その三十六 タイマンはノーサンキュー
「すごい攻防戦です!両チームとも怒涛の攻めを見せています!この拮抗した状況で誰が勝つのでしょうか!」
興奮冷めやらぬまま会場全体が歓声を上げる中、冷静にミノルは状況を分析していた。
「このまま続けるのはまずいわね」
「何でだ?俺の経験上お互い良い線いってると思うが」
各々が名勝負を繰り広げることで、勝敗はかなり拮抗した状態となっていた。
だが、リドルは首を横に振る。
「それが原因なんですよ。お互い戦いすぎています。第2競技を出ていない方ならまだしも、連続出場してる方はそろそろ魔力が切れると思います」
「なるほどな。てことはこの均衡が崩れるのも時間の問題ってことか」
「かつ達のチームはマイト、イナミ、かつが連続出場してるからこの中の人達が結構まずいかもしれないわね」
「かつさんは第2競技でほとんど魔法を使ってませんし、大丈夫だと思いますけど他の2人はかなりギリギリだと思いますよ」
続けてサキトがもう一つのチームを口にする。
「敵のチームはエング、ガイ、ミズトか。ミズトは既に魔力切れてるから数的には有利だが……あの2人の余裕の表情を見る限り俺の経験上まだまだ戦えそうだな」
「ええ、でも終わりは必ずあるわ。だって魔力は永遠じゃないもの」
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「はあ……はあ……はあ」
赤チームと白チームは未だに攻めきれずに居た。
イナミはザザミを相手にしているが、徐々に押され始めていた。
「クフフっどうした!息が切れてるぞ!」
「くそっ!」
『まずい、もう魔力が無くなりかけてる。高レベルの魔法とオリジナル魔法を使いすぎた。このままじゃ1番早くリタイヤしてしまう。せっかく戦う覚悟を決めたのに、負けるわけにはいかないのに』
「魔法の展開スピードが落ちてるぞ!こんなので勝てると思ってるのか?」
「そんなの分かってる!もう1つの鏡世界!」
その瞬間、サザミの周りに鏡が出現する。
「これはオリジナル魔法?なぜ急に………」
『たしかこの魔法は魔法を跳ね返してくる物だったな。だが……』
その瞬間、サザミの魔法で鏡が粉々に砕ける。
「クフフっ!やはり、明らかに低レベルのオリジナル魔法だな!その場しのぎで展開した魔力の籠ってないオリジナル魔法など簡単に壊せるぞ!」
鏡を粉砕した瞬間にイナミは飛び出してくる。
そして手のひらを出してサザミに近づく。
「っ!」
『この距離魔法を撃てない!だが、それは相手も同じだ。なのになぜ向かってくる。まさか、こいつ切り替えられるのか!?』
もちろんイナミは切り替えることは出来ない。
日頃からあまり魔法を使っていないイナミが切り替えられるわけがない。
だが、命を懸けて戦うと言う覚悟によりイナミはその瞬間、無意識に切り替えが出来るようになった。
『ここで決める!じゃなきゃもう勝てない!』
『こいつ!魔力が無いのに魔法を撃とうとしてるのか!?魂を削ってまで戦うって言うのか!』
「ぐふっ!」
イナミは魔法を右手に込めると激痛が体に走る。
『先の事は考えるな!今!この瞬間!こいつを倒す!命を懸けて戦うのが十二魔道士だって教えてもらったから!』
「アグレッシブフルート!!」
イナミの渾身の一撃が無防備のサザミに直撃する。
「……やったか?」
『当たった感触は合った。喰らってはいるはず』
その瞬間、拳が飛んでくる。
「っ!がはっ!」
そのまま拳がイナミの顔面を捉える。
そして、その拳を振り下ろしたサザミは受けた箇所から、血を流しながらイナミを睨みつける。
「今のは………さすがに効いたぞ。やってくれたなイナミ!」
「くそっ倒せなかったのか」
