その二十三 別行動
「ついに第3競技が始まりました!今回も最後の最後まで油断できません!」
「かつさん大丈夫ですかね。あのチーム中々の問題児ですよ」
「まあ、問題なのはイナミとピンカよね。あの2人の関係がよくならない限り協力ってのは難しそうね」
「おおっとここで白チームが動き出しました!」
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「「「「分かれる?」」」」
俺の提案にみんなが口を揃える。
「そっこのまま固まって移動するよりも分かれて移動した方がいいと思ってな。別に真っ向から勝負しにいくわけじゃないし、分かれた方が補充場所を見つける確率も上がるだろ?どうだ?」
「確かに、かつの言う通りかもしれない。でも、誰が籠を持ってくかだよ」
「そこは信頼できるやつとかか?皆は誰が良いんだ?」
「私は………かつが………良いと思う」
そう言って、ツキノはゆっくりと手を上げる。
それに対してピンカは不満を口にする。
「何あんた、いきなり喋らないでよ」
「俺もかつ達に1票かな。信頼できるっていったらポイントが高いってことも含めてかつが適任だと俺は思う。2人はどう思う」
「俺は、皆がそれでいいなら」
「ちょっと待ちなさいよ。何で新人のあいつが信頼されてるのよ。ここは私が適任でしょ」
皆何も答えずにピンカの方を見る。
その視線を受けてかピンカは怒鳴り声を上げる。
「何で黙ってるのよ!」
「皆ピンカの事をあまり知らないし、ここは1番活躍をしてるかつ達の方が信頼性はあると俺は思うんだけど」
「ふん!勝手にしなさい」
マイトの言葉にピンカはそっぽを向いていじけてしまう。
こいつは本当に協調性がないな。
「それじゃあ、分け方はパートナー同士で良いよな。それで良いよなピンカ?」
「何で私だけ聞くのよ」
そう言うとジト目でピンカはこちらを睨む。
「いや、だってほらな?」
俺は思わずイナミの方をちらりと見る。
やはり、明らかにピンカに怯えている。
「別にそんなの問題ないわ。私を誰だと思ってるの?」
「まあ、問題ないなら別にいいんだけど。それじゃあ、補給場所を見つけたらこのクロスしてる木のところに集合だ。何かあったらすぐにここに戻ろう」
「分かったよ。それじゃあ、行こうかツキノ」
「うん…………」
そう言って、マイトとツキノは先に行ってしまった。
「帰ってきた時に籠の中にボールが入ってたら許さないからね。行くわよイナミ」
そう言って、今度はピンカとイナミが俺達を脅して行ってしまった。
俺はピンカの姿が見えなくなってきたところで、ようやく肩の荷が降りた気がしてつい口が滑る。
「相変わらずピンカは生意気な感じだよな」
「しょうがないですよ。ピンカ先輩はそういう性格ですから、それでどっちに行きますか?」
「うーん、先ずはあっちからかな」
「それじゃあ、早く行きましょう!赤チームに先を越されないためにも走りますよ!」
そう言ってミカは走り出した。
「おい!ちょっと待てよ!」
俺はその後ろを追いかけていく。
――――――――――――――――――――――
「時間制限がない?」
サザミは歩きながら自身の考えを皆に伝えていた。
「ああ、先の説明で時間制限の説明が省かれていただろ。第1競技と第2競技もそうだったが説明がされていない箇所がある。今回も同じような感じだろう」
「と言うことは終わりが分からないってことですか?」
「いや、大体想像はつく。時間的な制限は無いだろう。もしそうなら、わざわざ言わない意味が分からない」
「それじゃあ、何だよ?」
「考えられるのは1つだけだ。ほ――――」
「補充ボールが失くなったら終了。こんなの考えなくても分かるわ」
自分が言おうとしたことをミズトに取られたことで、サザミは少しイラつく。
それに気にもせずにサラは会話を続ける。
「てことはなんだい。意外と時間はあるってことかい?」
「いやいや、俺はそうはおもはないぜ。極端な話、ボールが10個とかもありえるからな!」
「まっ確かにな。どちらにせよ、補充場所は多く確保しときたい。ここからは少し早めに行くぞ」
「ねえ、ちょっと良いかい?あたいからも1つ提案なんだけど」
「何だ?」
するとサラは周りのみんなを見ながら言葉を発する。
「二手に分かれるのはどうだい?その方が補充場所を見つける確率が上がると思うんだけど」
