その十八 信じるな
「よっ会議終わったからそろそろ帰るか」
ガルアはすでに会議を終わらせてたのかミカと2人で俺の事を待っていた。
「帰るんですか?もうちょっと観光したいんですけど」
「何言ってんだ。どうせ待ってる間にも色々見て回ったんだろ?」
「まあ、そうですけど」
「お前も楽しめたか?」
「ああ、何か色々すごかったよ」
すると、1人の男が俺のところに近づいてくる。
「よっ!久しぶりだな。相変わらず色々な事に巻き込まれてるな」
風間………嫌な奴に会っちまった。
「露骨に嫌そうな顔すんなって」
「お前と会ってこれ以外の顔になると思うか?」
「相変わらずだな。ちょっとあっちで話さないか?」
「は?何言ってんだお前?」
「いいからいいから、ガルアこいつ借りてくぞ」
「翔太!かつに何かしたらただじゃすまねえぞ!」
「安心しろ。そんなことしねえよ。ただ話すだけだ。なっ?」
何か、気色悪いな。
もし何かされたらその時は全力で反撃すれば良いか。
「ごめん、ちょっと話してくる。待っててくれないか」
「ああ、なるべく早く済ませろよ」
それはどちらに言われた言葉なのか、少しそんなことを思いながらその場を離れる。
そして俺は風間に、人気の無いところに連れてかれる。
誰もいない場所での話し合いか。
「おい、なんなんだよ。俺はお前と話すこと何もないんだけど」
「まあ落ち着け。別になんもしねえよ。お前、派手にやったみたいだな」
「何がだ?」
「裏社会の話だよ。闇マーケットをぶち壊したんだろ?」
「お前には関係ないだろ」
すると、風間が急に俺の胸ぐらを掴む。
「関係無くないんだよ。お前、裏社会に喧嘩売ったって事だぞ。分かってんのか?」
「わ、分かってるよ。だからってお前が怒る意味が分からない!」
「はーー………お前、今リーチだってこと分かってるのか?」
「は?リーチ?」
「浜崎から聞いたぞ。日本の存在がバレたらしいじゃねえか。このままだと見つかるのは時間の問題だぞ」
浜崎、あいつよりにもよって風間に言うなんて。
「分かってるって、ちゃんと警戒してるよ」
「裏社会に手を出してしかもその秘密もバレてる、俺は前言ったよな。裏で牛耳ってるやつがいると。もし、そいつが裏社会と関わりがあるとすれば、お前すぐに殺されるかもな」
こいつ、縁起でもないことを。
俺は胸ぐらを掴んでいる風間の手を振り払うと、服のシワを正す。
「俺は簡単には死なない。今まで助けてもらった分、恩返しもしないといけないし、それにお前より先に死ぬわけには行かない」
「何処で張り合ってるんだよ…………かつ、お前は俺が憎いか?」
風間は何故かそんなことを俺に訪ねてくる。
その時の表情も相まって俺は思わずイラッときた。
「は?今さら何言ってんだ。憎いに決まってんだろ。俺は今でも忘れないからな」
「ははは、そうかまっ俺はそれはそれで嬉しいけどな」
「くっ相変わらずのサイコパス野郎だな。もう話はすんだろ、俺はもう帰るから」
俺は一刻も早くここから離れたくて、すぐに小走りでその場から逃げる。
「おい、かつ!」
「まだなんかあるのかよ」
「ガルアを信用するなよ」
「っお前の方が信用できねえよ」
俺はその言葉を聞いてガルアの元に戻ってきた。
するとミカが暇そうに窓に指で何やら絵を描いていた。
あれは跡が残るやつだな。
「あっ!やっときました。遅いですよかつ後輩。早く帰りましょう」
「ああ、悪い。ちょっと長話しちゃって」
「お前ら、仲良いよな。何の話をしてたんだ?」
風間のせいでガルアの言葉に少し怪しんでしまった。
いけないいけない、ガルアは俺の友達だ。
怪しむなんて、友達失格だ。
それにあんなやつの言うことなんて聞く必要はない。
俺が困惑するのを見て楽しんでるだけだ。
「何でもねえよ。ただの世間話だ」
「にしても何で風間様と仲良しなんですか?」
「ただの幼馴染みだ」
あんまり言いたくないが、他に言い方が思い付かないから仕方ないな。
変に勘ぐられても困るしな。
「よし、それじゃあ早速かえ……っとまだ帰れそうにないな」
すると、俺達の目の前にこの町の王ミュウラが立ちはだかる。
「ガルア、あなた今回は本気でそのメンバーで行くつもりですか?」
