その三十四 最後の難関
「にしてもこれすごいデカイな」
俺はヒレを持ち上げる。
たしかこれを動かせば行けるんだよな。
試しにヒレを思いっきり動かした。
「‥‥‥ちょっと早く動いたか?」
「ほんの少しですね。気持ち動いた感じですかね」
「もっと早く動かさないと間に合わないわよ。試したい事ってこれだったの?」
「いや違う。今のはちゃんと進めるかどうかの確認がしたかったんだよ。本当に試したかったことはここからだ」
俺は再びヒレを上に持ち上げる。
そしてその先に魔法陣を展開させた。
「何するつもり?」
「まあ、見てろって。ウィンド!」
俺はその瞬間、風の魔法を使うと同時にヒレを思いっきり動かした。
そう、普通なら俺の魔法では前に進むことは出来ない。
だけどヒレと共に魔法を使えばヒレが上手い事風に乗って推進力が上がるのではないかと思った。
そしてその結果俺達はすさまじい速さで前を進む‥‥‥ことも無くほんの少しだけ進んだ。
「ほんの少しだけ進みましたね。ほんの少しだけ」
「かつ、これがやりたかった事なの?」
「う、うるさいな!くそ、思ったよりも進まなかったな。単純に風力が弱すぎたのか?だったら沢山展開してやるよ!ウィンド10連!」
俺は先程よりも風力を強くして同じようにヒレを動かす。
すると先程よりも動くことに成功した。
だが、大きく前進までは行かなかった。
「確かに動きましたが、毎回魔法を撃ちながらだと効率悪いですね」
「良い案だと思ったんだけど、これは駄目だな」
すると、クジラ型魔物とサメ型魔物の抗争が激化していく。
「いい加減にしろ。俺の体に触れるな!」
「まだ、あいつら戦ってんのか?」
「こっちに被害はなさそうですし、気にする必要はありませんよ」
「まあ、確かにそうだけど」
「ねえ、あの巨大な魔物何かしようとしてない?」
ミノルは巨大な魔物を一転に見つめている。
すると、ミノルの言う通り巨大な魔物が不審な動きをし始めた。
「俺を怒らせたこと後悔しろ!」
そう叫んだ瞬間、巨大な魔物が大きな口を開いて何かを吸い込み始める。
それにより体が段々と上に上がっているような感覚に襲われる。
「ねえ、かつこれって吸い込まれてない!」
「急いでヒレを動かすぞ!」
俺達は三人の力を合わせって必死にクジラ型の魔物に吸い込まれないように逃げる。
「お、おいやめろ!吸い込められっ!」
サメ型の魔物がクジラ型の魔物の口に入った瞬間、吸い込むのをやめる。
た、助かった?
そう思った時、クジラ型の魔物の声が頭に響く。
「喰らえ、雑魚が!吹き飛べ!」
その瞬間、口の中に入っていたサメ型の魔物が吐き出される。
その姿は、凝縮されたような丸い形に変貌していた。
そして吹き飛ばされた方向に俺達が居た。
「ふざけんなよ!!」
ぶつかる!そう思った瞬間、俺は右手を構えてインパクトを唱えた。
「皆しゃがんでろ!インパクト!」
それが丸い姿に変わったサメ型魔物にぶつかる。
それにより、サメ型魔物は吹き飛ばされ俺達は勢い良く下降する。
しめた!なぜか分からないけど、動いた。
それならこの勢いを利用するしかない。
俺は離れないように氷結鳥の羽毛を掴みながら、ヒレを片手で掴んで思いっきり動かした。
それにより、さらに早く下降していく。
だがこれ以上は片手で持つのは危険だ。
そう思い、仕方なくヒレを離した、そしてヒレはどんどんと見えなくなりそして暗闇に消えていった。
――――――――――――――
「ん‥‥‥ううん?ここは‥‥‥」
俺は重たい体を起こして目の前を見渡す。
そこはさっきまでいた場所よりも明るく、草木に囲まれた草原だった。
「出てこれたのか?二人は!?」
すぐに辺りを見渡そうとした時、直ぐ側に二人が倒れていた。
「ミノル、リドル!大丈夫か!?」
二人の体を揺らすと少しうなされたような声をする。
どうやら、気絶しているだけの様だ。
「無事に越えられたようですね」
「ああ、なんとかな。まさか、魔法が魔物に当たるなんてなって誰だ!?」
突然頭の中に響き渡るこの感覚、まさか!
