その七 トラウマ
「いや〜やっぱり我が家が一番だよな」
そう言いながら俺はダンボールの上に座っていた。
路地裏の奥の奥の行き止まりのこの場所こそが、俺の家でもあるダンボールが置いてある場所だ。
その隣が確かにヒゲの生えたおっさんがいたはずだけど今はケインが座っている。
相変わらずケインのネコ耳はピクリとも動かない。
「帰って来ないんじゃなかったのか」
「だから言っただろ借金作っちゃってもう一文無しだからここに来るしかなかったんだよ」
「だろうな、それでどうするんだ。これから」
「これからか……」
本当にどうしよう。
やるとしたらクエストが1番だろう。
だけど今は気軽にクエストをしたいとは思わない。
モンスターと戦う恐怖を味わってしまった以上すぐには復帰できないだろう。
「どうした?気分でも悪いのか、顔色が悪いぞ」
「え?マジ」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。
「話してみろ。少しは助けられるかも知れないぞ」
「ケイン……ありがとう」
そうだよなケインは大人だし他の人よりも参考になるかも知れない。
「実はゴールドフィッシュの討伐の時にモンスターに襲われてさ、今までは何とかミノルとかに助けてもらって乗り越えてたけどいざ1人で戦うって事になったら怖くなったんだよ。誰も助けてくれ無くて、でも倒さなきゃミノルが殺されるかもしれない場面で、体が動かなかったんだ。俺臆病なのかな?それともこれが普通なのか」
「間違いなく臆病者だな」
そう言って一切の迷いなくケインは言い放った。
そんなスパッと言われると悩んでたのが恥ずかしくなってきたな。
「でもやっぱり怖いもんは怖いだろ。ケインはそんな経験無いのかよ」
「まず魔法使いになるんだったらモンスターと1対1で戦う事ぐらい覚悟しておくのが普通だ。そんな覚悟も無しに魔法使いになるなんて命知らずかバカのどちらかだな」
「そこまでか!?」
「はぁ、まさかそんな覚悟もせず魔法使いになってたなんてな」
「しょうがないだろ、そんなの知らなかったんだから」
するとケインがポケットから細い棒の様な物を取り出して口に加えた。
そしてその加えた棒にライターよりも少し大きな物で火を付けた。
それは日本でよく見るタバコその物だった。
「なあケインそれって……」
「ああこれか?これは知り合いに貰ったんだよ。考え事をする時とかよく吸うんだよ」
「そっそうなんだ……」
ちょっと形は違うが完璧にタバコだよな。
もしかしてこの世界にもタバコがあるのか。
それか完全に俺の予想だが俺以外にもこの世界に来た人がいる?
「おい、何ぼーっとしてる。俺の話を聞いてたか」
「え?あ、ごめん、考え事してた」
「真面目に考えないならやめるぞ」
そう言ってその場を離れようとするケインを俺は止める。
「分かった分かったちゃんと聞くって」
「それじゃあもう1回話すぞ。お前がクエストをする理由は借金を返すのが1番の理由だろ」
「そうだな。現状はそれが1番だ」
「だとしたらバイトって手もあるぞ。金を払う目的だけなら自分で店を作るって選択肢もある。それでも借金を返すほどの金を稼ぐのは難しいと思うけどな」
「てことはやっぱりクエストしかないってことだよな」
「そういう事になるな。だったら簡単なクエストをコツコツやるしかないだろ」
「でもモンスターが出るだろ。ミノルとも今は一緒に出来ないしそこが不安なんだよな」
「だったらあとはカジノとかで一発当てるとかだな」
「カジノ?それって運で決めるやつ」
「ああそうだ。最近できたらしいぞ」
まじか、なんかだんだん俺が日本で知ってる物が出てき始めてるな。
まあたまたまだと思うけど。
「だがそれはやめたほうがいいだろう。そこまでの借金を抱えてやるのは危険過ぎだからな」
「だよなあ〜、あんまり賭けするのも危険だよな。やっぱりクエストするしかないのか」
「そんなに悩む事じゃない。死にそうになる経験なんて何度でもクエストやってれば経験するさ」
「俺はあんまりしたくないんだけどな」
「ちょっとずつ慣れればいい。少しづつやってれば自然と慣れてくる。大丈夫だ。お前には魔法があるじゃないか。せっかく魔法を持ってるのにそれを使わないのは持ったいない。そうだろ」
「確かにそりゃそうだ」
「ま、色々言ったが結局は自分の人生だ。何を選択するかは…」
ケインは自分の指を俺の胸に突きつけた。
「自分自身だ。自分で選んだ道こそ正解だ。たくさん悩めじゃあな」
そう言って加えてるタバコのような物の火を消してゴミ箱に捨て満足げに帰って行った。
決めるのは自分自身、確かにそうだでも俺は何故かその言葉が心に響かなかった。
自分でも分からなかったでも何となく理由は分かった。
それよりも気になるものができてしまった。
それは……
「ケインって人間なのか?」