『正真正銘の最後の一撃だった。もう撃てない』
「ご褒美に一撃で楽にしてやるよ」
『ダメだ……やられる』
「グランドファイヤー!」
「っ!」
イナミはやられると思い目をつむる。
だが、いつまでも痛みが来ないことに疑問を持ちゆっくりと目を開く。
すると目の前にはサザミの攻撃を防ぐ氷がイナミを守ってくれていた。
「クフフっなんだかんだ言ってイナミが大事なのか?ピンカ」
「くっ!」
「ぴ、ピンカ?まさか、守ってくれたのか」
その瞬間、炎の勢いが増す。
「勘違い……しないでよね。あんたが……負けたら……シンラ様に顔向け出来ないでしょ………」
「ピンカ……ごめん俺なんかのために」
「おい」
その時、エングがこちらにやってくる。
「っ!」
「何俺の事放ってんだよ。そいつに構ってないで、俺とやりあおうぜ!」
ピンカはエングと戦っていたがサザミにイナミがやられそうな瞬間を見てしまい、何とか攻撃を防げたが無防備な状態になってしまっている。
「くそ!あんたなんかに……やられるわけ……ないでしょ」
『俺の方に魔法を撃ってるから自分を守れないんだ。このままじゃ、ピンカがやられる。俺のせいで』
「いくぜ!」
「く………そ……」
「ファイヤーバインツ!」
「やめろーーー!!」
「インパクト!」
その瞬間、エングの放った魔法が吹き飛ばされる。
「ふぅー何とか間に合ったみたいだな」
そこにはボールを獲得したかつが戻ってきていた。
「遅いわよ!いつまで待たせるつもり」
「いや、結構大変だったんだぞ。それにしてもかなりやばい状況みたいだな」
かつは周りの状況を確認すると、エングがかつに呼びかける。
「おいかつ!お前よく戻ってこれたな!もしかしてナズミを倒したのか!」
「まあな、結構死にそうだったけど」
「がっはっは!やるじゃねえか!それじゃあ俺と戦おうぜ!」
「待て!」
その時、イナミがかつの元に走ってくる。
「かつ!ボールは回収出来たのか?」
「ああ、バッチリだ」
「じゃあ、俺は籠を取りに行ってくる。俺はもう魔力が無くて魔法が使えないから、これぐらいしか出来ないから」
「はあ!?あんたバカでしょ。魔法が使えないやつがうろちょろ動き回るんじゃないわよ。大人しく隅っこで隠れてなさいよ」
「俺はもう覚悟を決めたんだ。止めても無駄だぞ」
その真剣な眼差しにピンカは先程までの怒声を出さずに、言葉を飲み込む。
「なっ……」
「行かせてやれよ。イナミもやる気になってるみたいだし」
そして集めたボールを取り出す。
「任せてもいいか?」
そのままボールを全てイナミに渡す。
「はあ!?ちょっとちょっと本気!?」
「本気だよ。ていうか今のあいつに何言っても決意は変わらないだろ」
その言葉に同意するようにイナミは頷く。
「大丈夫、俺は必ずボールを籠に入れてくる。これぐらいしか出来ないんだ、やらせてくれ」
力強いその言葉に先程まで否定的だったピンカも、その覚悟を汲んで託す。
「うーん……分かったわよ。その代わり絶対に入れなさいよ」
「分かった!」
「おいおいおい、何俺達を無視して話してんだよ」
そう言ってエングとサザミが近づいてくる。
「俺達がそれを許すと思うか?」
「残念だけど行かさせてもらうぞ」
その瞬間、お互いの魔法がぶつかり合う。
「今だ!行けー!」
イナミはボールを持って籠に向かって走っていった。
「そこを退け!お前に用はない」
「ふん!退くわけないでしょ。あんたこそ邪魔だから消えてくれない!」
「がっはっは!まさか、ここでお前とタイマンするとわな!」
「十二魔道士のタイマンはあんまりやりたくないんだけどな」
その瞬間、エングが魔法陣を展開させる。
まずいな、早くしてくれよイナミ。
じゃないとやられちまうかもしれない。




