その十一 最後の言葉
地獄なんてそうそう来れる所じゃない。
怖さもあるがそれと同じくらい好奇心がわく。
「にしても、にゃんこ島よりも栄えてるんじゃないか?」
建物の材質はよく分からない。
日本にあった建物の素材じゃなさそうだし、ていうか星形の建物や屋根が下になっている建物とか、普通じゃない建物ばかりだ。
「やっぱり、そもそもが違うのかな?」
少し中を見てみたいな。
そう思ってバレないようにフードを深く被って窓から中を覗き見る。
すると、中で多くの悪魔が何かを見て盛り上がっている。
「何だあれ?」
俺は更に目を凝らすとようやく中で何をやっているのか分かった。
中では2匹の魔物が殺しあっていた。
それを見て悪魔達は盛り上がっていたのだ。
「なるほどね。野蛮なゲームをしてるな。ん?何だあれ?」
悪魔達は手にチケットの様な物を受付らしき人に渡していた。
チケットを渡すと観賞出来るって事か?
「チケットがお金の代わりになってるのか?他のも見てみるか」
「おい、そこで何をしてる」
窓から目線を反らした瞬間、後ろから声をかけられた。
俺は思わず体がビクンとなったが、フードを下げずに声の方を向く。
紫色の角を生やした悪魔と緑色の爪の首飾りをした悪魔が居た。
「お前魔券を持ってないのか?持ってない者の観覧は禁止されている。今すぐここから立ち去れ」
どうやら不正に見ている人を取り締まっているらしい。
バレては無さそうだし、ここはさっさと家に戻ろう。
俺は下を向きながら無言で立ち去ろうとした
「おい、お前ちょっと待て」
その瞬間、緑の悪魔に肩を掴まれる。
「お前何者だ?顔を見せろ」
怪しまれてる、完璧に。
まずい、ここでフードを取ったら人間だとバレちまう。
「どうしたんだ?そんな険しい顔して。こいつと知り合いなのか?」
「違う。こいつのマナが明らかに少ない。これ程少ない者は例え疲弊していたとしてもあり得ない。怪しい、とても怪しいな」
とても怪しまれちゃってるな。
ていうか、こいつらマナを感知出来るのかよ。
いや、悪魔だから当たり前なのか?
まずい、これバレたら即効殺されるとかないよな。
「確かに、言われてみるとマナが少ないな。ちょっと顔を見せてくれないかな?」
悪魔の微笑み程恐ろしい物はない!
ここは、言うよりも黙って逃げた方が吉!
俺は全力でその場から逃げ出した。
「あっ!ちょっと待て!!」
待つわけないだろ!
俺はすぐにミノル達が居る場所に走った。
「おい!そいつを止めてくれ!」
目の前には数人の悪魔が待ち構えていた。
くそっ!これじゃあ中に入れない!
俺は方向変えて別の方から逃げる。
「おい!そっちに行ったぞ!」
至るところに悪魔が居て逃げ場がない。
気がつくと目の前が壁で塞がれていた。
「しまった!くっ!」
後ろを向くと既に悪魔が待ち構えていた。
逃げ道を塞がれた。
いや、もしかして誘い込まれたのか。
「へっへっへ、逃げられないぜ」
「顔を見せろ!」
「っ!」
見せるわけには行かない。
人間なんて事がバレたら何されるか分からない。
「見せろって言ってんだろ!」
「っ!?」
その瞬間、1人の悪魔が羽を羽ばたかせると物凄い風圧が俺を襲う。
その時、フードが風に飛ばされ素顔が露になってしまった。
「しまっ!」
「まさかと思っていたが、やはり人間だったのか!」
「生きてるぜ、生きてるぜ!」
「俺初めて見るよ生きた人間」
やばいやばいやばい、完全に目を付けられた。
数人の悪魔が物珍しそうにこちらを見る。
まるで見世物にされているようだ。
「なあ、こいつ俺にくれないか?」
「バカ言ってんじゃねぇよ!こいつは俺のもんだ!」
「俺が最初に目を付けたんだ。俺が貰う」
な、何か喧嘩し始めたぞ?
