その十八 自分の責務
「はっ!情けないわね。敵に励まされるなんて、だからいつまでたっても弱いのよ」
だがその言葉に対してミカはジト目でピンカを見る。
「ピンカ先輩、今の話を聞いてまだ自分には非がないと思ってるんですか?」
「当然でしょ。私は真実を言ってるだけ、嘘はついてないわ」
「クフフっ確かに真実を言うのは大切だ。だが、言うだけなら誰でも出来る。必要なのはその真実をどのように伝えるかだ。お前のやり方はただの暴力だ」
「はあ!?なんなのよそれ!何で私が悪いみたいになってるのよ!私は何にも悪くないからね!」
そう言って、ピンカはそっぽを向く。
それを見たサザミが呆れたように首をふる。
「フっ子供か」
「ピンカ先輩の性格は身長と同じですね」
その瞬間、ピンカは勢いよくミカに襲いかかった。
「さあ!第2競技が始まってから15分が経過しました!ただいまのポイント順位はこちらです!」
1位 ナズミ 105ポイント
2位 マイト 70ポイント
3位 ガイ 50ポイント
4位 かつ 40ポイント
5位 エング 30ポイント
6位 イナミ 25ポイント
「今のところ激しいポイント移動は見られません!後半戦は一体どうなるのでしょうか!」
現在のポイントが開示されたことでミュウラは余裕げにガルアの方を見る。
「あなたの十二魔道士どうしたのかしら。ずっと物陰に隠れて気配を消してるようだけど、もしかして重圧に耐えきれなくて隠れてしまってるんじゃありませんか?」
「あれが隠れてるように見えるならお前もまだまだだな」
「何ですって?」
「まあ、見てろよ。俺の十二魔道士の力を」
そう言ってエングはかつの行動を見続けていた。
―――――――――――――――――
今のところ大きなポイント変動はイナミとマイトの2人だけ、戦ってはいるがポイントを奪えてないのだろう。
「意外と分かりやすくて助かるな。あと残り15分か、最後まで気を抜かず情報収集だ!」
俺は再び物陰に隠れる。
その頃、エングは森を駆け抜けていた。
「ちくしょう、時間も大分過ぎちまった!早くポイントを取らねぇと、まじでサザミに会わせる顔がねえ!」
『ちまちまポイント集めてるだけじゃ1位には届かねえ!やっぱり、奪うのが1番だ!』
「ちっ!こうなったらこれをやるか。これやると疲れるんだけど、他の魔法使いに会うためだ」
すると、エングはその場で立ち止まり感覚を研ぎ澄ます。
エングは集中力を極限まで高めることで遠くに居る魔力を感知することが出来る。
だが、これは余程の集中力がなければ無理な技だ。
「…………っ!!この方向か!」
エングは何かを感じとりすぐさまその方向に向かう。
「そうか………自信を持つか。出来るかな、俺に。ねえ、ナズミ」
「おりゃあ!」
「うわああああ!!!」
その瞬間、エングは木の上から飛び出してくる。
突然の来訪にその場にいたイナミは腰を抜かして地面に尻餅をつく。
その姿を見たエングが少し残念そうな顔をする。
「何だ?たしかお前はピンカにめちゃくちゃ言われてたイナミだったか」
「え、エング…………」
『ま、まずい………こんなところで十二魔道士の最強の一角と言われてるエングに会うなんて』
「正直言って今のお前に負ける気はしないが、容赦はしねえぞ」
その瞬間、もうスピードでイナミの横を通りすぎる。
イナミは思わず手を交差させてその場で身を固める。
「っ!」
「これで1つ目だ」
そう言うエングの手には既にリボンを掴んでいた。
「なっ!」
イナミはすぐさま自分の尻尾を確認する。
そこには1つだけリボンが失くなっていた。
「もう1度行くぞ、今度はちゃんと防げよ」
その瞬間、再び高速移動で近づいていく。
『ま、守るんだ!守れ!守れ守れ守れ!』
エングは再び通りすぎまた、新たなリボンを手にしていた。
「これで、2つ目だ」
『体が動かなかった…………』
「おいおい、あと1つだけだぞ。勘弁してくれよ、お前も十二魔道士何だろ?」
「っ!?」
イナミは覚悟を決めて魔法を撃つ構えをする。
「いくぞ!」
「ファイヤーウォール!」
その瞬間、炎の壁が立ちふさがる。
「こんな魔力も気合いも入ってねえ魔法で俺を止められると思ってんじゃねえぞ!」
すると、エングは臆することなく炎の壁に突っ込む。
「なっ!」
そして、再びエングはリボンを奪った。
「これで3つ目、おいおいまじかよ。お前やる気あるのか?これが十二魔道士の1人なんて失望だな」
「くっ!」
「ん?お前、何か隠してやがるな?」
「っ!」
その瞬間イナミが何かを強く握る。
それをエングは見逃さなかった。
「まさか、それリボンか?ポイントもそこまで高く無いのになぜ、そんなにかばってんだ?」
「この、ポイントだけは絶対に渡せない。約束なんだ」
「へえ、約束か………」
その時エングの体から魔力が溢れでる。
『ほ、本気だ………』
「約束なんだろ?だったら命懸けで守ってみろよ!」
「や、やめろ!来るな!!これは、これだけは駄目なんだ!お願いだから、やめてくれ………」
イナミは声を震わせながら後ろに下がる。
それを見たエングの眉間にシワが寄る。
「威厳もねえ覇気もねえ自信もねえそんなやつが十二魔道士何かやってんじゃねえよ!」
「っ!?」
「十二魔道士なら命懸けで戦えよ!十二魔道士なら生き恥をさらすんじゃねえ!十二魔道士なら相手に泣きつくんじゃねえ!十二魔道士なら己の手で守れ!十二魔道士として選ばれたのなら自分の責務を全うしろ!」
「……………………」
エングの怒りにイナミは何も言い返すことが出来ずに、ただその言葉を受けるしかなかった。
「お前がここに居るのなら、それは絶対に忘れんじゃねえ」
「自分の………責務」
『俺は十二魔道士として、何をしていたんだろう。ただピンカが怖かった。怖くて逃げていた。俺の十二魔道士としての時間はそれだけだった。何の為に十二魔道士になったんだ?何の為にパーティーを離れたんだ。何の為に俺はここに居るんだ?』
「そうだ…………俺は守るために十二魔道士になったんだ!もう、逃げたりしない!」
臆病だった青年はその瞬間、勇気の心を手に入れた。
 




