その九 地獄の1歩
俺達はここ1週間デビを探しに探しまくった。
手掛かりの無い為、とりあえずデビが行きそうな場所と日記に書かれていた親しい仲の人に聞いたりと、色々な方法で探し回った。
だが………結局見つけることは出来なかった。
手がかりすら、掴めなかった。
そして、現在俺達は屋敷でうなだれていた。
「…………………」
重い空気が全体に漂う。
ここまで探しても見つからない無力感、そして疲労も相まって皆意気消沈してしまっている。
ミノルは椅子に座り机をぼーっと眺めていた、リドルも台所で何か作るわけでもなく、ぼーっと立っている。
そして俺はソファーでぼーっとしていた。
皆ボーっとしてしまっている、正直手詰まりだ。
「どうしましょうか」
最初に口を開いたのはリドルだった。
その言葉を聞いて俺達も意識をはっきりとさせる。
「どうにもこうにも。これ以上どうしろって言うんだよ」
地獄に居たとしてもこの島に居たとしても、今の現状なら大して変わらない。
どちらにせよ、見つけることが出来ないからだ。
「そろそろ、覚悟を決めないといけないわね」
ミノルの発言に俺は拳を握りしめる。
覚悟を決める、それは諦めるということだ。
「俺は……まだ諦めない」
「私だってそうよ。でも、今回は気合いでどうにかなる問題じゃないわ。地獄に行く方法はこの島の誰にも分からないんだから」
ミノルは悔しさのあまり唇を噛む。
ミノル自身も諦める気持ちは無いのだろう、だがそれを向ける方向がなければ、その気持ちもいつかは失くなってしまう。
「1週間経ってますからね。デビさんからのアクションが何もない以上、地獄からここに戻ってくると言うことは無いんじゃないでしょうか」
「あっちで何かトラブルがあったかもしれないだろ。そう決めつけるのはまだ早い」
そうだ、諦めるのはまだ早い。
俺達は今まで諦めないことで色んな困難を乗り越えてきた。
だから、今回も乗り越えるはずだ。
そう、思っているのに何故か胸がざわつく。
どうにも不安が消えない。
「クソッ!」
俺は思わず目の前にある机を叩く。
帰ってくると信じたいのに心の奥では諦めている自分に腹が立った。
「自分が情けない。無力な自分は用無しだ。そう思ってるでしょ?」
突如、耳元でそんな声が聞こえてきた。
ぞわりという感覚と共に、反射的にそちらの方を向く。
「っ!?誰だ!!」
俺は耳元で囁いて来た相手にインパクトを撃つ構えをする。
リドルとミノルも魔法陣を展開する。
「ははっ!物騒だねー」
「ラルダ………何でお前がここに居る」
目の前には不気味な笑みを浮かべるラルダがいた。
「何でってもしかして分からない?」
そう言ってバカにしたような笑みを浮かべる。
「もしかしてデビちゃんの事?」
「何だ、分かってるじゃん」
そう言うと勝手に机にある果物を手に取り1つかじる。
「うん、美味いねこれ」
「それ以上勝手な行動をしないでください」
いつになく、リドルが怒りを露にする。
「そんなに怒らなくても、お前達にとって朗報を持ってきたんだからさ」
ラルダは先程かじった果物を丸のみにする。
口元に付いた汁を舌で舐め取る。
「朗報ってなんだよ」
こいつの勝手な行動にはムカつくが今はそれよりも朗報の内容を聞かなければならない。
「デビを取り戻したいか?」
それは俺達が待ちに待った情報だった。
少し動揺しつつも相手にそれがバレないように平然と装う。
「お前がデビの事について何か知ってるのか?」
「当たり前だろ。デビは今地獄に居るんだから」
やっぱり!デビはそこにいた!
となると、こいつは俺達を地獄に連れていこうとしているってことか?
「とりあえずさ、構えるのやめてくれない?俺は別にこの場でやってもいいけどさ」
そう言って好戦的な笑みを浮かべる。
これ以上は危険と判断して、俺達は警戒を解いた。
「それでデビは何で地獄に行ったっきり戻ってこないんだ?そもそも何で地獄に戻った?」
「地獄に戻った理由はお前達が関わっている」
「俺達が?」
「そう、そして地獄には俺が無理矢理行かせた」
「っ!?あんたが無理矢理連れていったの!」
その瞬間、ミノルがラルダに向かって突っ込もうとする。
「ちょっと待てミノル!落ち着けって!」
俺は何とかミノルを押さえつけ、暴走を止める。
昔のようにムカついたら突っ込もうとする性格は変わらないな。
「ミノル、ここは冷静になれ。今殴ったところで何か変わるわけじゃないんだ。すぐ無鉄砲に突っ込むのはお前の悪い癖だぞ」
「わ、分かってるわ。大丈夫もう冷静になったから」
俺はミノルを開放すると、ミノルは少しラルダと距離を取る。
それを見てラルダは愉快そうに笑みを浮かべる。
「相変わらずミノルは好戦的だな。そんな仲間思いのお前らにさらに朗報だ!地獄に連れてってやるよ」
来たっ!やっぱり俺達を地獄に連れていくのが狙いだったのか。
「ずいぶん親切ですね。あなたならそんなことせずに、助けられないのを嘲笑うと思っていましたが」
リドルは今までのラルダの行動を見て疑り深くなっている。
でも、確かにこんなにあっさり俺達に有利な情報を教えるのはおかしい。
「皆怪しいって顔してるね。別に罠とか何もないよ。行きたくなきゃいいけど」
そう言って、呆れた顔をする。
行きたくなきゃいいか、こいつの事だから何かしらはある可能性がある。
でも、ここで行かなかったら今後チャンスは無いと考えた方がいい。
俺が頭を悩ませていると、ミノルが俺の肩に手を置く。
「私は行くわよ。デビちゃんを助けられるなら」
「ミノル…………」
「明らかに罠の可能性もありますが、ここで行かない方がおかしいですよね。あえて、乗ってあげましょう」
「リドル………そうか、そうだよな」
答えは最初から決まっていた。
後は誰が最初に言うかだけだった。
「答えは出たみたいだね」
「ああ、俺達を地獄に連れていってくれ」
「死ぬかもよ?」
「それは大丈夫だ。リドル!」
「はい、用意してありますよ」
台所に行って冷蔵庫の中から一口サイズの輪切りに切られたマネギアルを取り出した。
「持ってきましたよ」
「ありがとな、それじゃあいただきます」
俺達はそれを一口だけ食べた。
だが、特に体に何かしらの変化は見られない。
「これで良いのか?」
「はい、これくらいのサイズだと約10分間マナを吸収できなくなります」
マナを吸引すると言うことを日頃から感じていなかったし、変化を感じられないのは当たり前か。
「何それ?」
ラルダは不思議そうにマネギアルを見つめる。
「これはマネギアルで、食べればマナを受け付けなくなるんだよ。これで地獄のマナも受け付けないから体も爆発する心配もない」
「なるほど、準備してたのか。まあ、それなら話が早いね」
そう言うと、ラルダは空中で指を弾く。
その瞬間、時空が歪みあの時と同じ地獄のゲートが出現した。
「この中が地獄の入り口………」
「それじゃあ、早速行こうか。あの世へ」
俺達は覚悟を決めて、地獄へと足を踏み入れた。




