その十一 拳の決着
「魔法が出せなくなったとしても俺は攻撃をやめないぞ。棄権するなら今のうちだ」
「だからしないって言ってるだろ」
なるべく魔法を節約していこう。
避けるところは出来れば足で。
「そうか、なら容赦はしない!」
その瞬間、2つの魔法陣が展開される。
「ふぅー…………よし、来い」
俺は一旦呼吸して体を休ませる。
そして、呼吸を整えた瞬間ハイトの攻撃が始まる。
「おりゃあっ!!」
「くっ!」
凄まじい魔法の連鎖に俺は抵抗することで精一杯だった。
デタラメだ!
強すぎるだろ!
こんなに連発して来られたら避けられない!
「インパクト!インパクト!インパクト!」
くそ!駄目だ、使わなきゃ避けられない。
1つ1つが即死魔法だ。
「ちょっと、ちょっと!かつっち、劣勢だよ!まずいでしょ!」
「確かにこのままだったらかつの勝ち目は無いわね。でも…………」
「くっ!?こいつ………」
「どうやら、押されてるのはハイトさんの方みたいですね」
「インパクト!」
「っ!?くそ!何で当たらない」
少しづつだが、ハイトが焦ってきている。
この攻撃もこの攻撃も分かる!分かるぞ!
「かつもここに来てから1年経つし、修業もしたし、そろそろ慣れてきたんじゃない半獣の体に」
「ミノルさん?何か言いましたか?」
「え?何でもないわ!」
何だ、体が軽い。
段々この体の限界が分かってきたぞ。
これならいける!
「くそ!ライジングサンダー!」
「ファイヤーボール!」
ファイヤーボールでライジングサンダーの軌道を変える。
それにより俺の横を掠めていく。
「ウオーター!サンダー!」
「くっ!そんな魔法が俺に効くわけ!」
「知ってるよ。でも、一瞬だけでも動きが止められれば十分だ」
その瞬間、一気にハイトの距離をつめる。
『こいつ、早い!』
「行くぞ!インパクト!」
「まずっ…………!」
直撃だ!
俺は衝撃波と共にすぐさま距離を取る。
「ぐっ!がはっ!」
衝撃波によってハイトが吹き飛ばされる。
かなりのダメージが入っただろう、すぐに立てずにその場でもがいている。
「ナイスじゃ!そのままやるのじゃ!」
よし!段々魔法についていけるようになってきた。
これなら行けるぞ!
「なんやってるんですか先輩。本調子じゃないんすか」
そう言って、ミカが少し心配そうにハイトを見る。
確かにハイトならまだ何かを隠していそうだな。
「おいおい、こんなもんじゃないだろ」
「お前にはこれくらいで十分だ」
「まだそんなこと言ってるのか。なめプして負けるのが1番カッコ悪いぞ」
「うるさい!俺はもっと先を見なければいけないんだ!お前ごときに本気を出すわけには行かない」
何だこいつ。
劣勢なのに何でまだ本気を出さないんだ。
負けたらもともこもないだろう。
「そうかよ。じゃあ、俺も容赦はしないぞ!」
後5発か………今の状況なら十分行ける数だけど。
「うおおおぉぉぉ!!」
ハイトは相変わらず多くの魔法を出す。
だが、それは魔力レベル7や8位のものばかりだ。
「だからもう見切ったって言ってるだろ!」
「ぐふっ!」
俺は魔法を掻い潜りハイトを蹴飛ばす。
ハイトはそのまま後ろに下がると蹴られた腹を押さえる。
「ハイト、何でさらにレベルの高い魔法を出さないのかしら。いくら魔力レベル1のかつでもあの魔法だけで倒せないことくらいは本人が分かってるはずなのに」
「何かを自分に課してる見たいに見えますね」
「ふぅ……ふぅ……くそ!」
「おいおい、維持張んないで本気で来いよ。このままじゃ本当に終わるぞ」
「うるさい!俺は、お前に負けるわけには行かないんだ!」
くそ、何なんだ本当にだったらなおさら何でレベルの高い魔法を使わないんだ。
「先輩!!」
その時応援席からミカの声が聞こえた。
「いつまで遊んでるですか!もう見てられないですよ!このままじゃ無様に負けますよ!」
「うるさい!!お前は黙ってろ!!」
そう言って、声援を送ったミカを怒鳴る。
「おおー怖っ!怒られちゃった」
「なんじゃ、なんじゃ。せっかくあやつは応援してやったのに何を怒ってるのじゃ?」
何故かハイトはミカにすごくイラついてるように見える。
「おいおい、さすがにそれはないんじゃないか?せっかく応援してくれたのに」
「あいつの応援だけは絶対に聞かない」
「いや、まあ何があったかは知らないけどこういう場は仲良くやれよ」
「別に俺はあいつだけを嫌ってる訳じゃない」
「は?どう言うことだ?」
突然の意味わからない発言に俺は戸惑う。
「俺はな努力しないやつが嫌いなんだよ。見てるだけでヘドが出る。その中でも天才はもっと嫌いだ。ただ単に魔力レベルが最初っから高いだけで自分が1番強いと思ってやがる。天才だ神童ともてはやされ、自分が最強だと勘違いしている愚か者共だ!」
うおっ!何かすごい怒ってるな。
そのままハイトは怒りのままに語り続ける。
「天才なんてものは存在しない。努力をしてるやつに結局は負けるんだ。それなのに努力せずにさらにそいつらをバカにする傲慢さも持っている。天才なんて者はなそう言う愚かな生き物なんだよ!」
「要するに結局は自分の価値観を押し付けてるだけだろ。天才全員がそう言うわけでも無いだろ」
「全員同じだよ。天才ともてはやされて調子にのるやつも。自分の力を過信して努力をしないやつも。そして俺自身も………全員嫌いだ」
「ん?俺自身?」
「うるさい!戦いの最中だろ!行くぞ!」
そう言って、再び攻撃を再開する。
くっ散々喋っておいて俺の質問は無視して戦闘開始かよ、勝手な奴だな。
だがまあやるしかないか!
