その十二 シンラの為に
「ここで同時にマッチングです!今回のステージはシアラルスで1番高い山、天森山です!最初にマッチングしたのはエング選手とナズミ選手、マイト選手とイナミ選手だ!」
「クフフっいいぞエング、初回から50ポイントをかっさらえ」
『今回のメンバーで脅威なのは正直言ってイナミだ。あれだけの魔力を持っていながら自分に自信を持てないのはピンカが大きく関わっているな。クフフっ残念だな。もし、違うところの十二魔道士になって居たらもっと化けていたかもしれなかったのに、まっこれもあいつの運命だな』
残りの十二魔道士が同じように鏡を用いて選手たちを観戦している中、ミノル達はかつの動向を気にかけていた。
「かつっちずっと何してんだろうね。固まったままだよ」
「何やっておるのじゃかつ!早く戦うのじゃ!」
「何かを待ってるのか?どっちにしろ見ごたえ的には他の十二魔道士を見た方がいいな。ちょっとトイレ行ってくるわ」
そう言って、サキトはトイレに向かっていった。
「かつも何か考えがあるんでしょ。今度こそ取ってくれるわよ」
――――――――――――――――――
イナミの魔法がマイトの頬をかすめる。
「やっぱり、良い魔法だ。楽しくなってきたな!」
マイトも負けじと応戦する。
空中でお互いの魔法がぶつかり消滅する。
「驚いたな。イナミ君の方が少し威力があるみたいだな。だったら………」
マイトは空中に2つの魔法陣出現させる。
「ラノストーム!コールドスピア!」
沢山の氷柱が台風によりもうスピードでイナミの方に向かう。
「っ!」
それをイナミは魔法で何とか対処する。
台風が去るとそこにはマイトの姿がなかった。
「こっちだよ」
イナミは声がする方に視線を向ける。
そこにはリボンを見せつけるマイトの姿があった。
それを見て、とっさに自身の尻尾に触れるがそこにはあるべきはずのリボンがなかった。
「っ!?」
「対処に集中しすぎて尻尾がおろそかだったよ。それじゃあ、これ貰ってくね」
マイトはすぐにもらったリボンを尻尾に巻き付ける。
「それじゃあ!」
そう言うとマイトは、すぐにここから立ち去ろうとする。
それを見ていた観戦していたピンカは突如怒鳴り声を上げる。
「ちょっと何簡単に取られてんのよ!早く取り返しなさいよ!!」
「うるさいぞ、ピンカ。応援もいいが、もう少し周りを気遣え」
「別に応援してないわよ!勘違いしないでよね!」
イナミは離れて行くマイトの背中を見て段々と焦りが募っていく。
「駄目だ…………駄目だよ……持っていかないで」
すると、イナミの表情がどんどん悪くなる。
「ポイントを取らないと………じゃないと、ピンカに……ピンカに怒られちゃんだー!!!!」
その瞬間、感情の爆発と共に身体中の魔力が溢れ出す。
それに気づいたマイトは動きを止めてイナミの方を振り向く。
「な、何だ?」
「返せよ。俺のポイント返せよ!」
そう言って、目に涙を浮かべたイナミがマイトに近づく。
「おおっと!ここでまさかのイナミ選手が覚醒しました!今まで一切喋らなかったイナミ選手が怒りと共に声を荒げました!」
「いや、あれは怒りと言うより恐怖だ。おいピンカ、さすがにイナミに同情するな。日頃から何してんだよ」
「全くですね。日頃のストレスをイナミ先輩にぶつけてるんでしょ。かわいそうにイナミ先輩」
「べ、別にそんなことしてないわよ!勝手に決めないで!」
イナミは鋭い目つきでマイトへとにじり寄っていく。
「返せ……返せ!」
『まずいな、急に喋り出したと思ったら魔力が上がった。あれが本来の魔力量。強い魔法を見れるのは嬉しいけど、さすがに第2競技で全力を出すわけにはいかないな』
「オッケー分かったよ。僕の負けだ。リボンは大人しく返すよ」
マイトは尻尾からリボンを取りイナミの方に投げる。
イナミはそれを受け取りポイントを確認すると、尻尾に巻き付ける。
「それじゃあ、お互い健闘を祈ろう。じゃあね」
マイトはその場からすぐに遠ざかろうとするが、それをイナミは許しはしなかった。
