その十四 勝利の願い
かつがツキノを救う少し前の事…………
「くそっ!邪魔なんだよっ!インパクト!」
「グギャアッ!?」
その瞬間、モンスターの頭が吹き飛ばされる。
「はあ……はあ……ミカ何処に居るんだ」
かつはモンスターと戦いながらミカを捜索していた。
その頃ミカはミズト達と姿を変えたスイと対峙していた。
「気持ち悪いですね。もう、気持ち悪さの化身みたいな感じがします」
「どういう事なんでしょう。息の根は止めたはずなのに」
「そんなのどうでもいいわ。相手がどんな姿になろうとも、殺せば済む話よ」
そう言って魔剣を構える。
だがそんなミズトをミカは静止させる。
「いや、これはそう簡単な話ではない気がしますけど」
「おおおぉぉおおおおっ!!!」
そう雄叫びをあげると血塗れの腕を骨が折れるような音と共に伸ばしてくる。
「来ましたよ!」
「魔剣雷式……雷光―――っ!」
すると、腕が突然スピードをあげてミズトに襲いかかる。
ミズトはギリギリの所で腕をはじく。
「お姉さま!きゃっ!?」
その瞬間、体から生やした腕が次々と3人に襲いかかる。
「くっ!アグレッシブフルート!」
「ライトニングアロー!」
2人は魔法により腕を切断する。
「ぐあああぁぁああっ!!?」
その瞬間、耳をつんざくような不快の絶叫が森の中を響き渡る。
「うっさっ!?」
「うう………何なんですか」
その時、雄叫びと共に血を吐き出しながら腕が再生していく。
「腕が再生した!?」
「何かすごい痛々しいです。スイは生きてるんですか?」
「生きてなくても、動いてるんですから戦うしかないですよ。ていうか、何か臭くないですか?」
そう言って少し険しい顔をする。
「…………っ!2人共!すぐに口を閉じて!」
「え?もごっ!?」
その瞬間、ミズトはミカの口を手のひらで閉じる。
「魔剣風式……風神旋風!」
その瞬間、高速の剣捌きによって風が発生する。
それにより辺り一帯が先程よりもクリアになった。
「もごもごっぷはあっ!ちょっと!急に何するんですか!」
「お姉さまもしかして」
「ええ、毒霧よ。奴が吐く息が体に害を及ぼす毒が含まれてるの。さっき少しだけ目眩がしたから、もしかしてと思ってたけど、風で毒は吹き飛ばしたからしばらくは大丈夫よ」
すると、ミカがミズトをじっと見つめる。
「何よ」
「意外と優しいんですね。もうちょっと厳しいと思ってました」
「私は正しいと思ったことをしただけよ。それにこれ以上は構ってられないわよ。自分の身は自分で守りなさい、十二魔道士なら」
「はーい、分かってますよ」
そう言ってミズトは再び黙ってしまう。
それを見て、ミカは口を開くと人差し指を立てる。
「それじゃあ、私に1つ作戦があります。聞いてくれますか?」
「何ですか?作戦って」
「簡単なことです。長引かせるのが駄目なら速攻で仕留めれば良いんです」
ミカの話を聞き2人はその作戦を理解して早速行動に移す。
3人はぞれぞれ離れた場所に移る。
「それじゃあ行きますよ!作戦開始!」
その瞬間、風の魔法で素早く動き回り撹乱する。
「ああっ!ああああっ!!」
変化したスイは撹乱されたことによりその場で右往左往する。
「やっぱり!本能で動いてるから撹乱されれば混乱して手が出にくくなる!それじゃあ、行きますよ!ミズト先輩!」
「……………」
ミズトは無言で頷き息を合わせてスイを攻撃する。
「ぎゃあああああっ!!」
攻撃は直撃して悲痛の叫び声をあげながら、数本の腕を伸ばし攻撃しようとする。
「今です!ナズミさん!」
「了解です!霞の中の私!」
その瞬間、霧が辺りを包み込む。
「ごろす!ごろすごろすごろす!!」
奇声をあげながらスイを姿を見失ったためデタラメに攻撃を繰り出す。
「魔剣水式」
「ごろす!ごろ―――」
「滝登り」
伸びた水の剣をそのまま上に振り上げると、スイの首が地に落ちる。
「あなたはミュウラ様の事を哀れな王と言ってたけど、あなたの方がよっぽど哀れな人よ」
