その二十九 長い1日
「…………………ここは?」
「「「かつ!!!」」」
その瞬間、目の前にいるミノル達が俺の体を抱き締める。
俺は状況が飲み込めずにただそれを受け入れるしかなかった。
「えっと………ここは」
「ここは病院よ、かつ」
「僕達の事が分かりますか?」
「ミノルとリドルとメイだろ……」
「そうだよ!私メイだよ!よかったかつっち生きてて!よかったよーー!」
そう言ってメイは俺の体の上に乗っかる。
「ちょっメイ……苦しい……」
「メイさん降りてください。かつさんは怪我人なんですから」
するとリドルはメイをヒョイッと持ち上げて降ろす。
「意識戻ったみたいだね」
その時、白い裾の長い服を着た医者らしき人が入ってくる。
「あなたは……」
「お久しぶりです絶対さん。どうやら私の事を覚えていてくれたみたいで」
「誰でしたっけ?」
「っ!?」
その瞬間、その医者はその場で転けた。
何やってんだこの人。
「こりゃ1本とられました。まさか、忘れられてたとわ。私はあなたの魔力を見た医者ですよ」
「………あっあんた、あの時の医者か」
そういえば、魔力レベルが10分あるって言ってた医者か。
すっかり忘れていた。
「起きたみたいですし、審査してみますね」
「あっそれじゃあ、私達は一旦部屋から出ますね」
そう言って3人は立ち上がる。
「それではかつさんまた後で」
「かつっち、頑張ってね!」
そのまま3人は出ていった。
俺も起き上がって医者の話を聞く態勢にする。
「えっと、それで俺はどうなったんですか?」
「先ずは最後に覚えてる事はなんですか?」
「えっと………」
最後に覚えてる記憶……さすがにアキサさんの事は言えないよな。
「えっと、デビの攻撃を喰らった所までは」
「なるほど、なるほど、記憶は正常と」
「あっそういえば、デビはここに来てないんですか?あのこれくらいの女の子なんですけど」
「今は別の部屋で休ませてます。彼女は魔力がかなり枯渇してたので」
「そうですか………」
よかった、成功したみたいだな。
正直一か八かの賭けだったから成功してよかったぜ。
それでもまだ万全じゃないみたいだし、後で様子を見に行くか。
「しかし、驚きましたよ。絶対さん、森からネッパニンスまで吹っ飛んだって聞いた時は死んでるんじゃないかと思いましたよ」
「え?そうなんですか」
おそらくデビの攻撃を受けた直前にアキサさんの元に送られたから、戻ってきた場所がそこだったんだろうな。
普通に喰らってたら俺の体なんて跡形もなく消えていただろうし。
「はい、絶対さんをあのミノルさんがネッパニンスで見つけたみたいですよ。いやぁとんだ不幸でしたね、私が若い頃に浮気してた彼女がいきなり、彼女と一緒にいた部屋に突撃してきたぐらいの不幸でしたよ」
「いや、あなたの過去は別に知りたくないんですよ。ていうかそれはあんたが悪いだろ。それより俺の体大丈夫なんですか?」
すると、医者がある紙を取り出す。
「体は別に以上はないですね」
「以上はないんですか、よかった」
「いやいや、全然よくないですよ。むしろやばいんですよ」
そう言って医者は慌てながら必死に伝えてくる。
「え?何がですか?だって健康なのは良いことでしょ」
「いや、だってですよ。絶対さんは吹っ飛んでるわけで無傷なのはおかしいんですよ。打撲跡もないですし、骨も内臓も傷ついてません。これはおそらくあなたの体が頑丈なんでしょうね」
「ええ……そんなんでいいんですか」
実際は別の場所に居たからだろうけど、まあ変な誤解してくれてるからこのままでいいか。
「それ以外よくわかりませんから。医者だって分からないことがあるんですよ」
「それ言われちゃ何も言えませんね」
「まあ、体は特に問題は無いとして、かつさんの魔力を検査しましたよ」
「魔力を?」
すると、医者は俺にある紙を渡してきた。
そこには魔力レベル11と書かれていた。
「っ!?これって………」
「信じられませんが、絶対さんの魔力レベルが上がっていたんですよ」
俺の魔力が上がっている。
限界を越えたってことなのか?
