その一 メイ新たな旅立ち
「んっ………ふぁは~……朝か」
俺は重たい体を起こしてベッドから出る。
すると、突然昨日の事が甦る。
そう、俺がミノルに慰めてもらった昨日の夜。
「はあ………昨日はやっちまったな。まさか、ミノルにあんな姿を見せてしまうとは」
昨日の出来事があまりにも色々ありすぎて、思わず弱音を吐いてしまった。
昨日のこともあり、ミノルと顔合わせずらいな。
「何てことやってる場合じゃないよな」
俺は顔を叩き眠気を覚まして下に降りる。
机には既に朝ごはんの準備が出来ている。
リドルは朝ごはん係なので誰よりも早起きだ。
「あっ!おはようかつ。ご飯出来てるわよ」
そう言って元気一杯の挨拶をするミノル。
昨日のことはそんなに気にしてないのか?
「お、おはよう」
「遅いのじゃ!早く朝ごはん食べたいから早く顔洗って準備するのじゃ!」
そう言ってデビは俺を洗面台まで押していく。
「わ、分かってるって、押すんじゃねえよ」
俺はすぐに洗面台に行き魔力を込める。
その時、ふと居間を見返す。
リドルが朝食を作り、出来上がった料理をミノルが机に並べる。
そんな当たり前の日常が広がっていた。
「………普通の日常か」
この世界に居られる時間は限られている。
その時間の内に何回皆とこうして食卓を囲めるのか。
俺は腕につけた時計を見る。
時計を………み……る?
「あれ?時計がねえ」
俺は顔を洗ってすぐに自分の部屋に戻った。
「ちょっ!何処いくのじゃ!ご飯食べないのか!!」
デビが何か言っているがそんなことに構ってる暇はない。
俺はすぐにローブのポケットを確認する。
「…………あった」
そこには時間が減っていっているデジタル時計があった。
俺はすぐに腕に時計をつける。
「ん?まだあるな」
俺はさらにポケットの中を取り出す。
「これは俺のお守り」
そう言えば、お守りも持って帰って来たんだったな。
俺はお守りを大切にローブの中にしまおうとしたその時、お守りの中に何か紙が入ってるのが見えた。
「あれ?こんなもの入ってたっけ?」
普通はお守りの中は見ない方が良いんだけど、これはしょうがないよな。
俺は出来るだけ他の物は取らないように目線をそらして紙だけを取り出す。
「さてと、これなんの紙だ?」
俺は折り畳まれている紙を広げ中を確認する。
そこにはこう書かれていた。
「私に会いたかったらここに来て。ここに行けば良いのか?」
そこにはアキサさんが居るであろう場所の地図が入っていた。
何でわざわざこんなものを。
「かつー!もう先に食べちゃうぞー!早く来るのじゃ~!!」
「分かったよ!!今行く!」
俺は紙を机に置いてすぐに下に降りる。
すでに俺以外が席につき、今か今かと待っていた。
「もう遅いわよ。何してたの」
「悪い悪い、ちょっとな」
「それじゃあ、食おうか」
「ちょっと待ってください。まだ1人来てませんよ」
そう言って空いている席を見る。
「あれ?メイまだ来てなかったのか?」
「良いのじゃ、さっき先に食べててって言ってたから。ほら、早く食べようなのじゃ!」
「そうなの?部屋で何してるのかしら」
「まっ先に食べてていいんだったら食べようぜ。それじゃあいただきまーす!」
「「「いただきまーす!!!」」」
俺達は朝ごはんを食べようとしたその時、慌ただしい音が階段から聞こえてくる。
ふとそちらを見ると大荷物を持ったメイの姿があった。
「メイ?どうしたんだ?そんな荷物持って」
「どっか出掛けにいくの?」
「んーん、違うよ」
そう言って背負っていた荷物を近くに置くと席に座る。
「皆に言わなきゃいけないことがあるんだ」
それは、いつものおちゃらけた雰囲気ではなく、真面目な話をする時の真剣な面持ちだった。
「もぐもぐ、どうしたのじゃ?もぐ、何か言いたいのなら、もぐ早く言うのじゃ」
「デビッちそんなに焦らせないでよ。えっとね、私このパーティーを抜けます」
「え………」
「「「「えええーーーー!!!!」」」」
その瞬間俺達は思わず席を立ち上がる。
デビですら食べ物を食べるのをやめるほどだ。
「な、何でよ!急にどうしたの!?」
「何かあったんですか?」
「どうしてなのじゃ!何故居なくなっちゃうのじゃ!」
