その九 スタートダッシュが大事
せっかくゴール前まで来たのに………このままじゃ最下位になっちまう。
「なんだいあんたらまだゴールしてないのかい?それなら、あたい達が遠慮なくゴールさせてもらうよ」
「おい、サラ!ゴールするなんて勿体ないだろ!こんなに十二魔道士が居るんだぜ!戦わなきゃ勿体ないだろ!」
「中々勢いがあるじゃねぇか!よし、ガイ!俺とやるぞ!」
「何言ってんだ。時間だ。早くゴールするぞ」
「何勝手にゴールしようとしてんのよ!次にゴールするのは私に決まってんでしょ。ほら、そこ退きなさいよ」
「そんな身勝手な話、誰も聞かないと思うよ。ゴールしたい気持ちは皆一緒なんだからさ」
「こりゃあ、そう簡単には行けなさそうにないね」
その瞬間、周りが一瞬静まり返る。
だが、その時間はすぐに過ぎて次の瞬間一斉に攻撃を開始した。
「「「「「「そこを退けーーー!!!!!」」」」」」
まずい、ついに始まっちまった。
こんな戦いに入り込める訳がない。
そもそもミカもダメージが残っていてさすがにこの人数では戦えないだろう。
インパクトを撃とうにもこんなに居るんじゃ一斉に攻撃を受けてしまう。
幸い俺達は眼中にされてないみたいだし、あまり目立たずゴールに向かおう。
「ミカ、歩けるか?」
「大丈夫です、全然歩けます」
「よし、それなら俺達はバレずに行動する」
「えーこそこそと動くのはあんまりやりたくないんですけど」
「文句を言うな。お前は怪我してんだから、これも2位を取るためだ」
「分かってますよ、それじゃあ行きましょう」
ミカが理解してくれたのを確認して俺は岩の影に隠れて移動する。
すると、ミカが俺の肩をとんとんと叩く。
「かつ後輩、玉持ってかないんですか?」
「あ?そういえば、そうだったな」
大玉のこと、すっかり忘れていた。
そうか、あれを持って行動しなきゃ行けないんだ。
「よし、とりあえず大玉を取りに行こう」
そうしようと行動した瞬間、誰かが俺達の玉の近くに飛んでくる。
「エングやったわね!もう、このボール邪魔!」
そう言って、ボールを吹き飛ばした。
「なっ!?」
あれがなきゃゴールできねえのに!
「任せてください、私がチャッチャッと持ってきちゃうんで」
「おいミカ!お前体がまだ!行っちまった」
あいつ、本当に大丈夫なのか。
とにかく俺は目立たずにこの場に留まって。
「あれ?あんたたちこんなところで何やってるのよ。もしかしてネズミみたいにこそこそ隠れてゴールしようとしてたわけね」
最悪だ、1番めんどくさそうな奴に見つかった。
「何であんたが嫌そうな顔するのよ。ていうか、まだ生きてたのね。もうとっくのとうに死んじゃってると思ったわ」
「死ぬわけないだろ、俺だって十二魔道士に選ばれたんだぞ」
「ガルア様の気まぐれで選ばれただけでそれなのに子供みたいに大はしゃぎしちゃって、恥ずかしいわね」
くそー!こいつのペースに飲まれちゃ駄目だ!
「まあ、確かにあんたみたいな雑魚魔法使いにはネズミみたいにこそこそと生きるのがお似合いかもね」
誘いに乗っちゃダメなのか!?
「かつこうはーい!ボール取ってきましたよ。あれ?ピンカ先輩じゃないですか。こんなところで何やってるんです」
まずい、ミカが合流してしまった。
嫌な予感がする。
「何あんた、生意気な口してたくせにボロボロじゃない。所詮は口だけの雑魚魔法使いって事かしら。ランキング最下位からやり直した方がいいんじゃない」
「そう言う、ピンカ先輩は傷1つついてないですね。もしかして、戦うのが怖くて今まで逃げてきたんですか?確かにピンカ先輩位の背なら誰にもバレずにここまでこれそうですしね」
「なっ!?いい加減にしなさいクソガキ!こうなったら、ここで決着つけてやるわよ!」
「別にいいですよ、どうせ私が勝ちますし」
ああ、嫌な予感が的中してしまった。
このままドンパチやってしまったら、ゴールが危うくなる。
「おい、ミカ!戦ってる暇ないだろ!今はゴールが最優先だ」
「でも、なめられっぱなしで引き下がれませんよ」
「後でやり返せばいいだろ!今はゴールだ!」
「はあ、分かりましたよ。今行きます」
ミカは渋々といった様子でピンカと対峙するのをやめてこちらに戻ってくる。
よし、何とか引き留められた。
これでゴールできる確率が上がるぞ。
「何?逃げるの?あんだけ挑発したくせに尻尾巻いて逃げるんだ」
「虚言だ。聞く耳を持つなよ」
「いちいち言わなくても分かってます」
「結局1番びびってたのは、あんただったんじゃないの?結局あんたは自分の事を天才とか言う異常者ってことよ!いや、異常者ってより凡人だったって事かしら」
「っ!今、何て言った?」
まずい、反応してしまった!
「おい!ミカ!」
「私は凡人じゃない!!」
「そこ!?お前そこにキレてたのかよ!」
「ピンカ先輩訂正してください。そうすれば、許してあげますよ」
「するわけないでしょ。あんたは死ぬまで凡人なのよ」
「っ!!このー!!」
そう言って、ピンカの所に突っ込んでいく。
まずい!もう駄目だ!ミカを止めることは出来ない。
俺1人でもゴールするしかない。
俺は大玉を持っていこうとしたが、大玉が見つからない。
「あれ?大玉どこ行った?」
近くには大玉の姿はなく、ふとミカの方を見る。
ミカは何故か大玉を手にしながらピンカに向かっていっていた。
「何であいつ持ってってんだよ!!」
怒りで周りが見えてないのか!?
「ピンポンパンポーン!ただいまエング選手とサザミ選手がゴールしました!」
「なっ!?いつの間に!」
まずい、このままだと本当に最下位になってしまう!
「ピンポンパンポーン!ただいまサラ選手とガイ選手がゴールしました!」
「また!?」
「ピンポンパンポーン!ただいまツキノ選手とマイト選手がゴールしました!」
まずい!もう、俺とピンカのチームしか残ってない!
でも、ピンカは未だに戦闘中、大玉さえ手に入れられれば最下位は免れる。
「ミカ!大玉寄越せ!ゴールするから!」
「撤回しろ!!」
「するわけないでしょ!」
くそ、完全に周りが見えなくなってる。
まあ、ゴールはされないから心配は要らないが。
あれ?何か忘れているような。
「ピンポンパンポーン!イナミ選手がゴールしました!これにより順位が確定したので第1競技を終了します」
イナミ、もう1人の十二魔道士の存在。
「わ、忘れてたーーー!!」
こうして、俺達は最悪のスタートダッシュを切った。