「が……ご……ろ………」
そして、スイはそのまま地面に倒れる。
「やりましたね!お姉さま!」
「ええ、あなたのお陰よナズミ」
そう言ってナズミの頭を撫でる。
すると、ミカが物欲しそうな顔でミズトを見る。
「あなたも感謝するわ」
「頭撫でてくれないんですか?」
「………………」
するとミズトがジト目で見家を見下ろす。
「冗談ですよ。そんな怖い顔しないでください」
「そう言えば、ミカさんのパートナーの絶対さんはどうしたんですか?」
「ああ、多分大丈夫ですよ。かつ後輩は仲間と一緒に居ますから」
「仲間!?十二魔道士じゃない方が来てるんですか?」
「ええ、でも大丈夫ですよ。モンスターには手を出してないみたいですから」
「そういう問題なんですか?」
「ナズミ今はそんなこと、どうでもいいわ。他の黒の魔法使いを殺しに行きま――――」
「危ないです!!!」
その瞬間、ミカは2人を突き飛ばす。
それにより二人はその場で尻餅をついてしまう。
「っ!?………痛い……あんた、何する………ミカ!!?」
ミズトがミカを見るとそこにはスイの腕が何本も貫通していた。
そこから血が滴り落ち、貫通した紫色の指が奇怪な動きで二人の方に向かっていた。
「がはっ!」
「ミカさん!」
スイの方を見ると切られた部分から新たな頭が生え出した。
「がっ………ライジングサンダー!」
その瞬間、ミカが魔法を発動させる。
「ファイヤーバインツ!ロックスタンプ!キルトルネード!」
ミカは腹や肩を貫通された状態で休まず攻撃をし続ける。
その時、未だに呆然として動けてない二人に声を荒げる。
「何してるんですか!攻撃してください!腕は私が止めておきます!だから、早く!」
「でも……ミカさん……このままじゃ」
明らかにミカの状態が悪く、ナズミは震える声を出す。
だが隣りにいたミズトは奥歯を噛みしめるとすぐに立ち上がる。
「やるわよ。ナズミ」
「でも!」
「早くあいつを殺してミカを助ける。私達が出来ることはそれだけ。あいつは頭を切っても死なない。なら、残るは心臓だけ。私が心臓を刺すからナズミは頭を切りなさい」
「分かりました」
「早く済ませるわよ。絶対にミカを死なせないわ」
「はい!」
その瞬間、2人は一気にスイに迫っていく。
「ミカが防いでくれてる腕は絶対に切っては駄目よ!腕が再生してミカが作ってくれたチャンスが無駄になる!」
「分かってますお姉さま!アイスアロー!」
氷の矢がスイの腕に突き刺さる。
それにより木に固定され凍りつき固まる。
「ごろすーーーぁぁあああああっ!!!」
「さっきから殺す殺す、うっさいですよ!さっさとくたばりやがれ!アグレッシブフルート!」
『何故ミカは体に手が貫通してるのに、魔法を出せるの。何で死の間際まで攻撃を止めないの。あなたの突き動かす意志は一体何なの。でも、これだけは分かる。ミカ、あなたはまだ死ぬには早すぎる!』
「さっさと死ね!魔剣光式………彗星突!」
光の速さでミズトの剣は心臓を突き刺す。
だがそれは貫通することなくその場に留まる。
「っ!?硬い………」
『さっき切った時とは違う感触。先程よりも固くなってる』
「くっ!」
ナズミは空中に魔法陣を3つ展開させる。
『最速の光の剣でもまだ切れていない。てことは体の固さが上がってるんだ』
「これで切れろ!シャイニングトリプルビーム!!」
その瞬間、3つの光の光線がスイの首を一点集中する。
「なら、もう一度!彗星突!」
ミズトはその場で素早く腕を引いて心臓へと突き指す。
「「はああああっ!」」
その瞬間、心臓が貫かれ光線が首を消滅させた。
「……………っ!!」
首が消えたことで叫ぶことは出来ずに苦しそうに暴れまわる。
「きゃっ!」
ナズミは無差別の攻撃により吹き飛ばされる。
「くっ!」
サラはスイを殺すために心臓を刺した剣を握りしめ離れずに踏ん張る。
すると、首が消滅した部分から血が吹き出し新たな首が生えてくる。
「ごろず!ごろず!ごろずーーー!!」