「ちゃんと説明してくれよ!」
「もう、皆顔が怖いよ。笑顔笑顔、笑顔にピースだよ!」
そう言ってメイは笑って見せる。
笑ってるってことはそんな深刻な話じゃないようだ。
とにかく、一度冷静になり改めてメイに聞く。
「えっと、何で抜けるんだ?」
「私ね、このパーティーが大好きでずっと……ずっとずっと居たいと思えるくらい大好きなの」
「なら、一緒に居ようなのじゃ」
「でもね、それ以上に私も自分のパーティーが欲しいって思ったの。昨日のかつっち達の様子を見て仲間って良いなって心の底から思った、仲間との信頼関係とかお互いの力を分かって行動してるところとか、すごいすごいかっこいいって思った!だから、私もそんなパーティーを作りたいって思ったの!」
メイは目をキラキラと輝かせながら、嬉しそうに語る。
まるで子供が夢を語ってるような、そんな純粋な言葉だった。
「このパーティーじゃだめなの?」
「それは………」
「自分で自分だけのパーティーを作りたいと思ったんだろ?」
「うん、駄目かな?」
そう言って上目使いでこちらを見てくる。
こいつなりにやりたいことを見つけたってことか。
「別に駄目じゃねえよ。そもそも俺達はお前を縛ってない。やりたいこと見つけたんだったら抜けたって構わない。そもそも俺達が入って欲しいって言ったしな」
「ありがとう、かつっち」
「私もメイがやりたいなら応援するわ。頑張ってね」
「妾もメイがそれでいいなら良いのじゃ。離れていても妾のこと忘れないで欲しいのじゃ!」
「デビッち……もちろんだよ!忘れるわけないっしんくのうらはいつも濡れ濡れー!!」
そう言ってお互い抱き合う。
言葉はあれだが、本当に仲良いんだなこいつら。
それにしてもデビが駄々をこねないなんて。
正直行かないでとか引き留めると思ったんだけど、あいつも大人になってきたってことかな。
「それならこれを受け取ってください。1ヶ月は持つと思うので」
そう言って、リドルは食料を渡した。
「ありがとリドッち!でも、困っちゃうなぁー」
「え?何でですか?」
「リドッちのご飯美味しいから、1日で食べきっちゃうかも」
「ははっ計画的に食べてくださいよ。帰ってきたらいつでも作ってあげますよ」
「うん、それじゃあもう行くね」
そう言って荷物を持って外に出る。
俺達も見送るために外に出た。
「じゃあね、メイ変な人に着いて行っちゃ駄目よ」
「そこら辺のキノコとか木の実とか食べないでくださいよ。お腹壊しますから」
「知らないに人にちょっかい出しちゃ駄目じゃぞ!」
「おいおい、子供じゃないんだから大丈夫だろ」
「うん!もちろんオールオッケーカリオッペー」
こいつは本当に。
「人様に迷惑かけるなよ」
「何でかつっちも心配してるの!?」
俺達は外に出てから名残惜しくしばらく話したがそろそろ出発の時間が来た。
「これからどこ行くの?」
ミノルが改めてメイの行き先を聞くと、メイは自信満々に答える。
「どっか!ここでは探さないかな」
「そうか、じゃあそろそろ行かないとな」
「うん」
少し名残惜しそうに皆の顔を見る。
そして、荷物を手に持って歩き始めた。
「じゃあね!皆!!」
「頑張ってね!」
「気を付けてください!」
「手紙送って欲しいのじゃ!」
「ありがとう!!」
そう言って背中を向けて歩いていく。
その背中を見て、俺はつい言葉を投げかけたくなった。
「メイ!!俺達はどんなに離れてても仲間だからな!だから、いつでも帰ってこいよ!」
「かつっち…………っ!」
すると、突然荷物を置いて走ってくる。
「どうしたんだ、忘れもの―――――――っ!」
その時、メイの唇が俺の頬に触れた。
「そっちは奪わないであげる」
「め、メイ?」
「2人共!早くしないと私が貰っちゃうぞ!じゃあね!」
いたずらっぽく笑みを浮かべてから嵐の様に行ってしまった。
「かつ………」
「え、えっと………今のは何なんだ?」
俺は何が何だか分からずに放心してしまった。
すると慌しい様子で二人が詰め寄ってくる。
「どういうことなのじゃ!」
「どういうことよ!」
「これは修羅場ですね」
「ちょ、ちょっと待てって!リドル!たすけ、助けてー!!」
