その三十一 才能の形
「あんたとはちゃんと戦いたくてね。なんせ、あの時はただのイカれたボウヤかと思ってたからさ。それでも、あんたは見事に仲間を救った。少し興味が湧いてね、レベル1の魔法使いがどうしてここに立っていれるのか」
落ち着け、大丈夫だあの時とは違う。
最初に会った時は自分とは別の場所に居る奴だと思ってたけど今は同じ場所に立っている。
十二魔道士と戦って色々経験できた。
その経験は間違いなく俺を強くしてくれている。
体の使い方も分かってきた、今なら戦える!
「へえ……今回は逃げないのかい?」
「もう負けない」
「いい目だね。そう言う目をする奴は嫌いじゃないよ!」
その瞬間、魔法陣が空中に展開される。
この魔法陣は………
「ポイズンアロー!」
「ウィンド!」
俺は風の魔法で毒の矢の起動をずらす。
それにより俺をかわすように地面に毒の矢が突き刺さっていく。
「やるじゃないかい!なら、こいつはどうだい!デッドポイズン!」
その瞬間、無数の毒の手が俺の方に向かってくる。
「ファイヤーボール!!」
俺はその全てをファイヤーボールで弾き飛ばす。
するとサラは次の攻撃をせずに黙ったままこちらを見続ける。
「どうした?もう終わりか?」
「うーん、おかしいねぇ。もしかして、あんた私が出す魔法が分かるのかい?」
「………………」
「何も言わなくても分かるよ。大したもんだね。よく勉強したみたいじゃないかい。わざわざ魔法陣を覚えるなんて、あたいでもそんなことしたことないよ」
「俺は天才じゃないんだよ。だから、努力するしかないんだ」
「天才ね………」
その言葉でサラの表情が少し曇る。
「お前も何かしらの才能があったからここまでこれたんだろ」
「盗みの才能と殺しの才能かな?」
予想外の言葉に俺は唖然とする。
「生まれなんて選べないもんさ。でも、生まれちまったもんはしょうがない。そこで胸張って生きていくしかないんだけどね、あたいの生まれた場所は掃き溜めのような場所だった。1番古い記憶が母親があたいを見捨てて他の男と消えていく光景、それが母親との最後の記憶。文字を覚えるよりも先に盗みかたを学んだ。じゃなきゃあたいの存在価値は無かったからね。使えなきゃすぐに殺されてた。盗んだ本で何とか常識的な知識は付けられたけどね。それでもあたいは胸張って生きて行くことは出来ない。後ろを振り返ってもあるのは汚ならしい金品と死体の山だ。それがあたいの人生だ」
そんなことを淡々と言うサラに俺は何も言えなかった。
言ったところで何かが変わる事はないと分かってたからだ。
「今回の作戦上手く行くとあたいは思わなかったよ。なんせ、あんな勝手な奴らを束ねるなんてそんなこと出来るわけ無いからね。でも、それを可能にする物がひとつある。何か分かるかい?」
「目指す目標か?」
「そう、あたい達は生まれも環境も出会いも違うけど、今この瞬間自分の王をこの島の王にしたいって思いは共通なんだよ。でも、あたい達は違う」
「どう言うことだ?」
「あたいとガイはこれっぽっちもムラキ様を王にしようとは思ってない。あんなのが王になったらこの島は数日も持たないだろ?」
その言葉に俺はなぜか納得してしまう。
正直言ってあんなやつを王にしたいとは思わない。
ていうか嫌いだし。
「本当はあんなやつに忠誠を誓った覚えはないんだけどね」
「何でムラキの十二魔道士になってんだよ」
「あたいはそもそもユウリ様に忠誠を誓ったんだ。あたいが仕事に失敗して処刑されそうになった時ユウリ様はあたいを十二魔道士として、一生仕えると言う条件で見逃してくれた。居場所の無かったあたいに居場所をくれたあの人にあたいは永遠の忠誠を誓った。でも、恩返しどころか罪を償う前に死んじまった。ユウリ様に頼まれたんだよ、母様とムラキ様を頼んだぞと。だから、今あたいはここに立ってるってわけ」
「そうか、お前も色々とあるんだな」
「まさか、かつのボウヤにこんなこと言うとわね。ちょっとばかし気弱になってたかもしれないね」
そう言うとサラは申し訳なさそうに頭をかく。
「すまないね、いつまでも長ったらしく話しちまって。そろそろ始めるとするかい」
するとサラは再び戦闘態勢に入る。
「まだ弱音を吐いててもよかったけどな」
「そんなこと言える年じゃないからね。それともあたいの愚痴に付き合ってくれるのかい?」
「それは、お断りだ!」
俺は10個の魔法陣を展開させる。
先手必勝!