「待て!もう1個のポイントも渡せ」
「急に喋り出したと思ったら、渡せか。ずいぶんと強情になったね」
「俺は勝たなきゃいけないんだ」
「ピンカの為にか?イナミ君は肩に力が入りすぎてるよ。そんなに怖いなら僕からピンカに注意しようか?」
「別にピンカが………怖い訳じゃない。ピンカには奪われるなって言われたから。俺はシンラ様の為に勝つ!」
先程よりも震えはなくなり顔色がよくなっている。
それを見たシンラは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「よく言いました、イナミ。頑張ってください、私はあなたの帰りを待っています」
観客席にいたサラもイナミの変貌を見て驚いた様子を見せる。
「あの男、中々良いじゃないかい。なよなよした弱っちいあたいの嫌いなタイプかと思ってたけど、意外と根性座ってるね」
イナミは鋭い目付きでマイトに迫る。
さすがのマイトもそれを見れば覚悟を決めるしかなかった。
「なるほど、それが本来の君か。やっぱりそっちの方が良いよ。もうちょっとピンカの前でも出してみたら」
「い、今は関係無いだろ」
「まったしかにそうだね」
『さすがにピンカはまだ克服できてないか』
「イナミ君も本気出してくれたみたいだし、僕も君の期待に応えるよ」
その瞬間、マイトの周囲に魔力が流れる。
だがそれより先にイナミが魔法を出す。
「もう1つの鏡世界」
「っ!?まさか……オリジナル魔法!」
その瞬間、周りに様々な魔法で作り出された鏡が出現する。
「これは、鏡?」
マイトは恐る恐る鏡を触る。
だが、それは魔法で作られたこと以外は何の変哲もないただの鏡だった。
「具現化された鏡………理論上は可能、あの魔法陣とあの魔法陣を組み合わせて、いやあっちの方が良いか」
「なに、ぶつぶつ言ってるんだ」
「ああ、ごめん。つい癖でね。オリジナル魔法を見ると何の魔法陣で作られたか考えちゃうんだよ」
「そんなこと、考える時間なんてないぞ」
「大丈夫、別になめてる訳じゃないから」
「始めるぞ」
すると、イナミは鏡の中に入って行く。
「っ!?ワープ的な要素もあるのか。面白い!」
その時後ろの鏡から光の矢が放たれる。
「おわっ!?鏡の中からも攻撃が出来るのか」
その矢は鏡の中に再び入った。
そう思った瞬間、後ろの鏡から再び矢が現れた。
「なっ!」
マイトはギリギリで避けたが、足にかすり傷をおう。
「なるほど、魔法は鏡の中を自由に動き回ると、中々面白い魔法だ。でも、これならどうだ!サンダーボルト!」
マイトは鏡に向かって、魔法を放つ。
だが、マイトの魔法は鏡の中に取り込まれた。
「なっ!?魔法で壊れないのか」
その時後ろから魔力を感じる。
マイトは反射的にそれを避けたが間に合わず直撃する。
「ぐふっ!?これは、僕の魔法………魔法を跳ね返すことも出来るのか」
マイトは膝をつき、呼吸を整える。
「まずいな、このままだとポイントどころか取りに行くことも出来ない」
『鏡を壊そうにも魔法を取り込んでしまう。おそらくイナミと魔法は鏡の中に入ってしまうのだろう。外からの攻撃はほぼ不可能に近い』
「このままじゃ………負けるな」
『この魔法が持続型じゃなく発動型だったらもっとまずい』
発動型とは魔法を1発使った時に魔力が消費される場合、持続型は魔法を発動している間魔力を消費していることを言う。
発動型は1発の魔力消費が高く、持続型は発動するときの魔力は少ないが効果中魔力を消費し続けので長く使うと魔力がなくなる可能性がある。
『僕のオリジナル魔法は発動型、そう簡単に何回も使えない。この魔法が持続型だとしても魔法を長くは使えないはずだ。そもそもリボンを回収しなければいけないこの状況で、ずっと鏡に籠ってるのは考えづらい。となるとここは逃げの一手だけど』
マイトは周りの鏡を見渡す。
「そう簡単には逃げられそうにないな」
そう言いながらもマイトの口からは笑みが消えることはなかった。




