その二十一 ミズトの許し
少し前のこと………
「な、何だあれは!」
イナミは突如現れた巨大な悪魔の姿を見て、思わず腰を抜かす。
「あ、あんな化け物が居たなんて………もしかして、あれも黒いモンスターなのか!?だとしたら、大変だ。今の俺じゃどう頑張ってもあいつは倒せない!」
イナミはすぐに2人の元に駆け寄る。
「ピンカ!マイト!大変だ!早く起きて!」
「ん?うぅ……はっ!奴は!?」
ピンカは意識を取り戻したのか飛び起きて辺りを見渡す。
「何とか倒したよ。2人が無事でよかったよ」
「は?倒した?イナミが?」
「うん、魔力の限界を超えられたからね」
するとピンカは頭を抑えると何度も首を降る。
「……だめ、まだ頭がぼーっとしてる。まさか、イナミが勝つなんて事あるわけないのに」
「え!?いや、本当に倒したんだよ!ほら、あそこに倒れてるだろ!」
そう言ってアルバが倒れてるところを指差す。
その方向に視線を向けたピンカはさきほど変わらない視線でイナミを見る。
「居ないじゃない」
「え?あれ!?何でいないんだ!」
先程倒れてた所にアルバの姿はなかった。
「冗談もほどほどにしときなさいよ。何か、色々あって逃げ出したんでしょ。そんなことより―――――っ!なに、この叫び声!?」
大気も揺れる砲口により、イナミ達は思わず耳を塞ぐ。
「急にやばいモンスターが現れたんだ!ほら、あそこ見て!」
ピンカはイナミの言われた通りに空を見上げる。
そこには凶悪な顔をした悪魔が暴れていた。
「イナミ、マイトをおんぶして」
「え?」
「倒しに行くって言ってんのよ!早くして!」
「え!本気!?あんな化け物の相手を本当にするき!?」
そういいながら、イナミはマイトを背負う。
「当たり前でしょ。あんただけに頑張らせるわけにはいかないし」
「っ!それって………」
「いいから!さっさと行くわよ!」
「うん!」
そうして3人は悪魔化したデビを倒しに向かった。
そして、その頃アルバは…………
「はあ、はあ、危なかった。あともう少し魔法を受けてたら死んでたな。がはっ!?」
身体中血塗れで疲弊しきった体を支えるように木に手を掛けながら歩く。
「だけど、タイミングはバッチリだった。げほっ!はあ……デビを悪魔にすることに成功したみたいだし。作戦は完了って事か……」
そう呟きアルバは静かに木にもたれ掛かった。
その頃ミズト、ナズミは悪魔に向かって走っていた。
「お姉さま!あのモンスターは一体何なんですか!」
「分からないわ、でも同じ臭いがする」
「同じ臭い?」
「ええ、あの禁断の魔法を使ったスイと………もしかしたら、誰かが禁断の魔法を使った可能性がある」
「禁断の魔法をですか!?確かにあのモンスター、異様な雰囲気を纏っていますね。もし、そうだとしたら早く倒さないと!」
「早速やるわよ。ナズミ、風の魔法で私を飛ばして」
「分かりました!頑張ってくださいお姉さま!リフトタイフーン!」
そして、現在に戻る。
「皆さん!落ち着いてください!席を立たずにその場に居てください!決して動かないでください!」
会場は悪魔化したデビの影響で鏡は割れて、会場全体が揺れている。
それにより、観客はパニックに陥ってしまった。
「おい、お前ら!静かにしてその場で待機しろ!」
ガルアの一言により、パニックに陥っていた観客は静まり返る。
「この会場は俺達が必ず守る!観客に怪我は絶対にさせない!今、付近にモンスターが出現した!その影響で会場が揺れているが、この会場が壊れることは絶対にない!絶対だ!そして、この会場は今この島1安全な場所だ!なぜなら、俺達王が全員集まっているからな!だから、安心しろ!モンスターも十二魔道士が必ず退治する!だから、モンスターが倒されるまで1歩も動くな!」
