その二十四 地獄の儀式
イナミはゆっくりと王の席に向かう。
「あの……すいません」
イナミは異様な雰囲気に畏縮してしまい、腰が低くなってしまっている。
その声に気づいたガルアがイナミに話しかける。
「あっイナミか。鏡で見てたぞ。マイトを連れてきてくれたみたいだな」
「ガルア様!」
その瞬間、イナミは膝をつく。
「はい。今休憩室で休ませております」
「そうか。ていうか、そんなかしこまんなくて良いぞ。堂々としてろ、十二魔道士なんだろう」
「はい」
そう言ってイナミは膝を付くのをやめて立ち上がる。
それに満足したガルアはシンラの方を指差す。
「シンラはあそこに座ってるぞ。挨拶してきたらどうだ?」
「はい、そうさせてもらいます」
そう言って、イナミはシンラの元に行く。
そこには一切の笑顔を絶やさずにこちらを見つめるいつものシンラが居た。
それを見たイナミは一瞬安堵するも、これからの自分のすべきことを思い出し気を引き締める。
「シンラ様……俺……」
「よく、やりましたね」
そう言ってシンラはイナミの頭を撫でる。
「っ!……はい!」
優しいぬくもりを感じ、気を張っていたイナミの緊張は途切れ、今までの思いが一気に涙と共に溢れ出す。
「イナミなら出来ると思ってました。まだ戦うのですね」
「仲間が残っているので」
涙を拭いてもう一度シンラを見つめる。
その表情に満足したシンラはいつもよりも優しい笑みを見せる。
「引き続き自分を仲間を信じるのですよ。心配する必要はありません。自分の全力を出してきなさい」
「はい!!」
シンラはイナミを送り出すと、イナミは最高の返事をして戦う覚悟を決める。
「あっおい!ちょっと待て!」
すぐに現場に戻ろうとした時、カノエに話しかけられる。
「はい、何でしょうか。カノエ様」
「あーエングとサザミの様子はどうだった?」
「ああ、それは――」
「ちょっと待て!」
すると、ムラキが突然話に入ってくる。
「ムラキ様!?どうしたんですか」
「サラとガイの様子も教えろ!」
「おい、ムラキ!俺の方が先だぞ」
「うるせえ!早く教えろ!」
三人の容態を気にかけたカノエとムラキは、目の前で喧嘩を始める。
自体をすぐに収集させるためにイナミはすぐに前程見た様子を伝える。
「えっと……エングとサザミとガイは俺が見た時はまだ寝ていました。サラは鏡を見ていて、おそらく再び戦場に戻ることは無いと思います」
「っ!?ちっ!」
すると、ムラキはイナミを突き飛ばして休憩室に向かっていった。
「……あいつも労る気持ちってのを持ってるのかもな」
「はあ………」
『最初から見に行くのなら聞かなきゃいいのに』
イナミは内心そんな事を思うが口には出さないことにした。
「もう行くのか?」
「はい、皆が戦っているので」
「腑抜けにはどうやらならなかったみたいだな」
「え?」
するとカノエは力強く親指を突き立てる。
「任せたぜ。この島の命運はお前らに掛かってるんだからよ」
「め、命運…………」
改めてことの重大さに気付き、緊張が走る。
それを察知したのかカノエはイナミの背中を思いっきり叩いた。
「いたっ!?」
「ガハハハ!そう固くなるな!思いっきり暴れてこい!」
「っ!はい!」
そう言ってイナミは王の席を後にした。
「奴らに賭けてみるか。なあ、ガルア」
「俺は最初からそのつもりだ」
―――――――――――――――――――
そして、ミノル達はデビを気を引くためにそれぞれのやり方でモンスターを集めた。
30分後………
「よし!大分集まったわね」
そこには大量のモンスターの死骸が山積みにされていた。
「これならデビさんの気を引けそうですね」
「それで、どうすんのよ」
「何がー?」
「っだからそのモンスターの肉を気づかせなきゃ、気を引けないでしょ。かつが言った通り苦しんでるのなら、尚更気づかないんじゃないの」
