凍り付いてしまったミノルの元に近づく。
「かつさん、危ない!」
その声が聞こえた瞬間、俺は突き飛ばされ地面を転がる。
その後、俺が居た場所に羽根が突き刺さっておりそこが凍り付く。
「惜しかったですね!あなたも後もう少しで彼女と同じようになれたというのに」
ケルトの背中には氷結鳥の翼が生えていた。
その翼で俺達をあざ笑うかのように上空を飛び回っている。
「ミノル、今元に戻してやるからな!ファイヤー!」
俺は炎の魔法でミノルを氷から救おうとするが中々氷は溶けない。
「何でだよ!何で溶けないんだよ」
「無駄ですよ。その程度の火力でアホウドリの氷は溶かせません。彼女は死にます」
「そんなこと俺が絶対にさせない!ミノル戻って来い!」
俺はさらに火力を上げてミノルの氷を溶かそうとする。
だが、それでも氷は溶けない。
「心配する必要はありません。罪人どもは仲良く死ぬ運命なのですから」
「かつさん!今は自分の事を考えてください」
「何言ってんだよ!ミノルを助けなくていいのかよ」
「ここで僕達がやられれば全滅です!かつさん、冷静になってください。今ではなく先を見て行動してください!」
リドルは俺の体を強く揺さぶり、その決死の表情を見て徐々に熱が冷めていく。
そうだ、今は冷静さを失ってる場合じゃない。
「すまん、頭に血が上って冷静でいられなかった」
「リーダーなんですから、しっかりしてください」
「ああ、悪かった」
「最後の会話は終わりましたか」
そう言ってケルトはゆっくりと地面に着地する。
それと同時に氷結町の姿から元に戻っていた。
「リドル、作戦がある」
「何ですか?」
「これを使って何とかする。お前はミノルを頼んだ」
「分かりました」
「ま~だ諦めないつもりですか?あなた方もしつこいですね。潔く罪を認めることが出来ないのですか?」
「俺達は諦めが悪いんでね」
すると、ケルトはニヤリと笑う。
「そうですか。なら、こうしましょう。私が今この拳で彼女を砕きます」
「っ!」
「あなた方が本当に諦めないというのなら、守れますよね!守れられないのならそれまで!粉砕、爆砕、木っ端微塵にしてあげます!」
すると一直線にミノルの元に向かう。
「くっ!」
「まぁず1人ー!」
ケルトが拳を振り上げた瞬間、俺はワープした。
ケルトの目の前に突然現れたが、気にせずミノルに向かって拳を振り下ろそうとする。
そんなことは絶対にさせない、俺は握っていた氷の種ケルトに向かって投げる。
「インパクト!」
その衝撃波により氷の種は砕かれて一瞬で氷が広がっていき、ケルトを包み込んだ。
「リドル今だ!」
「はい!」
リドルはすぐさまミノルを担ぎその場を離れる。
俺も今の内にここから離れないと。
その時ケルトの氷にヒビが入る。
「マジかよ!」
氷結鳥の氷でも数秒しか足止められないのかよ。
「リドルこっちだ!」
俺達はすぐに岩陰に隠れる。
そしてケルトは完全に氷を砕いて解放される。
「まさか氷の種を持っていたとは、あのアホウドリから受け取ってたんですね」
どうする、隠れたはいいけどここから動け無ければ意味がない。
ミノルもこれ以上は命の危険がある、いやもしかしたらもう‥‥‥馬鹿野郎!今はそんなと考えるな。
とりあえず隙を見て、逃げるしか。
「見つけた」
「っ!?」
その瞬間、隠れていた岩が一瞬にして砕け散る。
それにより俺たちの姿は曝け出されてしまった。
駄目だもう終わった。
「やはり、そう簡単には行きませんか」
リドルはミノルを置いてケルトの方に向かう。
「リドル?」
「かつさん、ここは僕に任せて行ってください」
「は?お前何言ってんだよ。死ぬ気か!」
「死ぬ気はありません。かつさんはこのままデビさんを救出してきてください。そうすれば僕たちの勝ちです」
「何言ってるんですか?そんなことはあり得ません!あなた達はここで死ぬ運命!生きて帰ることは絶対不可能!」
あいつの言う通りだ。
このままだと全滅する、必ずみんな死んでしまう。
「かつさん、救いましょう。僕達の仲間を」
「っ!分かった」
俺はミノルを担いでその場から離れようとする。
これしかないんだ、今の俺達にはこれしか出来ない!
「逃げるんですか!最も罪を償わ無くてはいけないあなたが!」
耳を貸すな、リドルが作ってくれたチャンスを無駄にするな!
