その二十四 兄妹
俺達はその後城である程度治療を受けてもらった。
地下に居た裏社会の人達はほとんどは捕まえられたみたいだが、それはほとんどで全員は捕まえられなかったらしい。
ガルアいわくそう簡単に捕まえられるような連中なら苦労はしない。らしい。
本当に捕まえなきゃいけないやつは逃がしてしまっているのだろう。
怪我が軽い人から順番に何があったのかを1人ずつ事情聴取した。
そして、現在俺が事情聴取されている。
「えっと、それで絶対かつ君だよね」
「はい」
「私はこの街の警察をしているジャスだ。早速だけど、あの地下についていくつか質問するよ。思い出すのも辛いかもしれないが、これも犯罪を防ぐためだ。協力してくれるかい?」
ジャスさんと言う男はこちらに不安にさせないように優しい口調で語り駆けてくる。
「はい、俺でよければ何でも話しますよ」
「ありがとう。ご協力感謝するよ。それじゃあ早速だけど、その地下を見つけた経緯を教えてくれないか?」
名前はしっかり言った方がいいよな。
「実はラミア様が連れさらわれてしまって」
「そこら辺の事情はガルア様から聞いている」
「あっそうなんですか」
まっ普通聞いてるよな。
考えれば。
「それでラミア様を助けるために俺の仲間が人質になってくれたんです。計画通りにそいつがその仲間を連れ去って、そして怪しい家の中に入っていったんです」
「なるほど、家の中か」
俺の発言をジャスさんの後ろに座っている書記らしき人が書いている。
何かこれデジャブだな。
あいつよりも100倍この人の方が優秀だけどな。
「それで、その中に入ったはずの怪しい人も俺の仲間も居なかったんですよ。色々探して1つだけ空いている怪しそうな本棚が合ったんですよ。その本は床の中に隠してあって、それをあの本棚に入れると地下に続く階段が現れたんですよ」
「なるほど、部屋の本棚からか。やはり入り口は他にもあるのか」
俺の話を聞いて何かをぽそりと呟く。
「入り口は他にも合ったんですか?」
「え?ああ、口に出てしまってたか。そうだ、入り口は複数ある。場所が簡単に特定されないようにしたんだろう。君の他にも地面から地下に入った人や木の中に地下に通じる穴が合った人もいる」
「そんなところからも。てことは他にも入り口がありそうですね」
「あるだろうな、だがすでに地下は取り押さえてある。わざわざ地下に行く物好きは居ないだろう。それでは話を戻そうか」
そう言うと、再び真剣な表情で俺を見る。
「君はその地下に行き何を見た?」
「地下では人身売買や怪しげな商品などが売られてました。しかも商人には1人1人護衛を付けてるみたいで、俺はその1人にやられて地下に閉じ込められました」
「なるほど、地下では怪しげな商売をやっていたのか。やはり地下ではそれがメインで行われているようだ」
1つ1つの俺の言葉にジャスさんは思考する。
「地下の地下には何があった?」
「とにかく広かったです。かなり要り組んでいたし、何か大きな闘技場みたいな物もありました」
「娯楽施設か。話を聞くにまだ他にもありそうだな。その他には見てないのか?」
「後はあの例の金持ちが隠れてた秘密の入り口が合ったくらいですね。あっ!そういえばその人はどうなったんですか?」
「ランブール·レッセンは現在城の牢屋に幽閉している。本当は事情聴取したいのだが、精神が安定してなくてな、落ち着くまで話を聞くことが出来ないんだ」
一応捕まってはいるのか。
よかった、ひとまず安心だな。
「だからまず、俺達に話を聞いたってことですか?」
「まあ、そういうことだ。ランブール·レッセンとの関係は?」
「ないですよ。全くの初対面です」
「そうか。今日はありがとう。時間を取らせてすまなかったね」
そう言ってジャスさんは立ち上がる。
「そんなことないですよ。だって、犯罪を防ぐためなんですから」
「ふっ君のような若者が未来を作ってくれるとありがたいんだけどね。実際、君の年齢の時に人を殺してる人もいる。残念だけど世の中いい人ばかりじゃないんだ」
いい人ばかりじゃない。
確かにそうだ。
世の中は理不尽なことが多すぎる。
自分の思いどおりにはいかないんだ。
「それでも俺は屈するつもりはありません。折れてしまったらもう戻れないと思ってるので」