「もう一度聞きますけど、俺の体は大丈夫なんですか?」
「今のところは。体の変化は特に感じられません。いや、もしかすると絶対さんの見た目では分からないところが成長している可能性があります」
「見た目には現れないって事ですか?」
「そういうことですね。以前、絶対さんにこれ以上魔法を使えば体が耐えられなくなって、爆発すると言ったでしょ」
「ああ、そんなこと言われましたね」
あの時はかなりびっくりしたけどな。
「あれは嘘です」
医者はそんな言葉を満面の笑みで言ってくる。
「またお得意の嘘ですか。勘弁してくださいよ、もう何を信じていいか分からなくなるんですから」
するの医者は弁解するように真面目な表情に戻った。
「いや、これは予想外の嘘でしてね。実はあなたの体がボロボロだったのは成長する過程だったからなんですよ」
「成長する過程?」
「そう、つまり絶対さんの体は何も心配することは無いと言うことです」
「じゃあ、爆発したり魔力に耐えられなくなることも無いってことか?」
「そういうことですね」
まあ、それはこちらとしても願ったりかなったりだな。
それにしても半獣の体がすごいのかあの人がすごいのか分からなくなるな。
医者はそのまま話を続ける。
「後もう1つ絶対さんはこれ以上魔力をあげられないと言いましたよね」
「はい、それは皆同じだと言われました」
「絶対さんはこれ以上魔力を上げれる可能性があります」
「え?本当ですか?」
俺は思わずベッドから身を乗り出す。
「おお、興奮する気持ちも分かりますが抑えて抑えて、一応ここは病院なんでね」
「え?ああ、すみません」
俺は冷静になり、ふたたび元の位置に戻る。
すると医者は一つ咳払いをして話の続きを始める。
「とにかく、実際上がってますからね。まさか、こんな数字を見れるとは思いませんでしたよ。正直言うと私自身経験がないのであまり分かりませんが、袋の話は覚えてますか?」
「ああ、はい」
俺の魔力が元々入ってるせいで追加の魔力が入れられないって、話だったよな。
「魔力袋はある程度の量しか入らない。ですが、絶対さんはおそらく無理矢理入れる量を増やしてると思います」
「それってやばくですか?」
「いえ、さっきも言った通り絶対さんの体は健康そのものですよ。そこから行くとこれは順当な進化だとも言えますね」
「順当な進化?つまり、いいことって事ですよね?」
「そういうことです。初めての事でよく分かりませんが、もうちょっと調べるためにも解剖の手続きを―――」
「すみませんでした!もう退院します!!」
身の危険を感じて、俺はすぐさま病院から出ようとする。
「冗談ですよ。そんなことしません」
「ほ、本当ですか?」
「嘘です、ああ!ちょっと行かないで!」
俺はすぐに飛び出そうというところで腕を掴まれ、抵抗される。
「本当にやめてくださいよ!まじで怖いんですから!」
「いやぁ、結構真剣な話が多かったので場を和ませようとね」
「全然和んでませんよ!」
少し空気が変わったが気を取り直して、俺は医者の話を聞くためにベッドに座る。
「とりあえず、今のところは異常も見られませんし、今日のところは退院しても良いですよ」
「本当ですか!あっでもデビがまだ寝てるんですよね」
「そうですね。ですが、魔力を供給すれば良いだけですし、重症というわけでもないので心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうですか」
ん?何だ、部屋の外が妙に騒がしいな。
そう思った時に突然扉が勢いよく開いた。
「かつーー!!!」
「え!?デビ!おわっ!」
その瞬間、俺の懐に飛び込んできた。
俺は咄嗟にデビを受け止めると、俺の胸に顔を埋めてくる。
「よかったのじゃー!!生きてたのじゃー!!」
「デビお前無事なのか!?」
「妾は大丈夫なのじゃ!それよりお主の方じゃ!妾の攻撃は最強じゃから死んでしまったかと思ったぞ!」
「自分で言うかそれ。見ての通りピンピンしてるよ」
そう言って腕を回して、元気をアピールした。
「デビちゃん!あっかつ。そういうことね」
すると、外で待っていた3人も部屋に入ってきた。
医者は突然現れたデビに近づくと注意深く観察する。
「デビさん、もう大丈夫なんですか?」
「もちろんじゃ!て言うかお主誰?」
「この人は医者でデビを治してくれた人だ」
「おお!そうじゃったか!ありがとうなのじゃ!」
そう言って天真爛漫な笑顔でお辞儀をする。
それを見て、医者はホッとしたように頬を緩める。
「とりあえず、元気そうなのでデビさんも退院で良いですよ。魔力も回復した見たいですし」
そう言って医者は紙に何を書くと、それをデビに渡す。
「何じゃこれは?」
「1度に魔力を大量に使用したと聞いたので1週間は魔法を使わないでください。それ以降はいつでもどうぞ」
「俺は何もないのか?」