これに乗じて上手く逃げられるかもしれない。
「それじゃあ、早い者勝ちだな」
先程まで喧嘩をしていたのに、次の瞬間目をギラつかせて一斉にこちらを見てくる。
これは、逃げられないかもしれない。
そう悟った瞬間、物凄い風が吹いた。
「っ!?」
思わず目をつむるが、目を開けた次の瞬間信じられない光景が広がっていた。
「なっ!?倒されてる?」
先程まで俺を巡って争奪戦を繰り広げていた悪魔達が、全員地面に倒れていた。
そして、さっきまで居なかった背の小さい悪魔がそこには居た。
「お、お前は?」
「絶対かつ、お前を迎えに来た。着いてこい」
そう言うと、突然歩き出す。
「え?ちょっと待てよ!」
俺は急いでその悪魔の後ろを着いていく。
人間の様な肌色をしているが悪魔の様な角や羽、尻尾もあるので正真正銘悪魔なのだろう。
「えっと、どうしてここが分かったんだ?」
「カスいマナを感知したから」
「カスッ!?」
こいつ………悪魔ってのは口が悪いのか?
「何で助けてくれたんだよ」
「客宿に居なかったから、探しに来た。弱いくせにでしゃばるからそう言う目に合うんだよ」
こいつ、まじで口悪すぎだろ。
まあ、悪魔の方が圧倒的に強いから下に見てるのは何となく分かるが、ここまで見下して来るなんてな。
「客宿に行ったってことはミノル達はもうそこに居ないのか?」
「ああ………」
素っ気ない返事をする悪魔にめげずに質問を繰り返す。
「この地獄ってさ、天気は変わらないの?」
「ああ……」
「それじゃあ、時間の感覚が分からなくないか?もしかしてそれすら存在しないってことか?」
「ああ………」
物凄い話しかけてくるなオーラがするな。
まあ、何となく答えてくれるからまだましか。
にしても時間が分からないとなるとこの腕時計を頼りにするしかないのか?
「てっあああっ!!」
「うるさい、黙れ」
「ご、ごめん」
俺の腕時計が止まってる!
いや、正確には制限時間なのだけれど。
ていうか、そう言うことじゃない!
何故か407日16時11分32秒で止まっていた。
何で止まってるんだ?
もしかして壊れたのか!?
帰ったら占いの館に行って直して貰おう。
「着いたぞ」
いつの間にか目的地に着いたのか。
すると、目の前には奇妙な光景が広がっていた。
広場のような広い場所に即席で作らされた様な、裁判風の物が建てられていた。
机と椅子が脇に並べられてそこに数人の悪魔が座っている。
真っ正面には一際デカイ悪魔が同じくらいの大きさの椅子に座っていて、目の前の机にはドクロを施された木槌の様なものが置いてある。
そして、その中央にデビが立っていた。
「デビ!!」
俺は急いでデビの元に駆けつけたが、何かに弾かれた。
「ぐっ!?何だ!」
「結界だ。お主のような罪人を救おうとする者を近づかせない為にな」
そう言って鋭い眼光で睨み付けてくる悪魔は他の悪魔と違い特別な雰囲気を纏っていた。
「落ち着けザンガイ。彼も居なくなっていた仲間を見つけ興奮しているのだろう。察してやれ」
そう言ってなだめてくれる悪魔は口をスカーフで隠し、目に傷が付いていた。
「よく連れてきてくれた、ナギト。席に着いててくれ」
「はっ」
軽く頭を下げると俺をここまで連れてきてくれた悪魔は空いていた席に座る。
これは一体どういうことだ。
「主が絶対かつか?」
「は、はい……」
あの正面にいる巨大な悪魔、何て威圧感だ。
喋っているだけなのに、体の震えが止まらない。
「なら、主も席に着け。でなければ始められない」
「分かりました」
巨大な悪魔の視線の先にリドルとミノルが座っていた。
俺達には机はなく椅子だけか。
脇に座っている悪魔達の横の椅子に俺は座った。
