その六 罠
「師匠ちょっと話したい事あるんだけど」
俺は師匠に借金の事を伝える為、道場に来ていた。
「何じゃ?今日はいつもより早いようじゃがもしかして昨日すっぽかした詫びとして早めに来たのか。だとすればいい心掛けじゃな」
そんな事を言いながら自分のひげを触る。
「その事は本当にすいません。ちょっと色々あって昨日は出られなかったんですよ」
「ほう、聞かせてもらおうかの」
そう言って俺を険しい顔で見つめる。
「実はクエストに失敗しちゃって借金を背負う事になったんですよ」
「何じゃわしに借金の保証人になれと言っておるのか」
デビと同じ様な事を言ってるな。
「違う違うそうじゃないですよ!どうしてみんな保証人と勘違いするんだ」
ていうかそんなに保証人になってくれと言うやつがいるのか?
「もしかして借金を返す為に色々するから修業にはしばらく来れないと言いたいのか?」
「そう、それ!どうですかね……いや別に行きたくないって訳じゃないんですよ。ちょっとした休みみたいな感じでいいんで……」
俺は申し訳なくなって段々と声が小さくなる。
「いいに決まっとるじゃろ。逆に借金持ったまま来てもらっては困る。ちゃんと全額払うまで来るんじゃないぞ。わかったな!」
「は…はい」
なんかものすごい威圧だな。
まあ確かに借金は良くないし怒るのも無理ないか。
「ということでしばらくお前さんは休みじゃ。ところでミノルはどうした?一緒に来ておらんのか」
そう言って俺の後ろを見る。
「ミノルも借金してて来られないんですよね」
やっぱりミノルはここに来てないのか。
「2人揃って借金か。一体どうなっておるのじゃ今の世の中は」
「返す言葉も無いです。でも絶対また修業しに来るんで待っててください!それじゃ」
そう言って俺は道場を後にした。
「借金返すまで入れんからのう〜!たくっいつでも帰ってきてもいいように身体動かそうかのう」
とりあえず師匠のお許しも出たし早速クエスト行こうかな。
「何あんた借金したの。だっさいわね〜ホントは何かやらかしたんじゃないの」
すると何やら文句を言っているサクラに出くわした。
「げ!?サクラか、何だよバカにしに来たのか」
「決まってるじゃない。それ以外にあんたに会いに行く理由なんて無いでしょう」
最初に会った時から変わらない口調だ。
「相変わらずムカつくなお前。あ、さっき聞いたと思うけど俺しばらくここ来れないから」
「知ってるわよ。まだ1回しか来てないのに休むってどうかしらね。やる気が足りないんじゃないの」
「しょうがねえだろ。借金しちゃったもんわ。それにミノルに頼ってばっかじゃいつまでも成長できないしな」
「あっそう、あんただから一生返せないで泣いてたりして。目に浮かぶわぁ〜あんたが泣き叫んでるとこ」
そう言ってムカつく顔で俺の泣き真似をする。
「勝手に言ってろ。ホントは寂しいんじゃないか」
「は?何言ってんのそんなわけ無いじゃない。殺すわよ」
「なんかすいません」
突然の殺す発言、一体どういう生活をして来たらこんな口悪くなるのか。
「まあでもあんたが帰ってくるの楽しみにしてるわ」
お、何だ?もしかしてここに来て急なデレか?
「だって私に恥をかかせたままいなくなるなんて許さないからね」
そんなわけなかった。
「もしかしてまだあの時の事根に持ってんのか」
「決まってるでしょ!いい絶対勝ち逃げするんじゃないわよ。分かった!」
気合の入った言葉を言いながら俺を指差す。
「分かったわかった。それじゃあな」
「絶対逃げんじゃないわよー!」
サクラの声を背に受けながら俺はその場を後にした。
とりあえずこれからクエストにでも行ってみようかな。
その時上から何か頭に落ちてきた。
「痛った!何だよ……手紙?魔法協会からって書いてあるな」
ていうか普通手紙を上から落とすかね。
伝書鳩よりも荒っぽいな。
とりあえず中見てみるか。
中を開いて見てみるとそこには早急に魔法協会に来てくださいと書かれていた。
「もしかして何かいいクエストが見つかったのか。ちょうどいいし行ってみるか」
――――――――――――――
魔法協会、受付
なんか妙に従業員が少ないような……まっいっか。
「ルルさんどうしたんですか。手紙なんか送ってきて。もしかしてクエストでいいのが入ったんですか」
「かつさんちょっとこっちに来てくれますか」
「え?そっちですか」
ルルさんが指差したところは俺が倒れてた時に保護されてた休憩室だった。
「えっとここで何をするんですか?」
「かつさんは借金返済の紙って今持ってますか」
「まあ持ってますけど」
俺はポケットから借金返済の紙を取り出した。
「これがどうかしたんですか」
数字を見てみると30万ガルアぐらい減っていた。
ミノルどんだけクエストしたんだよ。
「あとお金も今持ってますか」
「はい……全額この袋に入れてますが。ていうか何ですか。言いたい事あるならもうはっきり言ってください」
「それって今全部返済に使ってもよろしいですか」
「え?いやいや駄目に決まってるでしょ!何言ってるんですか」
「そうですよね。駄目ですよね。でもすいません!」