「ファイヤーボール10連!」
「ポイズンミスト!」
ファイヤーボールの爆発により毒の霧が更に広がる。
「くっ!」
俺はすぐさま毒を吸い込まないように口を塞ぐ。
やられた、俺の魔法を逆に利用された。
「手足が塞がってて大丈夫なのかい?」
その瞬間、俺の目の前にサラが現れる。
と、同時に腹をおもいっきり殴られる。
「ぐふっ!?」
予想以上の威力に俺は思わず手を離しそうになる。
こいつ、意外と力がある!
「男だろ!こんぐらいで痛がってんじゃないよ!」
さらに俺はおもいっきり足で腹を蹴られる。
しかも吹き飛ばされた方向は毒の霧がもっとも濃い場所だった。
くそ!考えてやがるな。
これじゃあ手が出せない。
「いつまでそうしてるつもりだい!反撃しないってんなら遠慮なくいかせてもらうよ!ポイズンレイン!」
毒の雨!食らえばまずい!
「ウィンド10連!」
俺はなんとか風の魔法でそれらを吹き飛ばす。
これ以上時間をかけるのはまずい!
そろそろ来る頃だと思うし。
「何逃げようってんだい!こっからが面白くなるんだろうに!」
「すまないけど今回は戦いがメインじゃないんでな!」
「あたいが逃がすと思うかい!」
「逃がしてもらうよ!インパクト!」
「ちっ!またその魔法かい!」
インパクトの衝撃波によりサラが吹き飛ばされる。
その瞬間、俺は籠を担いでその場から離れる。
「ボールの方の回収が間に合ってきたかな」
その時、誰かがまっすぐこちらに向かってくる。
あのちっこい姿は……………
「おーいピンカー!」
その声に気づいたのかピンカが更に早くこちらに向かってくる。
「おりゃー!」
その勢いのままピンカはこちらに向かって、ケリをお見舞いしてきた。
俺はとっさに体をそらしてそれを回避する。
「うおっ!?お前行きなり飛び蹴りしてくんなよ!」
「何がおーいピンカよ!いつまでもピクニック気分なってんじゃないわよ!敵に見つかったらどうするつもり!?」
「わ、悪かったよ!それよりポールは回収出来たのか」
「ほら、約束通り20個ボール取ってきたわよ。これで文句ないでしょ」
そう言ってポケットから大量のボールを取り出す。
「すまないな、嫌な役回りさせちゃって」
「今さら何言ってんのよ。これで負けたら承知しないからね。ここまで結構走ったんだから」
本当にそうなのだろう。
息も乱れていて少し汗も出ている。
「今のところ俺達の作戦は順調だ。まず、1度撹乱させて奇襲作戦を狙ったと思わせる。その後すぐに先程の陣形にさせて自分達の作戦が上手く行ったと思わせる。そして、お前らがサザミの防御から突破して陣形を崩させる。俺がワープで赤チームの中に入ってインパクトで吹き飛ばして赤チームをバラバラにさせる。その時籠の位置もずらさせて奪いやすくする。その途中でピンカが敵の攻撃で姿が失くなったと演出する。後はさっきの陣形で分かった互角の相手と戦って邪魔が入らないようにする。そして、その間にピンカがボールを補充する。籠も無事手に入れられたし、作戦成功だ」
「まだ、他のボールは入れてないんでしょ。ちゃっちゃと入れてさっさと勝ちましょ」
そう言ってピンカが20個のボールを入れる。
「よし!これで今入れた数は40個だ。そろそろさっき赤チームに入れられた数は越したんじゃないか?」
「越したかどうかより勝ったかどうかよ。まだ29個も余ってるんでしょ。早く入れに行くわよ」
この偉そうな態度、やっぱりピンカとは合わないんだよな。
イナミがああなったのも分かる気がする。
まあ、それ以上に十二魔道士の責任が大きかったんだろうけど。
「何ボーッとしてんのよ。さっさと行くわよ」
「ちょっと待ちな!」
その瞬間、俺達の前にサラが立ちふさがる。
「まだ諦めてないのかよ」
「散々聞いておいて居なくなるのは寂しいじゃないか。もうちょっとあたいの愚痴に付き合っておくれよ!」
その瞬間高速の矢が放たれる。
それをピンカの魔法が弾き飛ばす。
「ボーッとしてんじゃないわよ、レベル1」
「れ、レベル1って言うな!」
「戦えるわよね」
「当たり前だ!」
俺達は互いに横に並びサラと対峙する。




