その六 やばいおじさん
「よし、到着だな!」
「久しぶりの遠出ね。馬車の旅はやっぱり疲れるわ」
ミノルは馬車を降りると両手を広げて体を伸ばす。
「そうですね。でも、ここの空気は本当に美味しいですね」
リドルは馬車に降りると大きく息を吸う。
確かにここの空気は清んでいて気持ちが良い。
ここはウォームウッズと言う自然豊かな町だ。
人工物もほとんどなく、建物も自然で作られていたりする。
自然で取れた食材を使ったりと動物などは狩らずに、人に害をなすモンスターなどを狩っている。
と、観光案内に書かれていた。
「とりあえず、先ずは情報収集しましょうか」
「そうだな。マネギアルの事について色々聞かないといけないし」
「それじゃあ、情報が集まりやすい酒場とかに行きますか?」
「よし、それで行こう!」
俺達は早速情報を集めるために酒場に向かった。
「なるほど、ここがウォームウッズの酒場か……」
ウォームウッズは自然に出来た木の中を改造する町であるため、形が少しいびつだ。
ここら一体は自然に適した環境のため木などが伸び伸びと育ちやすいらしい。
畑を作りたいからわざわざここまで引っ越しする人もいるらしい。
扉を開けると沢山の人で賑わっていた。
やっぱり酒場は何処に行っても賑わっているんだな。
「いらっしゃいませー!お好きな席にどうぞ!」
俺達はカウンターの席に座る。
「いらっしゃいませ。飲み物が決まりましたらお呼びください」
そう言って、紙に書いてあるメニューを渡してくる。
俺達は早速メニューに目を通す。
「へー!色々あるみたいだな」
「飲んだことないお酒があるわね。どれにしようかしら」
「皆さん、お酒飲みに来たんじゃないんですからね。あまり、調査に支障がきたさないようにしてください」
「大丈夫だよ。こんな真っ昼間から酒なんか飲まないからよ。俺はパイナップジュースで」
「そうですよね。僕はオレンジジュースで」
「私はウォームウッズ酒で」
さてと、注文を終えたところで早速情報収集に――――
「て、ちょっと待て!!お前何酒頼んでんだよ!あまりにも普通に頼んでたからスルーしちゃったぞ!」
「え?ちょっとだけでも駄目かな?」
うっ!可愛い!そんな上目使いで見られたら頷いてしまう!
「ま、まあちょっとだけなら………」
「本当!?ありがとね、かつ」
そう言って意気揚々と注文をする。
断れなかった、我ながら好きな相手に対してこれほど弱いとは。
すると、リドルがこっそりとこちらに話しかけてくる。
「良いんですか?」
「まあ、少し位なら構わないだろ。ミノルはそんなに酒に弱いって訳じゃないし」
「それじゃあ、3杯ください!」
「それは駄目だー!!」
ミノルの暴走を何とか止めて、注文を終えると俺達は情報収集に入る。
「店長さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「マネギアルって果物探してるんだけど、何処に行けば取れる知りたいんだけど」
「マネギアルですか。それはやめておいた方が良いですね」
「え?何で?」
店長は木で出来たグラスを拭きながら、語る。
「マネギアルはサル山と言うところしか取れません。しかも、その山は非常に狂暴なカチキザルと言うモンスターが住み着いていて、そのモンスターは縄張り意識が高く、1歩でも縄張りに足を踏入れた者を全員で殺しに来るんです」
「まじで……」
カチキザル、想像以上に恐ろしいモンスターだ。
これは一筋縄じゃいかなそうだな。
「しかも、繁殖能力も高いためいくら強い魔法使いでも数の差でやられてしまうと言う程で、現在立ち入り禁止ですからね」
「そ、そうなんですか……」
こりゃあ、絶望的かもしれないな。
「それじゃあ、何処かのお店で買えたり誰か育てたりしてる人は居ませんか?」
「居ないと思いますよ。マネギアルは栽培するのも難しいですから、それに立ち入り禁止なのでそもそも売ってる方も居ません」
「…………なるほど、ありがとうございました」
俺達は絶望の真実を知り、頼んだ飲み物を飲み終えてそのまま酒場を出た。
念の為他の人にも話を聞いてみたが皆一応に、危険だから近づかない方がいいと忠告された。
「さてと、これからどうするか」
「私達が取りに行ったところで無理な物は無理よね」
「そうですね。思った以上に難易度が高いですね」
「ていうか、不可能だろ!!カチキザルって言うモンスターのせいで取りにすら行けないなんて」
俺達は今後どうするか頭を抱えていると、誰かに呼び止められた。
「そこの少年少女!今、カチキザルと言ったか!!」
声の方を振り向くと、何故かドヤ顔してるおじさんが居た。
「えっと………誰ですか?」
「俺はカチキザルハンターのネゴシだ!よろしくな!」
そんな声量のデカイおじさんは、素早く近づいてくると俺の手を無理矢理掴んで握手をする。
「ああっと………不審者ですか?」
「不審者!?はっはっは!面白い事を言うな少年!名前を聞かせてくれ!!」
