その十一 何度でも
「はあ………はあ……」
「くそ……まだこんなに居るのか」
ピンカとイナミは未だ黒いモンスターと戦っていた。
「思ってた以上に粘るね。待ち伏せに用意してたモンスターが半分もやられるなんて。お前達がやってる競技のポイントも中々もらえるんじゃないか?まあ、死んだら全部意味ないけど」
「うざったいわね。まだこんなに居るの」
「ピンカ、これ以上はまずいよ。あれだけ倒してもモンスターの数が多すぎる。このままじゃジリ貧だ」
「それでもやるのよ。私達の仕事は王の命令を聞くことよ。王が黒の魔法使いを殺せって言うなら、死んでも殺しに行くのよ」
その瞬間、ピンカはアルバに向かって駆け出す。
「行かせねぇよ!」
すると炎を吐くモンスターが道を防ぐ。
「邪魔よ!キルトルネード!」
「グギャアアアアッ!?」
風の魔法によってモンスターは細切れになる。
「ピンカ!ちょっとまっ――くそっ!」
ピンカの元に向かおうとするがモンスターが邪魔してその場から動けない。
「こっからはこのナマンズ様が相手を―――!」
「だから邪魔だって行ってるでしょ!ファイヤーバインツ!」
「ガバラッ!?」
モンスターはそのまま焼け焦げて死んだ。
ピンカはモンスターの攻撃を防ぎながらアルバの元に向かう。
『モンスターを1体1体倒すのは無理だと判断して、強行突破しに来たか。でも………』
「あと、もう少し…………これでおしまい!」
そう言って木の上に腰かけてるアルバとの距離を一気に詰める。
「死になさい!ロックすた―――うぐっ!」
「行かせないよぉーヒヒヒヒッ」
その時モンスターが出したつるに体を縛られ、動きを封じられる。
「これも誤差の範囲だよ」
「く………そ………うっ―――――」
そのまま引っ張られ地面に叩きつけられる。
「ちょっとこれほどきなさいよ!何これ、硬い………」
「ピンカ、大丈夫?」
そう言いながらもイナミも同様にピンカと同じく、動きを封じられている。
「モンスターに拘束されてるあんたに言われたくないわよ」
すると、アルバが木から降りて2人を見下ろす。
「惜しかったな。まあ、あれくらい何でもなかったけど。俺の計画は完璧だからさ。こうなることも必然ってわけ。だから、そんなに落ち込む必要はないぞ?」
「今に見てなさい。このツタ引きちぎって顔面に1発決めてあげるから」
「1発決めるか……」
すると、アルバはピンカに顔を近づける。
「ほら、やってみろよ。ほらほら、手を伸ばせば届く距離だぞ?ほら、ぶん殴ってみろよ」
「この……クソガキがっ!」
そう言って暴れるもツタは切れることは無かった。
「あっはっはっ!やっぱり人をからかうのは面白いな。あっちだと妙に怒鳴り散らす女が居て茶化せなかったしさ。他のメンバーもすぐ手を出しそうな奴ら出し、冗談通じないんだよね」
「くっ!」
『切り替えをすれば何とかなるはず。集中しろ集中しろ……』
「おいっ!」
「いだっ!?」
その瞬間、イナミを拘束する力が強まる。
「妙な真似しやがったら腕の骨折るぞ」
「くそ………」
『駄目か………殺気を読まれて動きを封じられる』
「さてと、これで計画は完了。さっさと殺してトガを倒した十二魔道士を殺しにいかないと」
「トガってまさか誰かが倒したの!?」
「報告ではな。ていうか、する必要はないだろ」
そう言って2人の目の前に魔法陣を展開する。
「殺されるんだから」
「くっ!こんなところで私は死ねない!」
そう言ってツタを外すためその場でもがく。
だがそれが切れる気配は微塵もなかった。
「無理無理、魔法ならともかく女の子の力じゃ絶対にほどけない」
「くそっ!くそくそくそ!」
「ピンカ………っ!」
その瞬間、イナミはモンスターの拘束をほどくためもがく。
「ちっ!」
「があっ!?ううぅ……ああっ!!」
もがいた瞬間、イナミの片腕をへし折ったがそれでもイナミはもがくのをやめない。
「やめねぇんなら」
その瞬間、モンスターはもう片方の腕を折ろうと力を込める。
「やめて!」
その時、ピンカが森に響く位の大声を出した。
みんなの動きが止まりピンカの方へと注目する。