「何回聞くんだよ。これで行くって言ってんだろ」
すると、ミュウラが俺の事をじっと見てくる。
「ガルア、あなたは今まで様々な方を十二魔道士にして、勝利してきましたが。今回は明らかな人選ミスと言わざるおえません」
くっ!こいつ、俺の事を見ながら言いやがって。
「おいおい、まだ俺の目を疑ってるのか?フルーツ屋の店主の才能すら見抜いたんだぞ?」
「確かに、そうですが。今回の彼からは魔力が全く感知できません。流石にこの方が私の十二魔道士と競え合えるとは思えませんね」
めちゃくちゃバカにされてるんだけど。
舐められてるのは馴れてるがガルアの十二魔道士になった以上、なめられっぱなしは駄目だよな。
「あの―――」
俺が文句を言おうとするとガルアが俺の前に手を出す。
「私のってことは本気で島の王になる気か?今回は黒の魔法使いに重点を当ててると思ってたけどな」
「言ったでしょう。神がそう言ってると」
「すまねえな。ちょっと聞いてなかったわ」
「なら、何度でも言いましょう。あなたの敗北と私の復讐が達成されると神は言っています」
神?そういう宗教じみたことをしてるのか?
「そうか、俺の神も言ってるぞ。完膚なきまでにぼこぼこにしてやるってな」
ガルアやりやがったな!結局火種は俺達の方に飛ぶんだぞ。
その時ミュウラの眉が少し動く。
「それは楽しみですね。それでは、島王選で会いましょう。ガルア、そして十二魔道士」
そう余裕の笑みを浮かべながら行ってしまった。
「おいガルア!あんまり煽るなよ!一点集中されるだろ」
「なら、蹴散らせば良いだろ?心配ねえよ、お前なら勝てる」
「いや、そういう問題じゃ」
「心配なら私が守ってあげますよ」
「とりあえず、腹は括っとけよ。どっち道一筋縄じゃいけないんだからよ」
そうだ、俺がやろうとしてることは最強の魔法使いと戦うってことなんだ。
これは………勝っても負けても地獄だな。
「それじゃあ、一旦城に戻るぞ。やり残しはないか?」
「いっぱいありまくりです」
「だから、観光はまた今度だって言っただろ。遊びに来たわけじゃないんだぞ」
「ガルア、今日の会議で何を話してたんだ?」
「ん?興味あるのか?だがすまないな、十二魔道士だと言えど会議の内容は機密事項なんだよ」
「そうなのか」
まっ流石にそんなほいほい言えるわけないか。
他の王の所にも日本の事は伝えてあるのだろうか。
「それじゃあ、一旦外に出てからテレポートするぞ」
「分かりました」
「ああ、分かった」
こうして俺達は一旦城に戻っていった。
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「失礼します、ミュウラ様」
ミズトはミュウラの部屋に入っていく。
すると、ミュウラが嬉しそうな顔である写真を見つめる。
「ミズト、私はずっとこの日を待っていました。あの忌々しいクソガキを殺すために……ずっとずっと待ってきました!」
そう言って、ミュウラは持っていた写真をビリビリに破く。
「ミズト、分かってますよね?」
「はい、必ずや裏切り者の息の根を止めます」
「ふふふ、期待してるわよ」
そう言って、ミズトの頭を撫でる。
「神は言っています。あなたが裏切り者の息の根を止め、勝利の女神が微笑むと」
「ありがたきお言葉です」
「もう下がっていいわよ」
「はっ」
ミズトは頭を下げ扉に向かう。
「失礼します」
そう言って、ミズトは部屋を出た。
「あなたに神の祝福があらんことを」
扉の前には少し心配そうな顔でミズトを待っていた。
「お、お姉さま大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、ナズミは心配しなくても」
「で、でもお姉さま、ミュウラ様のプレッシャーで体を壊さないか心配で。わ、私のことも十二魔道士として頼ってください」
「ありがとね、便りにしてるわ。でも、ナズミは黒の魔法使いと戦わなくてもいいから」
「で、でも!」
「大丈夫だから、分かった?」
「…………分かりました」
「いいこね。ほら、もう遅いし寝なさい」
「おやすみなさい、お姉さま」
「おやすみ、ナズミ」
ナズミはそのまま寝室に向かってしまった。
「これは、私の問題だから」