俺が座るのを確認したのか、ドクロが施された木槌を手に持ちそれを叩く。
その瞬間、空気が揺れるほどの振動が伝わってきた。
どんだけ馬鹿力なんだよ。
「それでは、これより公開裁断を始める。罪人はデビ·ブロッサムだ」
「っ!?デビが罪人!?」
「私も驚いたわ。まさか、デビちゃんが裁かれるなんて」
よく見ると、デビの手には不気味な手錠で固定されている。
それに足元にも魔法陣らしきものが描かれている。
「下界の者は静かにしていろ」
それは俺達の事を言っていた。
何故ならこちらを見ながら言っていたからだ。
すぐに口を紡ぎ様子を見守る。
「この者の罪を改めてヤグサ、報告しろ」
「了解しましたエンマ様」
「っ!?エンマ様!?え?あいつエンマなの!」
「静かにしていろと言っただろ!消されたいか!」
「す、すみません!」
こわっ!おしっこチビるかと思った。
にしても、あいつは地獄の王エンマだったのか。
それなら、この身震いするような圧を感じるのも納得だ。
「地獄の番人の1人ヤグサから報告させてもらいます。かの者は下界へ武者修行のために降り立ちました。そこで多くの経験を経てこちらへと帰還して参りました。だがしかし、こちらで確認された下界についての資料によりますと、罪人のデビは下界の者と禁断の愛に目覚めたと報告が上がっております!」
「「「き、禁断の愛!!!?」」」
デビが禁断の愛に目覚めただって!?
それってどう言うことだ!
「更に!下界での悪魔化!だが、こちらは無許可で降り立ったラルダ·エグゾディーブが強引に行ったと判明したので、罪には問われませんでした。しかし!下界の者に行為を寄せるのは地獄では禁止とされています!判明され次第即処刑!こちらからは以上です」
「報告ありがとう。罪人デビよ、主には禁断の愛をした罪がかせられている。それについて下界の者からいくつか聞かせてもらいたい」
その時、エンマがこちらを鋭く睨み付ける。
もしかして、立たなきゃ駄目なのか?
俺達は恐る恐る席を立つ。
「主らがこの者の仲間か?」
皆の視線が俺達に集まる。
すると、ミノルが肘で俺の体をつつく。
俺が喋れってことかよ。
だが、この状況で渋ってても仕方ない。
「はい、俺達がデビの仲間です」
「そうか。して、誰が絶対かつだ」
名指しかよ!
いや、もう言うしかないんだけど。
「えっと、俺です」
その瞬間、エンマ様の鋭い視線が更に強くなる。
な、何か確実に殺意が込められてるんだけど。
「主が絶対かつか。それでは主に聞く、主がデビの禁断の愛の相手か」
「……………え?」
何をおっしゃってるんだこの方は?
「早く答えよ!!」
「ええっと、俺はただの仲間です!」
「ただの仲間だと!?本当の事を言え!」
そう言って机を思いっきり叩き割った。
怖すぎるんですけど!!
何でこんなに怒ってるんだよ!
「まだ、こんな無駄なままごとをしていたのですか?」
不気味な雰囲気を纏わせた悪魔が突然乱入してきた。
何だ、また新しい悪魔か?
「ケルト……何でおめぇが来てんだ?来なくていいって言ったろ!」
真っ赤に染まった悪魔が突然やって来た悪魔を怒鳴り付けている。
何か喧嘩が始まったぞ、もう訳が分からない。
「落ち着け、アイガ。奴が言うことを聞かないくらい分かっていただろ」
「さすが、バランドさんですね。私の事をよく分かってらっしゃる。そんなことよりも!何故!この茶番が繰り広げられているのか!私は疑問に思っているのですよ!!」
突然奇声を上げながらこの裁判に文句を言っている。
「イカれ野郎は黙ってろ」
毒舌悪魔、こんな時でも毒を吐くのか。
すると、ケルトという悪魔が首を180度曲げて毒舌悪魔のナギトの方を見る。
気持ち悪!