サラの提案、それは一見合理的なように見えるがサザミはそれを否定する。
「それは悪手だ。二手に分かれれば確かに補充場所を見つけるのは早いかもしれない。だが、相手のチームと出会ってしまったら、負ける可能性が高い。それには分かれたところでお前らは勝手に動き回るだろ。せめて俺の目の届くところに居た方が指示を出しやすい」
「なるほどね。分かったよ、今はあんたがリーダーだからね」
そう言って、サラはすぐに引き下がる。
すると、ガイが何かを見つけたのか前に走っていく。
それを見たサザミが慌ててガイに注意をする。
「おい!勝手に行くな!」
「ん?どうやら、見つけたみたいだね」
皆がその後に付いていくと、ガイが向かった場所には謎の魔法陣が出現していた。
「やっぱりな!変な感じがしてたんだよ。で、これどうするんだ?」
そこは魔法陣があるだけで他には何もなかった。
皆がどうしようかと悩んでいると、サザミがその魔法陣に近づく。
「説明はされてなかったな。だが、そこまで難しい事はないだろう」
サザミはその魔法陣に手をかざす。
その瞬間、魔法陣が赤く輝き中からボールが出てきた。
「おお!ボールが出てきたぜ!」
「なるほど、手をかざせばボールを出せるのか。とりあえずこのボールはお前らが持っていろ」
『ボールは全部で10個か。再び手をかざしてもボールが排出されないな。一定の時間をおかないと駄目なのか?もしくは、連続で出来ないのか。どちらにせよ、早く取ることに変わりはないな』
ガイ達はボールを手に入れることによりかつ達に攻撃することが可能となった。
やる気に満ちており特にガイはボールを手に入れて嬉しそうな声を上げる。
「よっしゃぁ!ボールを入れまくってやるぜ!」
「失くすんじゃないよ。ちゃんとポケットに入れ時な」
「とりあえず、他の場所に向かうぞ。他のチームが居たら…………あれは」
その時サザミはあるものを目にする。
―――――――――――――――――
「…………………………」
「…………………………」
ピンカとイナミはお互い重い空気のまま行動していた。
「ね、ねえ」
その重い空気を耐えられなくなったイナミは、ピンカに声を掛ける。
「ごめん、今まで役に立てなくて」
「何?」
「ここで、色々分かったんだ。何のためにこの場に居るのか?もう、逃げたりしない。だから――――」
「だから何?」
「っ!」
イナミが勇気を振り絞って出した誓いはたった一言で足蹴にされてしまった。
「当たり前の事をさ一々言わないでよ。全部普通なのよ。出来て当たり前の事をすごいことのように言わないで!」
「くっ!お、俺にとっても難しいことだったんだ!」
「足引っ張らないのもさ、自信を持つとかさ、全部全部皆普通にやって来てることなの。なのにあんたはそれすら出来ずにうだうだうだうだと言ってる、つらいならもうやめれば十二魔道士を」
ピンクの辛辣な言葉は今のイナミによく刺さる。
さすがのイナミもこれには感情を露わにしてしまう。
「な、何でそんな言い方するんだよ。俺だって変わろうと頑張ってるんだぞ!」
「変わることがそんなに偉いの?変わらないことは偉くないってこと?違う、変わった方が悪いのよ」
そう言って、ピンカはイナミを睨む。
「誰のせいだと思ってるんだよ」
その呟きはピンカの耳に入り自分の足を止める。
そして振り返ると冷たい視線を浴びせる。
「私のせいだって言いたいの?」
「いつもそうだよ。そういう言い方してるから、だから周りから嫌われてるんだろ」
「は?」
「城の皆が言ってたよ。ピンカは偉そうに文句を言ってくるから、一緒に居たくないって」
日頃のピンカに対する精一杯の抵抗、自分の痛みを理解してほしいというイナミの願いは次の言葉に無に帰す。
「だから何?私は正しいことを言ってるだけだから」
「別に言うのは構わないけどさ。相手を思いやるとかないのかよ。そんなんだから、皆から距離を置かれてるんだろ!」
「知らないわよそんなの!相手のこと気にして言いたいこと我慢しろって言うの!私はそんなの絶対無理!間違いを正して悪いことなんてない!」
「だから―――――」
その瞬間、近くの木が吹き飛ばされる。
そしてそこから最悪な人物が顔を出す。
「誰かが近くで騒いでると思ったらお前らだったか」
「サザミ………」
「まさか、分かれて行動してたとわな。都合が良い。俺達が勝つためにここでくたばってもらうぞ」




