その六 下の下
「よし!ついに森を出たぞ!どうだ、テレポート使えるか?」
「はい、使えそうです」
「よし、それじゃあ目的地まで頼む」
「分かりました。しっかり捕まってくださいよ。テレポート!!」
――――――――――――――――――
「………着いたのか?」
そこは自然に囲まれた空気の清んだ街だった。
何処となく住みやすい街だ。
治安も良さそうだし、田舎みたいな安心さを感じる。
「あれがこの島最大の大樹、そしてこの街の城です」
「あれが………」
とてつもなくデカイな、本当に人が住めそうだ。
「早く行きましょう!さっさとゴールして2位になりましょう」
「分かった」
俺の予想が正しければあそこにゴールがあるはずだ。
「あれ!ゴールじゃないですか!」
木の真下には謎の魔法陣が出現していた。
「あれか!あの中に入ればゴール!」
急がないと、もう既に皆気づいてるかもしれない!
せめて、2位は取らないと。
「ん?あそこに誰か居る?」
ミカの言う通り木のところに2人程居る。
あれは……………
「エングとサザミ!!」
その2人が来たと気づいた瞬間俺は足を止める。
何で、あいつらがここに居るんだ。
「何で先輩方がゴール前に居るんですか?」
「決まってんだろ。お前らを待ってたんだよ」
「ここまで俺達の邪魔をするのか?」
「クフフっ邪魔?別に邪魔をしたつもりはないぞ。先に仕掛けてきたのはお前らの方じゃなかったか?」
あれがサザミか。
実際に会ったのは控え室だけだけど、あの人も優勝候補の1人何だよな。
「確かにそうですね。なら、決着つけますか?」
「威勢がいいな。それでこそ潰しがいがあるぜ」
「ちょっ決着つけないから!ゴールすれば終わりなんだぞ!わざわざ戦う意味ないだろ!」
「でも、そんな簡単に通してくれなさそうですよ」
「うっ!」
確かにそうだこの2人を掻い潜ってゴールするのも至難の技。
でも、倒すのなんてもっと辛い!
「それじゃあ、早速やるか!」
「クフフっ楽しませてくれよ」
本気でやるのか?
これ、逃げた方がいいかな?
「行かせてもらいますよ!ウォータープレッシャー!」
強烈な水圧で2人に襲いかかる。
だが、エング達はそれをひらりとかわす。
「中々のスピードだな!だが、こんなんじゃ俺を倒せねぇぞ!グランドファイヤー!」
「スプラッシュネット!」
す、すごいあの十二魔道士のエングの魔法と互角だ。
ミカ想像以上に強いな。
「よそ見してる場合か?」
「っ!?」
その瞬間、光の矢が俺の頬をかすめる。
「くっ!」
「俺の得意魔法は光だ。普通の魔法よりも早いだろ。その魔法を避けたお前の反射速度は中々のものだな。だが、俺からしたらまだお前は下の上だ」
下の上、そういえばこいつ控え室の時もそんなこと言ってたな。
俺の評価って事かよ。
評価の段階は知らないけど下の上って間違いなく俺を下に見てるな。
まあ、そりゃ俺の魔力量を見ればそういう評価になるけど、ちょっとムカついた!
「おっやる気が出たか?」
「俺だって覚悟決めてきたんだよ。こんなところで負けるわけにはいか―――――」
その瞬間、氷が頬かすめる。
こ、こいつ人が話しているのに。
「次いくぞ」
「ちょっ…………待てよー!!」
こいつ、話の途中で魔法撃ちやがった!
何て自分勝手な奴!
でも、強い!
1発1発正確だし、何しろ避けたところにピンポイントで魔法を撃ち込んで来る。
近づけない!
「ひゃっ!」
あっちも結構やばそうだな。
くそ!こんなところで時間食ってる場合じゃないんだ。
他の十二魔道士も合流してしまう。
そうしたら、2位所か最下位になってしまう!
「避けてるだけじゃ意味ないぞ。このまま終わる気か?」
「終わるわけ……ないだろ!」
攻められっぱなしじゃ駄目だ!
俺も攻撃しないと!
「ファイヤー10連!!」
空中に展開した10個の魔法陣から炎があふれでる。
『なるほど、これが例の10個の魔法陣か。聞いてた通りどれも低レベル!』
サザミはそれをすべて避けずに受ける。
やっぱりそう来ると思ってた。
「ん?姿が……………」
そっちに注意がそれて俺の姿を見失っただろ。
隙が出来る!
俺はその瞬間、サザミの背後に回る。
『後ろ!』
貰った!
