その三十九 存在感皆無
「やりましたー!ついに赤チームの司令塔であるサザミ選手と豪快な魔法で進撃をしていたエング選手をかつ選手とピンカ選手が打ち破りました!これにより赤チームは3名の戦力を失うと言う大打撃を受けています!これは白チーム大チャンスだ!」
「ぎゃははは!おい!カノエ!お前、偉そうに言ってた割には自分の十二魔道士やられてんじゃねぇか!」
そう言って爆笑しながらムラキは椅子をバンバン叩きカノエを指差す。
すると、カノエは満面の笑みでムラキを見る。
「ガハハハハ!ガキが言うようになったじゃねえか!だがな!俺の十二魔道士はそう簡単にやられるたまじゃねぇぞ!」
「大声で言うなよ、うるさいな!て言うかどっからどう見ても、やられてるだろ」
「俺の十二魔道士は絶対に負けねぇよ。何度攻撃を受けようが必ず立ち上がる根性がある奴らだ。まあ、見てろよ」
そう言って意味深な笑顔を見せる。
一方ミノル達もピンカがサザミを倒す一部始終を見届けていた。
「サザミさん、あのまま戦っていれば勝てていたんですけどね」
「そうね。途中から動揺と心を折るって事に集中して結果的にそれが隙を作ってしまい、それでやられたみたいなもんね」
「まっ結果的に勝ったのはかつ達のチーム何だし、喜ぼうぜ。俺の経験上これは中々いい風が吹いてるぞ」
「人数的には確かに勝ってるけど、まだ油断は出来ないわ。どんなに人数が減っても最後に金のボールを入れたチームが勝ちなんだから」
――――――――――――――――
「んっ!?」
その瞬間、ピンカはよろよろと地面に座り込む。
魔力の限界だった。
「はあ……さすがにレベル魔法はキツかったわね。うぐっ!」
足に力を入れようにも上手く力が入らず立ち上がれない。
その時、目の前に魔法陣が展開される。
「っ!?しまっ―――」
終わった、そう思った瞬間何処からともなく魔法が飛んできて、ピンカを守った。
「っ!あんたは…………」
「大丈夫………」
「何よ、借りを作ったつもり!こんな攻撃あんたが守ってくれなくても、避けれたんだからね!」
「分かってる………」
その瞬間、ツキノに魔法が襲いかかってくる。
だが、それを平然と受け止める。
その時、ツキノを追ってやってきたミズトが現れる。
「……………」
「……………」
「ミズト……何の用」
「別にあなたに用はない。私が用があるのはツキノだけ」
「なっ!?何よその言い方は!あんたなんか私が本気を出せば秒殺なんだからね!」
「あなたと無駄話してる暇はないの」
「っ!?このガキがー!」
その時ツキノがピンカを止める。
「もう……休んでて……魔力……無いんでしょ……」
「なに言ってんのよ!こんなバカにされて引き下がれって言うの」
「私が………ピンカの代わりに………倒すから……だから………安心して……休んでて………」
そう言ってツキノはミズトと対峙する。
引き下がれと言われて簡単に引き下がるような性格ではなかったが、魔力の枯渇と戦闘による体力の減少でピンカは歯向かう元気をなくしていた。
「はあ……確かに別に私自身が戦う必要ないし、そいつはツキノに譲るわ。ただし、負けんじゃないわよ。それじゃ私はちょっと休憩してくるわ」
そう言ってふらつきながらピンカはその場を去っていった。
「そろそろ決着をつけましょう」
「………………………」
「私は結構な無口だと思ってたけど、あなたほどではなかったみたいね」
そして、また戦いの火蓋が切られた。
――――――――――――――――
「はあ……はあ……この木の上に籠があるのか」
イナミはボールを籠に入れるために木の上に縛られてる赤い籠を下から見上げる。
「ん?何、この音……」
風を切り裂くような音がする方を見た瞬間籠がある木に勢いよく何かがぶつかった。