すると、体から新たな腕が生えてミズトの頭を掴む。
それでもミズトはその剣を離そうとはしない。
「ぐっ!」
「ごろずごろずごろずごろず!」
ミズトを丸飲みしようと口が裂ける。
「殺してみなさいよ。先に私が殺してやるから!」
その瞬間、更に剣を深く突き刺す。
「ごろす!ごろす!ごろ………」
すると、ミズトの顔を潰さんとばかりに込められていた手の力が弱まり、力なくその場に倒れた。
「はあ……はあ……死んだ?」
「ミカさん!ミカさん!」
ナズミはミカの体を支えていた。
貫通した腕は消滅し、貫通していた部分から血が大量に溢れ出す。
そしてミカの体は小刻みに震えていた。
ミズトも慌ててミカの元に駆け寄る。
「ミカ!大丈夫!」
「騒ぎすぎですよ。これくらい何て事無いですよ」
そう言いながら目の光が弱くなっていく。
「早く回復のポーションを飲ませてあげて」
「分かりました!」
そう言ってナズミはすぐに回復のポーションを取り出す。
「………っ!」
「え―――――」
その瞬間、目の前が血に染まった。
――――――――――――――――――
嫌な予感がした。
雄叫びが聞こえた。
それはこの状況において何気ない事なのかもしれない。
でも、俺には何故か不吉の予兆がしてならなかった。
「ミカ!ミカ!ミカ!!」
心の中で叫んでたつもりがいつの間にか声に出てしまっていた。
その時誰かの叫び声が聞こえた。
「っ!あそこか!」
俺はそこめがけておもいっきり駆け出す。
「ミカ―――――」
その姿を捉えた時ミカの体から血が吹き出した。
そして次の瞬間、ミカに駆け寄るミズトとナズミ、そして謎の不気味なモンスターがミカの心臓を握りしめていた。
あまりの現実味の無い光景に思わず固まる。
だが、ミカの倒れる姿を見た瞬間、自然と足が動いていた。
「ミカっ!!」
俺はすぐにミカの元に駆け寄る。
ミカはミズトに抱き抱えられていた。
「かつ………」
「おい、どうして……どうしてこんなことになったんだよ!ミカ!」
「…………かつ……こう、はい?」
弱々しい今にも消え入りそうな声で俺の名前を言う。
「ミカ?大丈夫か!待ってろ回復のポーションを飲ますから!」
「もう……駄目です……私は……だから……聞いてください」
「諦めないでください!今すぐ―――かつさん?」
「ミカの話を聞いてやろう」
「ガルア様には………居場所をくれて……ありがとうございます………と伝えてください………トガ先輩には……いつも困らせて……ばかりだったけど………最後まで面倒を見てくださりありがとうございます……尊敬できる先輩と伝えてください………そしてかつ後輩のパーティーの皆さんには……温かく迎えてくださりありがとうございますと伝えてください」
すると、ミカは震えながらかつの手を握る。
「そして……かつ後輩……最後まで一緒に戦いたかった……でも、私はここまでだから……後は任せます……私は皆が勝てると……信じています……何も心配していません………だからかつ後輩………そんな顔しないでください……まだ、終わってないんですから」
そう言ってかつの顔を優しく触る。
俺はその手をしっかりと掴む。
「かつ後輩……短い間でしたけど……楽しかったです………………」
そう言ってゆっくりと目を閉じた。
「ミカ……後は任せろ」
俺は握りしめたミカの手をおろす。
「ごぶっ!がぶっ!」
化け物は抜き取ったミカの心臓を丸飲みする。
それを見て、体の奥底から激しい怒りが沸き起こる。
「あの化け物がミカを殺ったのか………」
「そうです……ごめんなさい……私が油断したから」
「あいつは元黒の魔法使いのスイだ。禁断の魔法を使い今の姿になった。私がちゃんと対処出来ていれば、こんなことにはならなかった。すまなかった、かつ」
「お前らのせいじゃねえよ。悪いのはあいつなんだから」
思わず自然と拳を握る。
「ちょっと待て!!」
すると突然何処からともなくハイトが現れる。
「ハイト!?何でこんなところに居るんだ」
