その三 やられたらやり返す
「ルッち!無事にクエスト完了したのだ!」
「は、はい。えっとメイさんですね。はい、クエストの完了を確認しました」
ルルさんはメイのパワーに若干押されては居るが、どうやら上手くやれてるみたいだな。
遠目で様子を見ていた時、デビが質問を投げ掛ける。
「あやつにクエストの完了報告をやらせても良いのか?」
「何言ってんだよ。魔法使いとして生きるならクエストの完了報告くらい出来なきゃ駄目だろ」
「何だかかつ、ベテランみたいな言い方するようになったわね。前までは私に聞いてばっかりだったのに」
「何言ってんだよミノル。俺はもう十分ベテランだろ」
「時々クエストの報告間違えますけどね。前なんて――――」
俺は余計な事を喋ろうとするリドルの口を遮った。
「バカなことやってないでメイの様子はどうなってるの?」
「心配すんなってミノル。さすがのあいつも完了報告くらい出来る…………」
「喰らえ!私のファイナル牛乳ボンバーを!」
「ちょ!やめてください!だ、誰か助けてー!!」
やらかしてやがる。
ちょっと目を離しただけで何でああなるんだよ。
「おいおい!何やってんだ?何があったか知らないけど、とりあえずお前やめろ!」
騒ぎを聞き付けてウルフが止めに入る。
「やだ!」
「なっ!?子供かお前は!」
「助けてウルフ!この子変なの!」
「変?私は変じゃないっシングルベットはいつも落っこちる~」
「…………………は?」
やばい、とてもやばいことになりそうな気がする。
これは早く止めるべきだな。
俺はすぐに暴れまわってるメイの元へと向かう。
「すまん!ウルフ、ルル!俺の仲間が迷惑かけた!」
「お前の仲間だったのかよ!たくっしっかりしろよな。お前、このパーティーのリーダーなんだろ」
「いやあ面目ない。今度お詫びするから。それじゃあな、よし行くぞメイ」
「やだ!」
「なっ!?いや、何でだよ!報酬は貰ったしここに居る意味ないだろ」
「いや、まだルッちやってないから」
「やってない?何をだ?」
すると拳を握りしめ天高く掲げる。
「野球拳を!」
「は?野球拳?なんだそれ?」
ウルフは野球拳というのを知らないのか、頭の上にはてなを浮かべる。
こいつ、いきなり何を言っているんだ。
「ウルッち野球拳知らないの?なら特別に教えてあげよう!野球拳というのは負けたら服を脱ぐゲームなのだ!」
「な!?服!?何だそのふざけたゲームは!そんなの絶対にやりたくねえ!」
「そうでしょウルフ!やっぱりそうだよね!普通は否定するよね!」
「何言ってるのルッち。私と野球拳するって約束したでしょ?」
「そんな約束してません!」
嫌な予感は的中したな。
こいつ一体何を考えてるんだ。
「ていうか、何でそんなゲームをやりたいんだよ。お前も脱ぐのは嫌だろ」
「脱ぐのは嫌だからやるんだよ!」
「全く意味がわかんねぇ!」
メイの言葉の意味が分からずウルフは頭を抱える。
「私、かつっちと野球拳で勝負したんだ」
突如メイがそんなことを口走り始めた。
あっまずい、この話の流れはものすごくまずい気がする。
「へ?かつさんとですか?」
「うん、それでかつっちに惨敗して身ぐるみ剥がされちゃったんだ」
「身ぐるみ………」
「剥がされた……………」
メイの言葉を復唱しながら二人が俺の方を見る。
しかもその視線は明らかに引いた目だった。
「いや、確かに間違ってはないけど、言い方ってものがあるだろ!」
「身ぐるみ剥がしたんですね」
「いや、違うんですよルルさん!正式なゲームのルールで!ルールに乗っ取ってやっただけですから」
「ルールはルールでも手加減はするだろ普通。女の子の服を合法として脱がすやり方は気に食わないな。見損なったぜ」
そう言って、指をポキポキならす。
「え?ちょ、待てって!待って!」
これはまずい!
