その二十六 信頼
「はあ………はあ……いやあきつかったな。大丈夫か、皆」
俺は周りが安全だと認識したうえで皆の状況を確認する。
「僕は軽い軽傷で済んでるけど、ピンカとイナミが重症だ。特にピンカがダメージを受け過ぎてる」
「何言ってるのよマイト!こんなの余裕よ!」
そう言ってはいるが体は痛々しく所々に血も止まらず出ている。
今は興奮してるから痛みもそれ程だろうけど、それでも立ってるだけで辛いはずだ。
「ピンカ、お前相当無理してるだろ」
「だから無理してないって言ってるでしょ!1レベは黙ってなさい!」
「おい、今お前1レベって言ったか?流石の俺も怒るぞ」
「はいはい、こんなところで喧嘩してる場合じゃないだろ。ピンカはせめて止血した方がいい」
そう言ってマイトはピンカに止血を進める。
だが、ピンカはいつも通り強気にそれを否定する。
「私は大丈夫だって言ってるでしょ」
「止血………私が……する」
そう言ってツキノがひょっこり出てくる。
「ツキノ止血できるのか?」
「うん………そういうの……昔やってた」
まじかよ、ツキノって何かサバイバルみたいなことしてたのか?
「あ、あんたにやらせろって言うの?嫌よ、何か失敗しそうだし」
すると、ツキノが不意にピンカの傷を触る。
それによりピンカは後ろに大きくのけ反る。
「いったー!!何してんのよ!?あんたバカでしょ」
「やっぱり無理してんじゃねえか」
「うっ!う、うるさいわね。分かったわよ、やればいいんでしょ」
「じゃあ………こっち………」
そう言ってツキノはピンカを奥に連れていこうとする。
「ちょっ!何で奥に連れていこうとするのよ!何する気!」
その時、ツキノがピンカの耳元で何かを呟く。
すると、ピンカの顔がみるみる内に赤くなっていく、そしてこちらを睨み付ける。
「こっち来たらぶっ殺すからね」
そう脅すとそのまま物陰に隠れていった。
「それじゃあ、見に行きましょうか」
「お前絶対話聞いてないよな」
「何言ってるんですかかつ後輩。聞いてたから行くんでしょ」
「なおさらダメだろ」
まあ、大体予想は出来るけどな。
どうせ服とか脱いで治療してるんだろうな。
ツキノが止血するまでは一旦ここで待機ってことになるが。
「イナミ、ちょっといいかな?」
「え?別にいいけど………」
するとイナミとマイトが少し離れた場所に移動する。
「あれ?あの2人何してるんですかね」
「さあ?」
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「ここに座りなよ」
そう言って近くの切り株を指差す。
イナミは言われた通りそこに座る。
「それで、話って?」
「さっきの様子を見るにピンカとは仲直り出来たのか?」
「元々仲良くは無かったし仲直りって言うか、お互い共闘できる位には関係を直せたかな」
「それはよかった」
「何で、マイトがそんなこと気にするんだ?」
すると、マイトは1回俯く。
そして、言葉を決めたのか顔をあげる。
「ピンカのことはまだ苦手?」
「まあ、やっばりすこしは」
「ピンカのこと許してやってほしい。ピンカはイナミに死んでほしくないからああ言ってるんだ」
「本当?死んでほしくない割には自殺しそうな位言われたけど」
「言葉の伝え方が不器用なんだよ。育った環境もあるだろうけど、あれがピンカなりの気遣いなんだ。でも、イナミみたいにそれをいいと思ってる人は少ないはずだ。それはイナミ自身もよく知ってると思う。だけど、ピンカのことを嫌いにならないでほしい。彼女は見た目よりも繊細だから、イナミだけはあいつの理解者になってやってほしい。それは、パートナーである君にしか出来ないことだから」
そう言ってイナミの顔をまっすぐ見つめる。