「健康そのものですから、特に気を付けることは。あっ定期的に検査しに来てください。忙しく無いときで良いので」
「分かりました。それじゃあ、皆帰ろうぜ」
俺はベッドから降りてみんなの元に向かう。
その時にくっついて離れないデビを何とか引き剥がす。
すると、デビは不満そうにこちらをジト目で見てきた。
「そうですね。やっと帰れますね」
「皆に話したいことが沢山あるから早く帰ろう!」
「妾もふかふかのベッドで寝たいのじゃ!」
俺達はお世話になった病院に挨拶をしてから、病院を出た。
帰り道、俺は状況を確認するために俺がやられたあとの話を聞くことにした。
「そういえば、デビはあの後何処に居たんだ?」
「更地になった森で元の姿で倒れてたのよ」
「そうなのか?妾は何かビームみたいなの放ったところしか覚えてないのじゃ」
「あれも結構やばかったぞ。そういえば、黒の魔法使いはどうなったんだ」
あいつも一緒に巻き込んだはずだが、まだ生死は不明だよな。
「えっとそれはね……あれ?」
「ん?あっ」
病院を出てすぐのところでハイトが待ち構えていた。
俺達に気づくと腕組みを解いてこちらに近づいてくる。
「退院できたみたいだな」
「ああ、お前も無事みたいでよかったよ」
「すまないが、ちょっと城まで来てくれないか」
「え?城にか、いきなりだな」
正直疲れたから家でゆっくりとしたいんだけどな。
「大事な話があるんだよ。少しだけでいい」
「まあ、それならいいけど。悪い、ちょっと城に寄らなくちゃいけないんだが、大丈夫か?」
「ええ、構わないわよ。改めてガルア様にも挨拶しておきたいし」
そう言って付いていこうとする後ろの4人をハイトが何故か止める。
「ん?どうしたんですか、ハイトさん」
「すまないけど、かつだけと言われてるんだ」
「そうなのか?まあそれならしゃあないか。悪い皆先に戻っててくれ」
「えー、また離れ離れになるのか。退院したばっかなんじゃから、一緒に家に帰ろうなのじゃ」
不満そうに頬を膨らませるデビの頭を数回撫でる。
「大丈夫、すぐに戻るから。ミノル、任せていいか」
「ええ、分かったわ。気をつけてね」
「道草食うんじゃありませんよ」
「お母さんか!心配しなくても大丈夫だよ。また後でな」
そう言って俺はミノル達と一旦別れた。
ハイトと二人っきりになり俺は呼ばれた理由について思い当たる節を尋ねてみた。
「島王選についてか?」
「まあ、そんなところだ」
そんなところか。
「そういえば、結果ってどうなったんだ?」
「まだ協議中だ。明日には出るらしいぞ。今夜会議が行われるらしい」
「そうなのか」
最後は黒の魔法使いとの戦いだったし、ほぼ競技のこと忘れてたけど、大丈夫かな?
「とりあえず、テレポートするぞ。いくぞ、テレポート!」
その瞬間、一瞬でガルアの城に着いた。
いつも見慣れた光景、だが今回はあの後という事もあり周りの雰囲気が少しピリついている気がする。
「それじゃあ、早速いくか」
俺達はすぐに城の中に入っていった。
「お待ちしておりました、かつさま。退院おめでとうございます」
そう言ってシニアは歓迎するや否やすぐに丁寧な口調でお辞儀する。
「別にたいした傷じゃなかったから」
「それは何よりです。あちらの部屋でガルア様がお待ちです」
「分かった」
俺はすぐにハイトともに部屋の中に入ってくる。
「かつお兄ちゃん!」
すると、突然俺の懐に何かが飛び込んでくる。
この感覚は本日2度目だな。
「うおっと!ラミアか!久しぶりだな、元気をしてたか」
俺はラミアを抱きとめると、ラミアは俺の体に抱きついた状態で顔を上げる。
「はい!って、今は私の心配ではなく自分の心配をしてください!ものすごい攻撃を喰らったとお兄様から聞いたので、とてもとても心配で」
そう言って心配そうな顔で俺を見つめてくる。
この子はなんて優しいんだろうか。
「はは、心配しなくても大丈夫だよ。でも、ありがとな心配してくれて」
「それはかつお兄ちゃんが傷つくのは私嫌ですから」
するとラミアは抱きしめるのを辞めると、うつむいてもじもじし始める。
お兄ちゃんか、前から感じてたあの声は花恋の声だったのか。
「かつお兄ちゃん?」
「ん?いや、何でもないよ」
「元気そうで何よりだな」
そう言って何やら殺気を放っているガルアが俺を睨み付けてくる。
おっと、これはまずいな。
「えっと……とりあえず、座ろうぜ」
「ガルア様、殺気漏れてますよ」
「ああ、すまねえ。つい出ちまったよ」
「ついで殺気出さないでもらえますか?それより、話しってなんだよ」
俺はラミアから離れて近くの椅子に座ると早速呼び出された件について聞く。
ラミアは先に部屋に戻っていくのか、ここを出ていった。
ガルアはそれに対して軽い口調で答える。
「ああ、一応お前の状態を見ておきたかっただけだ。本当に何もなさそうで安心したぜ。ていうか、本当に何もないのか?」
「ああ、奇跡的にな」
さすがに無傷ってのは出来すぎか?