その瞬間、手に魔力を溜める。
『何だこの魔力!?まさか、これが切り札!まずい、この距離は!』
喰らえ!先ずは1発目だ!
「うおおおおっ!!」
「ぐふっ!!」
『顔面を……殴ってきた!』
よし、当たった!
「やったのじゃ!」
「まさか、普通に殴るとは思いませんでした」
「インパクトを早めに撃つにはまだ早い。だから、それを罠に使ったって訳ね」
「魔法使いが拳で戦うなんてな。俺の経験上あいつだけだぞ。そんな戦い方するの」
「でも、それだけだと勝てないわ。やっぱり魔法が足枷になる。それをどうするのか」
1発だ!先ずは1発入れてやった。
サザミは殴られた箇所を撫でると、不気味な笑みを浮かべる。
「クフフまさか殴ってくるとわな。さすがの俺もそんな経験はしたことがない。面白いと同時に腹が立つな」
サザミは口から出てる血を手で拭う。
「この俺を拳1つで倒せると思ってるとわな。舐めてるってことか?」
まずーい!変な解釈をしてしまった!
このままだと殺されてしまう!
「ち、違う!俺はこの戦い方しか出来ないから、だから」
「お前の評価を改めなきゃいけないみたいだな。魔法使いとしてのお前の評価は下の下だ!」
「くっ!か、勝手に人の事を評価するなよ!」
「クフフっそういうこと言えるのは俺より強い奴だけだ。悔しかったらかかってこいよ!」
くそ!舐めやがって!
でも、攻撃は当たってるんだ。
冷静に対処すれば倒せるぞ!
足は動く、後は攻撃するタイミング!
「サンダークラウィング!」
地面を這う雷!
これは、ジャンプして回避する!
「ふっ選択ミスだな」
その瞬間、地面を這っていた雷が上昇する。
「なっ!?上に上がった!」
まずい、直撃する!
「ファイヤーボール3連!ウィンド!」
ファイヤーボールで勢いを抑えてウィンドでその場を脱出する。
何とかなった。
「休む暇があると思うか?」
足元に魔法陣が!
「くっ!」
俺が退いた瞬間、巨大な氷柱が顎をかすめる。
危なかった、顎をかすった!
それでも、ダメージがあるなんてやっぱり魔力抵抗の少なさが足枷になってる。
とにかく一旦体制を立て直さないと。
「そっちに逃げてもいいのか?」
「っ!?」
「蒸し焼きになるぞ?」
逃げた先に炎のカーテン!
まずい!このままじゃ直撃、そうなれば骨すら残らない!
「ウォーター10連!」
10個の魔法陣から大量の水が出る。
だが………………
「駄目だ!炎の勢いが消えない!」
「クフフっ終わったな」
「まだ………だ!ウィンド10連!」
10個の中から出たことによってそれなりの竜巻が発生する。
それに炎が巻き込まれていき炎の渦となる。
「よし!いけー!!」
炎の勢いが強すぎて予想以上に大きな竜巻が出来た、これならさすがのサザミもダメージを受けるはずだ。
「アイスクラッシュ」
それはたった一つの魔法で一瞬で凍り付き、そして砕けた。
「…………化け物」
恐れるな、最初から分かってただろ!
相手が化け物だってことは、それでも参加したんだ。
臆しちゃ駄目だ!
「ウォーター!」
「水浴びがしたいのか?こんな魔法でどうにかなると本当に…………」
「ソイル!」
「くっ!砂の魔法!」
よし、これで視界を奪った!
もう1発くれてやるよ!
俺は拳を握りしめ、目潰しされているサザミの顔めがけて拳を下ろす。
だが、サザミはその拳をいともたやすくかわす。
「なっ!?ぐふっ!」
そして、カウンターにより俺は吹き飛ばされた。
痛みで腹を抑えながら俺が何が起きたのか理解できていなかった。
「がはっ!な、何で……見えなかったはずなのに」
「さすがに威力はお前よりは劣るか。まっダメージが入らないよりマシか」
そう言うと、サザミは余裕そうに殴った拳を開いたり閉じたりする。
「どうしてだよ!お前目が見えてなかったんじゃないのか!」
「クフフっこんな子供だましに騙されるとわな。わざとだよ。魔法を受けたのも、攻撃させたのも」
「わざ………と?」
誘われたのか?
罠にはめられた?
「お前の拳、確かに早い。威力も中々だ。確かに俺はこういう戦いは経験したことがなかった。だが、今経験した。だからもう当たらない。お前の拳は俺の所には届かない」
見切られてる、俺の攻撃がもう当たらない。
「お前の敗けだ」