ピンクのことについてそこまで言われるとは思っていなかった為、イナミは疑問符を浮かべる。
「それは、マイトがなればいいんじゃないか?ピンカのことよく分かってるみたいだし」
だが、マイトはその言葉を軽く否定する。
「それはちょっと無理かな。僕がそばに居たら逆効果だよ。だから、頼んだぞ。イナミにしか頼めないことなんだ。いざとなったら守ってやってくれ」
そう言ってイナミの肩を叩く。
マイトから改めて頼られてしまったためイナミは少し照れながらもそれを了承する。
「一応努力はするよ」
「そうか、それじゃあ早く戻ろう」
そう言って2人は皆の所に戻っていった。
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先程二人っきりで話に行っていた、イナミとマイトがこちらに帰って来るのが見えた。
「おっ!帰ってきたか。何の話をしてたんだ?」
「ちょっと男同士の話をね。なっイナミ」
「え?ま、まあ」
マイトはそう言ってイナミに目配せをする。
それを見たイナミが少し困りつつも同意する。
なんかよく分からんが二人にしわからないことでも話したのか。
「何の話だよ。まあいいや、ピンカの治療も済んだしこれから作戦を考えようと思ってたんだよ」
治療を終えたピンカの方を俺は指差す。
すると、マイトがピンカを見るとすぐに駆け寄る。
「へえー!すごいね、本当に完璧に止血出来てるよ。しかも傷の処理も完璧だし、流石だねツキノ」
「ちょ!ペタペタ触るんじゃないわよ!」
治療の後をマイトが興味深そうに観察していると、それをピンカが振り払う。
だがマイトは気にすることなくピンカに満面の笑みを見せる。
「よかったね、ピンカ!」
「っ!う、うるさいわね!そんなことより作戦会議するわよ!」
あれ?今ピンカの顔が少し赤らんだような。
気のせいだよな?
「まあそんなことより、これからどうするんだ?」
「そうだね、そう言えば2人は補給場所を見つけたんだよね」
「ああ、一応2つな。そう言えば、まだボール余ってるから皆に渡すよ」
俺は4人にそれぞれ2つずつボールを渡す。
全員にボールが行き渡るとそれらを注意深く観察し始める。
「これが例のボールなの?何か普通のボールみたいね」
「でも、確かにこれを籠に入れればポイントになりましたよ。今のところ10個入れたので私達は10ポイント先取してるってことですね」
ミカは自慢げな口調で語る。
「でも、やっぱりまだまだ始まったばかりだし、逆転される可能性もあるよね」
「そうだな。ということで俺から1つ提案がある。今からさっき居た補給場所に戻ろうと思う」
その言葉に皆が納得した表情を見せる。
「確かに、他の補給場所には赤チームが居る可能性もあるからね」
「それじゃあ、早く行きましょ。時間が勿体ないわ」
そう言ってピンカは早速そこに行く準備をする。
「ほら、イナミ」
そう言ってマイトはイナミの背を押す。
それにより先程まで不安だった表情は引き締まり、イナミはピンクの元へと歩み寄る。
「…………ピンカ」
「何?」
ピンカは少し不機嫌そうな表情をしていたが、イナミは臆することなく話しかける。
「あんまり激しく動かない方がいいと思うぞ。怪我もしてるし」
「は?私が痩せ我慢してるとでも思ってるの?本当に見る目ないのね」
「でも、息切れしてるぞ」
「っ!ああもう分かったわよ!安静にしてればいいんでしょ!本当、マイトみたいにうるさいわね」
そう言って文句を言いつつ、ピンカは一旦近くの木の側で体を少し休める。
その様子を見てからイナミはマイトの方を振り向く。
「これでいいのか?」
「ああ、バッチリだよ。これからも何かと気にかけてやってくれ。ああいう風に無理するところがあるから」
その時イナミの顔がめんどくさそうにしていたのは言うまでもない。




