その十三 死なせない
「ミカー!何処だミカー!」
ミカが飛ばされた方向へと俺は走り続ける。
「くそ、一体どこまで飛ばされたんだよ。まさか、やられてないよな」
俺は少し不安に思いながらもミカを探し続ける。
その時、木々の間から何かが飛び出してくる。
「ミツケタゼー!」
「しゃぶり尽くしてやるよ!」
「くそ!まだモンスターが居るのかよ!インパクト!」
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「っ!この気配は………っ!」
「余所見……してると……倒す………」
「それは、すまなかったな」
そう言ってノータイムで魔法を繰り出す。
「…………っ!」
ツキノも同等の威力の魔法を放ち跳ね返す。
「やはり、限界を越えてる者はそう簡単には倒せないか」
「あたいも居ること忘れんじゃないよ!ポイズンレイン」
「問題ない」
そう言って風の魔法で毒の雨を全て弾き飛ばす。
「なっ!?」
「邪魔者はさっさと消えろ。グランドファイヤー」
業火がサラを襲う。
「っ!ハイソウルウィンド!……」
庇うようにしてツキノは魔法を放つ。
それにより直撃は避けて、炎がかききえる。
「………大丈夫……?」
「え、ええありがとう。て、あんた手が!」
先程の攻撃全てを弾くことは出来ず手が火傷していた。
「これくらい……大丈夫………」
「大丈夫ってあんた……そうだ!今回復のポーションを―――っ!?」
回復のポーションを取り出そうとした瞬間、光の矢がサラの手を掠める。
それにより回復のポーションの瓶は粉々に砕け散ってしまった。
「俺がそんなことをさせると思うか?」
「ちっ!」
「貴様らの考えることは手に取るように分かる。ツキノもそんな奴らはさっさと見捨てて俺に集中した方がいいぞ?その負傷もそいつを庇って出来た物だしな」
「見捨てない………私は………誰も……見捨てない……」
「そうか、残念だ。貴様とは良い勝負が出来ると思っていたんだがな」
その瞬間、サラに向かって魔法を撃つ。
「え?」
「…………っ!ロックスタンプ!……」
ツキノがギリギリの所で魔法を放ち何とか防ぐ。
「まだ終わりじゃないぞ。アグレッシブフルート」
鋭い切れ味のある風が一直線にサラの所に向かってくる。
「っロックタワー!……」
またもやサラを狙って魔法を撃つ。
「この男、私だけを狙って………」
「貴様が選んだ道だ。恨むなら自分自身を恨むんだな」
そう言って次々と魔法をサラに向かって撃つ。
ツキノはそれを必死にかばう。
「ツキノ!もうやめな!あたいは大丈夫だから!」
「……だ……め………っ!」
「足でまといが居るのは大変だな、ツキノ。そろそろ諦めたらどうだ?貴様の実力ならもしかすると俺を殺せるかもしれないぞ」
『不甲斐ない!自分を殺したくなる!ガイにあんなこと言っといてあたいはツキノに守られてばかりだなんて!でも、クラガの魔法の威力が尋常じゃない。限界を越えてると言ってたけど、それは本当みたいだね。私の魔法じゃ完璧に防ぐことは出来ない。クラガの言う通りこのままじゃ足手まといで終わっちまう』
「………うっ!……まも……る……」
「この程度か。所詮は貴様もあいつらと同じと言うことか」
その瞬間、今までよりも強い魔法陣を展開させる。
「さらばだ、哀れな魔法使い」
「ちょっと待てー!!」
すると何処からか魔法が飛んできてクラガに直撃する。
だがクラガはなんとも無い様子で放たれた方向に視線を向ける。
「くそっ!ちょっとは痛がれよ」
「ガイ!?あんた、大丈夫なのかい!?」
「回復のポーション飲んだから平気だ。それよりも、おいクラガ!お前、俺を無視してんじゃねぇぞ!俺はそこのツキノよりも強い!先に殺るなら俺からにしねぇと後悔することになるぞ!」
「貴様のどこが強いんだ?弱者の戯言に付き合ってる暇は無い。真っ先に死にたいのなら、望み通りにしてやるが」
そう言って魔力を高める。
「なめてると痛い目見るぞ。俺はまだ本気じゃねぇからな」
「分からないな。何故そこまで挑発する。貴様と俺の力量の差は明白だ。それが分からないほどバカじゃあるまい。勝てないと分かっているのに何故死に急ぐような真似をする。回復のポーションで回復をした後何故逃げなかった。何故俺に向かってくる」
クラガはガイの行動を理解できずに居た。
だがガイはそんなクラガの言葉を苛立つように大声で答える。
「何故何故何故何故ってうるさいな!そんなもん決まってんだろ!俺より上は要らねぇんだよ!」
「理解出来ないな」
「別に理解してほしい訳じゃねぇよ。ただ俺はお前を倒して俺が1番強いって証明しなきゃなんねえ」
