その四十三 十二魔道士の鏡
かつがエングと対峙して居たその頃、サラとミカは戦っていた。
「中々やるじゃないかい!」
「だから言ったでしょう!私は天才なんですよ!」
そう言ってミカはサラに魔法をぶつける。
それを、サラは難なくかわす。
「でも、それは一般の魔法使いの話だろ?ここじゃああんたはただの凡人だよ!ポイズンアロー!」
「っ!アイスドーム!」
氷の壁で毒を触れないようにさせる。
毒は氷に溶け込んでいき、そこから氷が崩れていく。
「魔法使いになってほぼ1ヶ月で十二魔道士になったんだろ?確かに端から見ればあんたは天才と呼ばれてもしょうがないかもしれないね。でもね、それは十二魔道士になるのが早かっただけ。あんたはあたいには勝てないよ。経験が違うからね」
「ていうか、サラ先輩もなにげに島王選初参加ですよね?そうなると、経験も特にしてないんじゃないですか?あっ!もしかして、生きた年数の事言ってました?それならすみません。サラおばさん」
「っ!あんたね………おばさんて言うんじゃないわよ!」
サラの怒りに触れたのかミカに向かって魔法を繰り出す。
「うおっと!すみません、もしかして言われたくありませんでした?それはごめんなさいね」
「あんたって本当に礼儀知らずだね!」
「私は礼儀正しいですよ。ただ思った事を言っちゃうだけです」
「なら、なおさら失礼だよ!ポイゾネススペアード!」
猛毒が辺りに撒き散らされる。
「リストタイフーン!」
風の魔法で毒を全て吹き飛ばす。
「ウォーターガン!」
「っ!」
強力な水圧により放たれた水鉄砲をサラはギリギリ交わす。
避けた先の木に当たり大きな穴が出来る。
「ロックスタンプ!」
「っ!」
ミカは次々と出てくる岩を何とか避ける。
「アグレッシブフルート!」
「遅いね!ファイヤーバインツ!」
2人の魔法が衝突し、そしてその場で爆発する。
「はあ、はあ……」
「こんなもんかい?あんたの言う天才の力ってのは」
「なめてもらっちゃ困りますよ。私はまだ本気じゃない」
「へぇー言うじゃないかい。それじゃあ、そろそろ本気を出してもらってもいいかい?退屈で死にそうだよ」
そう言って大きくあくびをしながら体を伸ばす。
「もしかして、さっきのまだ気にしてるんですか?」
「ん?何のことだい?」
「大人の癖に子供っぽいですね。あれくらいでムキになるなんて」
「すまないね。あたい、子供の頃は勉強なんてしてこなかったからね。つい、子供っぽくなっちゃうんだよ」
「本当に大人げないですね」
「あんたも子供っぽいじゃないかい」
「ていうか、子供ですから」
「ああ、そうだったね」
そう言ってサラがニヤリと笑う。
「すぐに笑えなくさせますよ!ウォータープレッシャー!」
「やれるもんならやってみな!ロックタワー!」
ミカの攻撃をサラは難なく防ぐ。
「ウォータープレッシャー!」
「グランドファイヤ!」
サラの炎を突き抜け、ミカの攻撃が襲いかかる。
「ちっ!ロックスピア!」
サラの攻撃により威力が相殺される。
「まだまだだね!そんなんじゃあたいを倒せないよ!」
「……………………」
すると、ミカが攻撃の手をやめる。
それを不信に思いサラも少し距離をおいて攻撃をやめる。
「ん?どうしたんだい?」
「もう、時間稼ぎはやめましょうよ」
「っ!いつから気づいてたんだい?」
「サラ先輩の最初の攻撃で何となく分かりました。私を倒す気なんて無いって」
「あら、バレちゃってたか」
「なのでもう時間稼ぎは不要です」
その瞬間、ミカの魔力が格段に上がる。
「次の攻撃は本気ってことかい?」
「はい、サラ先輩も本気で対応しないと……死にますよ」
「なら、しょうがないね」
サラも同様に魔力を上げる。
「次でしまいにしようじゃないかい」
空気が揺らぎお互いに妙な緊張感が走る。
そして、その瞬間は突然来た。
「っ!レベル魔法!ウォーターブレイクトレント!」
巨大なドラゴンの形をした激流がサラに襲いかかる。
「レベル魔法!ポイゾネスデーモン!」
巨大な毒の塊の化け物が展開される。
「「はああああ!」」
お互いの魔法がぶつかり合い、その場で拮抗する。
「ぐぬぅうううう!」
「ふぅううう!」
そして、お互いの力が限界まで膨れ上がり、その場で暴発した。
「がはっ!」
「ぐふっ!」
その衝撃によって2人は吹き飛ばされる。
「う、うう……」
「はあ、はあ、全身全霊で撃ったつもりだったんだけどね。まさか、互角になるなんて……やるじゃないかい」
「いえ、互角じゃないですよ。私の勝ちです」