「イカれ野郎?それはあなたの事では無いのでしょうか?地獄の王エンマ様?」
今度はエンマ様の方に首を動かし、舌を舐め回す。
こいつ、何なんだ一体。
「何が言いたい」
「地獄の番人は既にデビ·ブロッサムの死刑を決めていた。なのに!あなたがそれを止めた………もしかして、まだ諦めていないのですか?それは父親故にですか!!」
「え!?父親!」
「デビさんのお父さんと言うことですか!」
「そう言うことになるわね」
デビのお父さんがエンマ様、確かに強さは規格外だったけど、悪魔だけという理由じゃなかったのか。
「ていうか、ちょっと待てよ。死刑が決まってるってどう言うことだよ!まだ判決は出てないんじゃないのか!?」
そう、俺はてっきりこれから決めるものだと思っていた。
なのに既に結果は決まっていたなんて、じゃあ何で俺達は呼び出されたんだ。
「あれれれれ?もしかして聞かされていなかったんですか?案内人は意地悪ですねぇ」
案内人?ラルダのことか!
そういえばあいつ何処に行きやがったんだ。
姿が見えないぞ。
「なるほど、妙に丁寧に道案内してくれると思ったらそう言うことですか。目の前でデビさんが処刑されるのを見せるためですか」
「やっぱりあいつ性根腐ってるわね」
「とにかく!結果の変わらない裁断ほど要らないものなどありません!罪人は即断罪!即処刑!足決行です!死は救済ですから」
こいつ、デビの処刑を強行するつもりか。
地獄の番人って人達も元々は処刑に賛同していたみたいだし、これはまずい。
「それを決めるのはエンマ様です!俺達が決めていいことではない!」
「ヤグサ落ち着け。奴は場をかき乱したいだけど。今回の判決もエンマ様に権利がある。ケルト、邪魔したいだけなら出ていけ。お前の出る幕じゃない」
「バランドさん、リーダーは大変ですねぇ。無能な王のまとめ役をしなければいけないんですから」
「テメェケルトふざけんじゃねえぞ!ぶっ殺されてぇのか!」
先程まで冷静にと諭していたバランドが堪らず声を荒げる。
バランドさんそれはブーメランですよ
「おいおい、リーダーがぶちギレてどうすんだよ」
「落ち着け!バランド!ケルト!厳粛なる場だぞ!無駄口を叩くな」
エンマ様の渇により、その場が静寂に包まれる。
さすがエンマ様だな、あんなに騒いでいた悪魔達を騙されるなんて。
「ケルト、これは罪人の罪を改めて整理して判決を行う場だ。主の言っている親の感情が入っていると思うか?」
「数字が変わらないのなら、私は構いませんよ」
「数字?どう言うことだ?」
「この裁断では処刑の時のみにしか行われない。つまり、100%有罪になると言うことだ。この結果は覆ることはない」
そう、ザンガイは言い切った。
その時のエンマ様の表情はとても苦しそうだった。
覆らない結果、それはつまりデビの死は決まっていると言うことだ。
「ちょっと待ってください!納得行きません!」
こんなことあって言い訳がない。
デビがそんなすんなりと受け入れるわけがない。
「下界が口出すな。黙ってろ」
「黙らない!俺は納得行きません!説明させてください!」
「私も説明を求めます」
「その為に僕達が呼ばれたんじゃないんですか?」
「…………良いだろう。説明してみろ」
「っありがとうございます!」
よし!このチャンスを逃すわけにはいかない。
「言っても無駄だと思いますけどねぇ。どうせ決まっているんですから」
くそっ!あいつニヤニヤ笑いやがって。
絶対助けてやるからなデビ!