俺は身の危険を感じてすぐにその場から逃げる。
「あっ!まて!逃げんじゃねぇ!」
「バカ正直に殴られるわけないだろ!それに俺は何も悪いことはしてないから!てっうわ!?」
その瞬間何かにつまずいたのか俺はすっ転んだ。
「ああ、ごめんよ少年。私の足が君の足にぶつかっちゃった見たいで」
顔をあげると言葉とは裏腹に清々しい笑みを浮かべているアカリの姿があった。
「いてて………お前絶対わざとだろ」
その瞬間、俺はウルフに胸ぐらを捕まれる。
「やっと捕まえたぞこの変態!大人しく罰を受けやがれ!」
「ちょ!ちょっと待てって!本当に俺悪くないだろ!」
「おやおや?少年、何やら面白いことになってるね」
「面白がってないで助けろ!!」
このままじゃフルボッコにされちまう!
俺がアカリに助けを求めるとやれやれと行った様子でウルフの肩に手を置く。
「しょうがないな、ウルフ。何をしてるのか知らないけど少年を離してやってよ」
「アカリさん!こいつはこのメイって子の服をゲームとか言って脱がせたんだよ」
「ちょっと待て!脱がせたって何だよ!別に脱がせてはないぞ!あいつは自分で脱がし…………」
あっやっちまった。
俺は恐る恐るアカリの方を見る。
「少年…………」
「あ、アカリ?ちょ、何で離れてくの?ちょ!何で走って逃げんだよ!」
「お前、すげぇな。あのアカリさんを引かせるなんて」
「自分の才能が怖いよ」
「てっ粛清がまだだったな。おら、歯ぁ食いしばれ!」
「ちょ!待てって!」
「かつさん?」
その時リドルの声が聞こえた。
俺はリドルの方を向くとその顔には困惑の表情を浮かんでいた。
「リドル!?」
「はい、リドルです。かつさんの帰りが遅いので様子を見に来たんですが……何故かつさんはウルフさんに胸ぐらを捕まれ、そして殴られそうになってるんですか?とても面白そうな状況なので説明をしてもらいたいのですが」
くそ!よりにもよって何でこいつなんだ!
まともに助けてくれなさそうな奴が来るなんて。
「リドル!お前は関わらなくていいから!ミノルを呼んできてくれ!」
「分かりました!その前に状況説明を!」
こいつ!意地でもこの状況を知りたいんだな。
「俺が見ず知らずの罪に問われてるんだよ!分かったら早く呼んできてくれ!」
「分かりました!待っててください!」
よし!ミノルが居れば何とか説得してくれるだろう。
「かつ、見苦しいぞ。いい加減認めろよ」
「何で納得してないのに殴られなきゃいけないんだよ!断固拒否する!」
「ウルフ、もういいよ。元はと言えばメイさんに困ってただけだから、かつさんは関係ないし」
追い付いたルルさんが胸ぐらを掴んでくるウルフをなだめる。
「そ、そうだ!ルルさんはメイに困ってたんだ!今回の件と俺が昔やったことは関係ないだろ!」
「くっ!確かにそうだけど、その事が合ったって知った以上見過ごせないな!」
「何でだよ!関係ないって言ってんだろ!」
「ちょっとちょっと一体何が合ったの?ウルフもルルも何でかつのこと責めてるの」
その時、リドルに呼び出されたミノルが慌てて俺達の間に入り仲裁をする。
「ミノル!助けてくれ!俺こいつらにいじめられてるんだよ!」
「なっ!?いじめてねぇよ!元はと言えばお前が!」
「はいはい、落ち着いて。ウルフもそんな興奮しないで」
「分かったよ。だから子供みたいに扱うな!」
ウルフは不満げに俺を解放する。
たがあの様子からしてまだ納得はいってない感じだな。
だがさすがミノル、これで俺も殴られずに済みそうだな。
「それで、かつ。リドルから聞いたんだけど」