そう言って俺の背中をバンバン叩く。
めちゃくちゃ痛いし、めちゃくちゃうざいな。
「俺は絶対かつです………」
「そうか!かつ少年か!君は!」
「僕はリドルです」
「リドル少年か!よろしく!そして君は!」
「私はミノルです…………」
「ミノル少女か!よろしく!自己紹介も終ったところで早速行くぞ!!」
「え?何処へ?ちょっと……何処連れていくんですかー!!」
俺はネゴシさんに引っ張られながら何処かに連れてかれた。
―――――――――――――――
「汚いところだが、ゆっくりくつろいでくれ!」
俺達は何故かネゴシさんの家に招き入れられた。
ネゴシさんの家はかなりボロボロで、何か虫がすごい居そうなジメジメした砂が沢山撒かれている文字通り汚部屋だった。
「本当に汚いところですね」
「はっはっは!!面白い冗談を言うなかつ少年!」
そう言って背中をバンバン叩いてくる。
冗談じゃないんだけどこれ以上言うのは無駄だな。
というか、何でこんなことになってしまったんだ。
今すぐにでも帰るべきなんじゃないか。
「どうした!何で座らないんだ!?」
そう言って座ることを促してくる床の上には、何故か砂が敷き詰められていた。
こんな所座りたくないんだけど。
ミノル達も同じ気持ちなのだろう、座る気配は一切なく棒立ちだ。
「私は立ってる方が好きなので」
「僕も激しく同意見です」
「そうか!諸君らが良いなら構わないぞ!それより、諸君らはカチキザルの事について話していたな!」
「ええまあ、マネギアルっていう果物が欲しくて」
「やはり、俺の見込んだ通りか!それなら俺に任せろ!!俺はカチキザルハンターのネゴシだ!!」
「「「カチキザルハンター?」」」
その言葉に俺達は首をかしげる。
どう考えてもこの人にそんなハンターみたいな称号を貰えると思わないからだ。
見た目で決めるのはあれだがかなり弱そうだ。
「ああ!俺は毎年この時期にカチキザルの住みかに侵入してマネギアルを採取してるんだ!そして今日がその日だ!!」
そう言って拳を高々とあげる。
「え?本当にマネギアルを手に入れられるんですか?」
「任せろ!だが、ただであげるわけにはいかない!!」
「なるほど、つまりマネギアルが欲しければ手伝って欲しいと言う事ですね」
「そういうことだ、リドル少年!早速取りに行くぞ!」
そう言って意気揚々と奥の部屋に行ってしまった。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「何故着いてこないんだ!!」
「着いていった方が良かったんですか!?」
―――――――――――――――――――
奥の部屋に行くと何か変な物が置いてあった。
「えっと………これなんですか?」
見た目は巨大なパチンコみたいだな。
「これは、飛べ飛べあの空へ1号だ!」
何て中身のない名前だろう。
「えっと……つまりどう言うこと?」
「この装置を使ってあの木に行くと言うことだ!!」
外から見える山をネゴシさんは指差す。
かなりの大きさを誇る山だ。
俺が修行に使っていた山と同じくらいの高さだろう。
「あれがサル山ですか?」
「ああ、そうだ!!あそこの頂点に少し出ている木にマネギアルはなっている!気温や気候、あらゆる条件が揃っているのはあそこの木しかない!そのため、栽培は不可能だ!」
「そういうことですか。特殊な環境のみ生える果物。確かに育てるのは不可能ですね」
どうやら聞いていた通りのようだ。
「それで、あの木に向かってこの装置で飛ぶんですか?」
「違うぞ!飛べ飛べあの空へ1号だ!!間違えるなよ」
「あっはい……」
何てめんどくさい人なんだ。
「これでどうやって飛ぶんですか?」
ミノルは木で作られたお手製パチンコをまじまじ見る。
何か、とてつもなく嫌な予感がする。
「この強力なゴムを使ってあの木までぶっ飛ぶ!!」
「え?ぶっ飛ぶ?」
思わずミノルは言葉を復唱する。
やっぱり、これで飛ぶのか。
「この大きな岩は……」
「これで、思いっきり引っ張って飛ぶってことだ!!」
今すぐに帰りたい。
「安全面は大丈夫なのでしょうか?」
「俺が生きてるから大丈夫だ!」
不安しかない……
「それじゃあ、早速行くぞ!」
「ちょっと待て!もう少し時間をくれ!」
さすがに何も覚悟が決まっていないのにこんな命の保証のないものをやるわけにはいかない。
この人はせっかちと言うか行動に迷いがなさすぎる。
「そうか!それじゃあ、1年待つ!」
「ながっ!」
「そうか!なら1分待つ!」
「みじかっ!」
「かつ、私頭が痛くなってきたわ」
この異様な状況に頭痛を催してしまったらしい。
「ミノル、その気持ち分かるよ」
俺達は一旦心を落ち着かせるために深呼吸をする。
「でも、もうやるしかないのよね」
「そういうことですね」
「だったらもう行くしか無いだろ」
「行くしかないわよね」
俺達は覚悟を決めて元の場所に戻っていった。