いやでも、それしか言うこと無いしな。
実際無傷だから誤魔化しようもないし、それならいっそいくつか傷を残してもらうべきだったか。
「まっ生きてるならそれでいい。俺が頼んだばっかりに大変な目に遭わせちまったな。すまねえ」
するとガルアは突然頭を下げる。
いきなりのことで俺は思わず立ち上がって静止させる。
「やめろよ!謝る必要なんて何もねえよ。これは俺も了承したことだし、黒の魔法使いとは決着つけたいと思ってたからな」
「そう言ってくれるならお前に頼んでよかったよ。今の所お前の仲間のデビが引き起こしたこの大地震は、自然に起きたことにはなっている」
なるほど、たしかにあの場に居た者以外は確認できていないからな。
そういう対応を取ってくれたのはありがたいな。
でも今回のことが起きてしまった責任は少なからず感じてしまう。
「………デビは悪くないんだ。悪いのは仲間すら守れなかった俺だ。処罰なら俺が受ける」
「いや、むしろこれは良いことだ。これで奴らの計画を潰せた。お前の近くにいるなら安心できる」
そう言ってガルアはこちらに笑みを見せてくれた。
「ありがとな、ガルア」
「何言ってんだ。俺とお前は友達だろ?」
友達か、本当に良い友達を持ったな。
俺もつられて笑ってしまう。
するとガルアは切り替えるように手を叩く。
「よし、それじゃあ俺は仕事があるからもう行くぞ。町の復興をしなきゃいけないからな。ハイト、用事があるんだろ」
「はい、かつちょっと来い。お前に見せたいものがある」
「分かった。それじゃあな」
俺はハイトともに別の部屋に行くために部屋を出る。
「ああっかつ!」
その時、ガルアに呼び止められる。
「何だ?」
「十二魔道士、お疲れさま」
そう言ってガルアはテレポートでその場からいなくなった。
――――――――――――――――――――
「この部屋だ」
俺は城の地下室に連れてかれる。
その扉は冷えていてとても冷たい。
「開けるぞ」
開けた瞬間、部屋の中の冷気が漏れ出す。
「ここは何なんだ?」
「死体安置所だ。ここには彼女がいる」
そういうと、1つのベッドを動かし被っている布を外す。
「っ!?ミカ………」
そこには目を閉じているミカの姿があった。
「これをお前に燃やしてもらいたい」
「え?」
「死んだ者は自然に返すために燃やす。その役割はその者と深く関わった者か希望された者がやる。お前にその役割を任せたい」
「俺でいいのか?」
こういうは元々の十二魔道士であるハイトがやるべきではないのだろうか。
だがハイトはそれに頷くことなく真っ直ぐな目でこちらを見る。
「お前がやるべきだ。俺じゃない」
これ以上は野暮だよな。
「分かった」
「よし、場所を移そう」
ベッドを運んで俺達は外に出る。
「ここでなら燃やしても大丈夫だ」
俺はピンカの顔を見る。
ただ、眠っているだけのようだ。
でも、もう起きることはないんだよな。
「せめて、あの世で幸せになってくれよ。ファイヤ」
俺はミカの体に魔法を放つ。
段々とその勢いは強まっていく。
どうやらこの氷は発火の威力を高めてくれるようだ。
俺のレベル1の魔法でも一瞬で全体が燃え始めた。
「っ!」
「どうした?」
「今、ミカが笑ったような気がした」
「……奇遇だな、俺もだ」
俺達は炎が尽きるまで静かに最後を見守った。
そして、炎の勢いは弱まっていき最後は骨だけ残った。
「死んだら魔力抵抗は無くなるんだな」
「役目を終えたと言うことだろうな。守るものが無くなったからな」
ハイトは悲しげにそんな事を呟く。
俺は残った骨に注目する。
「この骨はどうするんだ?」
「砕いて、土に撒く」
「自然に返すか……なあ、ちょっと頼みを聞いてくれないか?」
「ん?」
――――――――――――――
俺はミカの骨が入ったツボを手に取る。
「まさか、骨を壺の中に入れるとわな」