「ピンカ………?」
「これ以上、無駄に怪我する必要はないわ。反撃する時に動けなくなってどうするの?」
「何?」
「ピンカ、それって……」
「私達は死なないわ。この拘束をほどいて必ずあんたを殺す!」
「狂犬だな。品のない女の子はもうこりごりなんだよ」
そう言って魔法陣が光輝く。
「ロックタワー」
その瞬間、アルバの足元に魔法陣が出現する。
「っ!?」
アルバが何かに気付き森の奥に魔法を放った瞬間、大きな岩が2人をアルバと引き離す。
「ちょっ!?」
その瞬間、拘束してたモンスターが殺され2人を抱えその場から離れる。
「あ、あんた」
「大丈夫か?」
「誰だ、お前は」
アルバは突如現れた魔法使いを警戒気味に見つめる。
だが助け出された二人はその人物を見て驚いた声を上げる。
「マイト!?何でここに居るんだ!?」
「決まってるだろ。自分の役割を全うしに来た!」
「何偉そうに言ってんのよ!」
「でも、助かったよね?」
マイトの不意の一言にピンカは顔を真赤にさせて口をつむぐ。
「っ!別にあんたが来なくても私が何とかしてたの!」
「ピンカ………」
いつも通りのピンカの様子にイナミは呆れ気味になるが、その後ピンカは恥ずかしそうに小さな声で答える。
「でも……一応、お礼は言っとく、サンキュ」
「いや、そこは素直にありがとうって―――ぐはっ!い、いきなり腹ぱんするなよ……」
「あんたは黙ってなさい、イナミ」
イナミは苦しそうにその場にうずくまる。
「それより、黒の魔法使いは何処にいるの?」
「へ?あれ?居ない………」
――――――――――
「くそっ!くそっ!くそっ!計画が狂った!何なんだあの男は!計画と違うぞ!」
アルバは計画が狂った為その場から逃走し、森の中を全速力で逃げていた。
「大丈夫だ。落ち着け、俺!計画がちょっと狂っただけだ。焦ることはない、計画を練り直せば大丈夫だ!」
その時、横をものすごいスピードで何が通りすぎる。
「逃がさないよ」
「っ!お前はっ!?」
それは風の魔法で吹っ飛んできたマイトだった。
「元の場所に戻ってもらうよ。ラノストーム!」
「ぐぅっ!?」
その瞬間、アルバはそのまま吹き飛ばされる。
そして、空中に投げ出されるも何とか地面に着地する。
「くそっ!あの男、俺の事を飛ばしやがって―――っ!?」
後ろから殺気を感じ取り反射的によける。
「お帰りなさい、そしてさようなら!」
「ちょっ!ちょっと待て!?」
慌ててアルバはその場から逃げようとする。
「逃がすわけないだろ!」
逃げた先にイナミが立ちはだかる。
「ライジングサンダー!」
「くそっ!ラノストーム!」
風の魔法によりアルバは空中に、逃げる。
「逃げられるわけないでしょ!」
その時空中に魔法が出現する。
「ロックスタンプ!」
「がはっ!?」
岩が直撃してそのまま地面に激突する。
『魔法だ!魔法を撃つんだ!そうすればこんな奴ら簡単に殺せる』
「おっ!無事足止め出来てるみたいだね」
「お前はさっきの」
するとマイトは真っ直ぐアルバに突っ込んでくる。
「くそっ!アグレッシブフルート!」
だが、マイトはそれを平然とかわす。
「なっ!?ライジングサンダー!ウォーターガン!ライトニングアロー!」
次々と魔法を出すもどれもマイトにかすることすらしない。
「な、何で当たんないんだよ!」
「終わりだ。ロックタワー!」
「あっ!―――ぐふっ!」
動揺して避けることが出来ずに直撃する。
その時、ピンカがアルバに一気に近づく。
「しまっ!?」
魔法を放たずにアルバの頭を掴む。
「おりゃあっ!!」
そして、膝を思いっきり顔面にぶつける。
「ぐごっ―――」
そして、そのままアルバは地面に倒れた。
「ざまぁみろっ!だから言ったでしょ、あんたに1発入れるって。私達の勝ちよ!」
「お疲れ様。うまくいったみたいで良かったよ」
そう言ってマイトはアルバの元に近づく。
「完全に気絶してるね。起きることは無いだろう」
「何言ってんのよ。私の見事な1発が決まったのよ。起きれるわけないじゃない」
「それにしてもまさかこんなに上手く行くなんて」
