エピローグ A組
「はあ……はあ……はあ」
生きているのか?
先程強烈な光と共に死を覚悟した時、気がつくと別の場所に転移していた。
「お帰り~」
異様に語尾を伸ばす府抜けた声の正体に俺は視線を移す。
「リツ、なぜ貴様がここに居る。貴様は裏切っただろう」
裏切り者のリツが平然と拠点に帰ってきたのに俺は苛立つ。
「ごめん、私のせい」
すると、サキがパソコンを閉じて謝罪する。
サキにはもし何かが合った時のために一斉テレポートを任せていた。
その弊害でリツもテレポートさせてしまったのか。
「私は一斉テレポートよりも前に帰ってきたんだよ~」
「何だと?それだとまあ話が変わってくるぞ」
「それよりも~他の皆を助けなくていいの~?」
そう言われ周囲を確認すると、周りには既に瀕死の仲間が倒れていた。
「ちっ!やはり、他の黒の魔法使いはやられていたのか」
すぐさま他の仲間の介抱をしようと近づくが、手を退かして立ち上がる。
「心配しなくても俺は死なねぇよ」
「そうか………」
すると、他の皆もボロボロになりながら立ち上がる。
「まさか、やられるなんて思わなかったよ。計画は完璧だったんだけど」
「トガ、まさか貴様がやられるとわな」
「すまねぇな。俺だって負けるとわ思ってなかったよ。だが、現実はそうは行かねぇみたいだ」
そう言ってトガは肩を落とす。
「そんなことより、いいの?彼女を心配しなくて」
「ラルダ、貴様も居たのか」
思わず鋭い目つきを向けてしまう。
だがラルダは気にする様子もなく、平然とした態度を見せる。
「ひどいなあ、俺も黒の魔法使いの一員だろ」
そう言うと布切れのようになってしまってるスイを見る。
一瞬だけ感じた異質な魔力。
「やはり、禁断の魔法を使っていたのか」
「でも、普通に禁断の魔法を使ってもここまでひどくはならないんじゃなかったっけ?」
「おそらく、失敗による暴走だろう。詠唱中に邪魔が入り正当な契約が出来ずに力を使った代償だろうな」
俺はスイの面影すらない死体に触れる。
中身が抜き取られたかのように軽かった。
これが禁断の魔法の代償か。
「もう、助からねぇのか?」
「見りゃわかるでしょ。助かるわけないじゃん」
「ラルダテメェ!その言い方は無いだろ!!」
ラルダのあまりの言いぐさにトガは思わず手を出す。
だが、ラルダは平然と交わして逆にトガに反撃する。
「がはっ!?」
「どうした?血が出てるよ」
「て、テメェ………」
トガは悔しそうに顔を歪めるが、倒れているトガを突き飛ばしてそのまま歩き始める。
「もう、これ以上一緒にいる必要はないからさ。お別れをいいに来たんだ。いい退屈しのぎになったよ、このスイって子とミカの死に様を見れただけでも、よかった。それじゃあね、能無し集団」
そう言ってラルダはその場から消えた。
あまりにもあっけない別れだった。
「クソッ!やっぱり、あんなやつ信用するんじゃなかった!」
トガはどこに向ければ良いのか分からない怒りを地面にぶつける。
「やめておけ、今さら後悔したところで何も変わらない」
「ちょっといい~?」
気の抜けた声が聞こえてきて、そちらを向くとリツが手を上げていた。
「何だ?」
「私は~同情も一切しないし~哀れんだりもしない、だからこれだけ言いたくてここに残ってたんだ~もう2度と私達に~関わらないでね~」
「………ああ、分かってる」
「それじゃあね~」
「ちょっと待て、貴様もしかしてここの技術を応用しようとしてるのならやめておけ。ガルアに殺されるぞ」
「分かってるよ~さよなら~」
そしてリツもその場から消えた。
「残ったのは結局この初期メンなのか」
「そうだな、はじめっから俺達だけでやればよかったんだ。そうしたら、うまく行ってたかも知れねぇ」
「そうかもしれないし、うまく行かなかったかもしれない。結局俺達はこの選択をした、その結果がこれだ」
すると、サキがスイを優しく持ち上げた。
「埋葬してあげましょ」
「…………そうだね、俺も賛成だ」
「腐れ縁だしな、最後くらい俺達で看取ってやるか」
「クラガ、お願い」
「ああ、分かってる」
サキは台座の上にスイを優しく乗せる。
そして、俺は炎の魔法でスイの体を自然に返した。
「すまないスイ、お前だけ先に行かせてしまって」
「俺達もすぐに行くからよ、それまで待っててくれや」
「口も悪くて態度も悪かったけど、だけど一緒に居て楽しかった。スイが居なくなって少し静かになっちゃったよ」
「スイがクラガの事を好きって事を相談された時、私は何も答えられなくてごめん。今度はちゃんと相談にのれるようにする」
サキが突如そんな言葉を口走るので皆が一斉に黙り込む。
「………………………」
「何?」
「お前今それ言うか?」
「突然のカミングアウトだね」
「もう死んでるからいいと思って………」
「スイ、死者の秘め事は墓場まで持っていけ」
「分かった」
そして、スイは炎により自然に帰っていった。
「A組って覚えてる?」
「懐かしい名前だな。もちろん覚えてるに決まってんだろ。あれから始まったんだからよ」
「確かに全てはあそこからだったな」
「私達はこれからどうするの?」
「あの人に会いに行く。全てはそれからだ」
「そっか、そう言えばどうしてるのかね。シントさんは」
「それを探しに行くんだろうが」
そして、俺達は拠点を後にした。




