その九 心配
「これはマズイな。ひじょ〜にマズイ」
俺は借金の返済の紙とにらめっこしていた。
現在4億9948万7321ガルアとなっていてこのほとんどがミノルが払ったものだ。
実際俺が払ったのは全額合わせて2万ガルアくらいしか払ってない。
つまり俺は全くと言っていいほど役に立ってないというわけだ。
「今から図書館行って半獣のことについて色々調べようと思ったけどそんなことしてる場合じゃないな。今からでもクエストに行くか。でも1人じゃなあ」
しばらく葛藤していると、後ろからのんびりとした声が聞こえた。
「あれ?ぜっちゃんだ〜。こんな所で何してるの〜?」
そう言って手を振りながらこっちに向かって来た。
買い物帰りなのか手には何か荷物を抱えていて重そうだ。
「ぜ、ぜっちゃん?そんな呼び方だっけ。まあいいや。今からクエストに行こうか迷っててさ。あ、そうだ!リツ、クエストとか一緒にどうだ」
「ごめんね〜。私魔法はあんまり得意じゃないからクエストには行けないだよ〜」
そういえばリツが魔法で戦う姿が想像できないな。
まあ人によっては得意不得意があるしリツにはお店があるからクエストに無理して行かなくてもいいのか。
「そうか……分かった。無理言って悪かったな」
「そんなこと無いよ〜。誘ってくれてありがとね」
ああやっぱり、リツの声は何か癒やされるな。
「それじゃあ私もう行かなきゃいけないから」
「これから何か用事があるのか」
「そうなんだよ〜。これから新しい機械を作ろうと思ってねぇ〜、部品を買った帰りなんだよ〜」
そう言ってリツは重そうな荷物を両手で上に持ち上げた。
「だからそんな重たそうな荷物を持ってたのか。俺も持つの手伝うよ」
俺はリツが持ってる袋で1番重たそうな物を持った。
「ありがと〜!ぜっちゃんはやさしいねえ〜」
あまり優しいとか言われ慣れてないから何か体がムズムズするな。
―――――――――――――――
魔道具店 玄関前
「ふ〜疲れたあー!」
「ご苦労さま。荷物はそこに置いといて中に入っちゃって〜何か飲み物出すよ〜」
「ありがとリツ。えっとここらへんでいいか」
俺は荷物を置いて店の中を見渡した。
ここに来たのは2回目位だがあまり品揃えとかは変わってないようだ。
「何か買いたいが今金無いしな。できれば色々買っておきたいんだけどな」
まっ今は無駄使い出来ないし、ていうか一文無しだし店来ても意味ないんだよな。
しばらくしてリツが飲み物を持って奥から出てきた。
奥は自分の家なので飲み物とかはそこから持ってくるのだろう。
服が外で着てたものではなくお店の服に変わっていた。
「はい、お水だよ〜」
「ありがとう。この店には人は来るのか」
「あんまり来ないかもね〜。そのせいで今赤字でピンチだよ〜」
やっぱり人はあんまり来てないのか。
リツが作る機械はどれもすごいのにあまり知られてないせいで人が来ないのだろう。
「リツはこの店の宣伝とかしてないのか」
「そういうのはしてないかも〜」
やっぱりか、そりゃ人が来ないわけだ。
ただでさえあまり見つけにくい場所にあるのに宣伝して無いんだったら人が来るわけがない。
「リツはポスターとかチラシとかで宣伝しないのか?何だったら俺手伝うけど」
「別に大丈夫だよ〜。あまり忙し過ぎるのも疲れるしね〜」
「そうなのかならいいんだけど」
「……………………………」
「……………………………」
…………やばい気まずいな。
話す事がなくなった。
元々人と話した事が無いからこんな時何話していいか分かんねえ。
ていうか今まで疑問に思ってきた事を質問してるだけで何とか話せたけど、この世界に来てかなり経つから、もう疑問に思う事がほとんどなくなってしまった。