ガルアの指示により、皆安心したのかその場から動こうとしてた者は誰1人居なくなった。
「モンスターの出現?おいおい、俺の経験上この会場を揺らすって事はかなり近くに居るんじゃないか。もしかして、街に入ってるって可能性もあるぞ。もしくは災害レベルのモンスターが出現したかだ。この会場からは姿は見えねえし、かなり遠くに居るのにここまで被害が出るってことは災害レベルの指定凶悪モンスターの可能性が大だな。もしかして、ミノル達が居なくなった理由と関係があるのか?」
「そこの人、さっきからぶつぶつと何言ってんだ?」
「あっ!気にしないでください。単なる独り言なんで」
そう言って、サキトは席を立った。
「あっ!ちょっとお兄さん!席を立ったら駄目だよ!お兄さん!」
「俺の経験上、これは何かが起きている。情報屋として調べるわけにはいかないよな」
その頃、かつ達はデビの姿を戻すためにデビの元に向かっていた。
「かつ!デビちゃんの所に向かってもどうするか考えてるの?」
「ああ!でも、その前にミズトを止めないと!」
「ちょっと待ってください、かつさん!」
すると、リドルが俺の右手を掴んだ。
「いっ!?な、何すんだよ突然!」
「すみません、袖口から血が垂れてきていたので」
リドルの言われた通り、ローブの袖を見ると血が染み付いて居た。
「ああ、そういえば、腕が折られてたの忘れてた」
「かつっち、それ忘れちゃ駄目だよ!バイ菌入っちゃうぞ」
「やっぱり、何かあったのね。そういえば、ミカちゃんの姿も見えないけど………」
そう言いながらミノルは心配そうに辺りを見渡す。
ミカの事はきちんと言っておいたほうがいいよな。
「ミカは………死んだよ。勇敢に戦ってた」
「っ!?そう……なのね。立派に戦ったのね」
ミノルは目に涙を浮かべるがそれを拭い気を引き締める。
今は悲しんでる時間はない、そう自分に言い聞かせているのだろう。
「かつさん、回復のポーションは持ってないんですか?」
「ああ、確かポケットに………っ!」
その時、ポケットに入れた左手に痛みを感じ、すぐにポケットから手を出す。
「どうしたの?」
「手のひらが切れた。もしかして………」
俺はローブを脱ぎポケットを裏返して中身を出す。
すると、何かの破片がポケットから出てくる。
「これは……瓶の破片ですか?」
「回復のポーションの瓶だろうな。戦ってるときに割れたのか。これじゃあ折れた腕はすぐには治せないな」
「かつっち!かつっち!何かまだ入ってたよ!」
そう言ってメイは指ぬきグローブを取り出す。
「あーそういえば前にコロット村に居た女の子から貰ったんだった」
「付けておいた方がいいですよ。幸い回復のポーションが染み込んでいますし、手のひらの傷が治るかもしれませんよ」
「そうか、なら付けるか」
「腕、こっちに貸してください」
「ああ……」
リドルの方に折れた腕を差し出す。
すると、リドルが腕を枝で固定して包帯を巻く。
「うっ!」
骨が動き正常な位置に無理やり戻されている感覚になる。
ガチガチに固定された為、腕を曲げることすら出来なかった。
「これで多少は痛みが緩和されると思います。その場しのぎではありますけど」
「すまないな、リドル。相変わらずこう言うの得意だよな」
「色々やってましたから」
「グアアアアア!!」
すると、デビが突然苦しそうに叫び出す。
「うおっ!?何だ!?」
「大変大変!!あの人凄いばっさばっさしてるよ!」
すると、ミズトがデビに向かって何か攻撃していた。
「あれは魔法なんでしょうか?何か細長いもので攻撃している見たいですが」
「とにかく、早く止めるぞ!」
デビの危機を救うため再び走り出す。
すふと近くで人影が見えた。
ん?あそこに誰かいる?
