その二十三 島の象徴
気がつくと、暗い地下の天井ではなく、淡い夕日に包まれた空が目に入る。
「外に出られたの……か?」
「出られたぞ!俺の経験上、生きて外に出られたんだー!やったぞかつ!」
サキトはあまりの嬉しさにクールキャラを忘れて興奮気味に俺を抱き締める。
「お、おおい!分かったから!離せって!」
「やったぞー!妾達の完全勝利じゃー!!」
「別に戦ってなかったけどね」
「ガルッち出してくれてサンキューベリーマッチョー!」
「メイさん、あなたには恐怖という感情が無いんですか?」
「喜んでるところすまねぇがまだ終わってないぞ」
皆が終わったかのようにしているとガルアが真剣な表情で言い放つ。
「どういうことだ?脱出できたしこれで終わりだろ?」
俺の言葉を聞いていないのか、地面をじっと見つめる。
すると突然地面が大きく揺れ出す。
「うわっ!?何じゃ!」
「おいおい、こりゃあバカデカイ地震だな。俺の経験上即刻避難を進めるぜ」
その時地面が大きく盛り上がると同時に何か巨大な物が出てきた。
「なっ!?」
「これは…………」
「でっ…………」
「「「「「デッケーーーーーー!!!!!」」」」」
「うわー!すごーい!キングサイズだー!」
「ぎゃああああ!死ぬ!確実に死ぬ!ああ、何てクソみたいな人生だったんだ。最後に女の子に抱き締められて死にたい」
「お主、気色悪いのう」
「う、うるさいな!お、お前みたいな子供に分かるわけないんだ!」
「なんじゃと!!妾は子供ではない!」
「お前、そんなこと言ってる場合じゃないぞ!ありゃ俺の経験上赤信号だ!逃げるぞ!!」
サキトの言う通りだ。
あれは………無理だ。
人型でライオンのような勇ましい顔に鋭い牙が2本生えている。
城よりも少し小さいくらいの大きさ。
身体中マグマのように真っ赤に染まっていて、鋭い爪は体を簡単に裂けそうなほど鋭い。
大きな翼と今まで感じたことのない威圧感、大きさとか関係なく勝てないとそう直感した。
「ちょっとちょっと、何で地下からあんなやばいモンスターが出て来てんのよ!あんなの規格外よ!」
「あいつの隠し球だろ。何か隠してると思ってたがまさかこんなやつを飼ってたなんてな」
「あの、ガルア様!そんな余裕こいてないで早く逃げましょう!俺の経験上、即テレポートです!」
そう言って、必死に説得するサキトの方に顔を向けてニヤリと笑う。
「安心しろ、あいつに誰も殺させはしない」
「お言葉ですが、あんなモンスターと戦えば死者が出るのは確実だと思います」
「そんなことないですよミノルさん。よく周りを見てください」
「え?」
リドルに言われた通り周りを見始める。
「そういえば、妾達以外に誰も居ないのう」
「え?あっ本当だ。確かに周りに誰もいないわね。もしかしてガルア様が!?」
「まあ一応な。市民を守るのも王の役目だからな」
「あらかじめこうなるって分かってたのか?」
「選択肢の中にはあった。あれだけ大きな所だ。何か大きな物を隠してると思ったからな。何か異変が起きたら市民を避難させろと事前に言ってあったんだよ。まっこのレベルは正直予想できなかったけどな」
すげえな。
さすが、やっぱり王なんだな。
あらゆる状況を考えての行動、俺には出来ないことだ。
「ウウゥゥゥ」
「ねえねえ、そういえばあのキングサイズずっと空中で止まっちゃってるよー?」
メイの言った通りあのモンスターは地面から出てきた後ずっと静止してる状態だ。
「もしかして………死んだか?」
「そ、そんなわけないだろ。あんな、バババケモンがすぐ死ぬって楽観的過ぎるだろ……これだから陽キャは」
「え?あ、ごめん」
ずっと静止状態のモンスターが死んでるとそう楽観的に考えていたその時、突然赤い瞳が開かれる。
「グゥゥゥゥオオオオオ!」
「うっさ!めちゃくちゃうるさいな!!」
体が大きいから鳴き声も大きいな。
俺達は思わず耳を押さえてその場でうずくまる。
「ほら、やっぱり!だから俺の言った通りじゃん!こんなもんだと思ったよ!俺の人生クソだからね!」
「まずいわね。戦って勝てるとは到底思えないのよね」
「安心するのじゃ。妾がぶっ飛ばしてやるからのう」
「よーし!ここはくじ引きで決めよう!誰かくじ持ってる?」
「おいおい!何戦う流れになってるんだよ。ここは命を優先すべきだ!俺の経験上、戦っても死ぬだけだぞ」
「でも、逃げてしまったら避難してる人の所にモンスターが行ってしまうかもしれませんよ」
「こ、ここで僕達が無駄に命を落とす必要なんて無いだろ。何でし、知らない人の為に、じ自分の命を使わなきゃいけないんだよ」
「言い方は少し悪いが似たような感じだ。ここはプロに任せた方がいい俺の経験上」
皆が戦うか逃げるかで言い争ってしまっている。
このままじゃ仲間割れになるかもしれない。
「おい、お前ら!無駄な議論をするな!さっきから言ってんだろ。心配する必要はないと」
皆を心配させるためか、もしくは何か策があるのか、ガルアはそんなことを言う。
「ガルアはあいつを倒せるってことなのか?」
「お前、まさか俺のこと弱いとか思ってんのか?」
「いや、別にそうは思ってないけどさすがにな」
「この島の王はこの俺だ。つまり、俺が死ねばこの島は終わるってことだ」
「そんな大袈裟な」
「王ってのはそれくらい大事なもんなんだよ。島の王はこの島の象徴だ。つまり俺がこの島の象徴ってことだ。そう簡単に崩れるわけにはいかないんだよ」
「お主はそう簡単にやられないと言うことか?」
「王はやられないんだよ」
その瞬間、ガルアがその場から消える。
いや、消えたのではなく飛んだのだ。
気付いたときにはモンスターの目線と同じ高さまで飛んでいた。
「うそ、ガルア様ってあんな飛べたの」
「お前ら見てろよ!これがこの島の王の力だ!」
そう高らかに宣言した時、膨大な魔力が魔法陣に圧縮される。
何てデカイ魔法陣だ、魔法陣がデカイってことはそれだけ魔力が込められてるってことだ。
「グオオオオオ!!」
その瞬きの間にモンスターはガルアに向かって爪を下ろした、だが次の瞬間すでにモンスターの体を貫いていた。
「…………何が起きたの?」
「今攻撃したのか?こんな経験したことないぞ」
先程まで俺らの脅威として空中に居たモンスターは次の瞬間弱々しい小動物のようにゆっくりと地面に倒れた。
「だから言ったろ?俺は最強だって」
この日俺達は改めて王の強さを痛感した。