「うん、何だ」
「野球拳でメイの服を脱がせたって本当」
「…………え?」
先程までこちら側だったミノルの表情が無になる。
能面のような笑みが俺の体から冷や汗が止まらなくなる。
「しかも、下着にさせた挙げ句それを脱がせようとしたってのも本当?」
続けて質問をしてくるミノルの口調は明らかに怒りが込められていた。
「え………えっと……当たらずとも遠からずと言いますか………
「やったの?やってないの?」
「…………やりました」
その瞬間、俺は空中に打ち上げられた。
「さすがミノルだ」
「ミノルさん、かっこいい!」
そう言ってルルさんとウルフがミノルに称賛を送る。
何で、こんな目に合わなきゃいけないんだ。
「ほら、行くわよ!」
そう言って、俺は引きずられながら連れてかれた。
するといつもの席にデビが座っていた。
そして俺を見るとあわれむような目で見てくる。
「お疲れなのじゃ。今回はかなりおもいっきりやられたのう」
「最悪だ。まじで、何で俺殴られたんだよ」
「この唐揚げ最高に上手いー!!」
そう言って、メイは唐揚げを頬張っていた。
あれ、何でこいつがここにいるんだ。
「あっメイさんは大分前から僕達と合流してましたよ」
俺はメイの首に冷気を当て続けた。
「きゃああ!かつっちごめんなさい!!」
「かつ!やめなさい!!」
「うるせー!俺は絶対こいつを許さねぇ!!」
「あれはかなり辛いやつじゃのう」
「経験者は語るってやつですか」
その後俺達は一旦仲直りをして、ご飯を食べることにした。
メイは申し訳なさそうに唐揚げを食べながら俺に謝罪の言葉をのべる。
「かつっち。ごめんね。何か私のせいですごくおもしろ……違った大変なことになっちゃったんでしょ?」
「お前絶対反省してないよな。後唐揚げを食うな。まあいいや、それよりこれからメイの魔法許可証を作るぞ」
メイは再度注文した唐揚げを頬張る。
「魔法許可証!私ほしいです!長官!」
「分かった分かったから、食べながら喋るな。それじゃあミノル、メイを案内してやってくれ」
「え?私?」
ミノルは呼ばれると思ってなかったのか、驚きながら食べる手を止める。
「だって俺、さっきのことがあるから会いづらいし、デビはそういうの向いてなさそうだし、リドルは何か変なこと教えそうだし、お前しかいないだろ」
消去法で考えると一択しか存在しないのだ。
それを聞いてミノルも納得するように頷く。
「確かにそう言われると私しかいないわね。よし、分かったわ。それじゃあ、メイ行きましょうか」
「了解です!軍曹どの!」
「ぐ、軍曹?」
「メイの話は半分以上は聞き流した方がいいぞ」
「あー!かつっち、それひどいどいさんだぞ!!」
「な?」
「たしかにそうね………分かったわ。それじゃあ行ってくるわね」
そう言って、メイとミノルは魔法許可証を作りにいった。
そして、残った俺達はと言うと。
「よし、俺達は一旦帰るとするか」
「そうじゃのう、お腹も減ったことだし、家でご飯でも食おうかのう」
「え?お前まじで言ってんのか?」
こいつ、ついに先程まで自分が食べていたことすら忘れたか。
「小粋な妾のジョークじゃぞ。気付かんかったか?」
「デビさんの場合冗談じゃなさそうですからね」
「それな、お前もうちょっと分かりやすい冗談言えよな」
「何かダメ出しされて悔しいのう。もうちょっと考えるのじゃ!………妾は魔王の娘じゃ!」
「「それはない!!」」
「何で2人して言うのじゃー!!!」
そんな無駄話をしながら俺達は帰路についた。




