その十四 裏切りと告白
「たくっ別に今日じゃなくてもいいのに」
俺はリツに頼まれた手伝いをしに店に来ていた。
「相変わらず分かりにくい所に店を構えてるな」
俺は早速中に入るためにドアノブに手を掛ける。
ドアはすんなりと開き俺は中に入る。
「お邪魔しまーす…………」
中は暗く人も誰もいなく営業をしてるようには見えなかった。
「あれ?誰も居ないのか?」
俺は中に入り辺りを見渡す。
「本当に誰もいない…………」
おかしいな、手紙が来たから居ると思ったんだけど買い出しでも出掛けたのか?
もしそうだとしたら鍵も閉めないで行くなんて不用心すぎだろ。
「うーん、どうしよう」
何もすることがないので、帰ってくるまでとりあえず中を見渡す。
相変わらず商品棚には様々なポーションと道具が置かれている。
カウンターの方を見てみるとカレンダーの方に目がいった。
カレンダーの水曜だけ赤丸が付いている。
「これって今日だよな?」
その時奥から声が聞こえた。
「っ?誰か居るのか?」
もしかしたら奥で何かをやってるのかもしれない。
俺はそう思い扉の奥に向かう。
やっぱり声が聞こえる。
リツか?でも、誰かと話してんのか?
何かいけないことをしてしまってるようで罪悪感と緊張で心臓がバックバクだ。
この扉か?
俺は少し扉を開けて隙間から覗き込む。
「それじゃあ、後は任せたぞ」
「はい、もちろんです」
誰と話してるんだ?
人じゃない?モニター?
モニター越しで誰かと話してるのか?
「必ず成功させろよ」
「分かってます。心配しなくても大丈夫です」
何の話をしてるんだ?
もう少し扉の近くに耳を近づける。
「お前は本当にやれるんだろうな」
「だから、大丈夫ですって。必ず成功させますよ、ミノルの暗殺計画は」
「っ!?」
衝撃の言葉に思わず声が出そうになるのを必死で抑さえる。
そしてすぐに扉を閉めるとそのまま店を出ていった。
「……………………」
「どうした?」
「ううーん、何でもない」
「ちゃんと殺れるんだろうな。貴様らは妙に親交を深めているようだが」
「大丈夫だよ。きっちり任務はこなすから」
―――――――――――――――――――
「はあ、はあ、はあ………っ」
ヤバイ現場を見てしまった。
とっさに逃げたけどバレてないよな。
「くそ!どうなってんだよ!何で、よりによって何でリツが………」
先程の光景がまた脳裏に浮かぶ。
あの声、そして一瞬だけ見えたあの姿。
「間違いない、リツが喋っていた相手はクラガだ」
しかも、モニターって言うこの時代にはない技術を使っていた。
浜崎が言うにはガルアはこの島を発展させないようにさせていると聞いてたけど、あれは許可を取らずに使ってたのか。
「これから、どうしよう」
人は見てはいけないものを見るとどうすればいいか分からなくなるんだな。
もう、リツとは普通に顔を会わせることが出来ない。
というか、ミノル暗殺を企んでいるならミノルをリツに会わすわけにはいかない。
いや、暗殺だから会わなくても寝込みを襲うかもしれない。
でも、ミノルの事を守ろうにも何て説明すれば。
「そもそも、ミノルには言うべきなのか?」
もし、ミノルに何も言わなければ2人はいつも通り会っていつも通りに話をして、仲が悪くなることもなくなる。
ミノルにとってリツは大切な存在だし、リツもそうだと思っていた。
でも、その関係を俺が壊してもいいのか?
「言わない方がいいのか?」
言わなかったらこの日常は変わることはない。
でも、もし言わずにミノルを守ることが出来ず死んでしまったら?
後悔しか残らない。
あの時言っておけばと後悔することに。
もう、後悔はしたくない。
見てしまったんだ、なら俺が責任をもって言うしかない。
「行こう。言うしかないんだ」
―――――――――――――――――――――
すぐに家へと戻ると、帰ってきて俺を見てミノルが驚いた顔をする。
「あれ?かつ?どうしたの、血相変えて。リツの頼み事は済んだの?」
「ミノル、お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」
「ん?どうしたの。何か怖い顔してるわよ」
「真剣な話なんだ」
「………そうなのね」
その言葉を聞いてミノルはソファーに寝っ転がるのをやめて体を起こす。
「それで、話ってなに?」
「リツの事は知ってるよな」
「いきなり何よ。当たり前でしょ」
「それじゃあ、リツの秘密については知ってるのか?」
「っ!?あ、ああ、実は胸のところに――――」
「違うそれじゃない」
それはめちゃくちゃ聞きたいけど。
「じゃあ何?」
「俺、聞いちゃったんだよ。リツがクラガと話してるところ」
「っ!?………何、それ」
さすがのミノルも衝撃だったのか、言葉を失い目を見開く。
「リツはクラガとミノルの暗殺計画を立ててたんだよ」
「は、はあ!?そんなの嘘でしょ?」
「嘘じゃないんだよ。この目で見たんだ」
「見間違いじゃないの?」
ミノルは再度確認をする。
見間違いであってほしいと期待するかのように。
だが俺ははっきりと告げる。
「見間違いじゃない。しっかりと声も聞いたし、姿もクラガとリツだった」
ミノルは俺の言葉に半信半疑だ。
でも、俺は本当に見てしまった。
この事実は覆らない。
「なあ、もしかしてリツはさ」
「………………………」
「黒の魔法使い何じゃないか?」
その言葉を聞いて、ミノルは何かを受け入れたかのように俯く。
「バレちゃったのね。それなら、仕方がないね」
「え?」
何だその反応は、さっきミノルは自分が殺されることに対して驚きを見せていた。
それに比べるとこれは明らかに知ってる反応だ。
「実はね私、知ってたの。リツが黒の魔法使いってこと。でもね、もうやめてるの」
「え?ちょ、何言って」
何かとてつもなく嫌な予感がする。
この事を教えたことを後悔するようなそんな予感が。
ミノルは淡々と告げる。
「私もね、実はね」
「お、おいミノル?」
その時外から誰かの声が聞こえた。
それにより扉が勢いよく開かれる。
「ただいまなのじゃ!」
「黒の魔法使いなの」
それはとてつもなくタイミングが悪く、そして信じたくない言葉だった。