「ふっ本当に君みたいな考えを持つ人が増えてくれると嬉しいな。仲間が待っているのだろう。事情聴取はもう終わりだ。帰っていいぞ」
「ありがとうございました」
俺はそのまま礼を言って部屋を出た。
「心が折れるか……………」
――――――――――――――
「ふう、疲れた。早く家に帰りたいな」
地下に出たのがちょうど朝日が昇った時だから、とにかく眠たい。
俺は目を擦りながらみんなの元に戻っていく。
城の客間らしき場所で皆が居るのを確認した。
「おーみんなまたせ――――」
「何で助けを呼ばなかった!!」
「うおっ!?何だ?」
眠気を吹き飛ばすほどの怒声が城の中に響き渡る。
「何かあってからでは遅いんだぞ!わかってるのか?」
「すみません。お兄様」
どうやらガルアがラミアに怒ってるところみたいだな。
こういうのは兄妹の話だし、他の人が間に入るのはあれだよな。
俺はこっそりミノルにことの状況を聞き出す。
「なあ、ミノル。何であいつら喧嘩してるんだ?」
「あっかつ終わったのね。どうやら助けを呼ばなかったことにガルア様が激怒してるみたい」
「助けを?」
「どうやらラミア様にはガルア様を呼び出す何か持ってたみたいだぞ。話を聞くに」
その時、サキトがこちらの会話に入ってきた。
「サキト、まだ城の中に居たのか」
「まあな。中々城に入るなんてことないからな。お前は事情聴取終わったばかりか。出て早々こんなことになってれば混乱するよな」
そうか、普通は城なんて来れないよな。
何回も来てるから感覚がおかしくなってるかもしれない。
「何か危険があったらこの笛を鳴らせと何回も言ったよな。何で鳴らさなかったんだ」
「……………………」
「ラミア、お前は呪いのせいで外にも出れず辛い思いをしてると思って、元気になった今自由を許してるが、もし自分が王の妹と言う自覚がないのなら…………外出を許すわけにはいかない」
「っ!?…………分かりましたお兄様」
言葉ではそう言いつつもラミアの表情は明らかに暗いものとなっていた。
兄妹の話に他人が首突っ込むわけにはいかない。
だけど………これは………
「見てられねえよ」
「かつ?え?ちょ、かつ!」
俺はガルア達の方に向かうと、ガルアは不快そうにこちらを見てくる。
「おいガルア。その言い方はさすがに無いんじゃないのか」
「おいかつ。兄妹の喧嘩に他人のお前が首突っ込むな」
「元々俺もそのつもりだったんだけどな、あまりにお前が一方的にラミアをいじめてるから見てられなかった」
「お前には分からないかもしれないが俺はラミアを大切に思っている。大切に思ってるからこそこいつに危険な目に会わせたくねぇんだよ」
「大切だからこそちゃんと話を聞いてやれよ。ラミアが意味もなく助けを呼ばないなんてこと無いだろ?ラミアはいいこだからな」
「かつお兄ちゃん……………」
すると険しい顔をしたガルアがラミアの方を見る。
「…………何か理由が合ったのか?」
「……………迷惑かけられないと思って」
「迷惑?何がだ?」
「お兄様はもう私だけのお兄様じゃないから。王として民衆を導かないと行けないから。私を助けるためにお兄様を………王の時間を使うわけにはいかないから」
真面目ゆえの謙虚か。
あの時もガルアの負担を減らしたいと言っていたしな。
「お前………そんなこと考えてたのか」
「私はお兄様の負担を減らすことも出来ないし、足手まといだから、だからせめて邪魔だけはしないようにと思って……………」
「足手まといなんて思ってるわけ無いだろ。お前は俺の妹だ。だから気を遣う必要なんてない。家族なんだから遠慮するな」
「お兄様………」
すると、ラミアが何か言いたげにもじもじしてる。
「いいんじゃねえか。今ならそれくらい言っても」
そう言って、俺はラミアの背中を押す。
「…………うん」
そう優しく頷くと恥ずかしそうに口を開く。
「あの、お兄様………わがままを言っても良いですか。私、お兄様と一緒に…お出かけしたい……なって。ごめんなさい!お兄様にはそんな時間無いのにこんなこと出来るわけ」
ラミアは慌てて自分の言ったことを否定するが、ガルアはそれを聞いて快活な声をあげる。
「ふっふふふふ………ははははは!いいぞ!一緒にどっか出掛けるか!!」
「え?ほ、本当に?本当にいいの?」