「確かに、あんなに苦しそうにしてるなら気づくのは無理かもしれませんね。私なら苦しんでる時は周りを気にかけられませんし」
「それじゃあ、この肉無駄だったってこと」
そう言って大量の肉をメイは悲しそうに見つめる。
「いえ、有効活用しますよ。先ずは炙ります」
するとリドルは炎の魔法で肉を焼き始める。
ぱちぱちという音と共に香ばしい匂いが広がっていく。
「何か、すごい美味しそうな匂いがし始めたよ!」
「そういえば、私達戦い続きでご飯もまともに取れてなかったですね」
すると、誰かの腹の音が鳴り出した。
皆はその音の先に視線を移す。
「…………何よ。お腹が減ってるから勝手に鳴っちゃったの!何か文句ある!」
「いや、僕に言われても」
「意外と可愛いところあるのね」
「なっ!バカにしてるの!」
「ピンカさん、落ち着いて落ち着いて」
そう言ってナズミはピンカとミノルの間に入る。
「よし、これくらいで大丈夫ですね」
炎の魔法を止めると美味しそうな、匂いがお腹を空かせているみんなの腹を鳴らす。
「これが終わったらご飯でも食べに行きましょうか」
「そうですね」
「うん!私もお腹ペコペコさんだよ」
「お姉さま、私達も久しぶりに外食しましょうか」
「そうね」
「……………」
「ピンカさんも一緒にどう?」
ミノルが寂しそうにしているピンカを誘う。
「はあ!?なに言ってんのよ!あんたみたいな低級魔法使いと食事なんてするわけないでしょ!どっか行って!」
そう言ってミノルを追っ払おうとする。
「ごめんなさいね。低級魔法使いがお誘いしちゃって」
「まあまあ、落ち着いてください。焼き上がったのでさっそく始めましょう」
リドルは太い木の枝に刺さった焼き上がった肉を持ち上げる。
「でっどうするのよ。匂いで相手の気を引くき?」
「いや、もっと確実の方法があります。デビさんの意識がまだあるなら、僕達の声もまだ届くはずです」
「本当に届くんですか?」
ナズミは不安そうに尋ねるがミノルは自身を持って頷く。
「大丈夫よ。私達を信じて」
「仲間なんですよね。だったら信じますよ。ねっお姉さま」
「私には関係ない。出来るなら早くして」
「それじゃあ、誰かロックタワーをしてくれませんか?」
「は?どういうこと?」
「高い位置に居れば居るほどデビさんの目に止まりやすいですから」
「そうじゃなくて、どうして自分でやらないのよ」
「魔力が高い人の方が強度も高さもあると思うので、ぜひよろしければ十二魔道士の方の何方かにやってもらいたいのですが。出来れば強い方に」
そう言って3人の十二魔道士は目を合わせる。
「しょうがないわね。私がやってあげるわよ」
「え?」
そう言って誰も言ってないのに、ピンカが名乗り出た。
「それじゃあ、ピンカさんよろしくお願いします」
ミノル達はそれぞれ肉を持ち始める。
「準備はいい?って何乗ってんのよあんた」
ミズトがミノル達と同じように魔法陣の上に乗る。
「盾役が必要でしょ。あいつの攻撃は私が防ぐわ」
「あ、ありがとうございます」
ミノルのお礼の言葉を無視してるのか、目を合わせずにずっとデビの方を見る。
「じゃあ行くわよ!ロックタワー!」
その瞬間、巨大な岩の塔がミノル達を上に運ぶ。
「よっと!ピンカ!皆!戻ってきたよ!」
その時ちょうど会場から戻ってきたイナミが駆け寄る。
「あれ?あんた帰ってきたの?」
「え?なんなのその反応。せっかく来たのに」
「私達は援護係とロックタワー係よ。魔力が失くなりそうになったら交代よろしく」
ピンカは特にそれ以上言うことなくあっさりとした態度を見せる。
それを見て、イナミは若干落ち込むもすぐに切り替えることにした。
「えー……もしかしてナズミも?」
「はい、私も待機です」
「頑張ってもらうしかないかあの人達に」
――――――――――――――――――