――――――――――――――――――――――
かつとハイトの試合をミノル達は固唾を飲んで見守っていた。
そんな中先程のハイトの激情を見てリドルはとある疑問を呟く。
「彼は何であそこまで天才と言う者を恨んでいるんでしょうか」
「教えてやろうか?あいつの過去を」
ハイトを真っ直ぐ見ながらガルアはそんな提案をする。
「ガルア様、教えてください!」
「いいだろう。この事は他言しないでくれ、実はあいつはサキン村の生き残りだ」
「「っ!?」」
その言葉にリドルとミノルは同じくらい驚きを見せる。
「まっ驚くのも無理はないな。その村は8年前に消滅している。黒の魔法使いの手によってな」
「………知ってますよ。よく、知ってます」
「まあ有名な話だしな。黒の魔法使いが正式に指名手配されたのもあの事件からだ。サキン村の人達はあの事件で全滅したと思っていたが、ハイトだけは生き残ってたらしい。本人が言うから間違いないだろ」
3人の周りにだけ妙な空気が漂う。
ガルアはその空気を気にせずに話を続ける。
「ハイトはあの村では天才と言われてたらしい。街とは違って村は強制的に魔法許可証を発行しなくてもいいからな。だが、ハイトは偶然街に行った時に産まれたらしい。だから魔法許可証を発行してもらい、初期魔力がレベル6、魔法許可証を発行してない村では天才と言われても仕方ないかもしれないな。それに初期魔力が6なのも中々いい数字だしな」
「本人が天才って呼ばれてたってことは」
ミノルの言葉にガルアは頷く。
「お前が思ってる通り、あいつが嫌ってる天才の造形は自分自身だ。さっき言った事件でハイトは深い傷をおった。自分を天才だと言われ、努力を怠りいざというときに何も出来ない、そんな自分から天才を憎んでるらしい」
「そう言うことがあったんですか……」
ハイトの過去を知り、2人は言葉が出なくなった。
もう一度ガルアは戦っているハイトの方をみる。
「お前らもあいつが正式に十二魔道士にならないことを不思議に思ってただろ」
「そうですね。十二魔道士と遜色ない魔力量ですし、戦闘も魔法を巧みに使っていますし、何故認められてないのか不思議でした」
「あいつは魔法に関しての戦闘力は十二魔道士に匹敵する。それに努力家だ。出会った時は魔力レベル6だったが3年で10まで仕上げた。実際に魔力レベルを1つあげるには2年以上は魔力を磨かなきゃいけない。だが、戦闘力だけで十二魔道士になれるほどこの席は甘くはない」
「足りない物があるってことですか?」
「さっきも話したがあの事件以来やつは黒の魔法使いに異様に執着している。もし、その状態で十二魔道士になったらどうなると思う?」
リドルは少し考えこむ。
そして自身の中で導かれた結論を口にする。
「いざと言う時、命令を無視する可能性がある……ですか?」
「まあ、そんな感じだ。あいつは怨念で動いている。怨みを力に行動するやつは信用できない。十二魔道士は王の右腕だ。時には王を守り、そして民衆をも守る必要がある。もし、奴が黒の魔法使いと接触したらほぼ間違いなく、あいつは怨みを果たすために民衆や王を守ることをせずに黒の魔法使いと戦うだろう。信用できないやつを傍らを置いとくことはできない。それにあいつ自信が俺達を信用していない。そこがハイトに足りないところだ」
ハイトが選ばれなかった理由を聞いて、リドルは納得した様子を見せる。
「そう言うことだったんですね。でも、まだガルア様自身は見放してる訳じゃないですよね。もし、本当に信用しきれないならとっくのとうにハイトさんを十二魔道士の候補から外してますしね」
「それはちょっと違うな。俺はあいつの努力を信用している。それに、人はちょっとの言葉と行動で変わることがある。俺みたいな天才の言葉に耳を傾けることは無いが、同じ努力をしている奴の言葉は聞いてくれるかもしれないからな」
そう言いながら2人の戦いを見守っていた。