こうして、メイはパーティーを離れていった。
―――――――――――――――――――――――――
「メイ行っちゃったわね」
「そうですね。色々ありましたけど、居なくなったら寂しいものですね」
「ていうか、何で俺殴られたんだ?」
俺は何故かあの後デビとミノルにぼこぼこにされた。
俺悪いことしてないのに。
「あんたがメイちゃんに手を出したと思ったからよ」
「そんなことしねぇよ!」
「じゃあ、メイは何故お主にあんなことしたのじゃ!ていうか、妾もさせろ!」
そう言って顔を押し付けようとするデビを無理矢理引き離す。
「とにかく!メイはもうこっちのパーティーじゃないんだろ?申請とかしなくて良いのか?」
「あーそれは本人の確認が無いと駄目ね。まあでも、ある程度説明は受けてるし、そう言うことは自分で決めてるんじゃないかしら」
「それよりこれからどうするのじゃ?妾疲れたのじゃ」
そう言ってデビは床に寝っ転がる。
「ていうか、お前大丈夫なのか?1度悪魔化してたし体の具合とか」
「替えのネックレスを着けたから大丈夫なのじゃ」
デビは首のネックレスを見せる。
「て言うかそれ一体なんなんだよ」
「これは妾の魔力を押さえる首飾りじゃ。これでお主らと同じレベルにしてあるのじゃ」
「じゃあ、首飾りを着けてない状態のデビさんの魔力ってどれくらいなんですか?」
「99じゃ」
「……………は?」
あまりの途方もない数字に思わずは?と言ってしまう。
「だから、妾の魔力レベルは99じゃ!」
「まじかよ……そんな強いの?」
ゲームのカンストレベルみたいなもんだろ。
というか、こいつが本気を出せば島を丸ごと沈めそうだな。
「でも、ラルダも化け物みたいに強かったしそれくらいは合って普通なのかもね」
「ていうか、妾達は魔力レベルなんて物は存在しないのじゃ。お主らで言うと99と言うことじゃな」
「地獄ではそう言うのは無いんですね」
「そもそも魔法自体がこことは意味が違うしのう。妾みたいに特別な悪魔はお主等と同じで陣を用いて力を発揮出来るが、他の奴らはそういった事は出来ないからのう」
特別な悪魔か。
本当にデビは悪魔なんだよな。
本人は大丈夫とは言っているが本当に大丈夫なのだろうか。
「そうなの?まって、それならラルダがこの島に来た目的ってそれだったのかも」
「それってなんだ?」
「魔法を覚えるためってことですか?」
「そう、ラルダ自身魔法を覚えたくても覚えられなかったから、この島に来て手っ取り早く魔法を覚えたのかも」
「まあ、確かに初めから黒の魔法使いに入るためにこの島に来たって訳じゃねえからな」
「でも、普通は地獄以外の場所に行くのは駄目なのじゃ。こんなに目立った行動したんじゃから、ラルダは今頃地獄で罰を受けてると思うのじゃ。ざまーみろなのじゃ!」
そう言って床に寝転がりながら高笑いをあげる。
お腹いっぱいになったからってこいつゴロゴロしすぎだろ。
「ていうか、それならお前は大丈夫なのかよ?罰とか受けないのか?」
「妾は許可を取って来てるから大丈夫なのじゃ」
「そうか、それなら良いんだけど」
そう言えば、何でこいつはこの島に来たんだろうか。
何か目的が合ってきたのだろうか。
「黒の魔法使いは全員死んだのでしょうか?」
リドルは素朴な疑問を口にする。
「分からない。森は跡形もなく消滅しててこの中に居たのなら確実に死んでるとは思うけど」
「多分死んでないわよ、あいつらは」
ミノルは少し諦めたように言う。
「確実に死んでいる姿を見ていないからですか?」
「そうじゃないわ。黒の魔法使いは死体を見ても死んでないような気がする。あいつらがそう簡単に死ぬとは思えないし、多分まだ生きてると思う」
ミノルにとって黒の魔法使いはそういう存在なのか。
どれだけ振り払おうとも残り続ける存在、たしかにあいつ等はそう簡単にやられるような奴らには見えない。
また突然俺達の目の前に現れてきそうな予感がする。
「まあラルダは、確実に生きてると思うけどな。ていうか、本当に地獄に帰ったのか?」
「知らないのじゃ。妾あいつ嫌い」
「どちらにせよ。今は分からないですしね。死んでることを祈りましょう。それよりも気になることがあるんですが」
