その十二 失くしたもの
「これより、裁断を終了とする」
その言葉で魔法陣が消えた。
そして、そこにはデビが着けていた黒いバラの髪飾りだけが残されていた。
「デビちゃん………そんな……嘘でしょ」
「…………っ!」
ミノルは溢れる涙を手で抑え、リドルは悔しそうに拳を強く握る。
俺はゆっくりとデビが居たはずの場所に歩いていく。
おぼつかない足取りで叫びたくなる気持ちを抑えながら、進む。
そして、ゆっくりとしゃがんで髪飾りを手に取る。
「何で、出来るんだよ」
「何だと?」
「何で、自分の娘を裁けるんだよ!王とかエンマとか知らないけどよ、俺はお前を絶対に許さ――――ぐえっ!?」
その瞬間、エンマは俺の首を掴み締め付ける。
くっ!苦しいっ!!
「許さないのはこちらの台詞だ!この場で主の首をへし折っても良いのだぞ!」
その時のエンマの目は鋭く明確な殺意が籠められていた。
そして、その瞳からは大粒の涙が流れていた。
「主を殺したいほど憎い!それと同時に主はデビにとって大切な存在!こんなことになるのなら、主と出会わなければ、いや!下界になど行かせなければよかった!」
「うっうぐ…………」
俺はバカだった。
苦しくないはずがない。
それなのに俺は自分だけが苦しいと思って、考えもなしに最低なことを言ってしまった。
誰よりもデビを大切に思って、誰よりも苦しいのはエンマ様のはずなのに、何にも分かってなかった。
「ごめんなさい………ごめんなさい……」
自分の無力さと責任を感じながら俺は何度も謝った。
「くっ!!」
「っ!?」
エンマはそんな俺を見て、投げ飛ばした。
「エンマ様、デビちゃんはもう死んでしまったんですか?助ける方法はないんですか」
「僕達に出来る事があるなら何でもやります」
「エンマ様、俺は後悔なんかしたくない。デビと出会ってなかったらこんなに大切な人達に出会えなかったかもしれない。だから、最後まで一緒に居たいんだ」
「…………本気で罪を償う覚悟があるのか?」
俺達はゆっくりと頷いた。
「1つだけ方法がある。だがこれは命を懸けるもの、主らが死ぬ可能性が極めて高い。そして、その死はあらゆる救済が起きない完全になる死だ。生き返る事も輪廻転生する事もできない、そうなる覚悟が出来ているのか」
「デビを助けられるなら命だって懸けられる」
「私達はそれくらいの覚悟とうに出来てるわ」
「デビさんを助けられるなら何処にだって行きますよ」
「なら、主らの罪を償ってこい!」
その瞬間、地獄の番人が俺達の心臓を抜き取った。
突然の出来事で状況を理解できなかった。
殺………された?
目の前には心臓を手に取っている地獄の番人が居た。
「な、何で……何で殺したんだよ……」
「落ち着け、おめぇらは死んじゃいねぇよ」
「どう言うことですか。何故、突然こんなことを」
「お主らの心臓は人質のようなものだ」
「人質ってどう言うこと」
「言っただろう。主らは命を懸けると、今から主らには地獄よりも地獄の場所に行ってもらう。そこにデビは居る。デビを見つけて連れ戻してこい!」
「それがデビを助けられる方法ってことか?」
にしても、変な感覚だ。
心臓が抜かれているのに鼓動を感じるなんて。
「それはヤグサから説明しよう。心臓は無いようであるんだ。特殊な力で下界の者の心臓を抜き取ったと言うことだ。だから、心臓を握られると締め付けられるような痛みを感じる。こんな風になっ!」
その瞬間、俺の心臓を強く握った。
「ぐっ!あああっ!!」
心臓が痛い!まじかこれ!
そして、ヤグサゆっくりと力を抜く。
それに合わせるように痛みが引いていく。
「はあ……はあ……」
「こういうことだ!分かったか」
「分かったかじゃねぇよ!もうちょっと手加減しろよ!」
「言っておくが、この後これよりも辛い事がお前らには待っているんだぞ!これくらいでグダグダ言うな!」
何で俺が怒られなきゃいけないんだ。
にしても、そんなことも出来るなんて悪魔は本当に何でも出来るな。
「これから主らは最果ての入り口へと向かう。中に入った瞬間、救済の儀式を開始する!これより24時間以内に救出出来なかった場合、この心臓を握りつぶす!」
そう言って、脅すように俺達の心臓を前に見せつける。
「24時間以内と言いますが、中に入って時間の確認は出来るんですか?」
「出来るぜ。これから入る所は空が七色に光りやがるんだ。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順番にだ。約3.4時間ずつで色が変わんだよ。それを見て時間を確認しろ」
「途中で入っても色の順番は変わらないのか?」
「変わんねぇよ。そういうのはこっちでちゃんとやってるから心配すんなよ」
虹色みたいな色の配列だな。
空の色が変化するなんてオーロラみたいだ。
こんな不気味な世界でもそんな幻想的な光景があるんだな。
「もう、行く覚悟は出来ているか?」
「「「もちろんです!!!」」」
俺達は覚悟を決め手その入り口へ向かう。
「主らが死ぬの生きるのもどうでもよい。ただけじめだけは付けてこい」
つまり、絶対に助けろってことか。
「分かりました。必ず連れて帰ります!」
そのために俺達は呼ばれたんだから。
「行くぞ!!」
「はい!」
「分かってるわ!」
心臓を人質にされながら俺達は最果ての入り口を入っていった。
デビ、絶対に助けてやるからな!
お前を一人にはさせないぞ。
―――――――――――――――――――
かつ達が居なくなった後、バランドが不満げに息をつく。
「俺は納得できませんよ。エンマ様」
「バランド、すまないな、妾の我儘を受け入れてくれて」
「それは構いませんけど、わざわざ下界の者を呼び必要は無かったんじゃないですか。救済の儀式をやらせてむざむざと殺させるつもりですか?こんなこと言うのも何ですけど、ケルトの言葉も一理ありますよ」
エンマは先程かつ達が居た場所をじっと見つめる。
「………妾はただ何も知らずに奴らが生きていくのが耐えられなかっただけだ。ここまで関わりをもったと言うのなら、それなりの罪を償わせなきゃならない」
「それが死と言うことですか」
「罪の償い方は下界の者が決めることだ」
「まさか、生還すると思ってるんですか?」
「言っただろう。下界の者が決めることだ」
そう言って水晶玉を取り出す。
すると、それから光が漏れだし空に映像が映り出される。
「奴がどこまでの男か、見極めさせてもらう」