そう思った瞬間、頭上から氷結鳥が現れた。
そしてゆっくりと地面に着地する。
その姿を見て俺は思わず目を見開く。
「何でお前生きてんだよ!死んだんじゃなかったのか?」
「失礼ですね、勝手に殺さないでください。私は自分の心臓を氷で一時的に止めていました。でなければ、奈落で命を落としてましたから」
「え?何お前そんなことできるの」
「これくらいの事なら簡単です。それより眠っている異邦人を起こさなくていいんですか?」
そう言って、氷結鳥はうなされているミノルとリドルを見る。
「何かやばいのか?」
「分かりませんがこの世界は本来異邦人が来るべく場所ではありません。寝る時も何かしらの干渉があるかもしれませんよ」
「そんな、おいミノル起きろ!リドルも起きろ!」
体を何度も揺らすがうなされているだけで目を覚ますことはない。
「くそ、何なんだよ次から次へと!魔物魔物魔物って何でもかんでも魔物ばっかじゃねぇかよ!」
「無理やる起こそうとしても意味はないですよ」
「じゃあ、どうするんだよ!」
「語りかけるのです。今自分たちが何をするべきなのかを」
「今、自分が何をすべきなのかを‥‥‥分かった」
俺は二人の体を揺らすのをやめて語り掛けるように話す。
「ミノル、リドル聞いてくれ。ここまで、色々あったよな。死ぬ思いも何度もしたし、やばい奴とも戦ってきた。それもこれもたった一人の仲間を助けるためだ。ミノル、リドル、ここで立ち止まったら意味ないだろ。デビを迎えに行くぞ!俺達の仲間を!」
「「っ!」」
自分の思いとこれからのすべき事を伝えた時、二人は目を見開くと同時に体を突然起こした。
そして、荒い呼吸を整えながら困惑気味に辺りを見渡していた。
「はあ、はあ、私‥‥‥」
「ミノル大丈夫か?うなされてたようだけど。リドルも大丈夫か?」
リドルはゆっくりと呼吸をして、ツバを飲み込みと頷いた。
「はいっ悪夢を見ていたみたいです。正直、このまま目覚めないかと思ってました」
「そうね、私もずっと冷めないかと思ってたけど、突然かつの声が聞こえてやるべきことに気付いたの」
「まじか、本当に語り掛けたら届くんだな」
「起きたようですね。なら、早く進みましょう」
「そうねってええ!?生きてたの!」
二人は死んだと思っていた氷結鳥が生きていたことに気付いて驚いている。
「その反応は本日二回目ですね。私はそう簡単には死にません」
「奈落では外の魔物は生きられないと聞いたので死んだと思いました」
「心臓を凍らせて一時的に仮死状態になっていただけです。この説明も二回目ですね」
「でも生きててよかったわ。でも、何でそこまでしてくれたの?」
そう、氷結鳥は心臓を凍らせたからと言って命の危険は変わらないはず。
何でそこまでして助けたのか謎だった。
「それは————————っ!」
その瞬間、氷結鳥の体が何かに貫通される。
それが腕だと気づいた時にはすでに氷結鳥の心臓が抜き取られていた。
「なっなんだ!」
一瞬遅れて心臓を抜き取った手の方を向く。
伸びた腕は縮んでいき、その腕の正体が明らかになった。
「紆余曲折、色々あったみたいですが。あなた達はここで終わりです」
そこには抜き取った心臓を舐める悪魔が居た。
「粛清の時です」