「ん?なんだよ」
「リツさんって今何処に居るんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、皆思い出したかのような表情をする。
「そう言えば、リツの姿見てないな。あの後どうしたんだ」
「いきなり消えてたのじゃ。もしかして妾の攻撃を喰らってしまったんじゃないのか?」
「多分それはないわ。生きてると思うし、1度お店に行ってみましょうか」
「そうだな、お礼も言いたいし。俺もいくよ」
そう言って俺は席を立ち外に出る準備をする。
「妾も行くのじゃ!」
デビは寝転がりながらアピールするように両手を上げる。
「じゃあ、早めに準備してきて。リドルも一緒に行く?」
「僕はお留守番しています。やりたいことがあるので」
「そうなの?じゃあ、留守は任せたわ」
俺は部屋に戻ってローブを取り出す。
その時ローブの懐から本が落ちる。
あっこれは。
「ミカの日記か。これも後で読まないとな」
ミカ、短い付き合いだったがあいつには色々と助けられた。
もう少し、あいつのことを知りたかったけど。
ミカが一体どういう人生を歩んだのか、これで分かるって事だよな。
「帰ったら読んでみるか」
「かつー!早く行くわよ!」
「よし、行くか」
―――――――――――――――――――――
「来たけど本当に居るのか?」
「それは、見てからのお楽しみよ。さっ入りましょう」
俺達は早速店の中に入る。
「あっ!いらっしゃ~い」
そこにはいつも通りのリツの姿があった。
「リツ!店の戻ってたなら言ってよ!心配したじゃない!」
「ごめんね~ミッちゃん。色々合って言うの忘れてたよ~」
「まあ、リツが元気そうで何よりだわ」
二人は嬉しそうに抱きしめ合い、会話をしている。
本当にいつも通りだな、何だか緊張してたのが馬鹿らしくなってくるな。
「なあなあ、腹が減ったのじゃ!何か食べ物をくれないか?」
「食べ物~?うーんと~干し芋ならあるよ~」
「干し芋?何じゃそれは」
「持ってきてあげる~」
そう言って取りに行くために奥の部屋に入っていく。
何故干し芋だけがあるんだ。
そんな疑問が脳裏に過った間に干芋を持ってきたリツが帰って来る。
見た目は日本と同じやつだな。
「最近の~私のマイブームだよ~カルシナシティで買ってきたんだ~」
なるほど、そう言うことか。
「これが上手いのか?」
そう言って恐る恐る口に入れる。
「っ!もぐもぐもぐ!」
すると、美味かったのか無言で食べ進める。
こいつ、一人で全部食べる気か。
「それで、リツはあの後何処に行ってたの?急に居なくなったから心配したのよ」
「ちょっと色々してたんだよ~」
色々か、これ以上は詮索してほしくないってことだな。
「とりあえず、元気なら一番だ。それじゃあ、俺はもう行くよ」
「え?もう行っちゃうの~?」
「俺は用事があるからさ。2人はまだ話したいことあるだろ?」
「まあそうだけど。何処に行くの?」
「カルシナシティにな」
そう言って俺は店を出た。
「ぜっちゃんも忙しそうだね~」
「そうね」
「そうだ~これもう知ってる~?」
「え?何が?」
「今日の掲示板に貼ってあったんだけど~」
――――――――――――――
「ん?何だ?掲示板のところに人が集まってるな」
カルシナシティに向かう途中、人混みが気になりふと寄り道してしまった。
こういう場合は何かと大事なお知らせが貼られてることが多い。
せっかくだし、見ていくか。
沢山の人混みを掻き分けて俺は掲示板を見る。
そこにはお知らせが貼られていた。
「何々………島王選の開催を今後は一切行わない!?それにともない、この島の王は現在の王であるガルアが引き続き行う。王に不満がある時は別の方法で決められる事となる。さらに今回の決定を機に十二魔道士も撤廃する。それぞれの王は引き続き町の王として活動していく。これってまじかよ」
ガルアが今後変わることなく島の王になる続けるなんて、一体どうして。
他の王は島の王になりたがってたはずだ。
何で急に…………それに、十二魔道士も失くなるなんて。
「ハイト、大丈夫なのか?」
一体何が起きてるんだ。