4人は苦しそうにもがいてるデビを見据える。
ロックタワーによりデビとの身長差は胸辺りまで来ている。
「それじゃあ、早速始めましょうか」
そう言って肉を見やすいように上にあげる。
「すぅーデビちゃーん!!ご飯よー!!」
「デビさーん!!こっちに来てくださーい!」
「デビっちー!!早く来ないと食べちゃうぞー!!」
「っ!アア………」
大声と匂いでデビの注意を引こうとする。
すると、デビがこちらに気づいたのかゆっくりと肉の元に向かう。
「よし!上手く言ったみたいね」
「後はかつさんの合図待ちですね」
「かつっち大丈夫かなー?道に迷ったりしてないかな?」
「多分大丈夫だと思いますけどね」
――――――――――――――
「はあ……はあ……どこに言ったんだ」
俺ずっとクラガを探していた。
だが、一向に見つかる気配がなかった。
「くそ!早く見つけないと行けないのに!」
俺はなるべく早くだがよく周りを注意して探しているが、一向にその姿を見つけることが出来ない。
「こんだけ探しても居ないってことはもしかしてもうここに居ないのか?いや、それはない。クラガはこの作戦に全力だった。そんなやつが最後まで見届け無いはずがない!」
だったら、奴は何処にいるんだ?
クラガ目線になって考えるんだ。
クラガだったら今どこにいる?
「この景色を最大限楽しむためには全体を見渡せる所がベストだ。だとしたら高い所に居るのが良い。なら一番高いところそれは………何処だ?」
やばい、この島の地図事情を完全に把握してなかった。
「くそっ!上に居るはずなのに!」
「ああ、そうだ」
その時、上空から声が聞こえてきた。
「っ!?がっ!」
咄嗟に上を向いたその瞬間、手首を拘束され地面に顔を押し付けられる。
しまった、捕まった!
「皮肉なものだな。俺よりも遥かに素早い貴様がこうも呆気なく後ろをとられるとわ。焦りは視野を狭くする。焦りは禁物とはよく言ったものだ」
「いっいつの間に……ずっと着けてたのか」
「いや、たまたま木の上に居てお前を見つけたからな。俺を探していたようだが、わざわざ殺されに戻ってくるとは、貴様はバカなのか?」
そう言って俺の腕を強く引っ張る。
「いっ!いでででで!!」
「ん?何だ、まだ腕の怪我が治ってなかったのか。回復のポーションは持ってないのか?」
そう言いながら折れている腕を強く握る。
「ぐっ!?や、やめろ!」
こいつ、なんて悪趣味なやつだ。
「ふっ痛そうだな。安心しろ殺したりはしない。どちらにしろもうすぐ死ぬしな」
「本当に出来ると思ってるのか!地獄のゲートを完全に開けると」
「ああ、今はあの悪魔が抗っているが時間の問題だ。本能に負ければ奴は地獄のゲートの解放をし始める。そうなれば誰も止められない」
「本当に方法は無いのか」
「あるぞ。あの悪魔を殺すことだ」
「っ!?」
クラガは俺がそれを出来ないことを分かっていながら、殺す選択肢を俺に提示した。
俺を嘲笑うかのように、その男は俺を見る。
「だが、貴様は無理だろうな覚悟を決めたところであの悪魔を倒せる術はない」
「倒せなくても救う術はある」
「何だと?」
「俺が必ずお前の野望を阻止する。例えそれが間違っていたとしても」
「なるほどな、だから俺を探していたのか」
「………………」
まずいなこの状況、腕が折れてなきゃ何とか振り払えたんだけど、これじゃあこいつを誘導できない。
魔法も出せないから位置を知らせられない。
何とかしないと俺の行動が鍵なのに。
「ガアアアアア!!」
その時、デビの方向が響き渡る。
「っ!?何だ!」
「そろそろだな」
――――――――――――――――
「デビちゃん!暴れないで!」
デビは苦しそうに腕を振り回している。
「まずいですよ!意識が消えかかってるのかもしれません!」
「自我が失ったら何をするか分からない。呼び掛けを休まずし続けましょう!デビちゃーん!!気をしっかりもって!」