「あなたがこの世界に来なければ、こんな事にはならなかったというのに!」
「っ!今‥‥‥何て」
俺はケルトが言った言葉に反応してしまい、立ち止まる。
そしてケルトの方を向いた瞬間、リドルが地面に叩きつけられる。
「ごはっ!」
「リドル!!」
そしてリドルは頭を鷲掴みされる。
「がっ!あ、あがっ」
「お前、やめろ!」
俺はミノルをその場に置いて駆け出した。
俺がインパクトを撃つ構えをした瞬間、リドルを盾にする。
「っ!こいつ!」
「その甘さが命取りですよ」
その言葉が聞こえた時ケルトの拳が俺の体を吹き飛ばした。
それにより岩に激突し全身に激痛が走る。
「————————っ!」
あばらが折れた。
何て威力だ、生きてるのが奇跡だ。
いや生かされたのか。
リドルの方を見ると抵抗することなく、脱力したかのように手が宙ぶらりんになっていた。
「リドル‥‥‥くそ」
俺は何とか痛む体に喝を入れて立ち上がる。
「そうです、あなたの罪はそんな物では晴らせません」
「お前知ってんのか?」
「全て知っていますよ。なんせ私は下界の者達の観察が趣味ですからね。あなたがそもそも別の世界の住民だということも」
全部お見通しってことか。
くそ、体の痛みでまだ歩けない。
「それにしても可哀そうな人たちですね。あなたに出会ってしまったせいで、死んでしまうんですから」
「何だと?」
「あなたがパーティーなどという仲良しごっこなどしなければ、辛い戦いに身を投じる必要も無く平凡に生きられたかもしれないというのに」
「お前にあいつらの何が分かるんだよ」
「あなたこそ分かっているのですか!自らの罪を!自ら犯した浅はかな行動の数々を!自分で気づけないのですか。今まさにあなたと出会ってしまったせいで死んでいくのです!彼女もそう、あなたと出会えていなければ氷漬けにされ徐々に命を失う恐怖に駆られることも無く、普通に生きていくことが出来た!あなたが殺したようなものです!」
何言ってんだ?
こいつは一体何を言っているんだ。
「そしてこの男もあなたと出会ったことにより、顔を握りつぶされ脳汁をぶちまけることになっている!あなたがパーティーの募集をしなければ彼はここまで悲惨な死を迎えることも無かった」
それは違う。
あいつの言っていることは全部間違っている。
「そして、今まさに死刑の時を待たれている悪魔はあなたの中途半端な優しさにより、愛を抱いてしまい法を犯し殺されようとしている!あなたが優しさを見せずにあの悪魔を切り捨てていれば、このような魂の消滅をする必要も無かったのです!」
そんなわけがない!
俺は間違ったことをしていない。
「お分かりですか!すべての始まりはあなたであり彼らはその被害者、そもそもあなたがこの世界に来た時点で罪!身の程知らずが自分の力で誰かの運命を変えられると信じた結果、最も悲惨な死を迎えることになるのです!そして、今この瞬間彼女は死にました」
「っ!」
ケルトは薄気味悪い笑みを浮かべながらミノルを指差す。
「嘘だろ‥‥‥嘘だ、そんなの嘘だ!」
「嘘ではありません。そして彼も死にます。あなたの罪を代わりにこの方たちが受けることになるのです。あなたが駄々をこねて罪を償わないせいで」
そして、ケルトはリドルを掴んでいる手の力を込める。
「やめろ!もうやめてくれ。俺が悪かった、罪を認めるよ」
「ようやく認めましたか、あなたは素直にそう言っていればいい物の言うのが遅いせいで彼女死んじゃいましたよ」
「お願いだ。俺はどうなったってかまわない。だから、皆の命だけは助けてくれ」
俺は頭を下げてケルトに懇願する。
「命を懸けているのにそれが一番の姿勢ですか?」
「‥‥‥分かった」
俺はゆっくりを腰を落として膝をつく。
「クフフフフ、そうですそのまま頭を地面にこすりつけなさい」
屈辱的だ。
だけどこれをするしか方法が無い。
俺はゆっくりと頭を地面に————————
「ふざけないでください」
「っ!?リドル」
「あなたまだ意識が合ったのですか」
「僕達のリーダーがそんな簡単に屈して、頭を下げないでください。そんなことで助けられてもうれしくありません!むしろ屈辱的です!」
「リドル‥‥‥」
「邪魔をしないでください。せっかくあなた達の為にみすぼらしく頭を下げようとしているのですから」
「かつさんこれだけは覚えておいてください。頭を下げる時は命を助けてほしい時では無く、自分の非を認め謝罪するか、言い表せない感謝を示す時だけです!かつさんはどういう理由で頭を下げようとしているのですか!」
そうだ、俺はとんでもない事をしようとしてた。
あと少しで自分の今までを否定してしまっていたところだった。
「ごちゃごちゃとさっきからうるさいですね。そんなに罪を償いたいというのなら償わせてあげますよ!」
その瞬間、ケルトはリドルの頭を吹き飛ばそうと拳を振り上げる。
「やめろ!!」
「断罪!!」
強烈な風圧により地面がえぐれる。
だが、そこにはリドルの姿はなく俺の近くにリドルともう一人の姿があった。
「これ以上、デビビの仲間を傷つけさせない!」