俺はとりあえず何かしないといけないと思い、目の前にある水を飲んだ。
「そういえばミッちゃんは?一緒じゃないの」
「がふっ!?ゲボ!ゲホ!」
「だっ大丈夫!?」
「だっ大丈夫大丈夫」
急に声かけられたからビックリしてむせちゃったよ。
「それでミッちゃんは今何処にいるの?」
「何だ聞いてないのか。今ミノルは5億の借金を返す為にクエストをしてるんだよ」
「え!?そうなの〜!」
この反応、ホントに知らされてなかったんだな。
リツには話してると思ったんだけど、やっぱり借金の事は人には話したくないのか。
「それってぜっちゃんも借金してるの?」
「まあそうだけど。だから俺もクエストして金を早く返したいんだけどひとりだと出来るクエストが、限られてくるからどうしようと思ってよ」
「ミッちゃんのバカ。またひとりで……」
「ん?今なんか言ったか」
「な、何でもないよ〜。それよりぜっちゃんはクエストどうするの〜」
そう言いながらリツは水を一口飲んだ。
さっきクエストの事について話したんだけど聞いてなかったのかな。
「クエストは誰かと一緒にやりたいなって思ってるんだよ。でも今ミノルとはちょっと色々あって会えないし」
「何?ぜっちゃんもしかしてミッちゃんに何かしたのかな〜」
リツがこちらを怪しむ視線で近付いてきた。
顔が近いせいで息がかかってくすぐったい。
「いや別に話す事でもないし」
「あ!今目反らしたでしょ〜。隠してる事をちゃんと言わない子はこうだ〜」
そう言って怪しげな動きをしている手を近付けてきた。
もしかしてくすぐるきか!
俺は逃れる為に逃げようとしたがすぐに捕まってしまった。
「こちょこちょこちょ〜」
「はは!ちょ、リツ!そこは、ダメ!」
「ほらほらちゃんと教えないとやめないぞ〜」
「わ、分かった!話す!話すかにゃ!やめて!」
「じゃあやめるよ〜」
そう言ってリツはくすぐるのをやめて満足げな笑顔を見せた。
こいつミノルの事となると積極的だな。
「えっと実は借金の事でミノルを怒らせちゃって借金なんてすぐ返せるよとか言ったら、私の苦労も知らないくせにとか言われてそのまま帰っちゃったんだ」
「ん〜それはしょうがないかもね〜」
リツは顎に手をあて考え事をしてるようなポーズをとっている。
「リツはミノルが怒った理由を知ってるのか?」
「ん〜それはどうだろうね〜」
「何で濁すんだよ」
「ぜっちゃんもいつか分かるよ〜」
「いつかって……教えてくれてもいいだろ」
「こういうのは自分で考えなきゃ駄目だよ〜」
「そういうもんなのかね」
まあリツが分かるって事は何かしら理由があるって事だしちょっと安心したかも。
「そういえば新しいモンスターが出たって今噂になってるよ〜」
「新しいモンスター?それって黒いスライムか」
「どんなモンスターか分からないけど、新種のモンスター見つけたら報酬金たくさんもらえると思うよ〜。クエストで募集してるからぜっちゃんもやってみたらどうかな〜?」
新種のモンスターか。
まだ黒いスライムの新種登録がされて無いしまた新しく見つけたら2匹見つけたってことで更に報酬が上がったりするのかな。
「ありがとうリツ。俺そのクエストやってみるよ」
「それじゃあこのポーション持ってってよ〜」
「これは?」
「回復ポーションだよ〜。飲めばたちまち元気100倍だよ〜」
「ありがとう。それじゃあ行ってくるよ」
残った水を全部飲んで席を立った。
俺は外に出ようと玄関のドアに手をかけようとした時リツに呼び止められた。
「ぜっちゃん」
「何だ?」
「……ミッちゃんをよろしくね」
その表情は少し悲しそうで俺は一瞬返事に困った。
「……ああ。分かった」
そう言って俺は玄関を出た。