「なにいって――――――」
「ウルフさん!アカリさん!今です!」
するとドアが勢いよく開き俺の方に向かって突撃してきた。
「え、ちょ、何するんですか!離してください!」
「よし!捕まえたぞ!逃さねえからなかつ!」
「ごめんよー少年!これも仕事の一環だから我慢してくれよ!」
「どっどうゆうことですかルルさん!」
「かつさんすみません。ガルア様の命令でかつさんから今あるお金全部振り込ませろと言われて」
「はっ!?何言って……」
その瞬間俺の中で点と点が繋がった。
どうして従業員が少なかったのか。
どうしてお金のことを執拗に聞くのか。
ここの従業員は5人程しかいない。
5人で大丈夫なのかと思うだろうが、この魔法協会では自分の店を出してる奴が多く店を出す代わりに魔法協会の手伝いをするという条件で働けるらしい。
だから魔法協会で働いてる従業員は5人程しかいないのだ。
その内2人がいなくなっていた。
しかも服装が統一されていたので少なくなってることにはすぐ気付いた。
そして何故少なくなってたのかも多分この俺を捕まえる為。
あの手紙もこの俺をここに呼び出すため。
全ては仕組まれていた事だった。
つまり俺はこの人達に……
「は、はめられたって事か……」
「すまないな少年。ガルア様の直々の命令には流石に逆らえないんでな」
「まあそう落ち込むなよ。私達もいやいや、やってるんだぜ」
「だっ騙しやがったな!信じてたのに」
「本当にすいません!このお詫びはいつかするのでどうか今回だけは…」
するとルルは俺の金が入った袋と借金返済の紙を持った。
「え?ルルさん何をやってるんだ」
すると袋から金を取り出し始めた。
全部の金を取り終えて、それを縦に積み上げ始めた。
「やっやめるんだ!ルルさん!え、ちょ、ホントにやめて、ホントに駄目だって!!」
「ごめんなさい!」
そう言って積み上げたお金を借金返済の紙の上に置いて上から勢い良く押した。
「あっあああああ!!」
どんどん紙に吸われていく金を俺はただ見てることしかできなかった。
それはまるでダ○ソンみたいに静かでそして力強い吸引力だった。
すべての金が吸われて気づいたら俺は泣いていた。
「俺の……金が…」
「ほんっっっっとうにすいません!!」
ルルはガラケーみたいになるくらい頭を下げる。
「ウルフお前もグルだったのかよ」
「いやぁ〜まさかそんなショック受けるとは思わなくてよ。すまん!後でいいんかい奢ってやるから許してくれ」
「あとお前誰だよ」
「おう少年!私の名前はアカリ。よろしく!て言っても今はそんな事どうでもいいか。ていうか少年との初めての出会いがこんなだと私の印象かなり悪いだろう」
「はい、ここまで人を恨んだことは無いと思いますね」
自分のことを馬鹿にしてくる奴らとはまた違う怒りがあるな。
「すいませんかつさん…このお詫びは必ずしますので。みなさんも私が無理を言って頼んだので許してあげてください」
「別にもう大丈夫ですよ。借金を作った俺が悪いし」
「そうだぞ少年!借金は作るもんじゃない。よく分かってるじゃないか」
「お前には言われたくない」
「ありゃ、これは完璧に嫌われちゃったかな?」
「あのルルさん、もしかしてこれミノルにもしたんですか」
「はい……ミノルさんもかつさんみたいにすごく抵抗していて大変だったんですよ」
やっぱり取られてたのか。
どうりで金の減り具合が早いわけだ。
「それで俺これから宿とかどうすればいいんですか」
「えっと……それは…」
「ルルそういうのはっきり言ってやるのが一番だ」
「ウルフさん……」
「かつすまないけどお金はゼロから始めてほしい。大丈夫何かあったら私達が助けてやるから」
「ウルフ……ありがとな」
「じゃあ少年!今からクエストに行くのはどうだ。今なら私が特別に厳選してやるぞ」
「まじか!良いとこあるじゃないか、アカリ」
そう言って奥から何枚かクエストの紙を持ってきた。
「だろ少年!早速これはどうだ?黒いドラゴンの討伐」
「却下!」
「ん〜そうか…じゃあこれは?グリフォンの討伐」
「却下だ!俺を殺すつもりか!」
「だって少年、借金を返す為にも報酬が高い方がいいだろ。これはどれも億超えだぞ」
「1人でそんなクエスト行けるわけ無いだろ」
「そりゃそうか。ん〜ごめん!少年、私じゃ力になれそうにないわ」
「別に大丈夫ですよ。気持ちだけで充分ですし。ていうか普通のクエストは無いんですか」
「ない!」
「そっそうなのか。そんな自信満々に言う程でも無いけどな」
まあ俺のことを思って難しいクエストをあえて選んだのだろう。
そうじゃなきゃこれはただのいじめだ。
「あと他にはバイトって手もあるぞ。どうすんだ?」
「とりあえず行かなきゃいけない理由ができた場所があるんだ。俺は今からそこに行くよ」
「そっか少年!元気で!」
「ああまたどこかで会おうぜ!」
「いや、俺いなくならないから!!」
「そ、それではかつさん次までに良いクエストを探しておきますね」
「ありがとうございます、それじゃあ」
俺は魔法協会を出て深いため息をついた。
「何かものすごーーく疲れた」
 




