その十九 新たな使い方
『イナミ、十二魔道士になるんだってな!おめでとう!』
『ずっと十二魔道士に憧れてたもんね』
『俺達のパーティーで十二魔道士が出るなんて鼻が高いな』
『いやいや、みんなのお陰だよ。ありがとう』
『十二魔道士になったんだから、めちゃくちゃ活躍してくれよ』
『すぐに泣いて帰ってくんなよ』
『するわけないだろ!』
『頑張ってね』
『ああ、皆ありがとう!俺頑張るよ!』
あの日、俺は仲間達と約束した、最高の十二魔道士になると。
だから、もう逃げない!
その頃会場ではその流れを見ていたザザミが不満をつぶやいていた。
「あのバカ………イナミのやる気を起こしてどうするんだよ。もしかすると潜在能力はお前以上かもしれないんだぞ」
それは王の席でも同様だった。
今までなんの活躍もなかった怯えた青年の成長、その姿に王たちの関心が一気に集まる。
「おいおいおい、どうなってんだあれは。お前の根暗十二魔道士が覚醒してんじゃねえか」
ムラキの言葉にシンラは穏やかに答える。
「だから言ったではありませんか。私はイナミを信じていると。イナミは強い子ですから」
「でも、だからって勝てるとは限らないだろ。まっ根暗な奴がガチギレすると怖いって言うのはあるけどな!」
「ムラキ、口を閉じてさっさと家に帰ってください。お迎えが来ていますよ」
「だから、俺様は子供じゃない!」
シンラに対して怒りをあらわにしている一方でガルアは冷静に見ていた。
「まっ見れば分かるだろ。俺自身奴の力量を見ておきたかったからな」
「ガルア自身はどちらが勝つと思っているのですか?」
「ミュウラ、そんな予想必要あるか?結果はすぐに出る」
―――――――――――――――――――――
先程とは違う顔つきなイナミを見て、エングは嬉しそうに笑い声を上げる。
「がっはっは!さっきよりはマシな顔つきになったじゃねえか。だが、気合いが入ったからって勝てるとは限らねえ。あと1個のリボンを取って終わりだ」
「取らせない。このリボンだけは絶対に」
そう言ってイナミはリボンを固く尻尾に結ぶ。
「俺のポイントとエングのポイント取らせてもらうぞ」
「やれるもんならやってみろ」
その瞬間、イナミは魔法陣を展開する。
「先手必勝だ!もう1つの鏡世界!」
その瞬間エングの周囲に鏡が出現する。
「鏡!?オリジナル魔法か!」
『さすが、長年十二魔道士をやってるだけはあるな。オリジナル魔法を出しても全く怯まない。本物の実力者だ』
「おもしれぇ!だったら俺も………インフェルノキャノン!」
その瞬間、業炎の1撃が鏡を襲う。
だが、その1撃は鏡の中に吸い込まれる。
「何っ!?」
『ぐっ!これは予想以上にやばい!』
その瞬間、鏡からインフェルノキャノンがエングの元に帰っていく。
「ちっ!」
エングはギリギリの所でそれを避けると後ろで衝撃音が鳴り響く。
「なるほどな、その鏡は魔法を取り込めるのか。中々厄介じゃねえか」
「………まあな」
『危なかった。許容量のギリギリだった。これ以上はさすがに受けきれない。でも、これがエングの最大の魔法ならまだなんとか』
「じゃあ、次はもっと強めに行くか」
「っ!?」
「どんな魔法も取り込める魔法なんてものは存在しない。何かしら制限はあるはずだ。許容量を越えるまで何度でも撃ち込んでやるぜ」
『まずい、もう気づかれた。長年の経験ってやつか。あれ以上の魔法はさすがに耐えられない』
元々イナミの魔法は相手を妨害し自分はその場から逃走する、逃げるのを想定とした魔法だった。
そのため攻撃としてはあまり力を発揮しなかった。
『受ければ破壊されてしまう、待てよなら受けなければいいんじゃ』
だが、イナミは絶体絶命の状況で新たな攻撃方法を見いだした。
「インフェルノキャノン!!」
インフェルノキャノンが鏡に触れた瞬間、跳ね返った。
「何っ?取り込まずに跳ね返った?」
そして、その魔法は鏡に当たる度に跳ね返っていく。
「喰らえ!新魔法!ミラージュバンス!」
その瞬間、高速に跳ね返された魔法がエングに向かっていく。
「――――インフェルノキャノン!」
ギリギリの所で魔法を相殺させた。
炎が辺りに飛び散り、エングすぐさまその場から離れる。
「おいおい、取り込むんじゃなかったのかよ。跳ね返してきやがったぞ」
「誰が取り込むだけって言った?」
『あの鏡、魔力だけを反射してるっぽいな。まさか、あのインフェルノキャノンを跳ね返せるとは、思ったよりもやるじゃねえか』
「何ぼーっとしてるんだ。まだ終わりじゃないぞ」
エングが鏡に対して再度警戒を示した時、イナミの手が鏡の中に入っていた。
「あれは……………」
その時後ろに何かを感じとりエングは後ろを向く。
「アイスガン!」
「くっ!」
後ろには鏡がありそこから手だけが出現している。
エングは魔法に当たらないように後方に避ける。
「ライトニングアロー!」
イナミは自分の魔法を鏡にわざと当てる。
その時、魔法が跳ね返されていき、さらにスピードが増す。
そして、高速でエングに魔法が襲いかかる。
その魔法はエングの腕に突き刺さった。
「くそっ!」
「よしっ!」
初めての明確なダメージ。
それは会場にいるサザミを焦らせるには十分だった。
「あのバカ!何油断してるんだ!」
「エング先輩ヤバイんじゃないんですか?」
「ヤバイも何も腕に一矢報えられてるからねえ。エングもそろそろ焼きが回ったんじゃないかい?」
「散々私のこと嫌々言ったくせにあんたの十二魔道士も全然駄目じゃない」
「ちっ!エング、これ以上は笑えないぞ」
―――――――――――――――――
エングは矢が突き刺さった腕を見る。
それを黙って引っこ抜く。
その場に妙な緊張が走る。
すると、後ろの鏡を思いっきり殴る。
「鏡は割れねえか」
その言葉を聞いてさらに緊張が走る。
「がっはっは!やるじゃねえか。俺に1撃を当てるなんてな」
「え?」
エングの思わぬ大笑いにイナミも気が抜けてしまった。
「まさか、ここまで強くなるとわな。俺も少しなめてたわ」
すると、エングが周りを見渡す。
「そろそろ時間もやばいだろ。決着つけようぜ」
「そうだな」
決着はすぐに付く、二人の間に静けさが訪れた。
たがその静けさは何処からか聞こえてくる声によって破られる。
「何だ?」
「声?」
「まちやがれー!!」
「待たないって言ってるだろ!」
その瞬間、2つの巨大な氷の丸い塊の上でガイとマイトがおいかけっこをしていた。
 