「デビとの出会いは果物屋でした。最初は生意気な子供と思ってたけど、でも相談に乗ってくれた時があってその時は親身になって聞いてくれていい奴なんだなと、認識を改めました。その後パーティーメンバーを募集している時にデビが現れました。俺は審査はしていないんですが、仲間のミノルが合格にして晴れてパーティーメンバーになりました」
「デビちゃんはすごい熱意があって、それにこのパーティーに入りたいって思いがひしひしと伝わってきて、その熱量を買って仲間にしました」
「僕も同時期にパーティーメンバーになりましたけど、デビさんは最初は自分こそが1番と思っており、独断で動くことが多かったです。仲間の目線から見るとワガママな子供と言う印象が強かったです」
俺達はデビとのこれまでの経緯を事細かに説明した。
きちんと説明しないと分かってもらえないと思ったからだ。
「冒険をしていく中で、デビも自らの思いを伝えてくれました。何故偉そうにしていたのか、自分が俺達に会う前に合った出来事等も俺に伝えてくれました。それからデビは自分勝手な行動をせずに仲間の為に行動してくれるようになりました。デビは俺達に無くてはならない大切な仲間です。禁断の愛とは無関係です!」
先進誠意の言葉を伝える。
これで、理解してくれるだろうか。
「終わりましたか。面白味のない思い出話は」
「なっ!?」
「あなた方がいくら言おうと決定は揺るがない!有言実行!即断罪!罪深き罪人を生かしておく理由などないないないないなーい!!」
そう言って地面を何度も殴る。
「イカれてる」
「おい、あいつどうにかしろよ。おらぁ関わりたくねぇぞ!」
「ケルト、お主が口を挟むな。決定権はエンマ様にある。お主は自分の腕でも喰ってろ」
「ザンガイさん、あなたの悪臭にも似た香水を毎度毎度顔に付けるのは勘弁してもらいたいですね。鼻が品曲がりそうです!ああー!臭い臭い!」
鼻を思いっきりつまむとそのままねじった瞬間、鼻がもぎ取れる。
「あれれれ?取れちゃいました。あなたのせいですよザンガイさん」
「黙れ害虫が。お主と言葉を交わすだけで頭が可笑しくなりそうだ」
すると、ケルトは取れた鼻をボリボリと食べ始めた。
そして、あっという間に鼻が再生した。
やばい、気持ち悪すぎる。
「主ら静かにしろと言っているだろ!!消されたいのか!!」
その怒号と共に再び静まり返った。
何かリーダーの大変さが分かった気がする。
「下界の者の話を聞く限りデビは禁断の愛に目覚めては居ないと言う事が分かった」
「じゃあっ!」
「だがしかし!それは口頭のみの証言にすぎない。虚偽を述べている可能性もある」
ちっ!そう来るかよ。
確かにその可能性もあるってことになっちまうよな。
「よって、この魔物を使い虚偽かどうかを確かめる!」
そう言うと猫の様な魔物が現れた。
「あれで分かるのかしら?」
「ただの魔物にしか見えませんね」
尻尾は2つあり、真っ黒い毛色をしている。
それ以外は普通の猫と変わらない。
「この猫又に喋りかけると、嘘を付いていた時は鳴き、本当の事を言えばすり寄ってくる。これで、主の言葉が本当かどうかを調べる」
何それ可愛い!
てっこれでデビの運命が決まるのか。
デビは全く喋らないし、顔も合わせてくれないし、恐らく諦めてしまってるのかもしれない。
でも、俺は絶対諦めない。
「それでは、述べよ。真実をな」
「俺は………俺とデビには禁断の愛何て存在しない!!」
すると、猫又はゆっくりと俺の元に近づいていき、そして足にすり寄ってきた。
「っ!?これって」
「真実と言うことか………」
その瞬間、周りの悪魔達がざわめき出す。
まさか本当だと思ってなかったのだろう、でもこれによって結果は変わる。
デビは無実だ!