その衝撃音が辺りに響き渡ると同時に木が折れて倒れる。
「え……ええええええ!?え?いや、何が起きた!?」
しばらく思考が追い付かなくなったがすぐに籠の事を思い出す。
「そうだ!籠は!?籠もしかして壊れた!?」
『もし、壊れてたらこれって俺達のチームの負けになるのか?』
そんな不安を抱えながら土埃が舞う折れた木のところに向かう。
「ごほっ!ごほっ!すごい、前が見にくい」
しばらくして、視界が晴れていく。
そこには木に縛られてる籠があった。
「よかった。壊れてなさそうだ」
イナミはすぐに紐を解いて赤い籠を解放する。
「よし、これで籠にボールを入れられるようになったけど、何で木が倒れたんだ?」
どうしてもそこが気になったイナミは折れてる根本に籠を抱えて向かう。
木は何かが当たったような衝撃で折れていた。
「この木、相当太いのにそれを折るほどの衝撃なんて、隕石が当たったのか?」
その中心に恐る恐る目を向ける。
「っ!?そ……そんな……」
そこには血塗れで倒れているエングの姿があった。
「え、エング!?何でエングが……もしかして誰かが倒したのか?」
エングは地面にめり込んだままピクリとも動かなかった。
あの太い幹をへし折ってなお、地面にめり込むほどの威力、木に当たったからなのか魔法で受けた傷なのか出血が痛々しい。
『これはすごい。あのエングを倒すなんて、完璧に勝利の女神がこちらに微笑んでる』
「よし、すぐに籠にボールを入れよう」
そう思いボールを取り出したその時、近くで物音がした。
「っ!?」
その音がした方を見ると、エングがゆっくりと起き上がろうとしていた。
『えええええエング!?あの傷でまだ戦えるのか!?』
イナミは急いで木の影に隠れる。
息を殺し、籠が暴れないように足を強く握る。
「ごほっ!ごはっ!はあ……はあ……」
咳とともに血を吹き出す。
血を流し過ぎたのかダメージを受けすぎたのか体がおぼつかず、ふらふらとしている。
「いやーきついの1発喰らっちまったぜ。油断したなぁ……がはっ!ごほっ!」
『大分弱ってる。そりゃそうだ、あんだけ傷だらけなのにピンピンしてる方がおかしい。でも、だからと言って見つかるわけにはいかない。魔法が使えないんじゃいくら相手が弱ってても勝てない』
「がっはっは………おもしれぇ面白いじゃねぇか!絶対かつ、やっぱりおもしれぇな!」
『何であの傷で笑ってられるんだ!?頭打ち付けておかしくなったのか!』
「……ふんぬ!」
エングは服の裾を破り出血してるところを止血する。
「ふうーすうーふうーはぁ……よぉし、行くか」
『っ!?何だ!空気が重たくなった!体の震えが止まらない!まずい、落ち着かなきゃ!体を落ち着かせなきゃ。俺はずっとピンカに見られないように存在感を消してきたんだ。今ここで俺の存在を消すんだ』
「おらぁ!!」
その瞬間、魔法を放ち辺りの木々を吹き飛ばす。
そのせいでイナミが隠れている木も吹き飛んでしまった。
「…………っ!」
街中で素っ裸にされたように今イナミの姿を隠すものは何1つない。
つまり、イナミがただ座ってるだけの構図になっている。
普通なら秒でバレるその状況をイナミの圧倒的な存在感の薄さによって視認すら出来ないでいた。
「待ってろよ!絶対かつ!」
そう言ってイナミに気付くことなく走っていった。
「はあ……はあ……はあ、これは喜んでいいのか?」
バレなかったことの悲しさや嬉しさによってイナミは複雑な心境になってしまった。
「とりあえず、ボールを入れよう」
イナミはボールを取り出して籠にどんどん入れる。
「ボールを確認!ボールを確認!」
30個のボールを入れて、聞き慣れた音声を聞いてひと安心する。
「ふうーかつ、皆ちゃんと出来たよ」