「ナズミ!?何でこんな所に居るんだ!」
「絶対さん!大変なんです!絶対さんも手伝ってください!」
そう言って慌てた様子でデビの方を指差す。
「聞いてくれ、実は――――」
俺はデビのことについて説明した。
一通り話しを聞き終えたナズミはなんとも言えない表情でデビの方を見る。
「そうなんですか。あれが絶対さん……仲間」
「元々はあんなんじゃないんだ。黒の魔法使いに強制的にあの姿に変えられて、助けたいんだよ!」
「……あなた達も絶対さんのお仲間なんですか?」
そう言って後ろにいるミノル達を覗き見る。
「ええ、私はミノル」
「僕はリドルです」
「私はメイ!よろしくね!」
「よろしくお願いします。ここに絶対さんのお仲間がいるのはあえてここでは追求しません。あの元デビさんをどうするのか。何か方法があるんですか?」
「ああ、だからミズトに攻撃をするのはやめて貰えないか」
「分かりました。絶対さんは嘘つきですが、今は信じます」
そう言って空に魔法を撃った。
「っ!」
ナズミの魔法に気づいたのかミズトが下に落ちていく。
あれ?これ普通に落ちてないか?
「――――雨降らし!」
その瞬間、無数の斬激が地面にぶつかり落下スピードを和らげ、何食わぬ顔で地面に着地する。
こ、この人なんて乱暴な。
「あなたも来てたの。それと……あなた達は誰?」
何だあの刀みたいな形をした物は?
水の様にゆらゆらとしていて形を成して無いような気がするけど。
「私はかつの仲間よ」
「なぜ、かつの仲間がここにいるの?」
「黒の魔法使いを倒しに来たの。でも、今はデビちゃんを元に戻したいの」
「デビちゃん?もしかしてあの悪魔の事を言ってるの?」
「デビッちは悪魔じゃないよ!私達の仲間だよ!」
「どっちでもいいわ。邪魔だけはしないで」
そう言ってミズトは再びデビに攻撃をしようとする。
「ちょっと待て!デビには攻撃をしないでくれ!」
「ナズミ、早く私を飛ばして」
こいつ、俺の話を無視する気か。
「お、おい!それで普通いくか!?」
「お、お姉さま……」
「何してるの、ナズミ。早くして」
「ちょっと待ちなさいよ!」
そう言ってミノルはミズトの肩を掴む。
それをしたことでミズトが不機嫌そうに眉をしかめる。
「何?私に何か用?忙がしいんだけど」
「ちょっと待ってって、言ってるのが分からないの?」
「なぜ私が待たなきゃいけないの」
「っ!仲間を助けるって言ってるの!」
「私には関係ない」
「なっ!?あなたねえ!」
「ミノルさん、落ち着いてください」
今にも喧嘩になりそうなので咄嗟にリドルが間に入る。
そうすることで先程よりも落ち着いた声色でミノルは答える。
「リドル………大丈夫、落ちついたわ」
「手、離してくれない?」
ミノルは言われた通りに手を離す。
すると、ミズトは再び話を聞かずにデビの元に向かおうとする。
「ミズト!聞いてくれないか!お願いだ!」
「…………………」
「デビは俺の大切な仲間なんだ。必ず被害が出る前に元に戻して見せる。だから、俺達に任せてくれないか?頼む!」
俺はミズトに向かって精一杯の土下座をする。
とにかく今はなりふりかまっていられない。
デビを救えるのなら何だってすると?。
「私達からもお願いするわ」
すると他のみんなも土下座をする。
「お前ら…………」
「…………みっともないからやめて」
冷たい声色が俺達に向けられる。
「………ミズト」
駄目なのか?
「必ず被害を出す前に何とかして」
「っ!分かった!ありがとな!」
納得してもらえた、良かった。
これでデビが傷つけられる心配はなくなったな。
「よかったね、かつっち!」
「ああ、なんとかな」
「それで、元に戻す策ってのは一体なんなの?」
「それはな。魔力ガス欠作戦だ!」




