その八 その男は危険につき
「クラック!?え、じゃああなたが元十二魔道士のクラックなの!?」
「ん?もしかして俺の事知ってたの?こんな美女に知ってもらうなんて光栄だな」
「ていうか、あんたを探してたのよ。ほら、かつ」
そう言って、俺をクラックの方に引っ張る。
「え?ちょ!」
「ん?何だ小僧。俺はこの美女と話したいんだよ。男はあっち行ってろ」
そう言うと俺を厄介払いしようとする。
この人が俺が探してた人なのか?
何か、見た感じそんなすごそうな人には見えないが確認はするべきだよな。
「あんた、元十二魔道士何だろ?」
「だからなんだ?」
「俺は十二魔道士何だ。でも、まだ仮でなるためにはある男を倒さないといけないんだ」
「なるほどな。つまり、その男を倒すために協力しろと、そういうことだろ?」
「そ、そう!頼む!協力してください!」
俺は頭を下げてお願いする。
「いいよ、やってやるよ」
「え?やってくれるの!?」
普通に了承してくれたことに俺は驚いてしまった。
てっきり男嫌いそうだし普通に断られると思ってた。
そう安心したのも束の間、クラックは笑みを浮かべるとそのまま言葉を続ける。
「ただし、条件がある。その美女と一夜を共にさせてくれたらいいぞ?」
「は?ミノルと!?」
「なるほど、ミノルって名前なのか。名前まで美しいね」
な、何だこいつ。
ミノルを口説きやがって、いやそういえばリドルが言ってたな、いつもナンパしてるって。
「ミノル、やっぱりこんな奴無しだ。お前に体を張らせるわけにはいかない。今日のところはかえ――――」
「いいわよ」
「…………え?今なんて言った?」
まさかこいつがいいなんて言うわけないよな。
そんなことを思いながら俺は再び聞き返す。
「だから、いいって言ったの」
歯切れもなくミノルの口からその言葉が聞こえてきた。
俺はその瞬間、ミノルの肩を掴む。
「正気か!?お前ちゃんと意味分かって言ってるのか!?」
「分かってるわよ。ちゃんと分かってるわ。私が一肌脱げばかつが対策たてられるんでしょ。だったらいくらでも脱いでやるわよ」
「お前それ文字通りなんだぞ!」
すると、クラックは喜びながら笑い声をあげる。
「ふふふふ………ははははは!!いやぁ強気な女性も悪くないぞ。よし、それなら協力してやる」
「え?ちょっと待てよ!」
「何だよ、せっかくミノルがお前のために身を捧げてくれてるんだぞ?お前はその行為を踏みにじる気か?見たところお前ら仲間みたいだし、仲間の意向は汲み取るべきなんじゃねえのか?」
こいつ、ただ単にミノルと過ごしたいだけだろ!
ていうか、ミノルがあいつと一夜を共にするなんて、そんなの絶対に許さない!
俺が何がなんでも止めようとした時、ミノルが俺の肩を掴み諭すような声色で言う。
「かつ、安心して別に無理してる訳じゃないから。もう昔みたいな無茶はしないって約束したでしょ」
「でも………」
「大丈夫、私を信じて」
そう言って、面と向かって俺に言ってくる。
信じてって、ミノル本当に分かってるのかよ。
あいつが言ってることはそう言うことなんだぞ。
「おいおい、なにお互い見つめあってんだ。俺の気が変わらないうちに話を進めた方がいいぞ」
「お願い」
「っわ、分かった。その前にあんたの得意魔法は炎でいいんだよな」
「ああ、そうだな」
見た目は黄色い髪の毛をしてるから雷っぽいんだよな。
「あと、クラックってどんくらい強いんだ?一応知っておきたくて」
「強さねぇ。自分ではかなり強いと思ってるが、実は俺、島王選には参加してねぇんだよ」
「え?ちょっとおかしくない?だってあなた十二魔道士何でしょ?十二魔道士は島王選に参加するんじゃないの?」
ミノルは明らかに矛盾している部分を指摘する。
確かにその通りだ、島王選には十二魔道士が参加することになっている。
例外はないはずなんだけど。
「うーん、俺達の代は色々と複雑なことが起きてたんだよ。俺はミュウラの十二魔道士だったんだが、実はその時いたもう1人の十二魔道士が黒の魔法使いだったんだよ」
「黒の魔法使い!?」
その名前が出てくると思っていなかったため俺は驚きすぎて大きな声を出してしまった。
「まっその反応は妥当だろうな。今じゃ目立った行動はしてないが昔はその名前を言っただけでその場が凍りつくなんて日常茶飯事だったな。しかもその1人が黒の魔法使いだと分かったのは島王選の前日だった。まっ当然新しい十二魔道士を雇うことも出来ず、1人欠けた状態で出るしかなくて。俺は正直やだったんだよ。だが、ミュウラは意地でも出ろって言ってな、俺はそれが嫌で十二魔道士をその日にやめた」
「その話、本当なのか?」
「何で俺がここで嘘つくんだ?まっかわいい女の子には大人の嘘をついちゃうかもな」
「はいはい、それでその後どうしたの」
そう言って、慣れた手付きでクラックをあしらう。
ミノル、こういうのに慣れてるのか?