「言っただろ?俺達は家族だ、遠慮する必要ないんだよ。それに妹なんだからお兄ちゃんにもうちょっと甘えろよ。妹の特権なんだからよ」
「………お兄ちゃん」
「まあでももう少し待ってくれよ。街の修繕とかでちょっとばかし忙しくなっちまうんだ。だから、全部終わったら一緒にどっか行こうな」
「うん!約束だよ!」
そう言ってガルアとラミアは指切りをする。
そこにいるのは堅苦しい王族としての関係ではなく、ただの兄妹がそこには居た。
家族か、少し羨ましいかもな。
「一件落着だな。よし、帰ろうぜ」
「え?もう帰るのか?妾はご飯を食ってから帰りたいのじゃが」
「兄妹水入らずにさせてあげましょ」
「それもそうですね。それじゃあ行きましょうか」
「ちょっと待て!」
そう言って、ガルアが俺達を止める。
「かつ、例の話忘れるなよ」
「分かってるよ。そのうちちゃんと答えるから」
―――――――――――――
城を出て、家に帰ろうとしてる時サキトがお別れを告げてくる。
「それじゃあ俺はもう帰るよ。貴重な経験が出来たしな」
「そうか、俺達もこのまま家に帰るよ。そういえば家は何処にあるんだ」
「カルシナシティだよ。一応そこで情報屋してるからよ。何か聞きたいことあったらいつでも来てくれ」
「カルシナシティか。もう2度と会うことないかもな」
俺は思わず目をつぶり空を見上げた。
「え?ちょっと待て。どうしてそうなる。まあいいや。それじゃあな」
「元気でやるんじゃぞー!サキブレット!」
「その名で呼ぶな!!」
そう言って、サキトは行ってしまった。
さてと、これで一先ずは落ち着いたかな。
そういえば、他にも一緒に行動してたやつがいたな。
俺は回りを見渡すが他の人がいる様子はなかった。
「あれ?カビットはどうしたんだ?」
「カビットならいつの間にか帰ってたわよ。多分人見知りなんでしょ」
「そうだったのか。ラミアを助けてくれたみたいだし、お礼を言いたかったんだけど、居ないならしょうがないか。それじゃあメイは何処行ったんだ?」
「あそこに居るぞ」
そう言って、木の影に隠れているメイを指差す。
「ギクッ!ばれてたの?」
「もろばれじゃったぞ。何しておるのじゃ」
「いやーちょっと恥ずかしくなっちゃって」
「嘘つけよ。人見知りって訳じゃないだろ?」
するとメイは照れ笑いを浮かべながら木の影から出てきて、こちらに向かってくる。
「えへへへ、今日は楽しかったぞい!久しぶりにかつっちと遊べて。それと、かつの愉快な仲間達とも、遊べて楽しかった!」
「そういうひと括りするんですね」
「そういうことだから、また何処かで会おうー!私いつもどっかでほっつき歩いてると思うから」
そう言って、いつも通りの笑顔を見せる。
だが俺は知ってる今のメイの状況を。
「帰る場所は?」
「へ?」
「帰る場所、作るって言っただろ?」
「あれは私を助けるために言ったんでしょ?大丈夫だよ!私は野生の女だから生きていけるよ」
「来いよ、メイ」
そう言って、俺はメイに手を伸ばす。
メイは状況を理解できないのか、困惑した様子で俺の手を見つめる。
「え?え?え?分かんないよかつっち。何言いたいのか」
「だから、今日からここがお前の帰る場所だ。メイ、俺達の仲間になれよ」
「そ、そんなドッキリかけられたことないよ!もうかつっちってばいたずらっ子ー!」
メイは冗談げに俺の肩をつついてくる。
「いや、本気だから」
「で、でもでもでも他の皆は?皆は私が来てもいいの?」
「事情は大体察したわ。私達でよければ歓迎するわよ」
「歓迎しますよ。メイさん」
「やったぞー!これから毎日メイに会えるのじゃー!」
「ほらな?こいつらはお前を歓迎してるぜ。後はお前の答えを聞くだけだ」
メイには帰る場所が必要だ。
それにメイがひとりぼっちで生きていけるわけがない、こいつには誰かが隣に居ないと駄目だ。
それが誰であろうと、今は俺達が隣にいよう。
いつか、本当に一緒に行きたい仲間が見つかるまで。
「かつっち…………うーーーー大好きーーー!!!」
「どぅわっ!?急に抱きついてくんなよ!!」
「ちょっ!メイ!?何してるの!?」
「やったぞー!!メイが仲間になったぞー!!」
「騒がしくなりそうですね」
《ただいまの絶対かつのパーティーメンバー ミノル リドル デビ メイ》