「ガルア様に呼ばれたんだ。お前も参加して来いってな」
「あなたは誰?」
「俺はハイトだ。一応十二魔道士に入ってる」
するとハイトがミカを見つける。
「そうか……間に合わなかったか」
そういうとハイトはしゃがんでミカの顔を見つめる。
「すまないミカ……後は任せろ」
次にハイトは夢中で心臓を食べている化け物へと変貌したスイの方を見る。
「なるほどそう言うことか……ここは俺に任せろ。お前らは他の黒の魔法使いを任せる」
「え?急に言われても」
「すまないなこれは決定事項だ」
すると、その瞬間ミズトがハイトに刃を向ける。
「勝手に現れて命令して何様のつもり。私はあなたに命令される筋合いはないし、私は私で果たさなきゃいけないことがあるの。部外者が首を突っ込まないで」
「俺はミカの元相棒だ。そして、こいつの遺志は俺が引き継ぐ。これで部外者じゃないだろ」
「そういう問題じゃ―――」
「それにお前の果たさなきゃいけないことはもう無いだろ」
「何?」
「スイを殺すのがお前の目的だろ。なら、それは達成されている。スイは死んだ、今目の前にいるのは醜い化け物だ」
「…………………そうね。あれはもうスイではないわね」
「お姉さま………」
するとミズトは剣を消した。
「すまない。ありがとな、かつもそれでいいか」
「ああ、逆に来てくれて助かったよ。来てくれてありがとな」
「………それはこっちの台詞だ。ミカと一緒に居てくれてありがとう。お前のお陰であいつは笑顔が増えたような気がする」
「そう言ってくれるとありがたいよ。それじゃあ、俺はもういくよ」
「ああ、そっちは任せたぞ。かつ、生きろよ」
「当たり前だ」
そう言って俺はその場から離れた。
――――――――――――――――――――――――――
その場にはハイトといつの間にか繭を作り出し、そこに閉じこもっている化け物しかいなくなった。
「ミズトとイナミは……いない……あいつらいつの間に。まあちょうどいいか」
ハイトは繭に閉じ籠ってるスイを見る。
その瞬間、繭が破られる。
「ぐがああああああっ!!」
元半獣とは思えないような奇声をあげる。
その姿はもうかつての半獣とは比べられないほど、見にくくおぞましい外見へと変わっていた。
「あれが禁断の魔法か。妙な奇声が聞こえたからラルダの方かと思ったけど、違ったか」
「ぐぎぅ!あああああっ!!」
繭から出たスイは頭が二つに避け、指の数がバラバラの腕が複数生えて、体は膨らんだり縮んだりを繰り返し、常に血が体中から溢れ出ていた。
「禁断の魔法を使おうとしたが、失敗したみたいだな。じゃなきゃ意識を失うことはないはず。禁断の魔法の呪文を唱えた後に息絶えたか、それにより体を乗っ取られたと考えた方がいいな。そうなると心臓を潰しても死にはしないか」
そう言ってハイトは懐から拳銃のような物を取り出す。
「ガルア様にいただいたこれを使うしか無いみたいだな」
『触れた瞬間マナを吸い取ると言われたけど、本当にそうなのか?』
「物は試しだな。このトリガーを引けば発射されるのか」
「がああああっ!」
すると、大きな口を開けて化け物が襲いかかってくる。
「じゃあな」
そう言ってハイトはトリガーを引いた。
――――――――――――――――
ミズトとナズミはあの場をハイトに任せて移動していた。
その時、ナズミがミズトに問う。
「お姉さま、よかったんですか?」
「ミカは私達を身を挺して守ってくれた。だから助けたかった」
その時のミズトの表情はいつもよりも目が潤んでおり、どこか遠くを見ていた。
「お姉さま………」
「命を助けられたのは事実、だからこそ彼女の遺言を尊重すべきよ」
「遺言ですか?」
「私達の勝利よ。行くわよ、こっちの方角から異常な魔力を感じるわ」
そう言うといつもの鋭い眼光のミズトに戻る。
それを見て、ナズミは力強く返事をする。
「はい!」
ミズトとナズミはミカの言葉を胸に前に進む。
そしてかつはクラガと対峙する。