「証明出来ると思うか?」
クラガはイラついて居るのか魔力をわざと分かりやすいように右手に溜める。
「出来ねぇ!」
「っ!なんだと?」
「正直今の俺じゃあお前を倒せない。そんなもん分かってる。でも、お前をここで倒せなきゃならない。だから、今は俺達でお前を倒す!今回はそれで我慢する」
その言葉を聞いてサラは笑みを浮かべる。
「そう言うことだね」
「サラ……危ない……」
「大丈夫だよ、ツキノ。守ってくれてありがとね。でも、守られるためにここに居る訳じゃないからさ。あたい達は生まれた場所は違えど今の目的は一緒さ。その目的を達成するためにもあたいの命2、3個懸けるくらい大したことないさ」
そう言ってサラは前に出る。
「分かった………私も………命を懸ける」
ツキノも覚悟を決めて構える。
三人がクラガに立ち向かう意志を示し、クラガはそれを受け入れるように見据える。
「そうか、なら早くかかってこい」
「行くぞ!ファイヤーバインツ!」
「ウォーターガチメント!」
ガイとサラは同時に魔法を出すがクラガは全く避けることをしない。
「貴様らの攻撃など―――」
「効かねぇだろ?」
「そんなことはわかってるよ。だからね。あたい達は攻めじゃない」
その瞬間、ツキノがクラガの懐に入る。
「っ!?」
「ライジングサンダー……!」
「ぐっ!」
ツキノの魔法によりクラガはダメージを受ける。
「ようやく苦しそうな顔見せたな、クラガ」
「貴様が攻撃した訳じゃないだろ」
「図星疲れちゃったね、ガイ」
「うるさい!」
「あたいらはサポーターに転じて攻撃はツキノに任せる。これがあたいらが今出来る連携だ」
「俺がぶっ飛ばしたいところだが、今回はツキノに譲ってやるよ」
「ありがとう………」
ツキノは優しく微笑むとすぐに距離を取って二人の元に戻る。
「どれだけやったところで、貴様らが勝てる未来などあり得ない」
「未来ってのは自分達で作るもんだよ」
「なら、俺が作ってやる。貴様らが負ける未来を!ライトニングアロー!」
サラに向かってクラガは魔法を放つ。
「アグレッシブフルート!ぐっ!」
威力を完璧に抑えることは出来ず肩に矢が突き刺さる。
「っ!サラ……」
「ツキノ!あたいのことには構わなくて良いよ!ツキノはクラガを倒すことだけ考えな!」
「おい、サラ!お前へばってる訳じゃないだろうな!」
「どの口が言ってるんだい!あたいはまだまだ行けるよ!」
「気合いだけでどうこうできる訳―――ちっ!」
その時クラガのすぐ近くで魔法が放たれる。
「余所見……しないで……さっきも……言った…………」
「ライジングサンダー!」
「ポイゾネススペアード!」
「ウォーターガン!………」
「ウォータースピア」
お互いの魔法がぶつかり合い消滅する。
『あの2人の魔法は恐れることはない。ツキノにだけ意識を向ければ良いが』
「ボルトリレース!」
「アイスクラッシュ!」
『この魔法が厄介だ。ツキノの姿をわざと見失わせるために死角を作るに来ている。そのせいで』
「スプラッシュネット!」
「ちっ!」
クラガはネットに捕まらない距離に飛ぶ。
「そこに………来るの……知ってた……ロックスタンプ………!」
「ぐっ!」
待ち伏せによりクラガは避けきれず、ダメージを負う。
『攻撃が避けずらい。徐々にダメージが蓄積されていく。黒の魔法使いも予想以上に劣勢になっているし、ここは早々に倒した方が良さそうだな』
「逃がさねぇよ!」
ガイとサラは次々と魔法を放ちツキノの魔法が当たるように援護する。
一瞬クラガを押しているようにも思えたが、段々と三人に疲労の表情が見え始めた。
「はあ……はあ……」
「くそっ……ふう……ふう……」
「…………………」
『ふっなるほど。思った以上に奴らの顔に疲れが見えるな。なら、少し誘ってみるか』
「サラ、後どれくらい行ける?」
「予想以上に魔法を使っちまったみたいだね。あまり長期戦は難しいかもしれないね」
「俺もだ。でも、クラガの方も結構疲れてるみたいだぞ」
「なら、あの作戦行くしかないね。ツキノ!」
そういうとアイコンタクトでツキノに指示する。
ツキノは無言で頷く。
「行くよ!アイスドーム!」
その瞬間、クラガが氷のドームに閉じ込められる。
「これくらいの氷の檻、簡単に壊せるぞ。いや、それくらいの事分かってるはずだ。なら、何か仕掛けて来ていると言うことか。なら、その作戦に乗ってやるか」
クラガは躊躇わずに氷を破壊する。
その直後目の前に魔法陣が出現する。
「じゃあな。レベル魔法!ギガボルテクスサンダー!」