その時リドルはこの間に黙り込んでしまっているミノルに気づく。
「そういえば、ミノルさん。大丈夫ですか?顔色が悪いですが」
「っ!?大丈夫よ……気にしないで」
そう言って、無理やり笑顔を作る。
それは明らかに何かを隠した笑みだった。
「そうですか」
だがリドルはそれ以上深入りせずに視線を再び二人の戦場へと向ける。
―――――――――――――――――――――――――
「くそっ!俺は負けるわけにはいかないんだ!」
「だったらもっと本気を出せよ!」
「黙れ!!」
くそ、相変わらずずっと同じ攻撃しかしてこないし、何か段々イライラしてきた。
こうなったら。
俺は攻撃をやめて、その場で立ち止まる。
「ふざけるなーー!!」
「っ!?」
「え?かつっちが………怒った?」
「お前マジほんと、イラつくなほんとにマジで。子供かお前は!さっきから黙れとか天才は嫌いだとか言いやがって!なめプしてる余裕あったら本気出せよ!何を自分に課してるか知らないけどよ、本気じゃないお前に勝って十二魔道士になっても俺は嬉しくない!」
「お、お前に俺の何が分か―――」
「分からねえよ!だって聞かされてないからな!分かるわけないだろ!なのにさっきから意味深なこといいやがって、何だ構って欲しいのか?聞いて欲しいのか?」
「べ、別に俺はそんなんじゃ」
「お前は、そう思ってなくてもこっちがそう思うしかないって言ってんだよ!」
「っ!?」
俺はこの怒りが収まらない間に言いたいことを続けて言う。
「いいか、よく聞けよ。お前の過去も自分の信条も他人とってはどうでもいいもので、それを押し付けられるのはとても迷惑なんだよ!天才が嫌いだからミカも嫌い、ミカからしたらとんだはた迷惑な話だ」
「分かったように言いやがって!俺は―――」
「過去とか未来とか!そんなもんばかり見てないで今を見ろよ!遥か先の敵じゃなくて今の敵を見ろよ!お前の目の前に居るのは俺だぞ!!魔力レベル1の絶対かつが、今の敵だ!!」
「―――――っ!?今の………敵………」
俺は少し息継ぎをしてから言葉を紡ぐ。
「別に過去をいつまでも引きずるなと言ってる訳じゃない。誰を嫌いとかそんなもん誰にでもある。でも、過去は過去だ。そして、ミカはミカだ。自分の価値観を相手に押し付けるなよ。天才が全員そんなやつばかりじゃないし、お前が1番嫌いなのは天才じゃない」
「っ?じゃあ、誰だって言うんだよ」
「自分自身じゃないのか?」
「っ!?……そうだな、俺は自分が1番嫌いだった。努力をしなくても俺は強いとずっと思っていた」
「そうなのか?俺にしちゃあ、力があるのになめプをしている今のお前は昔のお前と変わらない気がするけど」
「…………っそうだな。今の俺も、昔の俺と変わらない」
「そう認めるんだったら変わった方がいいんじゃないか?昔色々あったとかは一旦忘れて、戦おうぜ。十二魔道士をかけて、本気で」
すると今ままでしかめっ面していたハイトの表情が緩んだ。
「勝てるチャンスを失うだけだぞ?」
「言っただろ。本気じゃないお前に勝っても嬉しくないって」
「本当に可笑しなやつだな」
そう言って静かに笑う。
どうやら吹っ切れたみたいだな。
『すまない、皆。この瞬間はこの瞬間だけは自分の気持ちに正直でいたい。俺は本気のあいつを倒したい!』
「かつ、本当にありが―――」
「不意打ちパンチ!!」
「ぐふっ!?」
俺はその瞬間、その場で立ち尽くしていたハイトの顔面をおもいっきり殴った。
「「「「殴ったー!!!!??」」」」
「かつっち、普通そこで殴る!?」
「さすがに妾も驚きじゃ」
ハイトは受けた痛みよりも殴られたことに動揺していた。
「お、お前なぁ………」
「そう言うことは決着がついてからだろ」
「ふっそうだな。そうだったな!」
その瞬間、ハイトの魔力が増幅する。
これは本気だな。
「いくぞかつ!」
「こいハイト!」
「やられたらやり返す!」
その魔法は明らかに聞いたことがなく、それがオリジナル魔法だと言うのがすぐに分かった。
