その二 リアルの恐怖
「あーー……やっと……着いた」
駄目だ。
もう体が動か………
「あれ?かつさん、心配したんですよ。なかなか帰ってこないので――――かつさん!?どうしたんですかいきなり倒れて!?」
「あれルルさん?ルルさんって兄妹いたんですか」
目の前には沢山のルルさんが心配そうな顔でこちらを見つめる。
「かつさん何言ってるんですか!」
「ルルさんが1人、ルルさんが2人、ルルさんが3人―――――――」
「かつさんどうしたんですか!かつさん?かつさあぁぁぁぁぁん!!」
ルルさんの叫び声を聞きながら俺は意識を失った。
―――――――――――――――
目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。
ここは何処だ?
俺はあちこち痛む体を無理矢理起こし辺りを見渡した。
「ふぅわ〜あ―――――いっつ!頭痛え〜、ていうかここは何処なんだ?」
扉や壁や天井が木材で出来ているな。
どっかの宿屋でいつの間にか寝ちゃったのか。
「う〜ん何も思い出せないな」
何かとてつもなく大事な物を届けに来たような気がするんだど………やっぱり思い出せねえ。
すると扉が開いて誰か入ってきた。
「目が覚めたんですね。急に倒れたからびっくりしましたよ。お体は大丈夫ですか」
「ルルさん?体は大丈夫ですけどここは何処何ですか」
ルルさんが居るってことはもしかしてルルさんの家か!?
「ここは魔法協会の休憩室ですよ」
何だ違うのか。
「て、魔法協会って俺いつの間に魔法協会に来たんだ!?」
「かつさん覚えてないんですか?クエストを終えて魔法協会に戻ってきたんですよ。その時倒れてしまって急いでここまで運んできたんですからね。ちなみに倒れた理由は疲労みたいですよ。クエストで疲れてしまったんでしょう。ゆっくり休んで下さい」
クエスト?
そういえば何かクエストをやっていたような。
「それじゃあかつさんゆっくりやす―――――――」
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃっ!!かつさん!いきなり叫ばないで下さい!危うく転ぶところでしたよ」
驚いている様子のルルのことを気にする余裕が無かった俺はすぐにあるものを探した。
「ゴールドフィッシュの討伐!すっかり忘れてた。リュックは?リュックは何処だ!?そういえばミノルもいない!何処いったんだ!?」
ここに来て色々なくなっていることに気づき頭がパニック状態だ。
「落ち着いてください!リュックなら私が回収しときました。ミノルさんは別の休憩室で休んでいます。ミノルさんは疲労と魔力の使い過ぎだそうです」
その言葉にほっと胸をなでおろす。
「そうか。ならよかった。それで……お金ってどれくらい貰えるんですか」
「えっとかつさん。そういうのはミノルさんが起きてからの方がいいと思いますよ」
何だ?急にはぐらかしたな。
「でも先に教えてもらってもミノルは気にしないと思いますよ」
「駄目です」
「でも―――――」
「駄目です」
「はい……分かりました」
なんかものすごい威圧を感じたな。
言えない事情でもあるのか。
でもミノルと聞いたほうがいいし起きるまで待つか。
「あ、そういえば俺どれくらい寝てました」
「今は1時なので3時間位ですね」
「1時ってそんな時間じゃもう魔法協会閉まってるでしょ。迷惑じゃないですか」
ていうか意外と寝てなかったな。
「何言ってるんですか魔法協会は24時間営業、いつでも営業中ですよ。それに迷惑な訳無いじゃないですか。皆さんをサポートするのが私達の役目なんですから困った事が合ったらいつでも言ってください」
「ルルさん……ありがとうございます」
さすが魔法協会をずっとやって来ただけはあるな。
「いっつぅ〜流石に頭痛いわね。魔力使い過ぎるんじゃなかったわ」
すると聞き慣れた声が扉の奥から聞こえてきた。
「ミノル!良かった、目が覚めたんだな」
「かつ!あんたも元気そうで良かったわ。あっルル、ありがとねここまで運んでくれたんでしょ」
「当然の事をしたまでですよ」
そう言ってルルさんはキレイな姿勢でお辞儀をする。
「おいミノル!もうちょっと安静にって―――おお、かつ!目が覚めたんだな良かったぜ」
何だもうひとり出てきたな。
「おお!ウルフか!見ての通りだ。ウルフも看病してくれてたのか?」
「そうだぜ。お前らが倒れたって聞いたから急いできたんだよ。全く無茶しやがって」
そのわりには口元に食べかすが付いてるんだよな。
「でもそのおかげで大金が手に入るから結果オーライよ。ねっかつ」
「ああそうだな。これでしばらくは金のことを気にせずクエストが出来るぞ」
何たって指で数えられないほどの大金が手に入るんだからな。
するとウルフがルルさんと何やらコソコソ話をしている。
「おいルル、もしかしてあのことまだ言ってなかったのか」
「言う勇気がなくて……すみません」
「そういうの早めに言っとかないとまずいだろ」
「そうですよね。早めに言っといた方がいいですよね」
ん?何の話をしてるんだ。
話の内容は分からないが嫌な予感がする。
これは聞かないのが吉だな。
「あのお話があります」
「ええッと俺達これから用事があるの忘れてました。すみませんが明日とかに出来ませんかね」
これ以上面倒事はゴメンだ。
俺が話を聞かずに帰ろうとするとミノルが俺の手を掴み妨害する。
「何言ってんのよ。今聞かないでいつ聞くのよ。ていうかあんたに用事なんてないでしょう」
「俺にだって用事の1つや2つぐらいあるよ」
「つまらない意地なんて張らないで聞くわよ」
「ちょ、ちょまっ――――」
「クエストの事についてお伝えしなければいけないことがあります」
この空気、こりゃもう逃げられないな。
「……………」
「実はかつさんたちが連れてきたゴールドフィッシュは全て毒にかかってしまって」
「毒?」
ほらやっぱりな。
「はい。ゴールドフィッシュはこの時期にしか取れないものなので、全て失うというのはかなりの大損害で、損害分を取り戻さなきゃいけなくてですね」
「つまり?」
「全てのゴールドフィッシュが生きていた場合のお金と店側の損害金とゴールドフィッシュを無断で調理した罰金を合わせて――――5億ガルアです」
は?今なんて言った?
「それってもしかして借金……」
「え?借金なのか!?」
「はい…、借金です……」
「「――――――――――――!!!!」」
このとき俺は初めて声にならない叫びを体感した。