作戦が上手く行ったことにイナミは驚いていた。
それに対しマイトが冷静に答える。
「相手が動揺してたからね。突然の状況で頭が整理出来ずにいたから。冷静な判断が出来ない状態だったから、好都合だったよ。相手が動揺しやすい性格で助かった」
「モンスターもリーダーが居なくなってから統率が取れなくなって、倒しやすかったし」
ピンカは一連の言動に不満を持っていた。
自分の実力はこんなものではないと思っているからこそ、ラッキーで勝てたことを認めたくなかったのだ。
「ちょっと待ちなさいよ。まるでラッキーで勝てたみたいな言い方じゃない」
「実際ラッキーだったよ。もしかしたら奥の手を隠してたかもしれないし、黒の魔法使いとほぼ戦わずに勝てたのは様々な運がこちらに向いていたからだ。肌で感じてわかる、間違いなく真っ正面で戦ってたら負けていた」
そう言いながら気絶しているアルバを見る。
「何か……消化不良ね」
「それよりどうする?」
「何がよ」
「アルバを殺さないといけないんでしょ?」
「………………」
その言葉を聞いて皆は黙り込んでしまった。
「何黙り酷ってんのよ。やらないんなら私がやるわよ」
そう言ってピンカはアルバの元に近づく。
すると、マイトがピンカの肩を掴んだ。
「僕がやる。ピンカの手を汚すわけにはいかないからね」
「あっそう。なら早くして」
そういうとピンカは下がって、マイトを見守る。
マイトはアルバの心臓の位置に魔法陣を展開する。
「次生まれ変わる時は普通の人生を遅れますように。アグレッシブフルート」
魔法が直撃した瞬間、アルバから大量の血が地面に流れる。
「これで死んだ。黒の魔法使いを1人殺した」
「嫌な役回りをしてもらってすみません」
「別に謝らなくてもいいよ。これは俺達の役目だからね」
「ていうか、あんたのもう1人の仲間は何処にいるのよ」
「ツキノのこと?それなら別の所に………っピンカ危ない!」
「え?きゃっ!」
「ぐっ!」
その瞬間、マイトはピンカを突き飛ばし、高速の矢がマイトの肩に突き刺さる。
「マイト!?大丈夫!?」
「ああ、僕は大丈夫………」
「嘘……何で、殺したはずなのに」
そこには心臓を貫かれたアルバが立ち上がっていた。
「よくも殺してくれたな……が、普通言うことなんだろうけど。俺の場合よく殺してくれたな、何だよね」
「確実に心臓を潰したんだけど、生き返るなんて。しかも、傷口も塞がってる」
「どうこいうことだ!?もしかして、お前は半獣じゃないのか!?」
「いや、違うわ。もしそうなら、私の攻撃で気絶なんてしない。そもそも、魔法を使ってる時点で半獣よ」
「考えたくないけど、おそらくオリジナル魔法だろうね」
すると、アルバが余裕の笑みで3人に近づいていく。
「殴られた時は正直焦ったよ。魔法使いにとって打撃は弱点みたいなもんだからね。俺の場合、それがもろなんだよ。思いっきり殴られたりすると、すぐ倒れちゃうからさ。魔法なら耐えられるけど打撃は耐えられないからさ。俺の事を殺してくれなかったら終わったと思ったけど、殺してくれてどーもありがとう」
「嘘でしょ。そんなオリジナル魔法が存在するはずないわ」
「だけど実際目の前で見せられてるからね」
「でも、さすがに1回切りでしょ?そんなポンポン生き返られるわけないよね!」
「分かるわけ無いじゃない!そんなこと」
「普通なら1回切りだろうけど、もし何度も生き返られるとするならば………」
その言葉で皆の頭の中に最悪の結末が思い浮かぶ。
「もう1度殺すわよ」
「え?相手は何度も復活するんだよ!そんな敵に勝てるわけないだろ!」
「だったらまた殺せばいいでしょ」
「え?」
「何度でも何度でも何度でも何度でも殺してやるわよ。それが私達の役目でしょ」
「ふっそうだね」
そう言ってマイトも戦闘態勢に入る。
「それで、イナミはどうすんのよ?いつもみたいに諦めるの?」
「や、やるに決まってるだろ!仲間を置いて逃げるわけないだろ!」
「へぇー戦う気満々なのか。俺も1度殺されて頭の中がスッキリしたからさ。それじゃあやろうか、第2回戦」




