その十七 クラガVS絶対かつ
「いい目をしてるな。以前の怯えた目とは違う。殺意の籠った鋭い目付きだ」
そう言いながら、クラガも鋭い目付きでこちらに歩み寄る。
「俺は甘かった。心の何処かでは誰も死なずに勝てると思ってた。でも、誰も死なないなんてことある訳がなかった。だからもう俺は迷わない。お前を必ず殺す。例え俺が死んだとしても、殺す!」
その瞬間、俺は木に飛び移り、クラガを撹乱する。
「貴様にそんなことが出来るのか!お前のような甘い考えを持ったやつが本当に俺を殺せるのか!」
「やってみなきゃ分かんないだろ!」
俺は木に飛び移りながら魔法陣を展開する。
「どれもこれも低レベルの魔法だ。避ける価値もない」
クラガはその場から動かずに迎え撃とうとする。
「それなら、こっちはどうだ!」
魔法が放たれると同時に俺はクラガの懐に入った。
その時、クラガは既に予想していたのか迷いなく俺の顔面に拳を繰り出す。
だが、俺はクラガの拳を受け流してクラガの顔面を思いっきり殴った。
「っ!?」
クラガ自身も反撃されると思ってなかったのか、反応が少し遅れる。
俺はその隙に再び距離を取る。
「こんなもんかよ。ずいぶんと簡単に攻撃できたぞ」
「貴様っ!」
「お前こそ甘いんじゃねえか。俺を昔のままだと思ってたら、痛い目を見るぞ!」
「………なるほど、よほど死にたいようだな」
「っ!?」
その瞬間、今までに感じたことのない殺気が全身を襲う。
これが、黒の魔法使いのクラガの殺気、昔の俺だったら身動きひとつ取れなかった。
でも、今は違う。
俺はあいつのためにもクラガを殺さなきゃいけないんだ!
俺は決意と共にクラガの懐に一気に飛び込む。
「っ!」
さすがのクラガも俺の動きに反応出来ないのか、魔法を出すことは出来ず、受け身の姿勢になる。
『なるほど、体術の向上、気迫も以前よりも増している。精神的にも成長しているな。トガから聞いた修業とやらが俺の予想よりも、かつを成長させたか。かつの精神を折るために用意したあれは逆効果だったようだな』
くっ!こいつ、意外と出来るな、でもっ!
「もらったー!」
俺はがら空きになっている脇めがけて拳を繰り出す。
その瞬間、直感でここに拳を繰り出したらまずいという、野生の感が働き俺は思わず距離を取る。
「惜しかったな、後もう少しで死ねたのに」
そう言ってクラガは自身の右手を見せつける。
あの右手がやばい!
何かは分からないけど、あの右手には何かある。
オリジナル魔法か?
だとしたら、どんな。
「かつ!あいつはマナを吸い取るオリジナル魔法を持ってるよ!あの右手には気を付けな、あたいはこいつらと一緒にテレポートで先に戻ってるよ。後は任せた―――」
「俺がそう簡単に行かせると思うか?」
その瞬間、クラガはサラに近づきマナを吸い取ろうとする。
だが、目の前に突然魔法陣が出現する。
「インパクト!」
クラガはサラに近づくことが出来ずに距離を取る。
「今だ!早く行って!」
「すまないね、かつ。本当はあたいも一緒に戦いたかったけど、足手まといはごめんだからね。だから、情けないけど後は任せたよ」
そう言ってサラはテレポートした。
「これで心置きなく殺れるな」
「殺れる?殺られるの間違いじゃないのか?貴様が何故必死に戦う理由が分からない。自分の命を懸けて何のために戦ってるんだ?王のためか?」
「最初はな、でも今は違う」
「なら、何のために戦うんだ?」
「仲間のためだ!」
その瞬間、俺は10個魔法陣を展開する。
「何が仲間のためだ。そうやって仲良しごっこしてる奴から死んでいく。貴様がそれを1番分かってるんだろ」
「ファイヤーボール10連!」
すべての魔法がクラガに直撃するが、微動だにしない。
「死ぬのは嫌だろ。仲間の死を見るのはもっと嫌だろう。分かるよ、貴様も俺と一緒だ。自分よりも仲間を大切にする」
「ウィンド10連!」
強烈な突風が暗画を吹き飛ばそうとするが、微動だにしない。
「なら逃げれば良い。こんな血生臭い戦場から立ち去れば、そんな思いをする必要はない。貴様の仲間と悠久自適に過ごせば良い」
「ソイル10連!」
砂嵐を発生させて視界を悪くさせようとするが、その目は俺を離さない。
「悲しい思いをする必要もない。誰かを失う心配もない。大切な仲間と死ぬまで一緒に居られる人生に迷う必要なんて無いだろう」
「ウォーター……10連……」
その時、俺の手は止まった。
「これ以上ない破格の提案だろ。貴様に何故迷うことがある」
「そんなことが出来たら嬉しいよ。本当に心の底から願うよ。誰も死なないでずっと一緒に居られたら、どれだけ幸せか。そんなの分かってるんだよ。でも、逃げたら駄目なんだ!託されたんだ!だから俺は戻れないんだよ!前を行くしかないんだ!俺はお前を殺さなきゃいけないんだ!」
その瞬間、俺は魔法陣を展開する。
「逃げも隠れもしない。俺はもう迷わない。インパクト!」
「ちっ!ファイヤーバインツ」
お互いの魔法がぶつかり合いそして爆発する。
「自ら退路を断つとわな。貴様の覚悟、確かにもう後戻りは出来ないな」
そう言って魔法陣を展開する。
あの魔法はオリジナル魔法!?