「レベル魔法!ポイゾネスデーモン!」
2人のレベル魔法がクラガに直撃する。
「はあ……全部出し尽くしたぞ」
「あたいもこれでかなりのダメージが………ふっどうやらあたいらの願いは届かなかったようだね」
二人の魔法がぶつかった場所からクラガが悠然と姿を表した。
「良い威力だった。貴様らは優秀な十二魔道士だったのだろうな。俺が受けてなきゃ相手は即死だった」
「俺が受けてなきゃか。あんたじゃ無かったら倒せてたなんて言い訳聞きたくないね」
「俺達じゃここが限界だ。だから、後は頼んだぜツキノ」
その時、クラガはツキノの姿がないことに気がつく。
「っ!」
「任せて…………」
空には巨大な魔法陣がクラガを狙っていた。
それを見て、さすがのクラガも険しい表情をする。
「レベル魔法か……これは少し厄介だな」
「私の……全てを………ぶつける……」
その瞬間、その魔法陣は光輝きそしてクラガに放たれた。
「レベル魔法!リュートアグレッシブサイクロン……!」
全てを切り裂くその竜巻はクラガだけを殺すためだけに、轟音と共に向かっていく。
「レベル魔法、アイアンソイルギガゴーレム」
その刹那クラガの目の前に巨兵が現れる。
「あれは、レベル魔法!?あいつ、岩が得意魔法だったのか!?」
「ほんの一瞬でレベル魔法を展開するなんて、そう簡単には倒させてくれないね」
「ぐっ………うう……ああああっ!」
ツキノは生涯で出したことの無い全力を出し、大人しかった女の子は大声をあげる。
だが、その瞬間は訪れた。
クラガ出した巨大なゴーレムは亀裂が生じ、次の瞬間砕け散った。
「いけーー!ツキノー!!!」
守る盾を失ったクラガにレベル魔法が襲いかかる。
だが、ほんの少しのところで竜巻は消えていった。
「なっ!?消えた………」
「お互い限界だったってことかい。後1歩で届かなかったね」
クラガは魔力を使いすぎたのかその場で膝をつく。
「はあ……はあ……」
『予想以上の威力だった。後もう少しで攻撃が当たっていた。あの女やはり侮れ………奴は何処へ行った?』
その時ツキノはクラガの後ろに現れた。
「っ!」
右手には魔石を掴み、左手で魔力を溜める。
「さよなら………」
そう言ってツキノが魔法を放とうとした瞬間、クラガが笑った。
「そうだな、さよなら」
その瞬間、クラガはツキノの首を掴む。
「っ!?………がっ!ぐああああっ!」
今までにない悲痛の叫び声にガイとサラは思わずその場で固まる。
「やっと、俺の元に来てくれたなツキノ」
「……………つ、ツキノ!何で、どうしてだよ!」
およそ10秒後ガイはようやく口を開いた。
「クラガ!お前、魔力が無くなったんじゃないのかよ!」
「うぐっ!ああああっ!!」
「一芝居打っただけだ。まさか、簡単に騙されるとわな」
「わざと魔力が無い振りをしたのかよ!」
「がああああっ!ごふっ!?」
その瞬間、ツキノは口から血を流す。
「何をしてんだい!?あんた、一体ツキノに何をしてるんだい!」
「マナを吸っている。痛いだろうな。生命の源であるマナを直接吸われてるんだ。安心しろすぐに楽にしてやる。死をもってな」
「やめ……ろよぉぉぉぁ!!」
ガイはその瞬間、魔法ではなく拳でクラガの顔面を殴る。
「…………っ!」
「ぐえっ!?」
だがクラガはその拳を難なく防ぐと、もう片方の手でガイの首を掴む。
「貴様は何も出来ない哀れな男だな。仲間が手の届く距離にいるのに救えない。無力な魔法使いだ」
「ガイ!ツキノ!この―――」
「動くな」
「っ!」
サラはクラガの言葉の圧に負け体が固まる。
『何を……やってるんだ。あたいは!仲間を助けないでどうする!なのに、あの男の目を見ると体が動かない。心と体がバラバラになったような』
「あっ………か……ざ……ま………」
すると、ツキノは抵抗していた手を力なく降ろした。
「っ!ツキノ――――」
「おい………何やってんだ」
「っ―――――がはっ!?」
その瞬間、クラガが吹き飛ばされツキノとガイが解放される。
クラガは突然のことで状況が飲み込めず、地面に倒れる。
そして開放されたツキノは優しく抱きとめられる。
ツキノは抱きとめてくれた人物を見て言葉を漏らす。
「………か………つ?」
「あんた、何で」
「ごめんな、ツキノ、サラ、ガイ。後は俺に任せろ」
「………貴様っ」
そう言ってクラガは血を拭く。
「サラ、2人を任せて大丈夫か?俺の回復のポーションだ。使ってくれ」
そう言ってかつはサラに回復のポーションを託す。
「あんたはどうするんだい?」
「俺はあいつを殺しに行く」
この先にはこちらを睨み付けるクラガが居た。