「その後はミュウラが王をしてるウォータープラメントを出てそこから1番遠いこのシアラルスに来たってのが事の経緯。だから俺は十二魔道士とは直接対決してないし、あいつらの強さも知らないから俺が強いかどうかはお前らで決めてくれ。まっ少なくともお前よりも強いけどな」
そう言って、俺の事を見下してくる。
クラック、思っていた十二魔道士とは違っていた。
そもそも島王選に参加する前に止めてたなんて、実力が未知数ってことなのか。
「てことはあんたはかなり危険な立ち位置に居るってことでしょ?」
「え?そうなのか?」
「さすが、ミノルの言う通り俺はミュウラに目をつけられている。今も血眼になって探してると思うぜ。まっ大事な大会の前日にやめるなんてことされたらそうなるよな。まあそんなこともあって今はこのシアラルスに身を隠してる。もちろん移住は完了してるぜ」
「なるほどな、でもそんな目立つことはさせない。ちょっと修業に付き合ってもらうだけだ」
「分かってるよ。美女と一夜を過ごせるなら何でもやるぜ」
こいつ、やっぱりミノルが目当てか。
ミノルをイヤらしい目で見やがって。
修行がなければこんなやつすぐにでもぶっとばしたのに。
「とりあえず、俺の仲間と合流してから始めよう」
「他にも仲間が居るのか?それも美女だったりするか?」
「まあ確かに美女は美女なんだが」
「何だよ!羨ましいな、そんなパーティーに居るなんて、お前実はやり手か?」
「お前と一緒にするな」
「おい、ツンツンするなよ。これから教える立場になるんだ、2人3脚仲良く行こうぜ。なかなかないぞ?俺と仲良くなる男は。俺は美女以外に興味ないからな」
「ミノルと過ごせるからだろ」
「ふっバレてたか」
こいつ、やっぱりムカつく。
何でこんな奴とミノルが………何か考えれば考えるほどイライラしてきた。
1発ガツンと言ってやろうかな。
「かつ!2人を見つけたわよ」
俺がぶん殴ろうとした時、ミノルが仲間を見つける。
チッ!一足遅かったか。
「分かった!」
俺はすぐにミノルの元に向かった。
そこには一人の老人とその回りを取り囲む二人の姿があった。
「ほっほっほ、今日の話はここまでじゃ」
「おじちゃんおじちゃん!続き聞かせて!」
「妾も妾も続きが聞きたいのじゃ!」
「そうか、そうか。ならここにお金を入れてくれれば入れた分だけ話をしよう」
「はいはいはい!お金を全部あげまーす!」
「妾も妾も!全額ぶちこむのじゃ!」
「ぶちこむんじゃねえ!!!」
俺は無駄に金を使おうとしている2人の頭に拳骨を喰らわす。
「いったーい!かつっちなにするの?」
「そうなのじゃ!妾達は今、面白い話を聞いてたのじゃ!邪魔するでない!」
「邪魔するなじゃねえよ!お前らこんな話に何全額使おうとしてんだよ!」
「何言っておるのじゃ!面白い話には相応の対価が必要とこのおじさんが言ってたのじゃ!ねえ、おじさん」
だが、そこにはもうおじさんは居なかった。
「おじちゃん!?どうしようかつっち!おじちゃんが消えちゃった!トランスジェネレーションしちゃった!」
「は?とらんす………何て?」
「トランスジェネレーションじゃ!おじさんが妾たちに話してくれたのじゃ。人は人生で消えなければいけない瞬間が来るって」
「ああーお前ら完全に騙されてるな。とりあえず、もう目的の人は見つけたから、早く帰るぞ」
「どうもこんにちは可憐なお嬢さん。俺の名前はクラック、以後お見知りおきよ」
そう言って、メイの手のひらにキスをする。
なっこいつ!
「テメェ!何やってんだ!」
「おいおい怖いな。急に怒るなよ。ちょっとした挨拶をしただけだろ」
「お前は俺の仲間に手を出すな!」
「手を出すな?一部例外は居るんじゃないか?」
「テメェ……………」
やっぱりこいつは一発ぶん殴らないと気が済まない。
「はい、そこまで。2人ともこんなことしてる暇じゃないでしょ」
俺がクラックと喧嘩しそうになるが間にミノルが来て喧嘩を制止する。
それにより俺は拳の出所を失ってしまった。
「ねえ、デビッち何であの人私の手のひらにキスしたの?」
「それはなメイ、お主の手のひらが好きだからじゃ」
「えー!そうなの!そっか、でも私は別になんだよね」
「なら、キチンと断った方がいいのじゃ。めんどくさい奴はグダグタと関係を保とうとしてくると聞いたことがあるからきっぱり言うんじゃぞ」
「分かった!ねえ、そこの黄色い人」
そう言って、クラックの肩を叩く。
するとクラックは女の人にだけ向ける優しい笑みを見せる。
「もしかして俺の事か?さっきのお返しかな?」
「ごめんなさい。私はあなたの事が好きではないんです。すみません」
すると急に左手に目をつけて、指で口を表現してまるで左手が喋ってるように動き出す。
でた、メイワールド。
相変わらず意味がわからん。
「あーっとー中々個性的だね」
おおっとこれにはさすがのクラックも困惑だな。
ちょっといいきみ。
「それでは目的も達成出来たことですし、戻りますか」
「ああ、そうだな。て、お前いつの間に居たのか!」
「はい、さっき来ましたよ」
「これが、お前の最後の仲間か?」
「はい、リドルです。よろしくお願いします、クラックさん」
そう言って、小さくお辞儀する。
だがクラックはそれに対して冷たい態度をとる。
「リドルか……………すまん。俺は男に興味ねぇんだわ。挨拶ならそこの美女さん達と俺だけでしたいな」
「よし、早く帰るぞ」
俺達はクラックの誘いを無視しながら家に帰っていった。