あれがあいつのオリジナル魔法。
「これを見せるのは貴様が初めてだ。まあ、楽しめ」
その瞬間、謎の黒い球体が魔法陣から出現する。
「な、何だあれ?」
異様な雰囲気を纏った黒い球体がじっとこちらを見るように浮かぶ。
性質が分からない以上むやみに近づけないな。
「これは永久の闇、これに取り込まれれば2度と出てくることはない」
その瞬間、その球体が突如何かを吸い込み始めた。
「なっ!?」
徐々に吸い込む強さが上がっていき、周りの木が吸い込まれていく。
そして、飲み込まれれば2度と出てくることは無かった。
「ぐっ!まずい………」
踏ん張るも徐々に上がっていく吸引力に耐えられなくなっていく。
「インパクト!」
魔法を放った瞬間、その衝撃波ごと吸い込まれる。
「なっ!?何でもありかよ!」
くそっ!このままだと本当にまずい!
魔法も何もかも吸い込むってそんなのありかよ。
ていうか、これどうやって防ぐんだ!?
そうだ、ワープで逃げるしかない。
それなら逃げられるはず。
そう思いワープをしようとした瞬間、ふと頭に疑問がよぎる。
ワープも吸い込まれるとしたら?
そういえば、ワープしてる時って俺はどうなってんだ?
体が粒子状に分解されてるとか?
空気中のマナになってるとか?
それとも体の状態を保ったまま移動してるのか?
答えは分からない、分からないからこそ試すのは命取りだ。
ワープ中に吸い込まれたら抵抗することは出来ない。
「これは貴様が選んだ道だ。後悔はするなよ」
その瞬間、掴んでいた木が引き抜かれ体が宙にいく。
「おわっ!?うああああっ!」
体が黒い球体に吸い込まれていく。
「インパクト!インパクト!」
魔法は無情にも黒い球体に吸い込まれていくだけだ。
「くそっ!やるしかねえ!ワープ!」
頼む、成功してくれよ!
その瞬間、かつはクラガの横に現れる。
入る!
拳を握りしめてクラガへと振り下ろす。
「おりゃあ!」
「ライトニングアロー」
「くっ!」
切り替えによって繰り出される魔法にいち早く反応し、俺はすぐにその場から離れる。
「そうか、貴様にはその魔法があったな」
すると、黒い球体が消えた。
「この魔法は使用時間に限りがあって、1度発動すると10分程時間を置かなければならない。そして、こちらの魔法は右手のみ発動できる。対象者に触れることでマナを吸い取る事が出来る。吸い込んだマナは自らの魔力に変換できる。魔力がこれ以上増やせなかった場合、使うことは出来ない」
「急にどうしたんだよ」
「こちらの手の内を明かさないのはフェアじゃないと思ってな。じゃないとすぐに終わってしまうだろ?」
「お前舐めてんな」
「ここまで来たんだ。最後まで楽しもう」
そう言って右手に魔力が込められる。
「楽しんでる暇はないと思うぞ?」
「何だと?」
「お前はこれから俺に1撃も入れられないんだからよ」