大きな魔力がハイトの体を包み込む。
そして、光輝きその輝きが終わると………そこには姿が変わらないハイトがいた。
「へ?これはどういうことだ?」
全く性質が分からない。
一体何だこの魔法は。
「この魔法は一定の時間俺は魔法を撃てなくなる」
「え?何じゃその魔法。あいつ頭でも可笑しくなったか」
「違うわよデビちゃん、ちゃんと最後まで聞いて」
その言葉を聞いてデビは喋るのをやめる。
「その代わりその間に攻撃を受けた分をそのまま相手に返す技だ」
「やられたらやり返すって訳か」
「え?ねえねえそれって一定の時間攻撃しなきゃいいってことだよね」
メイが純粋な疑問をリドルに聞く。
「そう言うことですね」
「本当にバカじゃのう。わざわざ弱点を教えるとは」
「ははっ本当にバカなのはどっちでしょうね」
あいつがわざわざその事を言ったってことはある程度覚悟をしてるってことだよな。
普通だったらここは攻撃はしないが。
「インパクト!」
俺は近距離で魔法を放つ。
その衝撃にハイトの体が若干ぐらつく。
「ぐふっ!!ふっ来ると思ったぞ」
「当たり前だろ。逃げるなんて選択肢はゼロだ!インパクト!」
「がはっ!」
「インパクト!」
「ぐはっ!」
「インパクト!!」
「ぶほっ!」
「これで最後だ!インパクトーーー!!」
「ぐごっ!!」
ハイトは衝撃に耐えられずそのまま吹き飛ばされる。
「やったのか!?」
「かつっちの勝ち!?」
「いや………まだね」
煙が晴れると血だらけで立っているハイトの姿が合った。
あれだけやって立つなんて頑丈だな。
「ぺっ!たくっ容赦ねえな」
「それでも立ってるお前もそうだろ」
「ふっそうだな」
その瞬間、今まで受けた攻撃が全て魔力に変換された。
それは今までで1番の攻撃力を持っていた。
「いくぞかつ!」
「ああ、全部ぶつけてこい!」
俺はもう魔力がない。
立っているのもやっとだ。
でも、ここで逃げるわけにはいかないよな。
命を懸けて!
「やられたらやり返す!!」
「インパクト!」
その2つ魔法がぶつかった瞬間、周りの魔法を防ぐ壁も同時に破壊された。
「くっ!凄いエネルギーね」
「ごほっごほっ!煙がすごくて状況が分からないですね」
「かつとハイトはどこ行ったのじゃ?結果はどうなったのじゃ」
「ねえねえ見てみて!二人とも倒れちゃってるよ!」
「ドローってこと?」
「ちょっと待って、かつが!」
くそ、かなりいてえ、少しでも気が緩んだら意識が飛ぶところだ。
俺は何とか腕に力を入れて立ち上がる。
「てことはかつの勝ちか!」
「いえ、ちょっと待ってください。ハイトさんも」
ハイトも同じように立ち上がっていた。
こいつ、まじか。
「ふぅーふぅーふぅー」
「はあ……はあ………はあ………」
ハイトは俺が立っていることに気づくと笑みを浮かべていた。
何笑ってんだよ、こちとら瀕死だぞ。
てっそれはお前もそうか、でも俺も人の事言えないかもな。
だってお前が立ってくれて嬉しいって思っちまってるんだから。
「「うおぉぉぉぉ!」」
分かってる、魔法が使えないのなら最後はこれだよな。
俺は拳を握りしめてハイトの方へと振り下ろす、そして同時にハイトもこちらに拳を振り下ろしていた。
二つの拳が互いの頬にぶつけられる。
「ぐっ!?」
「――――っ!?」
そして、ハイトが笑いながらゆっくりと俺の方に倒れた。
「ありがとう」
「っ!?」
倒れる瞬間、耳元でそんな言葉が聞こえた。
「はあ、はあ…………っ!」
ああ、勝った。
勝ったんだ、俺のかち――――――――
「っ!」
体が重力にしたがい落ちていく。
駄目だ、もう意識が。
その時、落ちる途中で柔らかい感触を感じ取った。
「もうっ無茶するんだから」
「ミノル、へへっちょっとやり過ぎたかもな」
その時、終了の金が鳴り響く。
「そこまで!勝者絶対かつ!」
その言葉を聞いて俺は自分が勝ったことを実感した。