「茶番はそこまでですよ」
「ウニャッ!?」
その瞬間、ケルトが腕を伸ばして猫又を切り刻んだ。
すると、猫又が煙のように消えていた。
「これはもしかして!」
「幻影煙………猫又に化かしてたみたいですね。そんなに子供を助けたいんですか!お父さん!!」
「………………」
「エンマ様………」
「バランド分かってる。厳正なる処罰を下す」
猫又は偽物だった!?
てことは何も変わらないってことかよ!
結果は覆せなかったって事か!
「デビ·ブロッサム、お主をこの時を持ってゆ―――――」
「ちょっと待て!」
何が言えるかは分からない。
でも、ここで止めておかないと駄目な気がしたからだ。
「おかしいだろ。何で、何でデビが殺されなきゃいけないんだよ!何も悪いことしてないのに!ただ遊んで冒険して笑って泣いて苦しんでそしてまた笑って、そんな当たり前の日常を過ごしてきただけなのに。それなのに!何でデビが悪人にならなきゃいけないんだよ!!」
「かつ…………」
ただの愚痴だ、文句だ、それでも何か言わなきゃ駄目だと思ったから、だから言った。
「大切な……仲間なんだよ」
俺はそのまま膝から崩れ落ちる。
それをミノルとリドルが支えてくれた。
「話は終わりましたか?」
そう言うとその悪魔はニヤリと笑った。
「当たり前の日常!それこそが彼女の罪なのですよ!恋い焦がれるのは大いに結構!だが、それが誰かなのかなのが問題なのです!死者を操る我々悪魔が!生者である下界ごときに恋をするなど言語道断!悪魔の恥さらしですからぁ!!恥さらしはとっと死ね」
「テメェ!!デビの悪口を言うんじゃねぇ!」
「かつさん!落ち着いてください!死にますよ!」
リドルは飛び出していきそうな俺を押さえる。
「私も良いですか?」
「っ!ミノル……」
「その禁断の愛は下界の資料から発覚したんですよね?それなら、デビちゃん自身の言葉ではないと言うことですよね」
「どう言うことだ?」
「デビちゃんは恋をしているか、本人から直接確認してないんじゃないですか?」
「ミノルっ!」
ナイスフォロー!
これならもしかしたら助かるかもしれない。
「かつ、私もデビちゃんには生きていてほしいから。それで!どうなんですか!」
「確かに本人の言葉では聞いていなかった。否定もしなかっため、そうなのだと思っていた。では、問おう罪人デビよ。主はこの絶対かつに恋をしているのか?発言を許可する」
デビ、してないって言うんだ!
そうでもそうでなくてもその答えしかない。
分かってるだろ、生き残るためだ!
「妾は………妾はお主の事が好きじゃ」
その時、初めてデビが目を合わせてくれた。
「デビ………何で……」
「嘘でもそんなことは言いたくないのじゃ。お主にはそんな気持ちが無いのは分かっておるのじゃ。だからこそこの気持ちだけは嘘をつきたくないのじゃ」
「決まりましたね」
「ああ………これよりデビを有罪とする」
その瞬間、デビの足元にある魔法陣が紫色に光輝く。
そして、魔法陣から不気味な口がデビを飲み込もうとする。
「デビ!!うぐっ!?」
デビの元に近づこうとした瞬間、結界が邪魔をする。
「くそっ!何だこれ!」
「デビちゃん!あなたの気持ちはよく分かるわ!でも、自分の命を大切にして!」
「デビさん………」
不気味な口はどんどんデビを飲み込んでいく。
「そんな悲しそうな顔をしないでほしいのじゃ。妾が好きなのは笑っている時の皆なんじゃから」
「笑えるわけないだろ!お前自分の状況分かってるのか!!」
こんな結界さえなければ今すぐにあいつの手を取って逃げれるのに!
こんなお別れはあんまりだろ!
「かつ、ミノル、リドル……妾はお主らに会えて本当に良かったのじゃ」
「デビーーー!!!」
バクン
デビは食われてしまった。
最後に見たデビの笑顔が未だに頭の中に残り続けていた。