「デビっちー!!前にデビっちのお菓子食べちゃったのまだ怒ってるのー!代わりのかつっちのお菓子あげたじゃん!」
「あれメイさんだったんですね。かつさんすごい怒ってましたよ」
「アアアァアァア!!」
その瞬間、デビがミノル達に向かって拳を振り下ろす。
「魔剣岩式!岩砕!」
ミズトが間に入りデビの攻撃を弾き飛ばす。
「っ!?ミズトさん!」
「ありがとうございます」
「この塔はもうダメ」
「え?―――きゃっ!?」
その瞬間、乗っていた岩の塔が崩れる。
「リフトタイフーン!」
真っ逆さまに落ちそうになった時、リドルは風の魔法で皆を飛ばす。
「ロックタワー!」
その隙にピンカは再び岩を作り直す。
それに皆は再び乗る。
「グガガガガ!!」
奇声をあげながら、デビは苦しそうに腕を振り回す。
次の瞬間、地面を拳で殴った。
「嘘っ!?」
強烈な衝撃は地面に伝導していき勢いよく裂ける。
それにより下にいるピンカ達の足場も不安定になる。
「ピンカさん!動かないで!ロックガン!」
「アブソリュートフリーズ!」
ピンカを安全な岩の上に乗せ、氷の魔法で亀裂を防ぐ。
「ちょっとこれまずいんじゃないの。そろそろあいつの意識がなくなりかけてるんじゃない」
「信じよう。まだ負けた訳じゃない」
デビは意識を失いかけてるのか攻撃が激しくなってきている。
完全にデビが悪魔になるのも時間の問題だった。
「かつ!早くして!じゃないと取り返しのつかないことになる!」
「面白そうだね」
その時、何処からか声が聞こえた来た。
その姿を先に捉えたのはミズトだった。
見つけた瞬間、警戒心をむき出しにして魔剣を向ける。
「あなた誰?」
「俺?俺は黒の魔法使いのラルダ。そして、悪魔でもある」
「黒の魔法使い!」
その瞬間、ミズトはラルダに向かって飛び出す。
「ミズトさん!駄目!」
「魔剣水式―――」
「何?お前」
「っ!?」
すると、威勢よく飛び出していったミズトがラルダの威圧により体が勝手に震え出す。
『なぜ?手が動けない、攻撃できない。まさか、体が怯えているの』
「くっ!」
ミズトは急いでラルダから離れる。
「ミズトさん!大丈夫!?何かされてない」
「大丈夫よ」
「顔色も悪いですし、汗もびっしょりですよ。本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫って言ってるでしょ」
「中々面白い展開になってるね」
そう言ってラルダはケタケタと笑う。
「はははっ君達も中々頑張ってるみたいだけどさ。こちらとしてももっと派手な展開を来てるしてるんだよね」
「何する気?」
「こうするの」
ラルダが指を弾いた瞬間、デビに雷が落ちる。
「―――――――っ!?」
「っデビちゃん!!」
すると、次々と雷の雨がデビに襲いかかる。
その度にデビは悲痛な叫び声をあげる。
「あはははっ!あっはっは!!」
ラルダは嬉しそうに高笑いをしながら雷を落としていく。
「やめて!もうやめて!!」
「やめないよ!ここからが面白くなるんだからさ!!」
「グガァァアアアア!!」
「くっ――――デビさん!!」
「デビっち!この………デビっちをいじめるな!!」
「駄目よ!メイ!落ち着いて!」
そう言って今にも飛びかかろうとするメイをミノルは押さえる。
「ミノルさん……あれを見てください」
「え?………嘘あれってデビちゃん?」
そこにいるのは先程よりも邪悪オーラを纏った、悪魔その物だった。
「これで完全に奴は落ちた」
「ヴヴヴヴゥゥゥアアアアっ!!」
その瞬間上空に謎の黒い球体を出現させる。
そして、それに呼応するかのように各地にあるゲートがその球体に集まる。
すると球体に赤い目玉が出現する。
「さあ、ここからが本番だ!始めようか地獄のゲートを解放する儀式を!」