「骨壺って言うんだ。こっちの方がいいと思ってた。骨を砕くのは何だか可愛そうだったから」
「お前はそう思うのか。それをどうするんだ?」
「ここに埋めてもいいか?」
そう言って俺はガルアの城の庭を指差した。
「いいと思うぞ。ガルア様には後で言っておく」
「そうか、ありがとな」
俺は穴を掘って骨壺をその中に入れた。
そして、石を見つけてその意思に魔法で名前を掘ってそこに指した。
それは日本では馴染み深いお墓そのものだった。
「なんだこれ?」
「お墓だよ。ここに居るって言う意味があるんだ」
「魂は残り続けるってことか?なるほどな、よくこんなもの思い付いたな」
「何となく、死んでる実感がわかないからさ」
「確かにな」
俺はその墓に手を合わせる。
「それはなんだ」
「えっと、お墓に来たらする作法みたいな?」
お墓参りとか言ったことないからちゃんとした意味知らないんだよな。
「そうか、お前なんか色々考えてるんだな」
「別にそんなんじゃないよ」
「あっ!そうだ、お前に渡したい物がある」
そう言って懐から本を取り出す。
「なんだそれ?」
「ミカの日記だ。ミカの部屋にあった。これをお前に貰って欲しい」
「俺なんか貰っていいのか?」
「言っただろお前に持っててもらいたいんだ。俺は1度ミカを憎んでしまった。そんな奴がこれを見る資格はない。見なくても別にいい、処分はお前に任せる」
「そうか………」
ミカの日記か………本当に死んじゃったのか。
あの笑顔もあの姿もあの声ももう2度と聞けないし、見れないんだよな。
「かつ?」
「っ!すまん!俺もう行くよ!」
「お、おい!」
俺は懐に日記をしまう。
「ハイト、俺はもう疲れた」
「……………」
俺はその場の空気に耐えられずに慌てて言葉を発する。
「ミカの遺志を継げるのはお前だけだ。頑張れよ」
「お前も何かあったら言えよ」
俺はハイトの言葉を聞いてその場から去った。
――――――――――――――
「ただいまー!」
「かつ!お帰りー!!」
「何だ?何やってるんだ?」
家に帰ると何やら皆忙しない様子だ。
するとリドルがいつになくテンションが高い様子で話しかけてくる。
「お疲れさま会ですよ!」
「主役が来たのじゃ!早く始めるぞ!」
「ダメだよ、デビッち!まだ、牛乳プリンが出来てないから!」
「早く座って!料理はこれからバンバン作るから先ずは乾杯しましょう!」
そう言って俺達は急いで椅子に座る。
先にテーブルには飲み物が置いてあり、皆それを手に取るとこちらに注目を集めてくる。
「ほら、かつリーダーなんだからよろしく」
「お、おう。えーっと、皆さん色々ありましたが終わりよければ全てよしと言うことで」
「かつっち固いよ!」
「もうちょっとさっと出来んのか」
「う、うるせえな。えっと、まあとりあえず乾杯!!」
「「「「かんぱーい!!!!」」」」
こうして俺達は1日中ばか騒ぎしながらパーティーを楽しんだ。
そしてパーティーが終わるとそこには疲れて眠ってしまった皆の姿があった。
「ぐーぐー………」
「むにゃむにゃ……お腹いっぱい……」
「すぅ………」
「皆寝ちゃったわね」
「そうだな」
俺はソファーに座りながらこの日の出来事を振り返っていた。
「色々あったわね」
「そうだな………本当に色々あった」
まるで何年も経ったかのような疲労感と達成感があった。
それが段々と強くなっていき、何かが押し寄せてくる。
「………なあ、ミノル」
俺は思わず頭をミノルの肩の方に寄せる。
それに驚いたのか、ミノルの肩が一瞬跳ねる。
「どうしたの?まさか酔ってるんじゃ――――」
「泣いてもいいか?」
「っ!………ええ、好きなだけ泣いていいわよ」
そう言ってミノルは俺を抱き締める。
その温かさと優しさに今まで溜め込んでいた様々な物が一瞬で溢れ出た。
「うぐっうぅ…………」
俺はミノルの胸の中で泣き続けた。
こうして、この日は幕を閉じた。