その瞬間、ミカが魔法陣を展開させる。
それを見た時、サラは諦めるように笑った。
「ふっあたいもここまでか」
「ウォーターガン!」
その瞬間、サラに向かって魔法が放たれる。
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「はあ……はあ……あともう少し」
ナズミはボロボロの体を引きずって、急いでボールを籠に入れに行く。
「たしか、ここら辺に……」
ナズミは草を掻き分け籠を見つける。
「あった!これだ………」
ナズミは縛られてる白い籠を見つけて、持ち上げる。
「サザミさんの言う通り、ここに隠してあったんですね」
籠の汚れを拭いて、ボールを取り出す。
「これで、追い付けるはず」
10個のボールを取り出して、すぐさま籠にいれる。
「ボールを確認!ボールを確認!」
ポールを入れたときの音声が流れて、安心して思わず座り込む。
「これで、皆さんのお役に立てました」
『だけど、まだ油断は出来ない。私がこの籠を死守しないと』
「お姉さまは大丈夫でしょうか」
その時木の後ろからその様子を見ていた人が居た。
「あ、あれはナズミだよな」
イナミはバレないよう木の後ろからナズミを観察していた。
「籠をこんなところに隠してあったのか。出来るだけサザミから逃げようと思って距離を取ったんだけど、まさかこんな場面に出くわすなんて」
思っても見ない出会いにイナミは少し悩む。
『ここで籠を奪えばこっちが有利な状況になる。でも、そう簡単に奪えるのか?いや、何弱気になってるんだ。俺はもう逃げたりしないんだ』
イナミは覚悟を決めてナズミの前に立つ。
突然の来訪もナズミは驚きすぐに警戒する。
「っ!あなたは……イナミさん」
「ああ、お前の持ってるその籠って白チームの籠だろ?返してもらうぞ」
「それを言うのならイナミさんが持っているその籠は私達赤チームの籠ですよね。返してください」
『やっぱり普通に返してくれるわけ無いか』
「それじゃあ、戦うしかないな」
「っ……………」
イナミはいつでも攻撃できるように魔力を高める。
『よし、少し位なら戦える。相手もかなり魔力を消費してるみたいだし、勝てるかもしれない』
「はあ……はあ……うっ!」
「………こ、来ないのか?じゃあ、俺から行くぞ!」
「はあ……はあ……」
ナズミは返事をすることなく構える。
「い、行くぞ!」
「………………」
苦しそうに表情を歪ませるナズミの顔を見てイナミは躊躇ってしまう。
「………そんなに、辛いのか?」
「………辛くないです。いいから、来るなら来てください」
「もしかして、魔力がほとんど残ってないのに無理して動いてたのか?」
「………そんなこと、ないです」
「いや、絶対そうだろ」
『よく見ると所々痛々しい傷があるな。余程強い魔法に当たったのか。今のこいつなら楽勝で勝てるけど……』
イナミは構えるのをやめる。
それを見てナズミは驚き目を丸くさせる。
「っ!何してるんですか」
「やめた。もう戦う必要なさそうだし、俺は別のところに行く」
そう言ってイナミはその場から離れようとする。
だがそれを見たナズミは奥歯を噛みしめると、苛ついた声色で発する。
「逃げるんですか?」
「っ!」
その言葉を聞いてイナミの足が止まる。
「今、何て言った?」
「逃げるんですかって言ったんです。皆さん多かれ少なかれ命を懸けてここに来ているんです。それなのにボロボロで可愛そうだから止めは指さないなんてふざけないでください!私は同情されるのなんてもうまっぴらです!同情されるなら死んだ方がマシです!」
「…………っ!」
ナズミのその言葉に思わず拳を握った。
『何て覚悟だ。死ぬ覚悟なんて俺にはなかった。そりゃそうだ、怒られるのが怖くて逃げてたやつがそんな覚悟持ってるわけがない。命を懸けてこそ王に忠誠心を見せてこそ十二魔道士何だ』
「俺はまた逃げようとしてたみたいだ」
「……………」
「ごめん、俺はまだ覚悟がなかった。命を懸けてる相手に同情も情けも要らない。自分の王をこの島の王にするために全員が本気で命を懸けて戦っているから。俺だってこんな俺を見捨てずにいてくれたシンラ様をこの島の王にさせてあげたい。だから俺も命を懸けて戦う!もう逃げたりしない!」
その時イナミが魔力を高める。
それに応じてナズミもなけなしの魔力を高める。
「死んでも文句を言うなよ」
「王のために命を散らせるなら本望です」
「お前は本当に十二魔道士の鏡だよ」
その瞬間、2人の魔法がぶつかり合った。




